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八条学園怪異譚

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第四十五話 美術室その八

「ご本人の話ではな」
「結構長いですね」
「三十年もおられるなんて」
「とにかく絵の好きな方だ」
 その絵の好みのことも話す。
「それで今も残っておられるのだ」
「けれどもう絵は描けないですよね」
 愛実はこのことに突っ込みを入れた。
「そうですよね」
「しかしだ」
 だが、だというのだ。実体がなくなり絵が描けなくなっても。
「それでもだ」
「それでもなんですね」
「絵がお好きで」
「描くだけではなくだ」
 無論これが一番好きにしてもだというのだ。
「御覧になられるのもお好きでな」
「それで今もですか」
「美術部の部室におられるんですね」
「そこを拠点として学園中を回っておられる」
 そうしているというのだ、その先生は。
「絵を観て回られているのだ」
「うちの学園って普通に美術館もありますしね」
「画廊を開くこともありますし」
 二人もこのことは知っている、美術部門にも力を入れている学園なのだ。この辺りも八条グループの財力が大きく関係している。
「それで、ですね」
「その先生も絵についてはですか」
「よく言っておられる」
 日下部はさらに話す、その画家の言葉を。
「絵は幾ら観ても飽きないとな」
「それでその人とですね」
「今から」
「会うのだ、さて」
 こう話してここで、でだった。三人は今目の前にその美術部の扉を見た。そしてその扉をであった。
 開けるあの部室が暗がりの中にあった、絵や彫刻等が置かれている。夜の教室の中にある芸術品には独特の雰囲気、不気味さまである。
 その中にだ、白く長い髭の老人がキャンバスの前に座っていた。二人はその老人、黒い服と帽子のその彼を見てすぐにわかった。
「あっ、あの人ですね」
「あの人がそのユダヤ人の」
「そうだ、先生」
 日下部はここでその老人に声をかけた。
「お久しぶりです」
「おお、日下部一佐」
 老人は日下部の言葉を聞いて彼に声をかけて言った。
「暫くぶりですな」
「いえ、数ヶ月ぶりですから久しぶりになるかと」
 日下部は海上自衛隊の海軍からの伝統である肘を畳んだ敬礼で挨拶をしてから老人に微笑んでこう言った。
「それで申し上げたのですが」
「そうですかな、それでそちらの娘さん達は」
「泉を探している娘達です」
「はじめまして」
 二人は同時に老人に頭を下げて挨拶をした、そのうえでそれぞれ名乗った。老人も二人の挨拶を受けて席を立って三人に向かいなおってからそのうえで帽子を脱いで一礼した、白いが豊かな髪の毛だった。
 そのうえでだ、自分の名を名乗ったのだった。
「イザヤ=コキイネンです」
「コキイネンさんですか」
「そう仰るんですね」
「はい、リトアニアから来ました」
 生まれはそこだというのだ。
「何といいますか、ここに来たのは運命ですね」
「日本に来られたことがですか」
「運命なんですか」
「はい、そう考えています」
 温厚な笑顔で述べる。 
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