lineage もうひとつの物語
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動乱
剣のバカ
エルフの森での騒動から2日後のケント
アレンはアーニャの買い物に付き合わされていた。
旅に必須であるポーション類やスクロールの補充のためだ。
そして今は休憩のため屋外のテーブルに腰掛けコーヒーを飲んでいる。
「他に何か必要なものはある?」
アーニャに聞かれアレンは考える。
「そういえばランタンオイルが切れてたな」
「そっか、私達はライトの魔法だから気がつかなかったわ。」
んじゃ行こっかとアーニャが立ち上がりアレンもそれに続く。
荷物係だと思っていたアレンは自分の要求も通ることに安心していた。
オイルを買った二人は宿への道を並んで歩く。
改めて見るとアーニャは長い髪をポニーテールにし見た目だけは可愛らしい。
すれ違う男達は羨ましそうな目線を向けてくるのがいい証拠だ。
「このあとちょっと付き合ってほしい場
所があるんだけど?」
アーニャは荷物を持ち変えながら話す
「いいけど、どこに?」
「リーダーのとこ」
アレンは嫌そうな顔をし
「行かない。堅苦しいのは嫌だ。」
それを聞いたアーニャはあっさりと承諾した。
「そう。ならいいわ」
アレンはおかしいと思いながらも安心し宿へ戻っていった。
女性陣の部屋に荷物を置きに入るとエレナが戻っていた。
「あっおかえりなさい」
アーニャが挨拶しアレンも続いて挨拶をかわす。
「おかえりなさい。予定より遅かったですね。何かありましたか?」
「ただいま。とても大変だったのよ。」
エレナは溜め息をつきながら答える。
「ドラゴンが襲来してね。皆で撃退できたんだけど後処理が大変で」
二人は絶句した。
人里まで襲われることになろうとは。
ドラゴンバレーとエルフの森は東西で隣接しておりケントとも南北で隣接しているのだ。
いつこちらに来てもおかしくはない状態である。
「リーダーに報告は?」
アーニャが問い
「さっきしてきたところよ」
エレナが答える。
「そうだわ。アレン君、リーダーが会いたがってたわよ」
その言葉を聞いたアレンは愛想笑いを浮かべ後退りをし一気に部屋から出ていこうとするも
「スタラック」
アーニャが魔法を唱えアレンを蔦でがんじがらめにする。
「来てもらうのは止めにしたの。連れていくわ」
結局アレンはエレナ、アーニャにレジスタンスのアジトへ連れてこられた。
そして今小さな部屋でイスマイルと名乗るリーダー格の男と向かい合っていた。
三十代後半の痩せ形だがかなり鍛えてある印象をうける。
髪は短く健康そうに日焼けした顔は40手前とは到底思えない。
「アレンといいます。アーニャさん、エレナさんと同行させていただいております。」
ここに連れてこられた理由がわからず緊張するアレン。
訓練生時代に礼儀作法の授業を真面目に聞いていなかったツケが回ってきているのだ。
「アレン殿。楽にしていただきたい。貴殿は客人として招いているのだから」
だったらあなたの両脇に立つ厳つい人をどうにかしてください。
あと背後の扉前に立ってこっちを睨みつけているアーニャさんをどうにかしてください。
そして部屋前で見張ってるエレナさんを別の場所へやってください。
言いたいのを堪え
「こういう場に慣れてないもので・・・」
背後から溜め息が聞こえたが気のせいだろうか。
そしてイスマイルがにこやかに口を開く。
「ここにお招きしたのは貴殿にお渡ししたいものがあるためなのだが、その状態では些か難しいかな?」
アレンは苦笑いを浮かべ首を振るも
「だったらその緊張を解きほぐすために運動をしようではないか!」
イスマイルはただ単に戦いたいだけである。
剣士を見ると手合わせしたくて我慢出来ない性分だ。
アーニャは額に手を当て またか と呟く。
適当な理由をつけて手合わせしたかっただけに違いない。
そしてイスマイルは部屋の右手奥にあった扉を開け放ち木剣をアレンに放り投げる。
「さあ!こちらへきて手合わせしようじゃぁないか!」
「嫌なら断ればいいのよ」
とアーニャはアレンに告げるもアレンは目を輝かせ
「是非!」
と小躍りするように出ていった。
「しまった。あいつも剣馬鹿だった」
頭痛でもするのか眉間を指で揉みながらアーニャも後に続いた。
イスマイルとアレンは剣を構え向き合う。
いつもは大剣だが今日は普通の剣を持つアレン。
「なかなかいい構えだ。さすがだね」
イスマイルはにこやかに告げる。
彼は元冒険者であり上級者にあたる。
実戦から離れているもののこうやって強そうなやつを見付けては手合わせをしているためか衰えはみられない。
「さて始めようか。イザック、合図をしてくれ」
イザックと呼ばれた厳つい男はわかりましたと手を上に挙げる。
そして降り下ろすと同時に声をあげる。
「はじめ!」
最初にイスマイルが動き間合いを詰め剣で突く。
それをアレンは剣で逸らし右足で蹴りを叩き込む。
イスマイルがそれをバックステップしながら左手で防ぎ威力を殺す。
アレンも追い討ちをかけるように前に出て横凪ぎに剣を振るうも防がれる。
そしてその状態のままイスマイルは
「思ったよりやりますな。こりゃ簡単にはいきそうにないね」
アレンの剣が押し返され柄の部分で胸を打たれる。
そしてイスマイルの剣が降り下ろされるがアレンは避けることなく前に進み体当たりを食らわす。
イスマイルは一瞬よろけるもののアレンの追撃を防ぐ。
ここからイスマイルの笑みはなくなり攻撃が激しくなる。
アレンは防戦一方になり押され始めた。
イスマイルの攻撃は早く正確で隙がない。
下手な攻撃をすれば一瞬で勝負がついてしまうだろう。
しかしアレンは諦めない。
ギリギリのところで粘り徐々にイスマイルの速度に対応できるまでになってきた。
焦ったのはイスマイルである。
アレンが戦闘中にどんどん成長していくのが手に取るようにわかるのだ。
育てる楽しみと追い抜かれる恐れとが入り雑じり一気に勝負をかけようと攻撃を止め構えに入る。
アレンもそれを感じとり最後の一撃に全力を注ごうと構える。
両者の視線が絡み合い二人が同時に右足を踏み出した。
が、左足が地面より生えた蔦に絡めとられ二人とも前のめりにずっこけた。
「あんた。ええ加減にしなさい」
「アレン、そこまでよ」
年上の女性とアーニャによる魔法、スタラックだ。
「あ、あぁ。夢中になっていたようだ」
イスマイルは起き上がりながら アレン殿すまない と謝る。
アレンは倒れたとき顔面からいったのだろう鼻血の処理をしながら笑う。
「楽しかったです。ありがとうございました」
鼻血処理のハンカチを渡したのはもちろんアーニャだ。
「うちの旦那が悪かったね。これは癖またいなもんでさ。悪気はないから許してやってね」
女性はそう言うとアーニャを手招きし少し離れたとこで何やらコソコソ会話している。
アーニャは恥ずかしそうにしたと思えば真剣になったり笑ったり忙しい。
イスマイルはこの隙にいそいそと部屋へ戻っていく。
アレンはぼーっとそれらを眺め鼻血が止まるのを待っていた。
アーニャが覗きこむようにアレンの鼻血が止まったのを確認している。
「よかったわね。あんたの低い鼻がさらに低くならなくて」
「アーニャありがとう。ハンカチは新しいの買って返すよ」
「それエルフ製品だからあんたに買えるかしら」
「が、がんばるよ」
二人は立ち上がり部屋へ戻っていった。
そして仕切り直し。
手合わせ前の状態まで戻るとイスマイルが話し出す。
「アレン殿はお強いですね。納得できましたよ」
「何に納得したのさ?」
ハテナが浮かぶアレンの上からアーニャが問う。
イスマイルはそれを華麗にスルーする。
「あーそうか。エレナも入るよう言ってくれ。代わりにイザック、頼む」
イザックが出ていき代わりにエレナが入ってきた。
そしてアーニャの隣に並ぶ。
「アレン殿、ゲラド様より手紙を預かっている。これを直接渡さなくてはならなかったんだよ」
アレンはお礼を言い手紙を受けとると中を見ようと封を切るが
「恐らくそれの内容は外に漏れてはマズイ内容だろう。私以外触れないよう頼まれたものだ。ここで開くのはやめておいたほうがいい」
「すみません。そういうことに疎くお恥ずかしい限りです」
アレンは真摯に受け止め封筒を懐にしまう。
「部屋を準備させるのでそちらで拝見して頂きたい」
「お気遣い感謝します」
アレンはお礼を言い案内係について部屋を出ていった。
「さて、ここからが問題なのだが・・・」
エレナに目線をやりそしてアーニャを見据える。
「二人に命令だ。今日限りでここを辞めてもらう」
アーニャはイスマイルに食ってかかる
「なぜですか?私達が何をやったのか説明してください!」
「何か理由があるのですよね?」
エレナは静かに鋭く質問する。
「落ち着いてくれ二人とも。悪いことではない。」
二人に席を勧め
「彼は何者か知らないだろうから教えておこう。」
そして引き出しから葉巻を取りだし火を点ける
「彼はデフィル王の嫡子である殿下の命を助けシルバーナイトタウンまでお連れした人物だ」
そしてイスマイルは森でアレンが殿下と出会いブラックナイト隊との戦闘で離ればなれになったものの無事送り届けたことを説明していった。
二人は驚きとともになぜそれが自分達のクビにつながるのか理解できなかった。
「そして君らはその彼と懇意にしている。彼と正式パーティーとなり力を貸してやってほしい。アーニャ君は断る理由はないだろう?」
イスマイルはアーニャに悪戯な笑みを向けた。
「そ、そんなことはないけど確かに断る理由はないわね」
頬をほんのり赤くし答えるアーニャに対しエレナは
「わかりましたけど辞めなくてもいいのでは?」
尤もな意見だ。
イスマイルは頷きこう答える。
「理由は簡単だ。まだ以前の組織に所属していて本当のパーティーだといえるか?」
それだけ言うと葉巻を吸い込んだ。
二人は沈黙をもってそれに答えた。
「完全に離別というわけではない。ケントにくれば顔を出してもらって全然構わない。ここから除名しアレン殿のパーティーに名前を移すということだ。わかってもらえたかな?」
「わかりました。お請けします」
そして二人は承諾し除名の運びとなった。
まだアレンからパーティーの承諾を浮けてもいないのに。
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