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戦国異伝

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第百四十二話 小谷城からその八

「さて、これで朝倉家の先は制したな」
「大獄山は越前から近江に入る道にありますからな」
「宗滴殿はあの山から来るつもりじゃった、しかしじゃ」
「そこを抑えれば」
「攻め落とさんとされる、しかしじゃ」
 だが、だというのだ。
「他の者は怯むな」
「そこがですか」
「しかしすぐに宗滴殿のお考えに賛成する」
 何と言っても宗滴は朝倉家の柱だ、その彼の言葉に従わない筈がないのだ。だがそれでも一瞬に、だというのだ。
「その賛成する間にじゃ」
「隙が出来ますか」
「そこを」
「その間に攻める。よいか、一瞬じゃ」
 信長はそこを強調した。
「朝倉の軍勢の動きが宗滴殿の下に戻る一瞬の間にじゃ」
「それは半刻もないでしょうか」
 前田がこう問うてきた。
「その時は」
「宗滴殿ならな」
 稀代の名将であり百戦錬磨の彼ならばだと、信長は前田のその問いに答えた。
「あるであろうな」
「左様ですか」
「わかったな、だからじゃ」
 信長は家臣達に念を押した。
「そこで一気に攻めて宗滴殿を倒してじゃ」
「そしてその勢いで一乗谷に雪崩れ込む」
「そうされるのですな」
「そういうことじゃ、ではな」
 ここまで話してだった、信長は諸将を前にして言った。
「朝倉の軍勢から常に目を離すでないぞ」
「では」
 諸将も信長の言葉に頷いて応える、そのうえで今は朝倉の軍勢の動きを見守っていた。
 昼に動きはなかった、それでだった。
 その彼等を見てだ、どの将も言うのだった。
「ふむ、今日は動きはないな」
「明日じゃな」
「夜は動くまい」
「奇襲の備えだけしておこうぞ」
 浅井のことを考えてそれは怠らなかった、だが彼等は夜は朝倉の軍勢から目を離したことは事実である。
 そしてその夜にだった、宗滴はその話を聞いたのだった。
 既に近江に入り虎御前山の近くに迫っている、その時に大獄山のことを聞いたのだ、それを聞いた宗滴はすぐに言った。
「では今より大獄山に向かうぞ」
「今よりですか」
「すぐに向かいますか」
「そうじゃ、そして攻め落とす」
 即断だった、この判断の速さは宗滴ならではだった。
 だがその断を聞いてだ、他の朝倉の将達は戸惑いながら言った。
「いえ、それは」
「今は夜ですぞ」
「兵達も寝ています」
「ですから」
「いや、攻めるべきだ」
 宗滴は戸惑う彼等に再び告げた。
「必ずな」
「夜でもですか」
「ここは」
「そうじゃ、全軍で攻めるぞ」
 宗滴と諸将の話が続いた、丁度進軍中だったのでそこに影響が出ていた。そして信長もそれを見ていた。
 信長の断も早かった、それで周りの者達に告げた。
「では行くぞ」
「朝倉の軍勢にですな」
「今よりですな」
「全軍で攻める、馬をもて」
 こう告げてそのうえでだった、信長は自ら馬に乗り直率する軍勢を連れて虎御前山から降りて朝倉の軍勢に一気に向かう、だが。 
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