魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter33「分かり合いたい」
前書き
更新が毎度遅くて申し訳ございません。
さて、もう過ぎてしまいましたが、11月1日が何の日だったかわかる方はいらっしゃいますか?
ヒントは「一周年」です。
お分かりの方は、感想にでも答えを記載してくださいね。
では本編をどうぞ……
夢を見る。
それはほんのつい最近ながら、もはや遠くに思えてしまう昔の夢。
『エルとルドガーは、一緒にカナンの地にいきます』
屈託のない碧色の瞳で少女が自分を見つめ、青年と少女は約束を交わす。
一緒にカナンの地に行くことを。
『お願い!エルを!』
ルドガーの掴む手を払い、少女を守りたい一心で自ら奈落の底へと吸いこまれっていった“最初に”出会った彼女。
『エルを……頼む。カナンの地を……開け……オリジンの……審判を……超え……』
世界も自分さえ偽りの存在だという真実に絶望し、クルスニク一族の運命から逃れようと足掻き続けたもう1人の自分自身を手にかけ、彼の娘である少女の心を傷つけた。
全ては少女を守るためだった……どうしようもなかった。
『お前は、お前の世界を作るんだ』
最後の試練を乗り越えるため、自分の前から姿を消した少女との約束を守るために兄が生んだ世界で兄の命を橋に使い、道を切り開いた。
『エルも約束する!もうウソつかないし、トマトだって食べる!』
審判を越えるために、そして何より大切な存在を守るため消滅する事を選んだ自分に、真っ赤に染まった瞳にきらきら光る大粒の雫を浮かべながら、少女は必死に自分を見上げていた。
『ルドガーが助けてくれたこと……スープの味も、ぜったい忘れないっ!』
少女は泣くのをこらえ、これからの道を歩む決意をその小さな姿で告げる。
『本当……本当だから!』
嗚咽混じりの声で自分を見上げてくる少女の赤と碧の瞳を見つめて、仮面を解き小さく微笑む。
時期に自分の存在は全てが失われる……その前に直接彼女の姿を目に焼き付けたかった。
そして……
『約束』
“本当の約束は目を見てするもの”
少女と自分が“アイボー”になった際、少女は自分にそう言った。
つまりこれは少女と自分との最後の本当の約束だ。
不思議と消滅寸前にもかかわらず、兄から教わった証を口ずさんでいた。
そして……強い光と共に自分は消滅した。
消える直前に少女の笑顔が見えた。
その笑顔でもう、心は十分未来への輝きに満たされた。
『ルドガー…ルドガー!』
声が聞こえる。
自分を必死に呼ぶ声を聞き、ルドガーはゆっくりと目を開ける。
それは夢の終わりと今生きる世界に戻る事を意味していた。
そしてルドガーの目の前には自分と同じ碧色の瞳を持つ少女、エルの姿が……
「はやて……?」
「ルドガー!!」
目の前にいたのはエルではなく、はやてだった。
はやては涙を流しながら、ベットに横になるルドガーに飛び付くように抱きついた。
「よかった……ホンマによかったわ……」
「……そうか俺は」
ここはどうやら六課の医務室のようだ。
あのなのはとの激戦の後、時歪の因子化が急速に進行した苦しみと、それを押さえ込むため自分の額を殴り、その激痛から意識を失ったようだ。
なのはに勝つためとはいえ、骸殻能力の使用に更に一瞬とはいえ時歪の因子化の進行が早まるフル骸殻を使ったのだ。
何かしろの代償がつく事は予想していたが、ここまで大事になってしまうとは考えもしなかった。
「はやて……苦しい」
「アホ!どんだけ私がルドガーを心配したと思ってんねん!アンタとなのはちゃんが決闘を始めたって聞いて、駆け付けたらルドガーが血を流して倒れとるから……何がなんやかわからんかった」
「……ごめん」
グスッと涙を流しながらそう話しはやてに一言謝罪し、そっとはやてを抱き締める。
(なんだろうな……凄く落ち着く)
鼻腔に入る彼女の女性らしい香りと、胸元に感じる女性らしい感触がそんな感覚を出しているかもしれないが、ルドガーはそれだけではないような気がした。
体を通して彼女から何か暖かいものが入ってきてくるこの感覚……同時に包帯で隠れている右目の痛みが引いているような気も覚えていた。
「あのう……」
ふと、遠慮がちの声が耳に入り、抱き合っていた2人は目を合わせた後そちらを見る。
「私達ってお邪魔…かな?」
医務室の扉の近くで、なのはとフェイト、シャマルが立っていた。
なのはとフェイトは若干顔を赤くしており、シャマルは何故か歓喜しているようにも見える。
「なのはちゃん、フェイトちゃん!2人共早く出て!ルドガー君とはやてちゃんはこれからお楽しみタイムに入るんだから!」
白衣の女医がなにやら変な事を言い始めた。
「そ、それっていわゆる、女の子と男の子の関係……」
「ル、ル、ルドガー君、それにはやてちゃん!ぷ、プライベートに口出しする気はないけど…一応、ほら、ここにはエリオやキャロくらいの年齢がいるんだから、激しすぎるのはちょっと……」
「……ちょっと待て」
勝手に自主規制の入る光景を妄想して、恥ずかしそうに話されても正直、冷めた目でしか見る事ができない。取り敢えず勘違いされたままなのは面倒なため、呆れながら誤解を解く説明をする事にした。
(ルドガーとそないな事になるんも……まぁ……)
ルドガーが寝ていたベッドの真ん中でタオルケットを胸元に抱いているはやては、ほんのり頬を赤く染め、なのは達の妄想した事をそのまま体験するのもまんざらでもないと内心思っていた。
これは正直なルドガーへの好意から来たものであり、案外彼女から何かアクションを起こしてしまう可能性もありそうだ。
「ごめんルドガー。誤解しちゃって……」
「にゃはは……私達ってこういった空気に慣れてなくて……」
「それ……自分で言ってて悲しくならないか?」
「「うっ……」」
「……まぁいいや……元気そうで何よりだ…なのは」
包帯で隠されていない左目に落ち着いた色が見え、彼が自分達を励まそうとしていた事になのはは気付く。
「私は大丈夫。私よりルドガー君の方が……」
「そう言えば……」
自分の顔右半分の状況を思い出す。
おもむろに右目に手をやり巻かれている包帯を外す。
「ちょっとルドガー君!」
「ちょ、まだ包帯外したらアカン!」
包帯を外した事へシャマルとはやてが、驚いた口調でルドガーに話すが、ルドガーにその声は届いていない。今彼は医務室にあるウォールミラーに映る自分の顔の一部部分を凝視していおり、その部分を確かめるように触れている。
(どういうことだ?)
言葉に出さず、鏡に映る自分の顔を見て驚かずにはいられない。
それは後ろで同じ鏡を見ているはやて達もだった。
フル骸殻の使用でより進行した時歪の因子化が綺麗さっぱり消滅していた。
時歪の因子は一度進行が進めば治まる事はなく蝕み続け、最後はその者を消滅に追い込む。
そして時歪の因子化した者は分史世界を生み出し、その分史世界を骸殻能力者が破壊する。
だがいずれその骸殻能力も力を使い続ければ時歪の因子化し分史世界を生み出してしまう上、審判達成で与えられると言われた、最初にカナンの地にたどり着いた者の願いをどんなものでも叶えるという褒美を我が物にしようと争いが勃発し、その中で骸殻能力を使い一族同士での骨肉の抗争が始り、時歪の因子と分史世界の増大に繋がった。
それが2000年前に原初の三霊が人間に課したオリジンの審判の最大の落とし穴だった。
そして審判が終わった今、審判とは無縁の次元世界で時歪の因子化が起っている事実から、自分がこの次元世界で完全に時歪の因子化してしまえば分史世界が生まれるのかという疑問が現れる。
この世界の魂の循環がどういう仕組みかは定かではない。
仮に魂の循環がルドガーの世界と同一の仕組みで分史世界の発生を前提に考え、次元世界に存在する全ての世界が1つの正史世界とするなら、魂を浄化する存在の負担は分史世界が1つ生まれるだけで、ピークに達するかもしれない。
もしそうなら、異世界だろうと何だろうとクルスニク一族の宿命はルドガーを逃してはくれないようだ。
「嘘……私の治療魔法でも全く消せなかった痣が、何事もなく消えているなんて……」
「というかあの痣は何なんや?なのはちゃんから戦闘データを見せてもらった……あれは明らかに普通のケガでも病気でもなかった」
「………」
4人の視線がルドガーに集まる。
侵食していた時歪の因子が消えた事に関しては皆目検討がつかない為説明できないが、時歪の因子についての説明ならできる。
だが……
「……シャマル…治療ありがとう」
「ちょ、ルドガー君!?」
ルドガーはシャマルに礼を告げると医務室を後にした。
まだ、彼女達に時歪の因子の事を……自身の過去を話す覚悟はまだルドガーになかった。
咎められ、拒絶される事には慣れている。
だが……はやて達機動六課の面々にルドガーは拒絶されたくなかった。
彼女達と過ごしたこの数ヶ月は、もうルドガーにとってかけがえのないものになっていた。
「……皆、ルドガーの事は私に任せてくれへんかな?」
「はやてちゃん?」
ルドガーの事を任せてほしいと話すはやてに、なのはは疑問を持つ。
「もうルドガーから話すのを待つなんて言わへん。私はルドガーの事をもっと知りたい……ルドガーの力になりたいんや」
はやてにとってルドガーはもう立派な六課の一員であると共に、ただの1人の女の子八神はやてとして大切な存在になっている。
そんなルドガーに今日、身に起こったあの現象は正体がわからなくても、彼の命を脅かすものなのはわかる。
もうはやては何も失いたくなかった。
「わかったよ。ルドガー君の事ははやてちゃんにお任せします。2人もそれでいいかな?」
「うん。はやて、ルドガーの事をお願い」
「私も反対なんてしません。むしろ応援しちゃいます!」
「皆……ありがとうな」
そう感謝の言葉を告げるとはやては医務室を出て行った。
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はやてがルドガーと話しをする為医務室から出て行って一時間が経った。
医務室では撃墜されかけ気力が尽きて気絶したティアナが目を覚ます。
「あらティアナ、起きた?」
「シャマル先生……えっと……」
「ここは医務室よ。昼間の模擬戦で撃墜されかけたのは覚えてる?」
「はい……え?」
シャマルの言葉に引っ掛かるティアナ。自分はあの時なのはに撃墜されたはずだ。
だがシャマルは撃墜されかけたと言った。
どこか認識が食い違っている事にどういう事か考えるが、直ぐに答えはでない。
「そっか。ティアナは覚えてないのね」
「あの…どういう事ですか?」
ティアナの様子で彼女が撃墜されたかけたという言葉に引っ掛かっている事に気付いたシャマルは事情を説明する。
「ティアナはあの時、撃墜されてないのよ。なのはちゃんの魔法弾がティアナに直撃する瞬間にルドガー君が割って入ってアナタを守ったのよ」
「え……?」
そう言われて思い出す。
なのはが放った魔力弾が直撃する瞬間、目の前に金色の光と共にルドガーが現れ、呆れたように笑っていた姿を見た記憶がある。
「仮になのはちゃんの魔力弾が直撃しても、訓練用に調節しているから体にダメージはないとは思うけど……」
「?」
「もうその辺りを歩いていれば耳にすると思うから話すけど、アナタをスバルがフィールドから連れ出した後、ルドガー君となのはちゃん戦いを始めたのよ」
「えぇぇ!?」
六課に入ってからティアナは一番驚いた。
自分が気絶した後そんな事があったなんて予想できるはずもない。
勿論発端は言わずとわかり、ティアナは驚愕から罪悪感を感じてしまう。
「戦いはルドガー君が勝ったけどその後ルドガー君、倒れちゃって、さっきまで医務室で寝てたのよ」
「嘘……」
ティアナは自分の銃の師の話しを聞いて驚かずにいられなかった。
ルドガーが倒れた事にも勿論驚いているが、それ以上に次元世界でエースオブエースの異名で馳せるあのなのはを、魔法が使えないルドガーが勝ったという事実は彼女の常識をくつがえすには十分すぎる衝撃だった。
「六課中この話しで持ちきりで大変……はい、これ」
そう言ってシャマルはニッコリ微笑みながら訓練用ズボンをティアナに差し出す。
ズボンを手渡され、初めて今の自分の服装が訓練用シャツに下着だけだと気付く。
数分前まで近くでルドガーが寝ていてこの格好をまんま見られたと思えば、恥ずかしさを覚えてずにはいられなかった。
「大丈夫よ。ルドガー君は別室で寝てたから、今のティアナの格好は見られてないから心配する必要はないわ」
「ありがとうございます……って、9時過ぎ!?」
模擬戦があったのは昼過ぎだった。それがいつの間にか日が沈んでしまい、時計の針は9時過ぎを指していた。
「えっ、夜!?」
「凄く熟睡してたわよ。死んでるんじゃないかって思うくらい」
シャマルの話しを聞いて、唖然としてしまうティアナ。まさかここまで長時間寝ていたとは夢にも思わない。
「最近、殆ど寝てなかったでしょ?溜まってた疲れが、まとめて出たのよ」
「はい……あの、ルドガーさんは今?」
何を話していいかわからず、ルドガーの事を尋ねる。
なのはの事もだが今回の騒動で、ティアナはルドガーの教えに背いた。
そんな自分を彼はどう思っているか知りたかった。
「ルドガー君なら今……」
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夜空に浮かぶ2つの月を屋上からただ眺める。
海鳴市に派遣任務で行った時、初めてルドガーは月が1つしかない夜空を目にした。
ルドガーの故郷エレンピオスでは月が2つあるのが当たり前であり、ミッドチルダに暮らし始めても当然彼が月を見て驚く事はなく、むしろ海鳴市の空に浮かぶ月を見て驚いた。
当たり前にあった物が無くなったら人は落ち着かなくなる。
道標を揃え、カナンの地を出現させた時は、事態の中心にいるルドガー達は直ぐに状況を飲み込めるが、そうではない一般人の中には混乱する者も少なくはなかった。
今思えば申し訳なく思える。
「ルドガー」
過去を振り返っていたルドガーの背に、この世界で今一番彼に安らぎを与える女性の声が当てられる。
「はやて……さっきは悪かった。色々話しを聞きたかったよな?」
「当たり前や……と言いたいところやけど、正直迷っとる」
なのは達の前でああは言ったものの、本人を目の前にしたら決心が鈍る。
これまではやては自分の進むべき道を選択してきた。
その決断に迷いなんてなかった。
だが……ルドガーの事になるとその決意が鈍る事がある。
ルドガーの事を知りたければ、彼の事が好きな事に偽りはない。
だが知る事を恐れている自分がいる事に今、はやては気付いてしまう。
「でも……それでも私は知りたい…ルドガーの事を!」
「知りたい、か……」
分史世界のマクスウェルがこう語った。
人間の好奇心とは、かくも貪欲なものかと呆れを越して感心したと。
好奇心は人間のもつ最も根源的な心だ。
だから人は真に近づきたいと願って者の事をより多く知りたいと願うのだろう。
例え人は、自らが破滅しようと、知ろうとすることをやめなければ、進もうとすることをやめはしない。
もしその心を失えば、それは生きているとはいえない。
「お前は強い奴だよ。自分が思っている以上にな」
「ちゃう……私はルドガーのことになると弱ぁなるんや」
「全く……面白い奴だよ、はやては」
彼女は今一歩を踏み出した。
今度自分が前に歩かなければならない。
「わかった、話す」
「!」
「だが話すのは皆を集めてから---」
過去を話すのは全員が揃ってから話すと言い掛けた時、六課隊舎に警報が鳴り響く。
「はやて!」
「わっかとる!」
顔を合わせそうお互いそう話すと、2人は指令室に走る。
今は話しを語るより他に優先すべき事がある。
「遅れてごめん、状況は?」
指令室に到着するとはやてがグリフィスに現状を確認する。
「はい。東部海上にガジェットⅡ型が出現しました。付近にレリック反応は今のところは無く、ガジェットの総数は12機を確認。現在確認されているスペック以上の速度で旋回飛行を続けています」
報告が終わる頃になのはとフェイト、隊長2人が駆け付けモニターを注視する。
「航空Ⅱ型、4機編隊が3隊、12機編隊が1隊」
「発見時から変わらず、それぞれ別の低沿軌道で旋回飛行中です」
「レリックが狙いじゃないのか?」
ガジェットの製造目的はレリックやそれに近い反応を持つロストロギアに集まるのならば、今回のガジェットの出現の意図が読めない。
なら……
「海上で旋回飛行だけをしている点から推測するとこれは……」
「まるで、打ち落としに来いと誘っているように見えますね」
「そうやね……」
椅子に座りながら、後ろのフェイト達に視線を向ける。
「テスタロッサ・ハラオウン執務官、どう見る?」
「犯人がスカリエッティなら、こちらね動きとか空戦力を計りたいんだと思う」
「この状況ならこっちは、超長距離攻撃を放りこめばすむわけやし……」
「一撃でクリアですよ~♪」
はやての隣にいるリインが名案だと言うかのように、手を上げて話す。
最も、この殲滅作戦は高ランク魔導師が多数所属し、尚且つ砲撃魔導師のなのはがいるからこそ成立する戦法だ。
全ての部隊が出来るわけでもない。
「いや…わざわざ相手の策に乗る必要は今回はないんじゃないか?」
「うん。エージェントの言うとおりだよ。奥の手は取って置いた方がいい」
「まぁ実際、この程度のことで隊長達のリミッター解除ってわけにもいかへんしな……高町教導官はどうやろう?」
「こっちの戦力調査が目的なら成るべく新しい情報を出さずに今までと同じやり方で片付けちゃうかな」
「うん……それで行こう」
作戦の方式が正式決まる。
空に出るのはなのはとフェイト、ヴィータに決まる。
ルドガーとしても骸殻能力を利用して彼女達の力になりたいが、敵の策に乗るわけにもいかなければ、下手に骸殻を使い自分の中の時歪の因子(タイムファクター)の進行を進めるわけにもいかない。
部隊長室から退室したルドガー達はヘリポートへと移動してから程なく、スターズ、ライトニング両小隊のメンバーが集まった。
その際、ルドガーはティアナと件の模擬戦後、始めて顔を合わせるが、ティアナは目を合わせようとはしなかった。
「今回は空戦だから、出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の3人」
「皆はロビーで出撃待機ね」
「そっちの指揮はシグナムとルドガーだ。留守を頼むぞ」
「「「はい!」」」
「……はい」
なのは達の指示に対する返事がティアナだけ、他の3人と比べ何処か覇気に欠けていた。
それを見たルドガーは今は気持ちを切り替えろと話そうとしたが、それより先になのはが口を開いた。
「あと、それから……ティアナは出動待機から外れとこうか」
「っ!」
なのはの一言でフォワード達に動揺が走る。当の本人ティアナは、3人以上に動揺しているのが見てわかる。
「その方がいいな。そうしとけ」
「今夜は体調も魔力もベストじゃないだろうし」
「……言うことを聞かない奴は……」
なのはの言葉を遮って呟くティアナ。
「使えないって、ことですか」
ティアナは俯き、肩を震わせたながら呟くようにして言った。
それを聞いたなのはは短くため息を吐いた。
「自分で言っててわからない?当たり前のことだよ、それ」
自然となのはの口調が厳しくなっていくのがわかる。
顔にには出さないがルドガーは内心、ティアナの今の言動に呆れてしまっていた。
本当に当たり前の事をティアナで反論したのだ。
そんなルドガーを余所にティアナはなのはに言葉をぶつける事を続ける。
「現場での指示や命令は聞いてます!教導だって、ちゃんとさぼらずやってます」
それを聞いたヴィータがティアナの前に行こうとするが、なのはが止める。ルドガーは目の前でただ当たり前の事を吐き続ける弟子を黙って見ている。
「それ以外の場所での努力まで、教えられた通りじゃないと駄目なんですか!?」
一気に叩きつけるように言葉を話すティアナ。
ルドガーとなのははそれでも何も言うことはない。
知る必要があるのだ。
ティアナが何を思って、何を望んでいるのか。
なのはは自分の過ちを正し、ティアナと共に成長しようとしている。
それがわかっているルドガーは今のなのはの姿に嬉しさを覚えずにはいられなかった。
「私は、なのはさん達みたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルも無い!唯一の取り柄の銃の腕も、ルドガーさんには遠く及ばない!少しくらい無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ、強くなんてならないじゃないですかっ!?」
内に秘めた不満を叫んだ本年。それを最後まで聞く前に動く者が現れる。
シグナムがティアナの制服の襟を掴み、力を込めた拳を振りかざす。
それとほぼ同時に、ルドガーがシグナムの腕を横から掴んで、彼女の動きを制する。
「……手を離せ、クルスニク」
周りが驚いている中、シグナムはルドガーに手を離せと告げる。
「……やめとけよ。気持ちはわかるが、今のティアナは殴った程度じゃ何も通じない」
「だが……」
「どうしてもって言うんなら、俺が相手になってやる……けど、今度は手っ取り早くコイツを使わせてもらう」
制裁に拘るシグナムに、ルドガーは警告の意味を込め、フル骸殻をほんの一瞬解放する。
それは黒い靄のような存在だったが、たったそれだけの行為で全員が固り、同時にヘリポートにはフル骸殻の解放により異様な威圧感が広まっていった。
「……わかった」
歴戦の猛者であるシグナムはルドガーが一瞬見せたフル骸殻がこれまで、自分が見たルドガーの骸殻をはるかに上回る力を持っている事を悟る。
力の差を見せつけられたシグナムは大人しく引き下がる。
それを確認したルドガーはティアナの方を向くと、彼女の瞳を見つめる。
「ティアナ、俺は今心の中で……お前を殴った……感じなかったか?」
「えっ?」
ルドガーの一言に呆気にとられそうになるティアナ。
「お前は俺の弟子だ。だがお前がどんなに俺を目指してもお前は俺になる事はできない……お前はお前なんだよ」
その言葉を境にティアナは崩れ落ちる。
ルドガーの言葉で完全に心を折られたのだ。
座り込むティアナにスバルが駆け寄る。
「俺達を見て嫉妬する暇があるなら、他にやる事があるんじゃないのか?……ヴァイス行ってくれ!」
「お前なぁ……わーったよ!」
ルドガーの呼び掛けで、ヘリのコックピットでスタンバイしていたヴァイスが応える。
「ティアナ!思い詰めちゃってるみたいだけど、戻ってきたらゆっくり話そう!ルドガー君もティアナの事を思ってくれてるからあんな事言ったんだよ!だからルドガーが言った言葉の意味をよく---」
力なく、その場に座り込んでいるティアナに、ヘリのハッチが閉まるまでなのはは必死に声を掛け続け、ヘリは飛び立った。
「さて、シグナム。実質立場上お前がコイツらの指揮をやらなきゃいけないわけだが---」
「ルドガーさん、シグナム副隊長!」
「?どうしたスバル?」
「なんだ?」
へたり込むティアナの事など始めから知らないとでもいうかのようなルドガーの態度に、スバルはシグナムとルドガーを……いや、ルドガーを睨めつけたが、その威勢も直ぐにたじろぎ、自信なさげに話す。
「め、命令違反は絶対駄目だし、さっきのティアの物言いとか、それを止められなかった私は、確かに駄目だったと思います……」
一旦、そこで言葉を止め、俯くスバル。
そして頭を上げ、言葉を話す。
「だけど……自分なりに強くなろうとするのとか、何とかしようと頑張るのって、そんなにいけないことなんでしょうか!?」
今頭にこみ上がる想いをルドガーとシグナムへ強く叫ぶスバル。その瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。
「……自主練習は良いことだし、強くなるための努力も凄く良いことだよ」
突然、別の声がヘリポートに響く。
声はヘリポート入り口辺りから聞こえた。
「シャーリーさん?」
エリオが声の人物の名を口にする。
確かにそこにはシャーリーが立っていた。
「持ち場はどうした?」
「メインオペレートはリイン曹長がいてくれますから……なんかもう、皆不器用で、見てられなくて……」
確かに今のこの状況ははたから見れば、不器用な人間が互いに気持ちをぶつけあっているように見えるだろう。今更だが少し気恥ずかしくなってきた。
シャーリーはフォワード達を見て続きを話す。
「皆、ちょっとロビーに集まって。私が説明するから……なのはさんのことと、なのはさんの教導の意味を」
後書き
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