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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第五七幕 「支線、視線、死線」

前回のあらすじ:逆転裁判での真犯人のしぶとさは異常



初戦で抜群のコンビネーションを見せつけ、世界記録を塗り替える速さでパーフェクトゲームを達成したユウ、鈴ペア。ISの長い歴史の中でも公式記録で10秒以内に相手のエネルギーシールドを0にしたのはブリュンヒルデである織斑千冬のみ。その千冬もタッグ戦ではそこまでの記録を出してはいない。
ISが2機になればその分戦闘も長引く。それが世界共通の認識だった。だがつい先ほどそれが覆された。それも第3世代兵器を他の兵器と組み合わせるという前例のない方法でとなれば世界の注目も集まる。世界に4人しかいない男性IS操縦者の恐るべき技量。中国代表候補生のウィットに富む兵器運用法。今や二人のタッグは世界中の注目を集めていると言っても過言ではなかった。

対するシャル、簪ペア。初戦で見せた恐ろしいまでのマイクロミサイル弾幕は悪い意味で会場の全員が強く記憶している。物量と火力を前面に押し出し全てを焦土と化すような弾頭の嵐は全く突破口がなく、事実その試合では相手ペアは最後まで突破口を見いだせなかった。
マシンガンやガトリングガンの類ではどうしても反動相殺の関係で厚い弾幕を張ることが出来ない。そして彼らのマイクロミサイルはかなり高度なホーミング機能を有していた。単純なホーミングならブルー・ティアーズに内蔵されたミサイルもかなりのものだが、残念ながらあれは制御系にBT兵器の理論を使っているため誰でも使えるものではない。つまり、それだけ優れた制御技術を有しているという事だ。
シャルの宣伝ではないが、この会場に少なからずデュノア社からミサイルを買おうかと考える人間が現れ始めていた。



そしてそんな世界の事情などお構いなしにアリーナ内を暴れ回る4機のIS達。絶え間なく爆炎とミサイルの生み出す煙がまるで本物の戦場を連想させる。

開幕と同時にシャル、簪ペアは初戦と同じミサイル弾幕で二人を封殺しようとした。成功したならそれでよし、失敗しても爆発によるダメージは免れない。実に合理的な戦術だ。だがやはりというか、相手はそんな思惑を正面から打ち破ってきた。

「バリア最大出力!!突っ込めぇぇぇぇぇ!!!」
「馬鹿正直に突貫!?血迷ったかい!?」
「迷いはないと既に言ったよ!!風花相手にその弾幕は愚策だったね!!」

風花の投桃報李を正面に最大出力で展開し、頭から突っ込む。そんな馬鹿正直かつ効果的な戦術で。
まず、通常のISがミサイルを全弾回避して懐に飛び込むのは無理だ。理由は二つ。シャルと簪が避けられる穴を物理的につくらないよう攻撃していること。そして捨身の瞬時加速を使った場合どうしても当たったミサイルの反動で懐に辿り着く前に時間差発射したミサイルの餌食になる。だからその当たること前提のミサイルをどうにかしてしまえばいい。そのための投桃報李による斥力バリアだ。
そして同時に簪がある異変に気付く。

「甲龍が居ない・・・!?何所に・・・」

その瞬間、突貫してきた風花の影から這い出るように赤い鎧が姿を現した。簪は遅れて2人が何をやったのかに気付くが、すでに遅い。懐に入り込まれるまでに気付けなかったのは失態だった。

你好(ニーハオ)、簪。“いつもの”アンタならこれくらいすぐに気付いただろうに・・・ねっ!!」

憎い事に鈴とジョウの二人は突撃(そこ)にもう一つ仕込んだ。風花が前、甲龍が後ろの直列フォーメーションで噴射加速と瞬時加速を同時に行なったのだ。直列ならば甲龍は風花を盾に懐まで潜り込める。通常ならば速度で劣り持続時間も短い瞬時加速を使えば先に甲龍が減速し引き離されが、ここで二人は「スリップストリーム」に目を付けた。
高速で移動する物体の後ろは正面の空気を押しのけた分気圧が下がり、発生した空気の渦が周囲の物体や空気を吸い込むという現象が起きる。それがスリップストリームだ。大型トラックが通り過ぎた後に起きる風なんかもそれによって引き起こされている。この現象が起きる空間は空気抵抗も減少しているため、ここに甲龍がぴったり入りこめば風花の加速による吸引効果・空気抵抗の減少といった恩恵を受けられるのだ。

説明が長くなったが、それをあえて要約するならばそれは「二人はシャルと簪の弾幕を突破し、遂に懐に入り込んだ」の一文に他ならない。

弾幕の突破と同時に第2射を防ぐための行動に移る。ユウはフィンスラスターによる強引な方向転換でそのまま打鉄弐式へ。スリップストリームから脱出した鈴はそのままシャルに衝撃砲を撃ちながら接近する。

「シャルッ!!!」
「あははっ、まさか第1射を突破してくるなんて!所詮まだ子供だって油断してたかなぁ~~!!」
「アンタは・・・何で!!」

不可視の弾丸をシャルは眉一つ動かさずに回避する。恐らく簪から詳細な龍咆のデータを聞き出したうえで対策を取っていたのだ。射角に制限が無かろうが不可視だろうが衝撃砲は無敵の兵器ではない。発射には前兆があるからそれさえ正確に見極めれば避けるのは可能だ。
それだけの実力がありながら、どうしてこの女は洗脳などと言う卑劣極まりない方法を取ったのか。

鈴には分かる。理屈ではなく感覚で、簪の心は悲鳴を上げ助けを求めている。思考を無理やり誘導され、シャルの意のままに動く身体に必死に警鐘を鳴らし、それでもどうにもならないことに嘆いている。助けて、とヒーローに憧れそれになろうとした一人の少女の声が聞こえるのだ。だからこそ、シャルロット・デュノアが許せない。

「アタシの友達を操るなぁぁーーーッ!!!」

彼女の魂を弄ぶような真似をするこの女を、凰鈴音は許しておけなかった。烈火の如き炎を上げる想いの赴くまま、鈴は双天牙月を振りかざす。



同時期、風花も戦闘に突入する。
風花は噴射加速に目を取られがちだが機体性能自体はそれほど優れているわけではない。また、ユウは格闘家として優れてはいてもIS操縦者として飛び抜けた技量は持っていない。それでも彼が高いポテンシャルを発揮しているのは彼自身と風花の相性がすこぶる良いからに他ならないのだ。

今からユウが戦うのは日本の代表候補生。ISの性能は向こうが上、ISの技量も向こうが上。だが、彼女は洗脳によって若干ながら思考能力が落ちているようだ。それに加え、彼女の攻撃には敵を打ち破る意志が欠けている。そういうことを考慮して、勝率は5割と言った所だろう。

「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁああああ!!」
「・・・ッ!山嵐・春雷同時発射ッ!!」
「させるか!鳴動、広域発射ぁ!!」

鳴動の粒子砲収束率を故意に下げた広域モードは、威力と射程が大幅に下がる分攻撃範囲が広がり、近距離なら発射されたミサイルの大部分を撃ち落とせる。春雷は腕に展開したバリアで撃ち流し、懐に入る。
願わくばこの一撃で、と思ったユウだったが―――

ズガガガガガガガガガガンッ!!

「かはっ・・・!?」

突如背中に奔った凄まじい衝撃に呼吸が止まった。全身の筋肉を蹂躙するような衝撃と三半規管を狂わせる振動がユウの身体を容赦なく揺さぶった。突然の事態に何が起きたのか把握できないまま、ユウはゆっくりと目の前の簪が振りかぶった薙刀”夢現”を食い入るように見つめる。遅れてISが警告文を吐き出す。

―――バーニア1番から4番破損、使用不能。
―――バーナー1番破損度60%。あと一度の使用で全損の可能性あり。
―――背部装甲消耗率40%。残りシールドエネルギー430。

1番バーナーが破損したことで噴射加速が一時的に使用不能。バーニアがすべて駄目になったせいで方向転換も間に合わない。フィンスラスターで避けようにも、既にこの距離では方向転換したところで夢現を避け切れない。
遠くで鈴の悲鳴が聞こえた。だが、ユウは助けに行くどころかこちらが助けを必要としている状況だった。

「・・・油断大敵、そして・・・サヨナラ」
(・・・どうする!どうすれば・・・兄さんならこんな時、上手く考えるんだろうか・・・?)

ほぼ無意識に、ユウは簪の無表情な顔を見た。ユウには不思議と彼女の顔が泣いているように見えた。そして―――



 = =



何となく弟が追いつめられているような気がして頭を上へあげるジョウ。だが、大した危機ではないだろうと直ぐに目の前に目線を戻す。気を緩めてはいないし、ユウは自力で試練を乗り越えるだろう。

「如何しました?」
『いや、音の反射からしてそろそろ壁か扉に辿り着きそうだな』
「ほう・・・気付きましたか。いやはや貴方も才覚に恵まれているようですねぇ」

用途不明のハッチの奥へ既に200メートルは進んでいるが、未だに目に映るのはひたすら下へと続く通路だけだ。通信状況も進むほどに悪くなっていき、現在音声通信は雑音(ノイズ)を吐き出すだけの存在と化している。足場を確認する最低限の明かりすらなく足音だけが木霊するこの空間に長時間いれば、行き先の見えない不安と閉塞感は精神を消耗させるだろう。空気もあまりいいとは言えず、マスクが早速役に立っているようだ。
だがその代わり映え無い道もそろそろ終点・・・若しくは本当の入り口に近い。

『熱源反応探知。何かの装置があるな』
「こちらでも確認しました。先行してください」

促されるままに歩みを進める。既に侵入メンバーは全員が臨戦態勢であり、何が出てきてもいいよう銃器のグリップを握る手にも自然と力が籠っている。
やがてハイパーセンサーが入口と同じ規格と思われるハッチを捉えた。この扉も工場のシステムから独立しており、当然ここも力尽くで破る。人間だけなら手間取るであろう工程もISがあれば大幅に短縮が可能だ。ひょっとしたら、いずれ『作業用IS』なんてものも生まれるかもしれないな、等と考えつつジョウはその拳でハッチをこじ開ける。工事現場の重機すら砕く程の力に蹂躙されたハッチは抵抗もなくひしゃげるしか道はなかった。



やがて侵入したその場所に一同は絶句した。その空間は長年あらゆる場所であらゆる経験をしてきたメンバー達でさえ異質と言い切れる空間。

「なんだこりゃ・・・でけぇ」
「とてもじゃねえが表の企業が作るような装置には見えねないッスねぇ・・・」
「これは一体なんの装置だ?」
『これはまた・・・どうしてこんな物が?』

突入したメンバーから思わず戸惑いの声が上がる。そこはそれなりに広い地下スペース。人の気配はなく、電気も止まっている。そしてその空間の半分を占めている物が全員の目を引いた。
全長20メートル以上、高さもおそらく10メートル以上はあるだろうか。外見からでは全く用途の分からない巨大な装置がそこには鎮座していた。ただ、よく見ると工場内で作られた廃材を投入しているらしき部分があるためこれで何かを作っているのだろう。
周囲はこれまた用途の分からない台座や観測装置のようなものが乱雑に散らばっており、研究施設や秘密工場の類としては余りにも統一性が無い。

「あっちのパーツは何だかポ〇モン転送マシンっぽくないッスか?」
「分かる分かる。しかし真ん中のパーツはどことなく〇イレント缶工場に似ているような・・・」
「それ笑えないからやめてください!」

妙にSFチックな形をしている部分が見受けられ、むしろ子供用のアスレチックだったと言われた方が納得できそうだ。突入メンバーの数人が軽口をたたくが、それでも警戒を怠っていない辺りは流石と言える。そんな中、ジョウの第六感がこの空間に反応した。

(・・・?センサーにあの装置以外の動体反応はない・・・が、誰かに、いや何かに見られている・・・)

昔どこかで見た台詞・・・「第六感は友達、全面的に信頼せずとも耳を貸す価値はある」と言う言葉を思い出す。ジョウにとって勘というのは大親友だ。だから勘が告げた内容には絶対に耳を傾ける。そうして彼は生きてきたのだから。
だからジョウは無駄口を叩く部下を叱る隊長にその旨を伝えようとし・・・その行動が少し遅かったことを悟った。


「静かにしろ馬鹿ども!警戒を怠るには早・・・」

ギャリリリリッ!!

その言葉が終わるよりも前に、ジョウは弾かれるように隊長の面前に手を突きだしていた。その掌が、“何もないはずの虚空”を金属がこすれる音と共に掴む。

全員の息が止まる。続いて夏黄櫨の凄まじい握力によってそれがべきり、と音を立てた。その瞬間、隊長の目と鼻の先に大きな金属製の切っ先が途中から折れた状態で姿を現す。―――そこに至って隊長はようやくそこに自分の肉片を床に散らさんとした「敵」がいる事を認識した。

「・・・ッッ!!密集陣形!!」
『隊長さん、そのまま壁際に撤退してくれ!!こいつ“ら”・・・こっちとは全く別系統の光学ステルスを持ってるぞ!』
「こいつ“ら”・・・!?まさか!!」

ジョウの眼前の空間がブレる。同時に大型装置の上部、続いて積み重ねてあった廃材の2カ所がまるで“上にISが立っているかのように”不自然に凹む。ハイパーセンサーでも目視以外では何の存在も検知できないそいつらは、しかし確かにそこに存在した。

『3機・・・他に隠れている奴はいなさそうだが、参ったねこりゃ・・・!!』
「こいつらがせがれを・・・!?」
「くそ・・・こんな真似が出来るのは、IS以外有り得ねぇ・・・!!」

突入メンバーはジョウを除いて6人。当然ながら大型の武器を振り回す敵に対して有効打は持っておらず、攻撃を防御する手段も実質無いに等しい。対して未確認敵生体は3機。ジョウではなく潜入員を真っ先に狙ったことから優先目標は数減らしか目に入った相手を片っ端から倒すのかは分からない。

護衛対象6人。敵3機。そしてこのISが戦うには狭い空間。引けば突入メンバーの命はないだろう。
姿も大きさも武装も不明の未確認機3機を相手にした防衛、それがジョウの為すべき仕事になった。

死線が、始まる。
 
 

 
後書き
隊長のせがれ・・・いわゆる孤児(みなしご)で、最初は本当に工作員として育てる気は無かった。父との同僚の訓練を見よう見まねで真似ている間に才能が開花し、他のメンバー達からは「若」などと呼ばれ可愛がられていた。3年前から本格的に更識の下で働きだし、既に多くの実績を残していた。 
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