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八条学園怪異譚

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第四十五話 美術室その十

 ピカソのそれなぞ皮革にならない、混沌としたその絵を観て言うコキイネンに二人は怪訝な顔でこうも言った。
「わからなくないですか?」
「何処がどうなのか」
「描いた人の心が伝わってきます」
「心が、ですか」
「それがなんですか」
「はい、いい絵ですね」
 あくまでこう言うコキイネンだった。
「とても」
「どういう意味でいいんでしょうか」
「私達にはどうしてもわからないんですが」
「絵に対する情熱、描いているものに対する愛情」
 コキイネンはその顔での怪訝さをさらに増した顔になっていく二人にさらに話す。
「それが伝わってきます」
「だからですか」
「いい絵なんですか」
「この絵を描かれている人は素晴らしい人ですね」
 こうも言うコキイネンだった。
「芸術への真摯さ、情熱が素晴らしいです」
「そうなんでしょうか」
「私達はどうもわからなかったですけれど」
「核戦争後の世界?とも思いましたし」
「魔界都市か」
 どちらにしても尋常ではない世界だと思ったというのだ。
「大震災の後の関東とか」
「それかヨハネスブルグか」
 二人にはそうした世紀末な状況にしか思えなかった、それか異次元かアマゾンか。どちらにしても普通の世界ではない。
「どういう世界か」
「何が何をどうなっているのか」
「その絵から全然わからなかったですけれど」
「先生にはわかるんですか」
「そのつもりです」
 コキイネンの言葉は嘘を吐いているものではなかった、その目も温かい。
 そしてその目でだ、こうも言ったのである。
「これだけの絵は生前もそうは観られませんでした」
「確かにそうは観られない絵ですね」
「画伯って言うべきでしょうか」
「人は誰も画伯です」
 これもまたコキイネンの言葉である。
「勿論その方も」
「近頃画伯とは壮絶な絵を描く者のことを言うそうだな」
 日下部は二人に聖花の言葉について問うた。
「そうらしいな」
「そうですね、ネットから出た言葉ですけれど」
「そう言われていますね」
「変わった表現だな、揶揄の言葉か」
「あっ、とある漫画家さんが自分のアニメの声優さんの絵を観て言ったらしくて」
「得意に誹謗中傷でも揶揄でもないです」
 むしろ愛称の様なものだろうか、そうした言葉だというのだ。
「私達もそんな意味で使ってませんし」
「愛称ですよ、本当に」
「ならいいがな、しかしこの人がこう仰るとはな」
 日下部は軍人らしくその顔には務めて表情を出さない様にしている、しかしそれでもコキイネンの今の言葉にはこう言うのだった。
「意外だな」
「ですか、日下部さんも」
「そう仰るんですね」
「彼女の絵は私もわからない」 
 七生子の絵は、というのだ。
「正直異次元か何処か違う世界を描いていると思っていた」
「そうですよね、どうも」96
「普通じゃないですよね」
「私達から観たら」
「先輩の絵は」
「芸術は感性だが」
 日下部もこのことは理解している、だがそれでもなのだ。 
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