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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
ロアナプラ編
  導入編 6-R話 アンブレラ

ロアナプラに私がやってきてからすでに4カ月、ガンマンとして働き始めて3か月の時間が過ぎた。
仕事をいくつもこなしつつ、時に娯楽に浸り、時に稼ぎでアンブレラから知識を買い、
それを実践につなげられるようにトレーニングを重ねる日々は楽しい日々だった。

仕事は命がけだがほぼ間違いなく血の匂いも嗅げるし、終わった後に酒を飲みに行くのも楽しい。
特にミード(蜂蜜酒)や『お菓子みたいに甘い』カクテルがお気に入りだ。
幸い、稼ぎは怪我に備えた貯蓄を合わせても十分なので週に一度か二度は酒場で飲む事にしている。
他にも、文字も日本語、英語共に問題なく読めるので本を買って読んでもいいし、
音楽や映画なんかを楽しんでもいい。
一応、日本の教科書を密輸屋に手に入れてもらって自主的に勉強もしている。

アンブレラから新しい武器の使い方を買い、訓練をするのも楽しいし、
新しい事ができるようになるのは生きていくためにも大切だ。

最初こそなめられもしたが、イエローフラッグでやらかした決闘騒ぎや仕事ぶりで次第に認められ、
『私』ができてすぐに殺したあの5人の件から、
ブラッディ・レインまたはブラッディ・ガールと呼ばれ、
現在では一応、一山単位ではない一人前のガンマンと認識されている。
…よくお嬢ちゃん扱いされるが、まあ実力を疑われているわけではないので気にしていない、
私がお嬢ちゃんなのは事実だ。

そんな私だが、アイシャさんの事務所に商談に訪れていた。
目的はアンブレラが扱う各種技術の教本を買うためだ。
今日は近接格闘術の一種であるナイフと拳銃を併用する超接近戦技術の技術、
統計の戦闘への応用、そしてハッキングの教本を買いに来た。
自分で練習して、本当の基礎を理解した後に訓練や指導を申し込んだ方がずっと安上がりなのだ
…と、アサルトライフルによる戦闘や狙撃の基礎を買ったときに理解した。

「ああ、ちょっと待って、少し話たい事があるんだけどいいかしら」
商談が終わり、立ち上がろうとした時、このように呼び止められた。
「…なんでしょう」
今までに呼び止められた事は無い

「レイン、あなた何処かに所属したり雇われたりする気は無いかしら」
「…ええっと?」
今の生活はそれなりに気に入っているので、考えた事も無かった。
「単刀直入に言うと、うちに雇われる気は無いか、って聞いてるの」
「どうしたんですか、藪から棒に」
本当にどうしたんだろう

「あなた、うちから色々な技術指導を買ってるでしょ?
…いくらうちの指導を受けてるって言っても、
普通、あれだけの戦闘技術を身に付けるのにどれだけ時間がかかるか知ってるかしら」
…話が見えてこない
「知りません、半年くらいですか?」
まあ飲み込みが早いと言われたから普通はそんなものだろうか、私は4ヶ月強だが

「はぁ」
アイシャが溜め息をつく
「半年間連続での合宿くらいは必要、と言う意味では、間違ってはいないわね
それもそれなりに才能があり、基礎訓練が終わっている前提でね。
あなたの場合は何も知らない状態筈の状態から4ヶ月
天賦の才って言葉すら軽く感じるわ」

「…そこまでですか?」
まあ、要は将来有望な人間を抱き込みたいのだろうがそこまでなのか?

「ええ、特に銃器の整備技術は大抵一度見ただけで十分合格点が出せるまで修得したし、
戦闘技術の修得、身体能力や判断力の向上も末恐ろしい位…
端的に言うなら実は物心ついた時から工作員か何かとして訓練を受けていて、
それを思い出してる、とか言われた方がまだ信じられるわね」
アイシャはそう言いながら肩をすくめると鞄から一つのファイルを取り出した。
「でも上司が身元調査をした限りでは正真正銘の日本人の小学生だったってさ」
「…調べたのか?」
どうでも良いと思っていたが勝手に調べられると不快ではある

「ええ、私の上司…もちろんアンブレラの…が貴方の訓練成果に興味をもってたらしくてね、
あなたを雇いたいからって言ったら二つ返事で了承と資料をくれたわ…読む?
お詫びに只で良いわよ」
アイシャがファイルを机の上に置く

抗議した所で調査された事実は消えないし、
むしろ雇われる話は別にしてもアンブレラと敵対するのは不味い。
「…これを買うなら?」
「そうね…そのファイルの中身なら…巻末の取引履歴をのぞいたうえで、
5万ドルと本人への購入の事実を通達、本人に秘密なら10倍は貰うわね」
「やけに高いですね」
異常な価格に少し頭が冷えた

「裏社会での活動の略歴だけなら100もしないけどね、レインはいろんな意味で有名だから。
他の連中のも、裏社会での略歴なら同じくそんなにしない、
でも裏社会に入る前の過去まで詮索するなら文字通り高くつく、そう言う事よ。
因みにマフィアの構成員ならさらに高くなるし、ボスクラスになると文字通り桁が違う…
ロボスみたいな中堅マフィアのボスやラグーンのダッチ、
情報屋のリロイあたりの中立の実力者でも調査の実費+一千万ドルは貰うわね、
当然本人に秘密ならさらに桁違いにするわ」
つまりまともに売る気は無い、と

「あ、貴方がそのファイルをほしいなら500ドルね」
「…読んでから考えます」

ファイルを手に取る

タイトルは【東南アジア支部現地採用準構成員候補、通称ブラッディ・レインの調査報告書】

ファイルを開き、ページを捲っていく

【対象の基本情報ならびに裏社会での略歴】

私の写真に身長、体重の推定値…注がついていてそこには正確な値が全身写真と共に…日付から察するにアンブレラの施設で狙撃と火器の取り扱いを学びに滞在した時の物だろう…
あれはかなり高かったが有意義ではあったな

次に私がロアナプラに現れた経緯…
小物の悪党に拐われてきたと噂されている
五人組の無鉄砲な連中を殺し、金を奪った事
通り名、ブラッディガールの経緯
アンブレラから技術と知識を買ってガンマンになったらしき事、
私が参加したとされる仕事の回数…
イエローフラッグに週一度か二度は顔を出す事、
甘い酒が好きでお嬢ちゃんよばわりされてる事、
身軽さを活かした拳銃使いだがアサルトライフルによる戦闘も可能な事、
ここに注でアンブレラから指導を受けて狙撃技術の基本は会得している事に友好関係と経済状況…

ここまでが裏の活動履歴か
アンブレラと私しか知らないことは省かれ、注で【内部資料による補足】って章にわけてあるな。

次の章に進む

【対象の身元調査】

容姿並びに経緯から以下の人物とほぼ間違いなく同一人物であると推測される

本名は長谷川千雨

千の雨、だからレインが懐かしい響きに感じたのか

国籍は日本

生まれは埼玉県麻帆良市、誕生日は1989年2月2日
ごく普通の…いや私立に幼稚園から通っていたなら経済的には恵まれていた日本人

ああ、両親共に工学部で修士までとっていて旭日重工で技師をやってたのか…

旭日重工っていえばそれなりにでかい会社のはずだ

で、1998年8月に両親とインドネシアに旅行に出かけ、ホテルでの目撃情報を最後に行方不明

両親が射殺体で発見されている事から公的には殺害または誘拐されたと判断されている。

親子共に親族、特に親しい友人等はなし

【特記事項】

アンブレラ社より複数の戦闘技能を購入、その修得速度著しく、
教導官役を務めた上級者エージェント又は武装警備員の評価はいずれも最上級
暫定戦闘ランクC、ただし半年程度でランクB~B+程度に成長する可能性大

対人戦闘並びに殺人に対する忌避感は見られない。

知能レベルは年齢の割りには極めて高く、向上心も見られる

記憶喪失であると主張しており、おそらくそれは事実である


【総評】
経歴、能力面は極めて良好と判断する。
但し、人格に関しては両親を喪い、自身も誘拐され、凌辱された事により生じた代理人格である可能性がある。
その点においては記憶喪失と合わせて若干注意が必要だが、調査部としては準構成員としての雇用には問題ないと判断する。

その後には時系列順に私が買った情報、技術、サービスが並んでいる。


以上か


「…別にいらないですね」
「でしょうね、今の貴方には必要ない情報だもの」
探しに来る親戚が居ないのは助かるくらいかな、役に立ったのは。

「本題に入りましょうか、読んでもらってわかったと思うけど、
我々アンブレラは貴方の才能には、貴方の人格の安定面で若干の不安は有るものの期待してるの。
私自身も貴方の腕と才能は買ってるわ、戦闘員としてだけじゃなくて商人としてもね。
だから私は貴方が欲しい」
正にド直球、才能ある若者を囲い込みたい…か

正直、アンブレラかラグーンになら所属しても良いと思う。
まあ、長期の傭兵契約的な雇用関係ならロボスの所でも良いが

「…仮に雇われるとすると具体的な条件は?
ペイ(給料)と私の身分、その他条件はどうなります」
まあ、それはあくまでも条件次第だ

「興味はある、条件次第って事だと認識するわね。
レインが今回の契約で雇われてくれるなら期限無しの契約社員…準構成員になるわ。
だから身分としてはアンブレラに所属してもらう。
貴方に身近な例だとラグーンのレヴィみたいな関係ね。
仕事内容は戦闘と注文処理の手伝い、ペイはこれを見て頂戴」
…長期の傭兵契約かと思ったんだが…違うのか

アイシャが一枚の紙を渡してくる

「それはうちの東南アジア支部の準構成員の給料表よ
基本給は1000ドル、そこに各種職務手当と関係技能手当がつくわ。
貴方には【出張所勤務戦闘員】と【事務補助員】、
それに【ロアナプラ戦闘員特別手当】が職務手当として、
関係技能手当は【戦闘技能】と【習得言語:日本語】が当てはまるわね。
後、今回売った程度のコンピュータ関係の腕がつけばそれも手当になりうる。
戦闘技能はもうランクB-位だと思うけど、今は報告書の暫定ランクCを参照して計算すると
…月額大体1万ドル、安定して稼げる額としては悪い額じゃないと思うわよ」
安定して稼げるなら十分な額だ、名前から想像される仕事内容からすれば。
…先月まではロアナプラが賑やかだったからこれ以上結構稼げたが。

因みに紙には
【カバー店舗運営員】:カバー店舗の賃金とは別に500ドル
とかもあった。

「ここまでは良いわね?
じゃあ次は各種条件ね、拘束時間に関しては少しややこしいからこの紙に纏めてあるわ。」

またアイシャが紙を取り出す
「簡単に言うと週6日の9時から17時の8時間を基本とする。
昼食は状況に応じて休憩を取って食べに出るか経費で出前が基本ね。
主な仕事内容は顧客からの問い合わせ対応、
その合間になら仕事に支障がない範囲なら好きに過ごしていて良いわ。

アンブレラの戦闘員としての仕事が入った場合、その分の勤務時間を平日の勤務時間と差し引く、
つまり朝寝坊や早引き、完全に休みにする等、使い方は任せるわ。
無断欠勤の場合は倍消費、また、この時間は月の初めに20時間支給される」
…ようは時間管理の有給って事か

「次に怪我なんかで戦闘員として働けなくなった場合は…」
アイシャの説明はまだ続く






「あと…退職又は解雇は著しい背任行為による場合を除き、互いにその1ヶ月前にその旨を通告する事…これでこっちから説明すべきことは全部ね」
その他条件が案外長かった。

個人的に重要な事だが、仕事時間外なら自由に仕事を受けてもいいそうだ。
但し、その場合怪我をしても、治療費は自腹で、
働けないあるいは戦力低下している間の給料は戦闘技能低下等を反映して下がる。
(アンブレラの仕事なら治療費も出るし、給料も満額保証)

後は…本来の管轄(私はロアナプラとロアナプラ関連の取引)外に派遣される場合は、
(フリーランスへの報酬よりははるかに安いが)ボーナスがでるそうな

「あ、大事な事を2つ忘れてたわ。
一つは組織内の融通扱いになるからロアナプラ内でもアンブレラから武器を買える様になる事、
もう一つは社員割引でうちの商品は全て一割引き、
職務関連商品、つまり武器や戦闘技術なら2割引になるわ…勿論無断転売は禁止よ」
…大事だな、まだまだ鍛えなきゃいけないし、資金は有限だ。

「疑問点なんかはある?」
聞いて良いなら聞きたいことはある。
「暫くは戦闘員兼電話番として働くのは良いとして…
最終的にアンブレラやアイシャさんは私に何を求めているんですか?」
私ごときにこれだけの高待遇を示す意味が分からない。

「アンブレラとしては有望な人材の青田買い以上はわからない、
でも準構成員なら今の所、消耗品扱いするつもりはないと考えていいわね、
フリーランスのままか傭兵契約の方が安いしお手軽だもの。
私としては貴方が仕事を覚えれば楽ができるし、私の仕事の効率は間違いなく上がる。
将来的に、貴方が望むなら正規社員…アンブレラの正規構成員になって欲しいかな」
…やけに高く買われているな

「なぜですか?」
「…ま、勘よ貴方は優秀な死の商人になれるってね」
ただの勘…疑わしいが突っ込んでものらりくらりと交わされて意味がないか

「じゃあ、もうひとつ。
すっかり忘れていましたが報告書にあった私の人格や記憶喪失について、
何が問題で、何に注意するべきという意味なのか、を」
すっかり忘れていたが聞けるなら聞いておきたい

「そうね…端的にいうと貴方が平和な小学生だった人格と切り替わったり統合されたりする可能性、
あるいはその記憶を取り戻して今の貴方が完全に消えてしまう可能性を心配しているの」
ああ、私という雨がやむって事か

「…それが起こった場合は何かしらの処置を?」
「アンブレラとしては仕事に支障が無ければ問題ないわ。
支障がでるようなら配置転換なんかもあり得るし、
万一告発なんかをしようとしたら…まあそう言うこと。
対応はさっき説明した精神異常をきたした場合と同じ扱いになるわ」
「…よくそんな爆弾を抱えた人間を青田買いしますね」
本当に、言われてみると私自身が雇う側なら鉄砲玉として扱うと断言できるくらい地雷だ。

「まあ、記憶や人格の統合を起こしても問題が起こる可能性は低いと考えてるし、
そうなったらそうなったで配置できる仕事はあるからね。
…生半可な人材雇ってもトラブルバスターさせたらどれだけ持つか…」
「あはは…そうですね、でも私もいつ死ぬかわかったもんじゃないですが」
確かにロアナプラは生きた屍がお互いを墓穴に投げ入れあっていると言う奴もいる
精神的に一度死んで再構成された私は、立派にその屍の一員だが

「まあレインの仕事ぶりなら生き残る可能性も高いって考えたからこの話を持ちかけてるんだけどね。
墓穴に入る奴、金で後のこと考えずに裏切る奴…そういったリスクを考えたら貴方のがマシよ。
さ、他には?」
「特にありません」
聞きたい事は全て聞けた。

「じゃあ、答えは決まったかしら?必要なら暫く時間をあけるけど」

必要はない

「いえ、必要ありません。受けさせていただきます」
「うん、ようこそアンブレラへ、レイン」
立ち上がり、アイシャと握手を交わした。
こうして私はアンブレラの一員になった 
 

 
後書き
と、言うわけで千雨ちゃんがアンブレラになってロアナプラ編の導入はおしまいです。

現状でのロアナプラ及びアンブレラでのレインとしての評価は一人前、
職業殺し屋としてはルーキーを脱した、という感じです。

アンブレラのランクCというのもプロとして扱っていい最低レベル、B-でルーキーを脱したという所です。
ちなみに、レヴィの評価はA、ベイヴもとい張さんはA+です。
これは非魔法使いに対する評価なので、ある程度以上の使い手にとっては、
臨戦態勢で臨めばそこまで脅威じゃなかったりします。(障壁貫通弾とかを持っていなければ)

ヴィソトニキの方々は単体ではB+程度ですが、
集団戦闘技能に優れ、集団として行動している時の脅威度は各々がA+となります。
え?メイド?…S(規格外扱い、魔法使い達にとっても重大な脅威)ですが何か。

三か月間やってたお仕事についてはまた番外編で詳しく書くかもしれません。

千雨の才能については実はそこまで魔改造だとは思ってません。
(持久力はともかく)身のこなしは(ギャグパートとはいえ)なかなかのものです、特に魔法世界編。
…皆さんは倍近く身長差ある相手の顔に跳び膝蹴りとかできます?w


おまけ、二度と出てこないかもしれないアンブレラ社の戦闘能力評価(非魔法使い用)

G:一切の戦闘技能を有さない
F:戦闘に使用できる技能を嗜んでいる(格闘、剣道等、ただし黒帯クラスは除く)
E:一般人にとっては十分な脅威となる、ヤクザの鉄砲玉や一般的な段持ちクラスの格闘家など
D:戦闘員として扱えるレベルに達している、新兵訓練を終えた程度の正規軍人
C:最低限プロと名乗ってよいレベル、初陣を済ませた正規軍人あたり
B:プロとして中堅どころ、ベテラン兵クラスでB+,B-も存在する
A:プロの中でも実力者、軍で二つ名持ち、A+,A-も存在する
S:規格外、スツーカ大佐や白い死神、某不死身の分隊長殿等が該当する。 
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