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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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ニシオリ信乃過去編
  Trick-14_信・・・乃だよね?



哀川潤に助けられて数ヵ月後、俺はようやく歩けるようになった。

生死を彷徨っていたって嘘じゃなかったんだな。マジで体が動かなかった。
ここまでの本気リハビリをする事になるなんて思わなかった。

リハビリをして、俺の体は以前と同じように戻った。

それは眼の変な模様もだ。
哀川潤いわく『バッテン3つに縦棒3本』の模様。良くわからない表現だ。

でも、眼に浮かぶ模様・・・そんな模様、重力子(グラビディ・チルドレン)や脳基移植(ブレインチャージャー)にしか心当たりは無いが、両方とも哀川潤の証言と一致しない。

もしかして脳基接続のオリジナルの模様なのかなと考えたが、脳基接続はあくまで前世であり俺ではないはずだけど・・・・。

色々と考える事はありそうだが、その変な模様は次に目を覚ました時には消えてしまった。
初めて目を覚ました当日しか現れなかったらしい。どういう事だろう?

謎が謎を呼ぶ感じだけど、一旦は置いておく。考えても仕方ないしな。

それに俺が考えるべき事は、A・Tの兵器使用を止める事だ。

確か駆動鎧は「ハラザキハカセ」と言っていた。
その時以外は「ハカセ」と呼んでいたから「ハラザキ」が名前なのだろう。

ハラザキ  Harazaki

こいつが実験の中心になっている。
俺も地下13階まで降りる中で見つけたデータで、最高責任者として名前が上がっていた。

ただ、名前が出る回数は多いけれど実際に何をしていたかは分からない。
最高責任者で指示を出してはいたけど、それ以外は分からない。

ハラザキ

絶対に、許すわけにはいかない。例え前世の記録の中の事でも俺は誓ったのだ。
A・Tを兵器として使わせない。

俺は武器としてA・Tを使う。それは兵器として使っているじゃないかと自分でも
疑問に思う。けれども、人を殺すために使っているわけじゃない。

矛盾しているかもしれない。でも、俺は決めたのだ。ハラザキを止めると。

入院している間にお世話になった絵本(えもと)医師にお礼を言い、俺は打倒ハラザキの旅に出た。

余計な話だが、絵本医師は腕はかなり良いのだが、水着に白衣という痴女レベルの格好だった。よくいる残念美人ですねはい。あの女ゲキ恐いよ!

閉話休題


俺は今までと同じく師匠から仲介してもらった依頼をこなしつつ、自分でも請負業を進めて行った。
そしてハラザキに関する情報を集め始めた。

簡単に集まらないと思っていた相手だが、意外と早めに名前が見つかった。

名前が見つかった研究機関は学園都市の脳科学部門。

・・・よりによって学園都市かよ。
いや、学園都市だからこそ、だな。世界最高の科学が集結し終結する学園都市ならばA・Tほどの技術が研究されてもおかしくない。
A・Tと言うよりも駆動鎧の強化パーツなのかもしれないが、それでも兵器化は許せない。

だが、学園都市だ。

俺が決別した、学園都市。行く事になれば、色々と心の整理が必要になる。

人を殺した俺が、美雪に会う事になるのだ。

でも行かなければならない。A・Tの悪用を許せないのはこの世で俺だけなんだから。



数日後、氏神クロムを後継人として学園都市の入学が決まった。

なぜクロムさんが後継人になったかと言えば、俺が調査し破壊した施設に関わりがあるらしい。

クロムさんは四神一鏡という大組織のトップにも関わらず、人体実験を大反対している人間らしい。
これはかなり珍しい事だ。組織が大きくなればなるほど、黒い暗い部分が大きくなる。
その暗い部分では人体実験が行われる可能性は低くない。
組織のトップともなれば、その人体実験を見て見ぬふり、または推進するのが当然だと
俺は思っていた。

だがクロムさんは大反対している。トップに立ってから数年、四神一鏡が行っていた全ての
人体実験を放棄、廃止、終了させてきた。

今回のA・T実験施設についても同じように対応するらしい。
ちなみに本来依頼した哀川潤からは施設を破壊しすぎてまともな情報が上がってこなかったので、
俺が独自に調査した結果を渡して喜ばれた。

このA・T実験を終わらせたいと本気で思う気持ちと、彼女もハラザキという存在を追っているらしい。
違法な人体実験で有名らしいハラザキは、クロムさんにとっても目の敵にするには十分な存在だ。

そこでA・T人体実験を終わらせて、更にハラザキを倒したいと考える俺とクロムさんは意見が一致したので協力関係を結ぶ事になった。

幸いにも、クロムさんは学園都市でも幹部レベルにいるので、多少の無茶が通るらしい。
俺も覚悟を決めて学園都市に入る事にした。できるだけ美雪や琴ちゃんと関わらないようにしようと考えたのだが、それは氏神クロムの策略により失敗するのであった。


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4月中旬。

俺は氏神クロムさんに呼び出されて、とある学園都市のホテルに来ていた。

クロムさんに用意された神理楽(かみりらく)高校に入学して4月上旬から
特別授業で必須科目を取りまくり、この1年は授業に受ける必要がないところまで進めた。

これで自由に学園都市を回れる。そう思っていたタイミングでの呼び出しだ。

いつもの呼び出しならクロムさんが根城にしているビルを使うはずなのだが、今日は学園都市の中で一般の人も寝泊まりが出来る来客用のホテルへの呼び出しだった。

疑問に思いつつ、待ち合わせに指定された部屋へと向かう。
その時、メールが届いた。

  From:氏神クロム
 
    今から会う人から逃げちゃダメよ。
    貴方にとって大事なけじめになると思うから。


・・・正直、いつもの場所ではないと聞いた時から嫌な予感はしていた。
それが確信に変わったが、どうやら逃げたらダメらしい。

ある程度の自由が約束された契約とはいえ、今はクロムさんの直属の部下になっている俺。
大人しく命令?に従ってホテルの一室に到着した。

ピンポーン

「入ってどうぞ。鍵は開いてますよ」

中からは聞いた事のある女性の声。だが誰だかは分からなかった。
なんとなくだが、懐かしい気がする。

ここで深く考えずに扉を開ければ分かる事だと思って、扉を開けた。

「失礼します」

部屋の中に居たのは3人。

3人ともソファーに座ってお茶を飲んでいた。


「っ!?」

一瞬だ。一瞬にして3人が誰かが分かった。

4年前とほとんど変わらない、俺が『鈴姉』と呼び慕っていた女性。御坂美鈴。

成長を考えて中学生。鈴姉と同じ容姿であることからも間違いない。妹分、御坂美琴。

そして何年経とうが見間違えるはずの無い、俺にとって唯一無二の存在、小日向美雪。

学園都市に関わる上で、心の区切りをつけなければならない3人がいた。

「・・・・あの、どちらさん?」

俺が驚いて扉の所で止まっていたら、鈴姉が聞いてきた。

「あの、えっと・・・」

言い淀んでいたら、鈴姉と同じように琴ちゃんと美雪が俺の方を見た。

「ママ、誰?」

「私達を呼んだ人が来たの? 鈴姉ちゃん?  っ!?」

4年も経って俺は成長して容姿は変わっている上に、死んだ事になっているのだ。
気付かないのも無理はない。

そう思っていたのだが、美雪の反応を見る限り・・・気付いたんだな。

「し・・・・・の?」

震えた声で確認してきた。ああ、やっぱり気付いたんだ。ちょっと嬉しいな。

でも、俺は今から美雪を含めて3人を拒絶しなければならない。
俺が関わる闇に、3人が関わらないようにするために。

でも・・・やっぱり拒絶するだけで傷つけたくは無い。
そんな俺の葛藤を知らずに、美雪は少しずつ近づいていた。

「雪姉ちゃん、知っている人なの?」

「雪ちゃん?」

「し・・・の。  信・・・乃だよね?   信乃だよね!」

「・・・久しぶり」

それが3人に4年ぶりにかけた言葉だった。

「え? 信乃って」

「雪姉ちゃん、何言っているの? 信乃にーちゃんは・・」

「間違いない! 信乃だよ!

 だよね、信乃♪」

小さいころからの癖、語尾に♪が付いているような楽しそうな話し方。
まだそのままだったのか。

「一応、信乃です」

「ほ、本当に?」

「信乃にーちゃんなの!?」

混乱している御坂親子を含め、泣きながら俺にすがりついてくる幼馴染に俺の4年間を話していった。


話をすると言っても、表の話ばかり。
半年間、生死を掛けて戦場を駆け抜けた事。
イギリス貴族に助けてもらい、執事として働いていた事。
日本での戸籍が死亡扱いになっていたから、貴族に頼んでイギリス国籍を偽造してもらった事。
色々と気持ちの整理がつかなくて日本に帰れなかった事。
世界を回る内に、気持ちの整理がつくのがかかり、やっと今日来た事。

何て言ってみたが、美雪は俺の言っていた適当な事に気が付いているのか目がジト目になっていた。

「と言う事なんで、今後ともよろしくお願いします」

「よろしくするわよ信乃! 生きていてお姉さん嬉しいわよ~!」

「よかったね、雪姉ちゃん!」

「そうだね・・・・うん、信乃が生きていて嬉しいよ♪」

とりあえずジト目は無くなり、純粋に喜んでもらえた。

「・・・・それで3人にお願いがあるんだけど・・・」

「なにかしら?」

「俺が学園都市に来たのは、3人との仲直りの他に理由があるんだ」

実際は3人とは出来るだけ会いたくなかったけど。
ハラザキの件に巻き込みたくないしな。

「実はとある奴を追っていて・・・・そいつが学園都市に居ると思うんだ」

「・・・奴とか、そいつとか、あんまりいい感じじゃない人なの?」

「さすが鈴姉、こう言う事に敏感だな。

 単刀直入に言う。あまり俺に関わってほしくないんだ。
 少し危ない奴を追っているから」

「大丈夫なの?」

「別に追っているのは俺だけじゃないよ。鈴姉達をここに呼んだ人達が協力してくれているし、
 俺はあくまでチームの一人ってだけだよ」

これは嘘だ。正確に言えば、追っているのは俺であり、バックアップで氏神クロムがいるだけ。
とてもチームとは言えない。
でも、『ハラザキを追うチーム、ただし一人だけ』と言えばチームに違いないかもね。

「良かった、子ども一人で人探しなんて普通じゃないから」

「でも信乃にーちゃんなら普通じゃない事もするからね~」

「もう、琴ちゃん♪ 変な事言わないの♪」

本当に変なこと言わないでくれ。それ当たりだから。

「というわけで、正直に言えば巻き込まれる可能性が少しあるから、
 3人にも会わずにいたかったんだけど・・」

「そのチームの人が私達を引き合わせたのね。今度会ったらお礼を言わなきゃね」

「ん♪ 私も♪」

楽しそうに言う鈴姉と美雪。俺としてはお礼参りをしなきゃいけない気分だけどね。

しばらくの間、俺の4年間を中心に様々な話をしていた。



時間とは本当に早く過ぎるものだなと思う。

予定していたのは1時間もしないうちに立ち去ろうとしていたが、
鈴姉と話していると、3時間以上も経ってしまっていた。

ちなみに琴ちゃんはあまり話さなかった。俺が戦場で生死を賭けて生きていた事を聞いてから大人しくなった。

それと美雪は俺に話しかけるけど、俺は距離を取る言動と行動を取っていた。
美雪は俺を異性として見ている。だから軽くではなく、俺の事情に絶対に深く踏み込んでくる。

だから、どうにかして離そうとしていた。

ホテルの部屋を借りられる時間も過ぎてきたので、俺達4人は部屋を出た。
鈴姉は家に戻るから先に離れ、俺達も解散する事になった。

さて、学園都市に入るための自分的試練はこれで終わった。
ここからが本番だ。ハラザキを見つけ倒すための本番を。


さぁ、俺の戦いはこれからだ。



『Trick01』へとつづく
 
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