とある星の力を使いし者
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第106話
「「アドリア海の女王」を何に使うかは分からないけど、あれを発動させる事だけは防がないといけない。
あの魔術は「あらゆる物から価値を奪う」効果を持つだから。」
各々が武器の準備などをしている時、インデックスが「アドリア海の女王」について説明をする。
その説明を聞いた上条はゾッ、と寒気を感じた。
「具体的なリミットがいつかは分かってんのよ?」
建宮の質問にルチアとアンジェレネが答える。
「いえ、しかし艦隊がああして本格的に集結した以上、おそらくもう猶予はないでしょう。
あれを維持し続けるけるのにも莫大な資源を使いますし、何より日が昇れば流石に目立ち過ぎます。
人払いなどを使うにしても、あの規模となると・・・・」
「い、今までは、それぞれの艦がバラバラに準備を進めていたんです。
船の数自体も、今の何分の一ぐらいしかなくて・・・・。
でも、ここに来て大きな動きが出てきたことを考えると、やっぱり彼らがわざわざ長期間「待つ」とは考えにくいと思います。」
「つまり、チンタラやってる場合じゃねえのよな。」
建宮はわずかに緊張した声でそう言った。
「なぁ、これって魔術的な問題なんだろ。
だったらイギリス清教に頼めば良いんじゃねえのか?」
上条は詳しくは知らないが、インデックス達の所属「必要悪の教会」はまさにこういう事件を解決するための部署だったはずだ。
しかし建宮は首を横に振った。
「もう呼んでるのよ。
ただ、ロンドンからここまで距離がある。
しかもあれは、そこらの魔術結社の施設じゃない。
れっきとしたローマ正教正規のヤツよ。
下手にイギリス清教が全力を挙げて潰しにかかれば、それが世界に亀裂を入れる問題に発展しかねんのよ。
ここはただでさえローマ正教のお膝元・・・・他宗派の大規模部隊を召集・展開するだけで難癖つけられる。」
彼の話では、上条達を助けた事ですら相当の綱渡りだったらしい。
不利な条件ばかりが山積みになる状況に上条は歯噛みする。
だが、建宮はそんな上条を見て笑みを浮かべて言う。
「お前さんはあの艦隊を相手するのに今の勢力じゃあ厳しいと考えてないか?」
「事実そうだろう。
あんな艦隊を全部に相手にしてたら、こっちの命が幾つあっても足りない。」
「確かにその通りよな。
けど、忘れてないか?
我には麻生恭介がいる事を。」
その言葉を聞いて上条は気がついたのか、依然と暗い海を見つめる麻生に視線を送る。
その視線に気がついたのか、ゆっくりと麻生は振り返る。
「そう言えば、聞いてなかったよな。
お前さんはこれからどうするんだ?」
「本来なら巻き込むな、と言って帰るつもりだが、相手はローマ正教。
「使徒十字」の件があるからな。
あいつらが学園都市に何かする可能性があるから、その真意を見極めるまではついて行く。」
ローマ正教はかつて、「使徒十字」を使って学園都市を強制的に自ら傘下に入れようと考えていた。
それは上条や麻生達のおかげで防ぐ事ができた。
「使徒十字」が成功しなかったからこそ、ローマ正教は「アドリア海の女王」という巨大な魔術霊装を使う可能性がある。
「その言葉を聞いて安心したよな。」
建宮は本当に安堵の表情を浮かべる。
麻生が協力しない、と言ったらどうしようもなかった。
力づくで協力させる事もできない(するつもりもないが)。
そうなるとかなり危ない橋を渡る事になっていた。
「彼の力を借りると言っても具体的にどうするつもりですか?」
「相手は確実にサーチ術式を使っているのよな。
距離にして大体四~五キロほどで射程距離に入る。
こっちの船は「女王艦隊」の砲弾を一発でも受けたら終わりよな。
加えて、艦隊の数は一〇〇弱。
それらが一斉に砲弾を撃ってきたら文字通り雨の様よな。
さて、どうやって切り抜けるよな?」
「そんなの簡単だ。
俺が先行して「女王艦隊」に突っ込む。」
その言葉を聞いてその場にいる全員が驚く。
「貴方は彼の話を聞いていなかったのですか?
一人で突っ込めば簡単に撃墜されます。
それに相手の警戒をより一層強くするだけです。」
無謀と思える発言にルチアが呆れながら言う。
あれだけの「女王艦隊」の砲が一斉に撃てば、まさに弾幕になる事間違いない。
「それに相手にはビオージオ=ブゾーニがいます。」
「誰それ?」
ルチアがある人名の名前を口にした時、思わず上条はルチアに聞いてしまう。
「あの艦隊の指揮官でローマ正教の司教の地位についている人物です。
単体での戦闘力よりも、複数を動かす事に特化した司教と聞いています。」
「ふ~ん、それで?」
その説明を聞いた麻生は何も表情を変えずにそう言った。
それを聞いたルチアは少し苛立った声で言い返す。
「これだけ言ってもまだ分からないのですか!?
このまま貴方が突っ込んでも意味がないと言っているのですよ!
貴方が一人勝手に突っ込んで死ぬのは勝手です。
ですが、そのせいで私達に迷惑がかかります。
死ぬのならせめて私達に迷惑がかからない所で死んでください。」
ルチアの厳しい言葉に五和は思わず、言い返してしまいそうになるが、建宮がそれを止める。
麻生はその言葉を聞いて、頭をかきながら面倒くさそうな顔をする。
「建宮、上下艦以外に船は何隻ある?」
そして、ルチアではなく建宮に話しかける。
「え、えっと・・大体四〇隻くらいだな。」
「充分だな、それらを囮に使って近くの「女王艦隊」に乗り込め。
俺が撹乱しているとはいえ、保険はしておいていいだろう。
そうだな、囮に使う船には火薬船として突っ込ませろ。」
「お、おお、分かったよな。」
少し戸惑いながらも建宮は頷く。
勝手に話を進める麻生を見たルチアはさらに苛立っていく。
「いい加減にしてください!
前の「法の書」の一件で貴方の力を見せつけられました。
ですが、今回の相手はそれとは比べ物になりません。
勝手な行動は迷惑なのですよ!」
声を荒げて麻生に言う。
アンジェレネはオロオロしながらも今にも襲い掛かりそうなルチアを押えつける。
上条とインデックスは麻生が何を考えているのか分からないので、下手に手を出す事ができないでいる。
その時、不思議な事が起こった。
突然、麻生の身体が浮いたのだ。
何か魔術を使ったわけでもない。
現にインデックスですら何が起こっているのか分からないでいる。
「黙って武器の準備でもしていろ。
嫌でも自分の力を使う必要があるんだからな。
それと、ルチア。
お前は俺が撃墜されると言ったな。」
「そ、それが何か?」
浮いている麻生に視線を向けながらルチアはその眼を真正面に受け止める。
「安心しろ。
手伝う以上、アニェーゼは助ける。
ローマ正教が学園都市に攻撃するにしろ、しないにしろそれは絶対だ。
俺が約束しよう。」
麻生の言葉に何故かルチアは反論できなかった。
麻生の言っている事はもの凄く曖昧だ。
あの艦隊相手に絶対に勝てる戦力はこちらにはない。
むしろ、こちらが負ける要素の方が確実に多い。
それでも、その言葉は何故かとても安心してしまった。
それはルチアだけではない。
アンジェレネも上条もインデックスも天草式全員が同じ事を思った。
そのまま麻生は背を向けると、暗い海に向かって素早く移動する。
風を利用しているのか、麻生が動き出した瞬間、大きな水しぶきが上がった。
「さて、我らも準備するよな。」
建宮の言葉を皮切りにそれぞれ急いで準備を始める。
その中、ルチアとアンジェレネはじっ、と暗い海を見つめていた。
「女王艦隊」四三番艦は索敵に特化した情報艦だ。
そこに常駐するシスター・アガターは甲板の最先端部にある巨大な舵の前で息を呑んだ。
舵の両脇には小さなテーブルがあり、そこには氷でできた書類がいくつも張り付いている。
古い羊皮紙を模した薄い氷の板の上には。地図や海図から船の状態まで、様々な情報がリアルタイムで表示されている。
その内の一つ。
アドリア海近辺の海図を表示した氷の書類が、鈴を鳴らすような警告音を発した。
「女王艦隊」を示すチェスのような駒の群れの下方から、一つの駒がこちらへ急速に近づいてくる。
「ビショップ・ビアージオ!!」
「見えている、詳細の説明を。」
叫ぶと、空気が直接振動したような声が返ってきた。
「アドリア海ヴェネツィア湾南部より近づく影が、一つ!
速度はかなりありま・・・・・そんな、ありえない・・・・」
「どうした?詳細の説明を続けろ。」
信じられないような物を見たような表情を浮かべるシスター・アガター。
彼女の視線は一枚の海図に集まっていた。
「近づく影があるのですが、その影は人によく似ています。」
「それがどうかしたのか?」
「その影は時速三六〇キロ・・・いえ、もっと速い速度で近づいているのです!!」
「なんだと・・・」
その言葉にビオージアも驚きの声をあげる。
なぜなら、人間がそれだけの速度を出す事など到底不可能だからだ。
何かの間違いでそれだけの速度が出せたと仮定しよう。
そんな速度を出せば、空気摩擦などの問題にぶつかり、一瞬で身体はこなごなに吹き飛ぶだろう。
これは聖人でも変わりない。
だからこそ、彼女は信じられないような表情を浮かべていたのだ。
「あと、どれくらいで接触する?」
「あ、あと、三〇秒ほどです。」
「何かは分からんが、撃ち落せ。
可能か?」
「か、可能です!
第二五から三八番艦までは砲撃可能な位置です!」
「手早く撃ち落せ。
何かは正体が掴めないが、接触する事は許さん。」
「りょ、了解です!!」
その指示を受け、全艦に状況と照準を伝令する。
だが、彼女の胸の中には言い様の無い不安があった。
もし、あれが本当に人間だとしたらそれは人間ではない。
人の皮を被った別の何かだ。
テーブルの上に新たな氷の書類が浮かび上がり、「女王艦隊」の配置図や砲の射線などが表示される。
「およそ二〇秒で影は本艦隊に接触します!
それまでに撃沈を!!」
胸に不安が残るが、それだけで砲撃を止めるわけにはいかない。
指示を出した瞬間、爆発音が彼女の鼓膜を連続で叩く。
「女王艦隊」から無数の砲弾が射出されたのだ。
アガターが別の氷の書類を呼び出す。
それはこの夜の海を現した地図のようなものだ。
これで目標が撃墜されたか確認する。
それを見た、アガターは今度こそ自分の目を疑った。
「げき・・ついされてない。」
思わず声が出てしまった。
あれだけの砲撃を受けて、その人影は勢いが衰えるおろか、さらに速度を上げていた。
「何がどうなっている。」
そう呟いた瞬間、凄まじい音と衝撃が伝わってきた。
人影が近くの「女王艦隊」に接触したのだ。
訳が分からないまま、彼女は艦隊に指示を出して、詳細を聞く事にする。
「何があった!?
詳細を伝えろ!!」
「そ、それが、白髪の男が一人突っ込んできました!!」
「なっ!?」
「その男は甲板にいるシスターを次々と倒しています。
船を、船を破壊して」
そこで通信が途切れる。
彼女はもう一度同じ言葉を呟くのだった。
後書き
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