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悪霊と付き合って3年が経ったので結婚を考えてます

作者:ぽんす
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1年目

  夏②~「彼女」の姿は蜃気楼と共に~

 
 薄暗い部屋の中ではけたたましい音が飛び交う。
その唯一光が照らしだす先に俺は立っていた。

「みんな!今日は来てくれて本当にありがとう!!サンキュー!!」

そう言い放ち、肩からぶら下がった愛機へと向け、腕を振り下ろしていく。
ジャーン、という音と共に先ほどまではあれだけ音で溢れていた部屋が静かになる。
そして、少し間をおいた後、数十人のどこか投げやりな乾いた拍手の音が鳴り響いた。









 ライブが終わり、楽屋で俺たちは雑談に花を咲かせていた。
……と言ってももっぱらは今日のライブに関することなのだが。
今日の演奏が上手くいった事に上機嫌な俺はついつい、崇拝しているロックバンド“Deep Purple(ディープ・パープル)”の楽曲である“Burn”を口ずさんでしまう。この勢いのあるロックサウンドが今の気分にはピッタリだった。

「いやー、今日は上手くいったな!俺の最後のギターソロ完璧だっただろ!?」

そんな俺の言葉に愛華は首を(ひね)り、眉をしかめる。

「そう?若干リズムは走ってたし、5弦の音が8分の1外れてた。ちゃんとチューニングした?それに、“サンキュー!”はダサい。」

ダサい、と言われ、うぐっ…、と口ごもりながらも、チューニングはちゃんとしたさ!、と反論し、チューナーで音の確認をする。
本当だ。少しズレてる…。

「まぁ、でも拓海にしては良かったんじゃない? これからも精進しろよ!」

そう言って愛華はロックとはかけ離れた“花*花”の綺麗なメロディーを口ずさんだ。

 そんな愛華の言葉に残りのメンバーも、うんうん、と首を振る。
お前らだって人のことは言えないだろ……。
そんなことを言ってやろうと口を開きかけた時、そのうちの一人であるキツネ目のキャップ姿が、そういえば、と俺の言葉を(さえぎ)るようにして話し始めた。

「今日、某音楽事務所のプロのスカウトの人が来てた、って噂だよ。まぁ、噂に過ぎないけど。でも僕は一番奥にいたおっさんがそうだと思うな。あれはただものじゃない気配がしたぜ…。」

お前の勘は当たったことがないだろう。
かく言うこいつは、道案内させると勘で突き進み、迷ってしまうことなど日常茶飯事だからだ。このコンクリートジャングルで何度遭難しかけたかわかったものじゃない。

…それでもスカウトか。
今回だけは、こいつの勘が当たっていて欲しい、そう願わずにはいられずにいた。
もし、スカウトされれば、即刻メジャーデビュー。1枚目のシングルで名前を売り出し、3枚目くらいで堂々のオリコン1位。ついには、紅白歌合戦や、夢にまで見た満員の武道館ライブ…。

「拓海、お前何ニヤニヤしてんだよ…。」

そこで急に我に返る。自分ではニヤけていたことに気づいていなかった。急に恥ずかしくなり、ニヤニヤなんてしてねぇよ!、と返すが、その時にはもう遅かった。既に他のメンバーにも言いふらされ、その日一日、みんなからは“ニヤリスト”という不名誉なあだ名で呼ばれることとなってしまった…。











―――最近の俺は毎日が楽しくて仕方なかった。

東京での生活も慣れ、少ないながらもライブハウスで演奏する機会も増えてきた。そして、そこでできた仲間と共に過ごす時間も多くなり、そのうちの一人の家にみんなで集まっては朝まで飲み明かすことが普通になっていた。
自分の部屋へ帰る時は大体がバイトの夜勤明け。シャワーを浴び、寝ることだけが俺の家の存在理由。そして、次の日も基本はバイトかバンド練習。時間ギリギリまで寝て、起きるとすぐに着替えて外へと飛び出す。これが今の暮らしだった。
ギターとバイト。
それだけしか考えられず、後のことなどスッパリ忘れてしまっている自分がいた。

―――大事な何かも。

「ところでさ、うちばっかりに集まるんじゃなくて今度は別の家で飲もうよ。最近、騒ぎ過ぎだ、って隣の人から苦情来てさ…。」

「でも、どこに集まるんだよ。お前んち、スタジオからすぐ近くだし、他にいい場所なんてないだろ?」

「そうだ!拓海んちがあるじゃん!スタジオからはちょっと遠くはなるけど、駅からめっちゃ近いしさ!僕も今の家追い出されたくないんだよ!」

そう言いながら、この通り!、と俺を拝んでくる。
俺は神様、仏様か、っての…。

「いや、うちは…」

そう言いかけてハッとする。
「彼女」ときちんと話したのはいつが最後だろう。
幽霊ともあり、元々存在感は極端に薄かったが、そんなもんじゃない。言葉の通り、俺は「彼女」のことなど頭から忘れてしまっていたのだ。
なんだか嫌な予感がする…。
妙な胸騒ぎを覚えて、俺はいてもたってもいられなくなっていた。

「わるい!ちょっと用事あったの思い出した!俺、今日は帰るわ!」

俺はそう言い放つと座っていた椅子が吹っ飛んでしまうほどの勢いで立ち上がる。

「っちょ、拓海!?」

その姿にメンバーたちは驚いた表情を見せ俺の方を見つめてきた。
だが、そんなものに構っている暇などない。
宅飲みの件、考えといてくれよー!、と後方から呼びかけられたが、振り返りもせず背中越しに手を振ると、俺は楽屋の扉を開け放ち、一目散に家へと向かった。













「さち!!!!」

家へとたどり着くと、俺は大声で「彼女」の名前を呼びながら玄関の扉を開け放った。
部屋の中に(こも)っていたムワッとした熱気を肌に感じる。

…そこは、既に幽霊部屋ではなくなっていた。

いつもは五月蠅い蝉の声が今日はやけに静かに聞こえた。
 
 

 
後書き
こんばんにちは。ぽんすです。

今回、さちは全く登場しませんでしたね。
てか、もっと仲間内の話やら、ライブハウスの話を入れようと思ってたのですが、そうすると思った以上に長くなってしまったので少し割愛しました。

このあたりはまた別の機会にしたいな、って思ってます。

はてさて、次で夏編も終わりです。
ここで全体としては一つの区切りかな、とも思っています。

次回、「悪霊、宇宙(そら)へ旅立つ!」
お楽しみに!※嘘です

ご感想、ご指摘お待ちしています。 
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