銀河転生伝説 ~新たなる星々~
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第17話 ロアキアの終焉
――新帝都フェザーン――
「バカな! あれだけの戦力を揃えておいて敗北したというのか!?」
獅子の泉宮殿の皇帝執務室にアドルフの声が響き渡る。
「はっ、損失艦艇32185隻。戦死者約300万人とのことです」
「…………」
あまりの損害にアドルフは絶句する。
敵を2万隻近く上回る艦艇に、それを指揮する将達も一流の将帥。
それだけの戦力を揃えながら大損害を出して敗北するなどアドルフには考えられなかった。
敵はヤン・ウェンリーではないのだ。
それとも、レオーネ・バドエルやオリアス・オクタヴィアヌスはそれに匹敵する存在だとでも言うのか。
「…………それで、敵の被害は?」
「敵は損失艦艇約22000隻。死者は不明ですが200万近い数になるのではと……」
「…………」
一応それなりの損害を与えているが、両軍の戦力差を考慮するとこれでは少ないと言わざるを得ない。
「それと、マリナ大将から『敵が疲労している今こそ好機、再度矢を放ち屈服させるべし』との打診が来ております」
「何、まだ戦うのか!?」
「ですが、確かにこれは好機です。こちらは敗れたとはいえ未だ40000隻の艦艇を維持しています。対する敵の戦力は損傷艦を含めても30000隻強。2個艦隊の増援を送れば損傷艦を下げても2倍近い戦力差になるでしょう。そして何より、敵は全軍が例外無く疲労しております」
「敵に増援がある可能性は?」
「無いとは言えませんが……その可能性は極めて低いかと。あってもイグディアスやオルデランのものしか時間的に間に合わないと考えられます。そして、両国の国力からして最大に見積もっても10000隻を超えることはありません」
「なるほどな………うむ、直ちにガムストン、パナジーヤの両艦隊を向かわせろ。それと、ドロッセルマイヤーにエルデタミアへ直行しルフェール艦隊を叩き潰せと言っておけ」
「エルデタミアのルフェール艦隊ですか?」
「横からしゃしゃり出てこられても面倒なだけだろう? もし出てくるなら、その間に空になったエルデタミアを制圧するだけだ」
「分かりました。直ちに」
シュトライトはそう言うと、配下の者を呼んで直ぐ手配させる。
その手際は手慣れたものであった。
手配が終わった後、シュトライトはアドルフに向き直って一言忠告する。
「そろそろ戦死者の数が多くなり過ぎています。このままだと……」
「分かっている、旧ロアキア領の全てを手中におさめたらそこで一息つくさ」
ロアキアとの戦争勃発から発した一連の戦闘により、銀河帝国の戦死者数は無視し得ない数になっている。
それに占領地も広がり過ぎており、これ以上の戦線拡大は自殺行為である。
未だ戦闘が続いているのは、単にオリアス等残党勢力とエルデタミア共和国という存在が新たに手に入れた領土内に巣食っているからであり、ティオジアやルフェールの介入が無ければとうに終わっている筈であった。
ここでオリアス等を滅ぼすか旧ロアキア領から放逐し、エルデタミアを占領すれば戦いは終わる。
ティオジアやルフェールとはいずれ決着をつけねばならないとしても、それは何年も後のことであった。
* * *
宇宙暦808年/帝国暦499年 8月4日。
銀河帝国軍はベトラント星系に隣接するカイマール星系にてガムストン、パナジーヤ両艦隊28000隻の増援と合流し、再びロムウェへと進発した。
一方、これを予想していなかった連合軍では大混乱が起きていた。
辛うじて司令部が冷静でいられたのは、銀河帝国軍がカイマール星系に留まっていたことから再度の侵攻もあり得ると予期していたからだろう。
それとて一応という面が強く、まさか本当に再度の侵攻があるとはあまり考えられていなかった。
「アルフォルトは間に合わん。ここレンヴァレル星系で迎え撃つしかない!」
ロムウェのあるレンヴァレル星系はロアキアの残存勢力とって最後の砦である。
ここが落ちれば、この宇宙にロアキアの国土は一欠片も存在しなくなってしまう。
それはロアキア統星帝国という国家の終焉を意味していた。
「……迎撃する。各艦出撃用意!」
かくして、連合軍は迎撃に出撃する。
だが、レンヴァレル星系へ来襲した銀河帝国軍の艦艇数は65000隻。
30000隻強の連合軍とは実に2倍以上の差があった。
「撃て!」
銀河帝国軍は無傷のガムストン、パナジーヤ両艦隊を先頭に激しい砲火を加える。
更に天頂方向からマリナ艦隊が、天底方向からクナップシュタイン艦隊が襲撃を掛け、オットー艦隊とカルナップ艦隊はそれぞれ左右側面に回り込む。
この立体的な攻撃に連合軍は為す術が無かった。
次々と爆沈していく連合軍艦艇。
先日と異なり、あまりに一方的な戦闘であった。
「戦艦プラッツラー、アグニテウス撃沈!」
「戦艦コメックロトム撃沈、メルボド提督戦死!」
「ここまで無様な戦いになるとはな……」
既に、連合軍の各戦線は崩壊している。
銀河帝国軍も予備兵力のガーシュイン艦隊を投入して戦局を決めに来ている以上、この状況からの挽回は不可能だろう。
「殿下、勝敗は決しました。ここはティオジアかルフェールに亡命して捲土重来を期されんことを……」
側近の一人はオリアスに亡命を勧める。
だが、オリアスは静かに首を振った。
「我が軍は既に敵の包囲下にある。このまま逃げる事など叶わんよ」
「敵の包囲は完全ではありません。今なら、今ならまだ間に合います」
「ここで私一人が逃げ出して……例えそれで命を永らえて再起したところで、もはや誰も私についてなどこないだろう。だが、私にもまだ誇りがある。せめてティオジア軍が撤退する程度の時間は稼いでくれよう。………全艦突撃だ、ロアキア軍の意地を敵に見せてやれ!」
このオリアスの言に覚悟を決めたロアキア軍は最後の反撃に出る。
「この勢い……やつらは死を恐れんのか!」
「オリアス軍は完全に死兵になってしまったわね……これは厄介だわ」
「主砲による弾幕を張って、敵を近づけさせるな!」
銀河帝国軍は必死になって死兵となったロアキア軍を食い止める。
そのため、撤退していくティオジア軍を追撃する余裕など無かった。
宇宙暦808年/帝国暦499年 8月13日 22時40分。
ロアキア軍総旗艦デスペリアスの撃沈とオリアス・オクタヴィアヌスの戦死によって戦いは幕を閉じた。
会戦後、銀河帝国軍はロムウェへと侵攻してこれを占領。
ここに、領土の全てと指導者を失ったロアキア統星帝国は真の意味で滅び去った。
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