とある星の力を使いし者
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第105話
「この船って天草式が作った船なのか。」
建宮の説明を受けた上条が船を見渡しながらそう言った。
ちなみに五和は先程の騒動のせいで、頭が混乱してしまいダウンしている。
麻生は何が原因でダウンしているのか、本気で分かっていない。
一度、五和の介抱しようとしたが天草式のメンバーに止められ、少し不服そうな顔をしながら今は壁に背中を預けている。
未だ状況が掴めない上条には建宮が今までの事を説明した。
もちろん、麻生が此処にいる理由もだ。
「まぁ、正確には上下艦よな。」
その言葉に反応するように、船が動き始める。
トンネルの外で水の膜を破る轟音が聞こえた。
大きく視界が縦に揺れる。
トンネル状の屋根が中心から縦に大きく裂ける。
まるで両開きの扉のように、ミシミシと木の軋んだ音と共に開放されていく。
見えたのは電球色に輝く夜空の月だ。
さらに建宮が何の変哲もない木の壁をなぞる。
ガゴン!という音と共に長さ三〇メートル前後もの床が全て上へ上がっていく。
まるで歯車が噛み合うような振動が響き、四〇秒ぐらいかけて床の高さが開かれた天井にまで達した。
ちょうど、トンネルの屋根に登ったのと同じ構図になる。
見えたのは夜の海だった。
(魔術ってとんでもねえ話だな。)
改めて魔術の凄さを思い知らされた上条。
表情はまだ唖然とした表情をしている。
とりあえず、陸地に上陸する事になった。
だが、この巨大な上下艦で接岸するのはまずい。
天草式もそこの所は分かっているのか、ある程度まで近づくと建宮がポケットから取り出した紙束を海に向かって投げる。
それらが二〇隻近い小型の木のボートに変化する。
上条達はそれぞれ人員を分けてボートに乗る。
途中、天草式のメンバーが五和と麻生を同じボートに乗せようとしたが、五和がそれを全力を拒否した。
「今の状態で接近してしまえば、私はどうなるか分かりませんよ!!」
息を荒くしてそう言う五和の眼がマジだった。
さすがに圧倒された天草式のメンバーは普通に人員を分ける。
最後に建宮が上下艦を元の紙切れに戻す。
和紙は回収するまでもなく、海水に溶けて消えてしまった。
手漕ぎボートは、すぐ近くにあった灯りの下へ向かった。
島か、と思った上条だがよく見るときちんとした陸地だった。
「ま、キオッジアに逆戻りってヤツよ。
っつっても、オルソラ嬢の住んでた中心部とは、海を隔てた隣の地区だけどな。」
ソット・マリーナと言うらしい。
岸まで着くと、天草式の面々は再び手漕ぎボートの紙切れに戻していた。
今度は紙束をばら撒いて木の椅子やテーブルを作り出す。
木製のスプーンやフォーク、食器皿やグラスまで用意されている。
どうやら詳しい話は食事を採りながらするつもりらしい。
と、背の高いルチアが少し落ち着きのない様子で周囲を見回す。
「ご一緒したいのは山々ですが、私達はこれからシスター・アニェーゼの所へ戻らないといけないので。」
「今すぐ行っても無駄なのよ。」
建宮はあっさりと切り捨てる。
「我らがさんざんかき回した後なのよな。
連中だって警戒態勢を解いちゃいねえのよ。
まずは時間を置かなくちゃならねえ。」
という訳で、暗い海をバックに遅めの夕食の準備が始まった。
流石に紙束をばら撒いて料理が出てくる事はなく、こちらは金属製のキャンプ用の調理道具を取り出すと、天草式の少年少女達は手早く作り始めた。
料理を作る人達を眺めていたアンジェレネが言う。
「私はコーヒーとか紅茶よりも、チョコラータ・コン・パンナが良いです。」
「何それ?」
「あ、知らないんですか?
チョコレートドリンクの上に生クリームがたっぷり乗った飲み物なんですよ。
基本はエスプレッソを使うんですけど、私はチョコの方がアギュッ!?」
得意げに激甘ドリンクの説明を始めたアンジェレネの頭を、隣にいるルチアが上から押さえつけた。
「シスター・アンジェレネ・・・・。
貴女は先程から少し警戒心が薄すぎますよ。
彼らとは一時的に協力しているだけです。
それと甘い物への執着も断てとさんざん注意したはずですが。」
ルチアの怒り方に、むしろ上条が戸惑った。
「そこまで言わなくても。
大体シスターさんってみんなそんな感じじゃねえの?」
「何を基準にそんな台詞を言っているのですか?
修行中のシスター・アンジェレネを十字教徒全ての見本にしないでください!!」
信じられないものでも見るような顔で叫ばれたが、それに対してインデックスが気まずそうに眼を逸らした。
ちなみに横ではオルソラが、まな板の上からもらってきたのか薄い生ハムを食べて。
「あら、美味でございますよ。」
とか何とか言いながらモクモク食べている。
やはりみんなそんな感じかもしれないと、上条は思った。
そうこうしている内に料理ができた。
建宮に勧められる形で、上条達はテーブルに着く。
だが、麻生だけはその集まりから数メートル離れて、建宮達に背を向けて暗い海を見つめていた。
「お~い、お前さんは座らないのか?」
建宮は背中を向けている麻生に聞く。
麻生は少しだけ顔をこちらに向けて言う。
「必要ない。
勝手に話を進めておけ。」
どうやら一緒にご飯を食べながら話を聞くつもりはないようだ。
そんな中、五和は一つの料理が入った皿を両手で持ちながらオロオロしていた。
それは麻生の分の料理だ。
渡そうとしたが、何やら不穏な空気を感じ取ったので渡せずにいた。
しかし、折角の料理だ無駄にするわけにいかない。
五和は深呼吸をして、麻生に近づいていく。
天草式のメンバーはそれを黙って見守る。
「あ、あの・・・どうぞ。」
先程と比べて落ち着いたが、まだ顔を赤くしながら料理の入った皿を麻生に渡そうとする。
麻生はその料理の皿をチラリ、と見て。
「いい、腹は減っていない。」
そう言って拒否する。
別に麻生の言葉はいつも通りだ。
それほどきつい言葉でもない。
それでも、五和の胸にはグサッ、ときた。
眼尻に若干涙を溜めて哀しい表情をして、五和は皿を持ちながら下がろうとする。
五和の表情を視界の端で捉えていた麻生は、ため息を吐いて五和が持っている皿を横から取る。
驚いた表情をして、五和は麻生の方に視線を向ける。
「気が変わった。
ほら、食べるから建宮達の所に戻れ。」
気まずそうに視線を逸らしながら、麻生は背を向ける。
だが、ちゃんと食べる音が聞こえる。
さっきの表情はどこにいったのか、少し照れながら建宮達の所に戻る。
「まずは、アニューゼって人が囚われているっていう、あの艦隊からだね。」
そんなこんなで、情報整理と作戦会議が始まる。
「多分「アドリア海の女王」を守る「女王艦隊」だと思うけど、間違っていないかな?」
インデックスが頭の中にある一〇万三〇〇〇冊の魔道書から知識を取り出して言い当てる。
ルチアとアンジェレネは一発で言い当てられギョッとした顔でインデックスを見る。
「は、はい。
具体的には、私達も「アドリア海の女王」がどんなものかは分からないんですけど。
こちらには理解できないぐらい凄い施設だったんだって、思います。」
「私達は「法の書」の一件で貴方達に敗北した後で、その叱責を受けて前線から外されました。
ローマ正教が受けた負債を返すという名目で、あの「女王艦隊」で働かされていたのです。
と言っても、与えられるのは端的な命令ばかりで、具体的に自分が何に貢献しているのかも掴めない状況でしたが。」
ルチアが続けて言う。
アンジェレネの取り皿に野菜ばかりを入れて差し出すと、小さな修道女は泣きそうな顔でルチアを見返した。
当然、背の高いシスターは気にも留めない。
「働かせていたって、何やっていたんだ?」
上条が首を傾げながら尋ねる。
「わ、私達は海水から風を抜く作業を割り当てられていましたけど・・・・」
「は?風って???」
「あ、いえ、その。
風と言っても、魔術的な意味での風です。」
(マジュツ的なイミでのカゼ?)
と上条は眼を点にした。
何がどう違うのかサッパリ分からない。
すると、もう料理を食べたのか皿を戻しに来た麻生がやってくる。
「そうだ、麻生。
魔術的な風を抜く作業ってどういう意味?」
上条の言葉を聞いた麻生は面倒くさそうな表情をしながら説明を始める。
「海水は様々魔術的な意味を持った要素が混ざっている。
科学風に言うと、原子と分子と言った感じをイメージしろ。
海水のほとんどが水という魔術的な意味を持った原子がある。
しかし、その周り・・・つまり風や土と言った別の魔術的意味を持った分子が引っ付いている。
水の科学記号はH2Oというように、Hがこの魔術的意味がある水。
二つのOが風の魔術的意味を持った分子と土の魔術的意味を持った分子と考えればいい。
風を抜く作業はその風の魔術的意味を持った分子だけ取り除く作業だ。
理解できたか?」
麻生の説明は上条にとってとても分かりやすい説明だった。
上条が理解したのを確認した麻生は皿をテーブルの上に置くと、再び元に位置に戻る。
「でも、何の為にそんな事をするんだ?」
「護衛艦の船体は通常の海水を使っているようですから、おそらくそれ以外の術式に使われるものだと推測できるのですが。」
「だ、だとすると、「アドリア海の女王」ぐらいしか思い浮かばないものはないですし。」
「つか、「アドリア海の女王」だっけ?
何かそれ、ローマ正教以外でもどっかで聞いた事があるような気がするんだけど。」
上条は首をひねりつつ、細いタコの足がたくさん入ったサラダを取り皿に載せる。
そんな上条にインデックスが言う。
「アドリア海の女王っていうのは、ヴェネツィアの別名だね。」
「それじゃあ、ヴェネツィアに深く関わる魔術なのか。」
「そうでございますね。
ヴェネツィアとローマ正教は同じイタリア半島にありながら、極端に仲が悪かった歴史を持っているでございます。
さらに塩や交易品で莫大な富を得たヴェネツィアは他の都市国家などを制圧するくらいの軍事力を誇っていたのでございます。。
さらにローマ正教の支配を受けないでございます。
ローマ正教にとって、これほどまでに脅威な国はございませんでした。
いつ牙を剥くか分からない都市国家にローマ正教はある物を贈ったのでございます。
それが・・・・」
「アドリア海の女王って訳か。」
国家を丸々一つ叩き潰す為の大規模術式。
しかし、そこにある疑問が生まれた。
その疑問をインデックスが言う。
「でも「アドリア海の女王」はヴェネツィアに対してしか発動できないの。
理由は簡単、誰かに奪われた時に、自分達に向けられる事をローマ正教が恐れたからなんだけど。」
「じゃ、じゃあ、彼らは本気でヴェネツィアを破壊するつもりで!?」
アンジェレネが顔を青くしたが、今度はオルソラが眉をひそめる。
「ですけど、ローマ正教とヴェネツィアがいがみ合っていたのは、もう何百年も前の話でございますよ?
今では世界的観光地として、ローマ正教が得る恩恵も少なくはないはず。
ここにきて急に壊す理由が想像もつかないのでございますが。」
そこで会話が止まる。
敵が何を考えているのか分からない。
誰もが自分の中で考えている。
敵の目的は何なのか、アドリア海の女王を使う意味は。
「何をうだうだ考えている。」
と、そこに麻生の声が聞こえた。
その場にいる全員が背中を向けて、暗い海を見つめる麻生に視線が集まる。
「今はそんな事を考えた所で意味はないだろう。
大事なのはこれからどうするかって事だろう。」
その言葉を聞いた上条は小さく笑って皆に言う。
「俺のやる事は一つ。
アニェーゼを助ける。
その後の事はアニェーゼを助けてからだ。」
「わ、私もシスター・アニェーゼを助けに行きます!」
「シスター・アンジェレネと意見は一緒です。
彼女を見捨てる事なんて私にはできません。」
「とうまが行くなら私も行くよ。
眼を離したら、とうまは凄く危険な事に巻き込まれそうだからね。」
「私も行くでございます。
キオッジアの街が破壊されるかもしれないこの状況で黙っていられません。
何より、私もアニェーゼさんを助けたいでございますよ。」
「たく、お前さんらが行くって言うのに我らが行かない、何て言えないよな。」
建宮の言葉に他の天草式のメンバーも頷く。
彼らの掲げるのはただ一つ。
今はいない女教皇様の教えだ。
それを確かめるように、建宮は自分の仲間に視線を向けて言った。
「我らが女教皇様から得た教えは?」
天草式十字凄教は意を揃えて大声で答えた。
「救われぬ者に救いの手を!!」
後書き
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