ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第六十四話 炎を纏う剣の正体とおねがいごと
「レーヴァテイン、だと・・・」
その場にいるだれもが驚いた。当然だ。知名度の高い伝説上の武器が出てきたのだ。それを見て驚くな、ということの方が難しいだろう。
「この野郎・・・グリモワールの次は伝説級武器かよ」
「まぁ、成り行きで手に入れてな。結構苦労したよ」
「ああ、そうかい。だがな、どんなエクストラスキルが備わってるか知らないが伝説級武器を持つ=勝負に勝てる、じゃねぇからな」
「それはそうだろう」
そう言って剣を構えるフォルテ。当然の如く、未だにエンチャントは解いていない。対してソレイユもエクリシスを鞘に納め、刀状のレーヴァテインを構える。
――再び空気が張り詰める。
誰もが息を呑み、二人の挙動を見逃すまいと目を瞠らせる。張り詰めた空気の中、呼吸を整えるソレイユとフォルテの息遣いのみが響き渡る。そして――
「――!」
「っ!?」
最初に動いたのはソレイユだった。思いっきり地面を蹴り、あっという間にフォルテに接近する。だが、懐に入らせまいと下がりながら大太刀を振るうがソレイユは難なくその斬撃を躱して懐に入っていく。
「(くそっ!)」
こうなればフォルテに残された手は幻炎魔法のみである。エンチャントをしているおかげで魔法名を呟くだけで発動できるのが幸いした。
「ヒート・ヘイズ」
魔法が認識されるかされないかの瀬戸際の声でフォルテが呟く。その直後、ソレイユの持つレーヴァテインの刃がフォルテを捉えるが、それは幻だった。そして、次の瞬間フォルテはソレイユ背後に大太刀を上段に構えて姿を現した。
「残念だな、こっちだ」
だが、先ほどまで苦しめられた技にソレイユが何も対策しないはずがなかった。フォルテの一からソレイユの表情を見ることはかなわない。斬撃が外れたのにもかかわらず、ソレイユの浮かべた表情は――笑みだった。
「ああ、そうだな。残念だったな」
そうソレイユが呟いた直後、フォルテの顔横に刃が現れた。驚いたフォルテであるが、アルヴヘイムで培ってきた経験が反射的にその刃を避けさせた。攻撃をやめ転がるように避けたフォルテが見たものは、長い柄に曲線を描いた刃が取り付けられている武器、大鎌だった。そして、それを持っていたのは他でもないフォルテと対峙しているソレイユだった。
「おいおい、どうなってやがる?」
先ほどまで持っていたのは、確かに刀だった。だが、今ソレイユがもっているものは大鎌。何時武器を替えたのか、いや、そもそもそんな隙があったか、などといった疑問がフォルテの頭の中を占める。
「何が起こったのかわからないって表情だな」
大鎌を担ぎながらフォルテに向きなおるソレイユ。その表情はいたずらが成功した子供のようだった。
「ネタばらししてもいいんだけど、どうするよ?」
「いや、勝ってから聞くことにする」
「そう?じゃあ負かしてから話すことにするよ」
どちらとも自分が勝つことを疑わない。それもそのはずだろう。闘いにおいてまず必要になるのは心構えだ。絶対に負けない、この勝負に勝つ、などと言ったような明確なものでなくとも、譲れない思いだとか貫き通したい信念だとかでもいいわけである。つまるところ、戦闘において自分を疑ったものに勝ちはなく、自分を信じきったものが勝つ。自信過剰になれと言っているのではない。自分を疑うな、ということである。
「んじゃ――」
大鎌の柄を掴むとバトンを扱うように器用に円を描き――
「――行きますか!」
――その勢いを殺すことなくフォルテとの距離を詰める。大太刀で大鎌の一撃を防ぐも、次々とその形状から繰り出される変則的な攻撃に攻勢になかなか出ることができない。フォルテの防戦一方のなか、ソレイユは一瞬の隙を見て大鎌の柄を両手で握ると右手で柄の先端の方を持ち、左手を軸にして引き絞った。大鎌では使わない構えにフォルテは訝しんだが、次の瞬間大鎌は炎に包まれ槍と化した。
「なっ!?」
当然のことに驚くフォルテだったが、槍の突きを大太刀でそらすことに成功する。だが、ソレイユはそれを見越していた、と言わんばかりに笑みを浮かべると、先ほど突きを放った槍を思いっきり引き戻した。それを好機と見たフォルテは攻勢に出ようとしたが、無情にもフォルテ曲線を描いた刃がフォルテを捉えた。
「っ!?」
突然のダメージに驚くフォルテが見たのは、大鎌を手で玩ぶソレイユの姿だった。
「(ちっ!そうか、そう言うことか)」
ここに来て、フォルテはレーヴァテインの正体を見破った。だが、見破っただけで対した対策も思いつかない。
「来ないなら、こちらから行くぜ!」
そう言ってソレイユは再びフォルテに肉迫していく。大鎌から槍へ、槍から棍へ、棍から刀へと、次から次へと目まぐるしい変化をしていくレーヴァテイン。そして、それを見ていた誰もが気が付いた。レーヴァテインのエクストラスキルが何なのかを。
息をつかせぬほどの変幻自在の攻撃がフォルテを襲う。予測しきれない攻撃にフォルテは自分の闘いができていない。完全にソレイユにのまれてしまっていた。少しずつ、少しずつフォルテの体力ゲージが減っていき――
「悪かったな、今回も俺の勝ちだな」
完全な勝利宣言となる言葉を呟くと、刀を左から横薙に払うソレイユ。それを防御しようとフォルテは大太刀をその軌道上に持っていくが、起こるはずの手ごたえがなく、次の瞬間予想と逆側からダメージが発生し、フォルテのHPを吹き飛ばした。
◆
「レーヴァテインのエクストラスキルは可変能力だな?」
「ああ、そうだよ」
あの後、シルフ領主サクヤによって蘇生させられたフォルテは開口一番そう言ってきた。それに隠すことはせず素直に答えるソレイユ。
「“ヴァリアブルシフト”って言うらしいぞ。魔力を消費してスキルスロットにセットしてある武器スキルの武器に変えることが可能みたいだ」
「ずいぶん使い手が限られてくる武器だな」
「ああ、まったくだ」
しみじみとつぶやくフォルテに同意するソレイユ。だが、フォルテがジト目でソレイユのことをにらんでいる。それをソレイユは涼しい顔で受け流しているのだが。
「それで、キミたち二人はどういう関係なのかナ?」
アリシャ・ルーが何か因縁を感じるソレイユとフォルテに興味津々と言ったような眼差しでソレイユの腕に抱きつきながら聞いてきた。
「いや、一度戦って勝ち越してるだけなんだが・・・」
「ほう、そうなのか。フォルテは負けず嫌いなところがあるからな。納得だ」
サクヤが納得顔で頷いている。それにムスッとした表情になるフォルテ。和気藹々とはちがうが一触即発の雰囲気はすでにない。そんな中、ソレイユたちの近くに一つの人影が降り立った。
「・・・急いできてみたんだがもう解決してるみたいだな、ルー」
頭に鷹の羽が付いているハットをかぶり、長靴に見立てたブーツを履き腰に刀身が細い剣--レイピアを差した男性のケットシーがいた。
「ペロー?どうしてここに?」
「サラマンダーがこの会談を襲うと言う情報を得たのでな、加勢にとおもったのだが・・・」
「ああ、すまん。訳あって加勢することになったんだ」
「いや、謝る必要などない。むしろこちらが感謝しなければならない。加勢してくれたこと、改めて礼を言おう」
そういって頭を下げようとする長靴を履いた猫ーーペローだったが、ソレイユが待ったをかけた。
「頭を下げられる義理はないさ。こちらにも思惑があって助けたんだし、恩を売るチャンスだと思ったのも確かだしな。それにしても――」
そこで一拍おき、ペローの姿を見ると素直な感想を口にした。
「あんたのモチーフはあの賢い猫か?」
「ああ。私はあの話が好きでね。この世界にケットシーがあると知ったとき真っ先に決めたよ。だが、あまりうまく再現できるものではないな」
「まぁ、だろうな・・・」
どう反応していいのか話からないソレイユはいまだ腕にひっついているアリシャ・ルーを優しく引き離すと、この場を去ろうとしているフォルテに向かって口を開いた。
「また挑戦待ってるよー」
「ああ、次は必ず勝つからな」
そう言うとフォルテははねを羽ばたかせて飛び去っていく。ユージーンや他のサラマンダーも同じ方向に飛び去っていった。
「・・・あんたたちって、ムチャクチャだわ」
「よく言われる」
リーファの言葉にキリトが返すと二人は笑い出すが、サクヤが咳払いを一つしてから声をかけてきた。
「すまんが・・・状況の説明をしてもらえると助かる」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「・・・なるほどな」
リーファから事のすべてを聞いたサクヤは眉をひそめながら頷いた。
「ここ何ヶ月か、シグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいるのは私も感じていた。だが、独裁者とみられるのを恐れ合議性にこだわるあまり、彼を要職におき続けてしまった・・・」
「サクヤちゃんは人気者だからねー、辛いところだヨねー」
自分のことを棚に上げながらアリシャ・ルーはしみじみと頷く。
「苛立ち・・・何に対して・・・?」
「勢力図だろ。現状、シルフはサラマンダーの後塵を拝しているからな。あの手のプレイヤーはそういうの許せないんじゃねぇの?」
「ソレイユ君の言うとおりだ。シグルドはパワー思考の男だからな。キャラクターの数値的能力だけでなく、プレイヤーとしての権力をも深く求めていた」
「・・・でも、だからって、何ででサラマンダーのスパイなんか・・・」
「もうすぐ導入される《アップデート五・○》の話は聞いているか?ついに《転生システム》が実装されるという噂がある」
「でもさ、モーティマーって奴は約束守るような奴なのか?」
キリトの言葉に反応したのはサクヤとアリシャ・ルーだった。
「いや・・・」
「それはないネ」
二人は顔をしかめながらそう呟く。
「種族九王を最初にレネゲイトしたのもモーティマーだし・・・」
「軍神を陥れるためいろいろとが策してたみたいだしネ」
「結果的に全て失敗に終わったみたいだがな・・・」
しみじみとした雰囲気を漂わせながらサクヤとアリシャ・ルーはため息をはいた。
「随分プレイヤーの欲を試す陰険なゲームだな、ALOって。デザイナーは嫌な性格してるに違いないぜ」
「ふ、ふ、まったくだ」
キリトの言葉にサクヤは笑いながら同意する。そして、話が一段落したのを見計らって今まで黙っていたリーファがおもむろに口を開いた。
「それで・・・どうするの?サクヤ」
リーファの言葉に考えるように瞼を閉じる。一瞬だけ閉じられた瞼を開くと新緑色の双眸は冴え冴えとした光を放っていた。この瞬間、シグルドのレネゲイドが決定した。
◆
アリシャ・ルーが闇魔法の月光境を使い、サクヤがシグルドにレネゲイドを言い渡した後、一息付いてからサクヤがソレイユに話しかけた。
「そういえば、君は運搬を依頼されたと言っていたが・・・」
「ああ、あれな。まぁ、半分嘘で半分はほんとだ」
「嘘?」
「ああ。実はシルフ領主にちょっとした用事があってなー、それで昨日領主館に行ったら留守だっていわれちゃって・・・」
「それは申し訳なかった。昨日は少しやっておかなければいけないことがあったんだ」
「いいや、全然気にしてないぜ。領主なんだし忙しくて当然だろうし」
笑いながらそう言うソレイユ。勤勉に仕事をしていると言う理由ならばむしろ仕事の邪魔をしないように配慮するのが当たり前だろう。もっとも、ソレイユは忙しいにも関わらず遊び歩いている自種族の領主とは大違いだな、と感じなくもないのだが。
「それでは本題にはいるとしよう。私に用があってきたのみたいだからな。キリト君と同様に君も命の恩人であることには変わりない。できうる限りのことはするつもりだが・・・」
「ああ、いや。とりあえず場所を移そう。誰かに聞かれるとめんどくさいんでな」
「?わかった。では同席者はーー」
「あなたとアリシャ・ルー、それからペローの三人で頼む」
そして、ソレイユと指定された三人はキリトたちから距離をとるために羽を羽ばたかせた。
◆
「それで、話ってなんなのかナ?」
ある程度距離が離れたところで地面に降り立つとアリシャ・ルーが三人を代表して口を開いた。
「ああ、ちょっと待って」
そういいながらウインドウを操作するソレイユ。少しするとあるものが入った麻袋が五つ現れた。
「・・・これは?」
「一つに五億入ってる」
「「「はぁ!?」」」
あり得ない金額を聞いたサクヤたちは驚きに声を上げるが、ソレイユはそんなことお構いなしに話を続ける。
「各種族に五億渡すよ」
「そんなことをして君に何の得があるんだ?」
「まぁ、いろいろ。少しばかり頼みを聞いてほしいんだ」
「頼み?」
「ああ。ちょっと世界樹攻略に協力してほしいんだ」
唐突に話たれた言葉にサクヤたちは唖然としたが、さきほどよりショック度が低かったのかすぐさま立ち直って口を開いた。
「シルフとケットシーは世界樹を攻略するために同盟を結びますが・・・それにあなたが参加するというのはいけないのですか?」
「ああ、確証があるわけじゃないんだがおそらく二種族が同盟を組んで世界樹を攻略しようとしても失敗に終わると思うぜ」
「なぜそう思うのか、聞かせてもらっても?」
「簡単だ。種族九王全員の力と同盟を組んだあんた等の力どっちが強いと思うよ?」
「それは・・・」
言葉に詰まるサクヤ。いくら強いプレイヤーといえど陣列を組んだ部隊に勝てるとは限らない。だが、それに勝ててしまうほどの力を持つのが種族九王である。しかも、単体でも強い彼ら彼女らが手を組んでしまえば、手のつけようがなくなってしまうのだ。前衛にサラマンダー、ノーム、シル。中衛にケットシー、インプ、ウンディーネ、スプリガン。後衛にプーカ、レプラコーンとすればそれぞれの種族が自分の長所を生かして戦える。その戦力はおそらくALOの最高戦力と言っても過言ではないだろう。
「・・・まぁ、それはさておき。我々二種族に投資するのなら麻袋は二つで足りるだろう。残りの麻袋は、なにかな?」
「ああ、それはプーカとノームとレプラコーンに渡してほしいなっていうお願い」
「それはかまわないが・・・我々に君が同伴してはだめなのかな?」
「キリト君たちについていくからな。今のペースだと今日の午前中から午後にかけて行われるメンテナンスの前までにはアルンに付くだろうし。だから、調印が終わったら装備作りにレプラコーン領まで行くであろうあんたらに頼んだ方が楽なんだよ」
「なるほど」
「それに、一介のプレイヤーより領主クラスのプレイヤーの方がいろいろと話がこじれなさそうだし」
「確かにネ。比較的話を聞いてくれる人が領主だし、問題ないといえば問題ないかナ」
「あと一つ。五傑や三獣士、六詩人、四天衆、三巨頭の参加が絶対条件だ」
「それもかまわないが・・・ずいぶんと詳しいな。シルフ五傑はともかく他の種族のはあまり有名ではないのだが・・・」
「まぁ、いろいろあるのさ」
苦笑いしながらはぐらかすソレイユ。これ以上追求したところで対した情報を得られないと思ったサクヤは話を元の路線に戻した。
「では、これは我々が預かっていくが・・・本当にいいのか?」
「ああ。だが、さっきも言ったとおり遅くてもメンテナンス前にはアルンに到着しそうだからそっちもできる限り早くしてくれると助かる」
「・・・一つだけいいですか?」
ペローが挙手をしながら口を開いた。そのことにソレイユが無言で頷く。
「なぜそこまで世界樹攻略にこだわるのですか?」
「・・・・・・うーん、こんなこと言って信じてもらえるかわからないが・・・このゲームの真実って奴がそこに眠ってるんだよ」
「このゲームの真実、ですか?」
「ああ。まぁ、これ以上はあとのお楽しみってことで」
ソレイユは唇に人差し指を当てながら悪戯に微笑んだ。
後書き
どうも、お久しぶりです・・・
ルナ「一か月ぶりの更新ね。この小説本当に大丈夫?」
だ、大丈夫です!なんとか、して、みせます・・・(ゴニョゴニョ
ルナ「うわぁ・・・」
そう言えば、話は唐突にがらりと変わるのだが。
ルナ「うん」
レーヴァテインの能力が何でああなったのかとか説明した方がいいのかな?
ルナ「それは、あなたが考えることじゃないの?」
ま、まぁ、そうなんだけどね・・・
とりあえず、なぜレーヴァテインの能力があんなのになったかと言うと、
・神話で語られるレーヴァテインに明確な形状の説明がされてないこと
・剣だけでなく槍、矢、細枝と言う解釈もできること
この二点を踏まえたうえで“レーヴァテイン”とは千変万化な能力があってもいいんじゃね、という考えから来てます。
ルナ「最後の方が適当な気がする」
そんなことはない。実際にそう思ったんだから仕方ないだろう。まぁ、そんなわけで以上がレーヴァテインの能力誕生秘話でした。
それでは、感想などお待ちしています!!皆の元気をオラにくれー!!
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