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戦国異伝

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第百四十二話 小谷城からその九

 彼は夜の中をかがり火達を見てだ、目を怒らせて叫んだ。
「皆何をしておるか!」
「はっ、そういえばまだどなたも」
「どなたも来られていませんな」
「見よ、ようやくかがり火が動いたわ」
 その動きが慌ただしい、そして諸将が信長の前に集まって来た。皆具足に陣羽織を着けてはいるがそれでもだった。
 息も絶え絶えだ、信長はその彼等に怒鳴った。
「馬鹿者共!何をやっておるか!」
「も、申し訳ありませぬ」
「朝倉の軍勢から目を離しておりました」
「僅かでも目を離すなと言ったであろう!」
 信長は馬を駆けさせながら彼等に怒鳴り続ける。皆馬を駆りながら申し訳なさそうにその雷を受けている。
「夜だからといってな!」
「は、はい」
「昼だけではなく」
「その様なことで戦に勝てると思うな!わしが出ねば気付かなかったであろう!」
「しかし殿」
 信長の雷が止まらないと見てだ、佐久間がここで信長に言った。
「我等もまた懸命に働いています、この度は失態ですがそれでも」
「その様なことはわかっておるわ!」
 佐久間のその声にも信長は怒鳴った、それでまた叫んだのだった。
「御主達のこともな、わしが何も出来ぬ者達を用いるか!」
「そ、それは」
「相手は誰じゃ!天下の名将じゃぞ!」
 朝倉宗滴、他ならぬ彼だというのだ。
「十分の力ではない、十二分の力が必要の相手ぞ!」
「だからですか」
「そうじゃ!普段の失態とは違う、相手を見て言うのじゃ!」
 こう佐久間にも言うのだった。
「わかったならば行け!牛助!」
「はい!」
 佐久間は己の名を呼ばれすぐに応えた。
「言うのならそれ以上の武を見せよ!御主が先陣を務めよ!」
「それがしがですか」
「その通りじゃ、すぐに朝倉の軍勢に向かい相手をせよ」
 先陣としてだ、そうしろというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
 佐久間は信長の言葉に畏まって応えた、そしてだった。
 すぐに己の軍勢を率いて朝倉の大軍に向かう、朝倉の軍勢は宗滴が再び兵をまとめたところだった。まさに半刻程度だった。
 だがその半刻の間にだ、織田の軍勢が突き進み。
 一気に槍を突き出した、まずはその長槍で。
 朝倉の軍勢を突き崩す、佐久間はその指揮を執りながら叫んでいた。
「よいか、相手は天下きっての名将ぞ」
「朝倉宗滴殿ですな」
「あの方ですな」
「迂闊だったわ、殿の申される通りじゃ」
 今になって気付いた、夜は油断していた己の迂闊さを。
「宗滴殿ならばうかうかしてはならぬ」
「ではここは」
「このままですな」
「このまま倒していけ」
 騎馬隊も進めさせている、そうしてだった。
「よいな」
「わかりました、それでは」
「このまま」
 兵達も応える、佐久間は今先陣として果敢に戦っていた。
 そしてその後ろに次々と織田の軍勢が来た、彼等は次々に朝倉の軍勢に襲い掛かってきていた。
 宗滴はその彼等に陣頭指揮で向かっていた、その中でだ。
 朝倉の重臣達は浮き足立っていた、それでその宗滴に口々に言った。
「ならん、ここはだ」
「断じてですか」
「逃げてはなりませんか」
「ここで踏ん張らねばどうする」
 こうまで言うのだった。
「お家は終わりぞ」
「は、はい。それでは」
「今は」
「皆槍を取れ」 
 宗滴自身もだった、槍を手にしていた。 
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