とある星の力を使いし者
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第107話
上条達から一時離脱した麻生は低空飛行しながら、「女王艦隊」に向かって超スピードで移動していた。
その時速はおよそ四〇〇キロ。
普通の人間ならまず空気摩擦や空気抵抗などで即死する速度だ。
しかし、麻生は普通の人間ではない。
自身が持つ能力を最大まで発揮して、身体に様々な補助魔術やベクトルなどを利用して初めて超高速移動が可能なのだ。
「女王艦隊」の姿を肉眼で捉えるほど、近づくのにそう時間はかからなかった。
サーチ術式で麻生を捉えたのか、幾つかの「女王艦隊」の砲台が麻生に照準を合わせる。
その気なればサーチ術式に感知されないようにする事もできるが、それをすれば囮の意味がない。
もう少しで接触できるかという所で、「女王艦隊」の砲台が火を噴き、氷の砲弾が弾幕となって麻生に襲い掛かる。
その雨のような砲弾を麻生は減速も避ける事もせず、ただ真っ直ぐに突っ込んで行く。
雨の砲弾を受けるが、傷一つつかない。
理由は簡単だ。
麻生は今、時速四〇〇キロを超える速度で移動している。
その麻生にかかる負荷と氷の砲弾を比べて、どちらがきついのかと聞かれれば言う間も出ないだろう。
そして、そのあらゆる負荷がかかる移動を麻生は苦も無くこなしている。
なので、氷の砲弾など防御する意味も干渉する意味もない。
負荷に耐えられるのならば、氷の砲弾に耐えられない訳がない。
そのまま、近くの「女王艦隊」に乗り込む。
氷の砲弾を受けて、傷一つつかない男が乗り込んできた所を見て、シスター達は後退する。
あの砲弾の弾幕を受けて、傷一つつかない化け物相手に自分達はどう戦えというのか?
さらに、シスター達は麻生の顔に見覚えがあった。
忘れもしない「法の書」の事件の時、二〇〇人のシスター相手に勝利した男の顔を忘れる事ができる訳がない。
「さて、こんな事が前にもあったな。」
麻生も「法の書」の事件の事を思い出したのか、少し思い出し笑いをしている。
「お、おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
自分に喝を入れる為の叫びなのか、大声を上げながら一人のシスターが麻生に向かって走り出す。
その手には斧が握られていて、真っ直ぐに麻生の顔面に向かって振り下ろす。
その斧の刃を麻生は右手の掌で掴み取る。
「なっ・・・・」
思わず声が漏れた。
それほど衝撃的な事なのだろう。
麻生は右手に力を軽く込めると、斧の刃は簡単に握りつぶされる。
そして、空いている左手でシスターの腹部を殴りつける。
殴られたシスターは後ろのシスター達の集団まで吹き飛ばされる。
そのままの勢いで左手を氷の床に叩きつける。
叩きつけた瞬間、凄まじい衝撃が艦隊を襲い大きく横に揺れる。
「お前達、全員を相手にしても良いんだが如何せんこっちは時間がないんでな。
手っ取り早い方法を取らせてもらう。」
その言葉と共に、麻生の左手を中心にもの凄い勢いで艦隊の全てにひびが広がっていく。
そうして、シスター達はようやく麻生が何をしたのか理解する事ができた。
次の瞬間、音を立てて艦隊が一気に崩れ落ちる。
氷の艦隊はそのまま海に沈み、シスター達は驚愕の表情と信じられないモノを見るような表情が混じった顔をしながら海に落ちて行った。
麻生だけは能力を使用しているので、空に浮いていた。
だが、突然海に巨大な魔方陣が浮かび上がると、海面を割って新しい艦隊が浮上してくる。
それを見た麻生は舌打ちをする。
(やはり、艦隊自身に攻撃しても意味はないか。
これらを沈めてもすぐに再生しやがる。
やっぱり、この艦隊を維持している礼装を破壊するか、このアドリア海全土に干渉して術式に反応しないようにするないな。)
艦隊自身に干渉しても礼装を破壊しない限りあまり意味はない。
それにアドリア海全土を干渉するとなると、あらゆる能力を止めて、干渉する事に集中しないといけなくなる。
この状態でそんな事を悠長に事を構える事はできない。
何より、そんな事をしていたら術式が完成してしまう。
考え事をしていると、他の「女王艦隊」が麻生に向けて砲弾を撃ってくる。
その砲弾を空間の壁を作り、防御する。
(ちんたら考えている暇もない。
こうなったら、手当たり次第シスターを攻撃して撹乱していくしかないな。)
再生しつつある「女王艦隊」に向けて純粋な魔力で作った魔弾を数発撃ち込む。
その魔弾を受けた「女王艦隊」は再び海に沈んでいく。
それを確認した麻生はその隣の「女王艦隊」に向かって移動しつつ、氷の砲弾を防御して、カウンターのように魔弾を何十発も撃ち込む。
近づいた「女王艦隊」には空いている手で魔弾を何度も撃ち込む。
(建宮達ももうじき来るはず。
そうしたら一度合流するか。)
頭でそう考えながら、魔弾で「女王艦隊」を次々と破壊していく。
麻生の撹乱のおかげで、建宮達は雨の様な砲弾を受ける事無く、「女王艦隊」に近づきつつあった。
肉眼で捉えられるくらいまで近づくと、さすがに気がつかれたが肉眼で捉えられる距離ならもう上陸は簡単だった。
さらには、囮も四〇隻ほど用意していたのが幸いしたのか、建宮達が乗っていた船には一発も貰う事なく、近くの「女王艦隊」に乗り込む事に成功した。
「麻生のおかげで、危なげなく上陸する事ができたよな。
だが、油断するなよ。
ここから正念場だぞ。」
その言葉を皮切りに、上条は横付けされた木の船から氷の船へと飛び移った。
その後に、インデックスやオルソラ、ルチアやアンジェレネ、建宮や五和や天草式の面々が次々と乗り込んでいく。
「各艦の制圧は考えるな!
どの道、数では圧倒的に負けてるのよ!
こちらは相手の核だけを潰す事を考えれば良いのよな!」
「旗艦・・・・「アドリア海の女王」は!?」
上条は周囲を見回すと、数百メートル先に他の船よりさらに巨大な艦が見えた。
しかし、その間だけでも一〇隻以上の氷の船が立ち塞がる。
「艦から艦への橋はこちらで作ってやる!
とにかくお前さん達は旗艦へ」
建宮の叫びに別の声が重なった。
まるで館内放送のように広がっていく、女性の声だった。
「第一九、三二、三四番艦の乗組員は至急退避を、間に合わないなら海へ!
これより本艦隊は前述の三隻を一度沈めたのちに再構築し直します!!」
「くそ!!
また船ごと潰し気よな!
急げ!!」
建宮は紙束を辺りにばら撒いた。
それは勢いよく膨張すると、氷の船から船へと伸びるアーチ状の木の橋へと形を変えていく。
しかしそれを渡る前に周囲から砲撃がきた。
砲弾そのもの以前に、発射音の衝撃波だけで上条は甲板の上に転びそうになる。
いくら、麻生が撹乱しているとはいえ、全ての「女王艦隊」を相手にする事はできない。
その場合は個々で切り抜けないといけないのだ。
「くっ!?」
舌打ちするだけの時間も惜しい。
巨大な船のあちこちが土のように崩されていく。
ボロリと剥がされた船壁が海に落ちて、太い水柱が上がった。
甲板の上まで水飛沫が飛んでくる。
砲撃によって両手で抱えられないほど太いマストの柱が一撃でへし折れた。
「インデックス!!」
上条は近くで身を竦めていたインデックスの手を引っ張って倒れつつあるマストの下をくぐるように走る。
柱が横倒しに倒れ、そのまま隣の船へと続く橋のように伸びている。
上条は迷わず飛び乗った。
建宮を始めとした天草式の連中は自分達で用意した木の橋に乗って他の船へ散り散りに移っていく。
インデックスの手を掴んで海を渡り、隣の船へと転がるように移る。
後ろを見ると、同じように天使の杖を抱えたオルソラがマストを伝ってこちらの船へ到着した所だった。
オルソラが持っている天使の杖は元はアニェーゼが使っていた杖だ。
「法の書」の事件の後、天草式は回収したらしく、武器を持っていないオルソラの手に今はある。
第二波のの砲撃を受けた氷の船は斜めに傾き、引きずられるように海へと落ちていく。
「とうま、他のみんなは?」
ほとんどは天草式の用意した木の橋を使ったようだが、何人かは海へと飛び込むのを見た。
思わず奥歯を噛む上条に、横にいたオルソラは言う。
「彼らは橋やハシゴを作る札の術式を持っているのでございます。
勝算があるからこそ、一度海へ向かおうと判断できたのでございましょう。」
やや希望的とも言える意見だが、今はそれを信じるしかない。
どの道、甲板から海面までの高さは一〇メートル以上ある。
上条が手を伸ばした所で届く筈がないのだ。
「ちくしょう!
さっさと「アドリア海の女王」を潰すぞ!!」
上条は改めて「女王艦隊」の旗艦へ向かおうとしたが、新たな足音が彼の歩みを堰き止めた。
大きな甲板に立っているのは、数十人のシスター達だった。
一人の少女を救う戦いが今始まる。
しかし、この戦いとは別の思惑が動いている事をこの時誰も知らない。
後書き
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