ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第六十七話 立ち塞がる者
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
オフホワイトの直線的な通路に一人の少女の荒い息が響きわたる。膝を地面に突きながらも、身にまとっている衣服がぼろぼろになっている事にも目をくれず必死で息を整えようとしているが、なかなか思うように行かない。
「もう諦めなさいな。これ以上は無駄でしかないわよ」
息を整えようとしている少女に向かい合っているスーツを着た女性からそんな声が放たれる。だが、その声に耳もくれず少女は笑う膝に力を入れ持っていた刀を杖代わりにしてまでスーツの女性に対峙する。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・そ、それでも・・・諦める、わけには・・・はぁ、行きま、せん!」
「そっか。じゃあ、もう少し遊んであげるよ、ルナちゃん」
◆
時が遡ること数十分前。ルナとアスナは恐ろしく太い≪世界樹≫の枝に刻まれている通路を警戒しながら歩いていた。
「さすがにこういうところにモンスターはでないと思うんだけどねー」
「でも何が起こるかわからないじゃない」
「まぁ、そうなんだけどさー」
そう言いながらルナは真っ赤に輝く太陽の方をみると小鳥が精緻な模様が彫り込まれた若芽でできた天然の手すりにとまって鳴いていた。
なぜ破壊不能オブジェクトとなっている黄金の鳥籠に捕らわれているはずの二人がこのようなことをしているのかというと、アスナがこの企てを立てた張本人――妖精王オベイロンこと須郷伸之――から苦労して鳥籠の開錠番号を読みとったのだ。
「あんな典型的な小悪党、初めて見たよ。脱出されたときのこととか考えないのかな?」
歩きながらルナが素直な感想を口にする。それに対してどう反応をしていいのかわからないアスナ。この世に絶対という事象はなく、必ず何かしらの不測の事態が起こることが常である。現に鳥籠から抜けられないと思っているであろう須郷の考えは本人の知らないところで覆されている。
「もう少し慎重になってもいいと思うんだけどねー」
傲慢な人間には耳の痛い言葉であった。樹の枝の道を歩いていくと、程なくして人工的な長方形のドアが見えてきた。ファンタジー感が強かった今までの場所と明らかに違うもの。ルナとアスナは互いに頷きあうと、タッチパネルらしきプレートにアスナがふれる。すると、長方形のドアがスライドした。中に人がいないか気配を探ると、ルナが先に体を滑り込ませ安全を確認した後アスナが気配を潜めながらルナの後を追う。
ドアをくぐった先はオフホワイトの直線的な通路だった。壁は無機質でオレンジ色の証明が所々を照らしている。それを見据えるルナに先ほどのような雰囲気はなく、感覚を尖らせ真剣な表情がまとう雰囲気は剣士のそれだった。
「アスナ」
「うん」
頷きあうと二人は警戒しながら歩を進める。ドアも何もない通路だがどんな仕掛けがあるかわからない以上警戒は必要である。先ほどまで警戒をしていなかったルナがいきなり警戒しだしたのは、この異様な雰囲気を放っている空間のせいであろう。
継ぎ目どころか傷一つない壁が永遠と続く中、とうとう二枚目の扉が見えてきた。扉は先ほどと同じものでそのすぐ横にタッチパネルのようなものが備え付けられていたのでそれに触れようとした――が、唐突に第三者の声が響いた。
「あー、やっぱり抜け出してたのね」
「「っ!?」」
反射的に声のしたほうをふりむくと、そこにいたのは青みを帯びた黒髪をハーフアップに仕上げたスーツ姿の女性だった。
「あなたは・・・」
「あー、そう言えば、自己紹介してなかったわね。はじめまして、とりあえず“アクゼリュス”と名乗らせてもらおうかな。よろしくね、ルナちゃん、アスナちゃん」
アクゼリュス。その名が示す意味は“残酷”。果たしてそれが誰に対してのものなのか謀りかねるが、少なくとも今のルナとアスナにとってはまさにその名が示す通りのものだった。
「アスナ・・・行って・・・」
「で、でも、ルナ・・・っ!」
「いいから行って!私も後から追いつくから」
「・・・絶対よ?」
「うん」
そう言ってアスナはパネルを操作してドアをくぐっていく。それを背中越しに感じたルナは正面にたったままなにもしかけてこないアクゼリュスにむかって疑問をぶつけた。
「邪魔、しないんですね」
「ええ。あなたを倒してから追いかければいいんだし」
何事もないようにいうアクゼリュスにルナは戦慄するしかなかった。はっきり言って実力差がありすぎる。中学時代剣道で無敗を誇っていたルナでも軽くあしらわれるほどの実力がアクゼリュスにはある、とルナの剣士としての感が告げていた。
「・・・簡単に負けるつもりはありません」
「ふふっ。なかなか勇ましいわね。好きよ、そういう娘」
己の得物もない状態でもルナは簡単に諦めるつもりはなかった。無手の経験がないルナであるが、やらなければいけない状況で無い物ねだりをするつもりもない。だが、そんなルナの心境とは裏腹にアクゼリュスはウインドウをいじると刀を二振り実体化させて、その内の一振りをルナに投げよこした。
「・・・なん、で・・・?」
アクゼリュスの行動の心理がわからないルナは思わず聞いてしまう。それにアクゼリュスは異性であろうが同性であろうが見惚れてしまうような艶のある笑みを浮かべながら口を開いた。
「勇ましいその心に対する敬意、かな」
クスッと笑うとアクゼリュスは自分の手にしていた刀を鞘から抜く。それをみたルナも釈然としないまま刀を抜いて鞘を投げ捨てた。
正眼に構えるルナ。構えを一切行わないアクゼリュス。辺り一帯に静寂が立ちこめる中、相対するルナとアクゼリュス。だが二人の表情には両極端なものだった。余裕の笑みを浮かべながらルナの出方を窺うアクゼリュス。対してルナは冷や汗をかき、その表情には強い焦りが浮かんでいた。
「(この人・・・打ち込む隙が、ない・・・っ!)」
「どうしたの?」
相変わらずにこやかな笑みを浮かべているアクゼリュス。ルナのように正眼に構えるのではなく、特に構えというものはせずにいた。素人が見たら突っ立ってるようにしか見えないが、熟練者からの視点で見るとそう言うとり方はできない。
「こないなら――」
「っ!?」
「こっちから行くよ」
ルナの懐にアクゼリュスが飛び込んだ。迎撃するまでもなく簡単に進入を許してしまったルナは距離をとるために下がろうとするが、アクゼリュスがそうはさせてくれなかった。下がればその分距離を詰めてくる。ならば、とルナは自身が下がり距離ができた瞬間にアクゼリュスに向かって刀を振るうが簡単によけられ反撃を許してしまう。
「ふふっ。甘いよ、ルナちゃん」
「くっ!?」
アクゼリュスが刀を横薙に振るう。当たると思われたそれはルナの刀によって防がれる。ギィンッという甲高い金属音が装飾のない通路に響き渡る。
「おおっ!よく防いだね。それじゃあ、どんどん行くよ」
まだまだ余裕のあるアクゼリュス。だが、ルナはいっぱいいっぱいで答える余裕がない。しかも、アクゼリュスの刃が四方八方からルナに襲いかかる。必死に防ぎ、避け、受け流しながら何とかしのぐが、徐々にその刃がルナを捕らえ出す。仮想世界であるため肌を斬っても血が出ることはない――とはいっても、傷を負ったエフェクトは発生する――ため、衣服はぼろぼろになっていく。それでも何とか突破口を探そうとするルナだったが――程なくして地面に伏すことになってしまった。
◆
時間は戻り、現在のルナは何とか立っていられる状態でもはや戦えるだけの力は残されていない。それでも、その瞳から闘志が消えることはなかった。
「どうしてまだ立つの?こんなに圧倒的な実力差があるんだし、そのまま倒れてたって誰も文句は言わないよ?」
「・・・も、文句を・・・」
「うん?」
掠れながら聞こえてくるルナの声にアクゼリュスは耳を傾ける。
「・・・文句を、言われたくないから、はぁ、立つんじゃないんですよ・・・」
「じゃあ、なんで立つの?」
「知ってる、から・・・」
「何を?」
「どんな、難関が、迫ってきても・・・決して、あきらめない人を、知ってるから!最強と呼ばれた、剣聖と呼ばれた人を知ってるから!」
「・・・・・・」
「諦める選択肢なんて最初からない!死ぬその時まで剣を捨てることは絶対にない!」
「・・・・・・それは、なんで?」
よく知っている人物と同じことを喋るルナ。今の彼女と過去の影をいやでも重ねてしまったアクゼリュスは咄嗟に疑問を投げかける。
「わたしが・・・わたしが、一人の“剣士”だからだ!!」
アクゼリュスを見据える瞳に不屈の光を輝かせながらルナはそう宣言する。奇しくもそれは、アクゼリュスがよく知る“彼”と同じ言葉だった。ルナの背後には見えるはずのない彼の姿をアクゼリュスは幻視した。してしまった。
「そっか・・・そっか・・・」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・?」
精神的な疲労からくる息切れに肩で息をしながらアクゼリュスを見据えるルナ。その瞳をみたアクゼリュスは何かに納得すると、嬉しそうな表情でルナの方を見る。アクゼリュスが何をおもったのかはアクゼリュス本人しか知らない。だが、その表情はとても慈愛に満ちていて安心感がある表情だった。
何が嬉しいのかルナが疑問の表情でアクゼリュスを見ていると、アクゼリュスは何かに気が付いたようにアスナがくぐっていった扉の方に眼を向けた。
「・・・あーあ、時間切れ、か。ごめんね、ルナちゃん。もう少し遊んでいたかったけど、もう終わりみたい」
「・・・?」
アクゼリュスの言っている意味が理解できないルナは首を傾げるが、そんなルナに気を止めることなくアクゼリュスはウインドウを開きカプセル状の薬らしきものを実体化させると、それを口に含み――
「んぅ!?」
瞬時にルナとの距離をゼロにして唇を重ねた。唐突な事態に驚き暴れようとするが体に力が入らず暴れられなかった。その間にもアクゼリュスは先ほど口に含んだ薬をルナに口移しで飲ませようとする。訳の分からないものを飲んでたまるか、とがんばって抵抗するも技術の差か簡単に飲まされてしまう。
「ん、くっ・・・な、なに、を・・・」
アクゼリュスが唇をはなすとルナは力なくアクゼリュスの方へ倒れ込む。それを優しく受け止めると背中と膝裏に手を回して抱き抱える。それと同時に二人が使用していた刀はポリゴン片となって消えていった。
「あれぇー、姐さんじゃないっすかー」
唐突に響く声。声のした方をむくと二匹のナメクジとその触手に捕らわれているアスナの姿が目に入った。アスナとナメクジの一匹がアクゼリュスの方を見るとその腕に抱えられている衣服がぼろぼろのルナを捉えた。
「る、ルナ!?」
「うひょぉー、どうしたんすか、その娘!」
やけにテンションの高いナメクジにアクゼリュスは特に気にした様子もなく答える。
「脱走しているようだったから少しお仕置きしただけよ」
「あらら、かわいそうに。一つ提案なんスけど、その娘も俺に――」
と、下心満載で言葉を続けようとしたところで、アクゼリュスが殺気を醸し出しながらそのナメクジを睨む。それにナメクジはおびえながら口を開く。
「じょ、冗談っす、冗談!」
その言葉を聞くと殺気を抑えると鳥籠のある方へと歩いていく。それに続く形でナメクジたちも歩を進める。そこまで来てアスナはようやくアクゼリュスを睨みながら口を開いた。
「ルナに何をしたの!」
冷静に問いかけようとしたのだろうが、その声は荒げてしまっていたが当の本人には関係なかった。アクゼリュスはそんなアスナを一瞥すると、アスナの睨みもどこ吹く風で口を開いた。
「脱走したからお仕置きしただけよ?」
「お仕置きって・・・っ!」
それ以降アスナが何を言ってもアクゼリュスが答えることはなかった。そして、鳥籠につくとナメクジ二匹はアスナを鳥籠の中にいれると、格子戸を閉めようとしたところ、アクゼリュスがまだ鳥籠の中にいるので声をかけた。
「姐さん、閉めちゃいますよー」
「先に行きなさい」
アクゼリュスがそう返答するとナメクジの一匹が不満の声を上げる。
「えー、姐さんだけお楽しみなんてずるいっすよ」
「おい!バカっ!」
不満をあげたナメクジを咎めるようにもう一匹のナメクジが言葉を止めようとしたが、時はすでに遅かった。
「そう、そんなに死にたいのね」
いつの間にか刀を実体化させていたアクゼリュスはルナを抱えているにも関わらず器用にゆっくりと鞘から刀を抜く。それに焦ったナメクジたちは名残惜しさなどなく脱兎の如きスピードで即座に鳥籠から遠ざかっていく。
「まったく」
ナメクジたちに対して呆れた声をあげると、アクゼリュスは鳥籠の中のベッドにルナを優しく寝かせ、顔にかかった髪を優しく直す。ルナを見つめるその表情はとても慈愛に満ちていて、とても剣を持ってお仕置きをする人物には見えない。だが、そんなアクゼリュスの表情はアスナの方から覗き見ることはかなわない。終始アクゼリュスのことを警戒するアスナだが、アクゼリュスはそんなことお構いなしに――
「それじゃ、次は見つからないようにがんばりなさいな」
それだけ言うと、ウインドウを操作してログアウトしていく。それを見送ったアスナはベッドに眠るルナの脇に横たわると、隠し持っていた銀のカードを枕の下に隠してから眠りについていった。
後書き
あけましておめでとうございます!!
ルナ「あけましておめでとうごうざいます」
いやー、とうとう明けちゃったね、年。
ルナ「こう見ると感慨深いね。はじまってもう一周年が経過してる」
・・・・・・え?
ルナ「・・・え?」
・・・・・・あー、そうじゃん!今年、じゃない、去年の十月下旬には一周年だったんじゃん!!
ルナ「忘れてたの?」
・・・・・・いろいろ忙しくて・・・
まぁ、何はともあれ!去年はお世話になりました!!そして、今年もよろしく――
全員「お願い致します!!」
それでは、今年一発目の投稿!感想などありましたら、宜しくお願いします!!
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