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無の使い手

作者:カロカロ
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ブルー編
  強くなるために

 
前書き
この小説は需要が無い(`・ω・´) 

 
「あれ? ここは……」
「保健室ね。 あと、おはよう」
おはよう?
何があったんだっけ?
確か……
「あ……」
僕はすべてを思い出した。
東と戦ったこと。
そしてなすすべもなく負けたことを。
「そっか……負けたんだった」
「うん、そうだね」
すぐに和葉に肯定されて、すごく落ち込みそうになった。
そりゃ、ブルーの僕がカッコつけてレッドと戦って返り討ちにあった。
しかも、和葉の目の前(?)でだ。
恥ずかしくなってくる。
「身を呈してくれたのは嬉しかったよ。 これはそれのお礼ということで」
……え?
目の前に和葉の顔。
口に湿った感触。
頭が真っ白になった。
「それじゃあ、私は教室に戻るから」
和葉の後ろ姿を僕はただ目で追いかけることしかできなかった。

一時間目が終わったのか、チャイムが鳴り響く。
「そういや、僕はいつまでここにいればいいんだ?」
保健室を見渡す限り先生の姿は見えない。
無言で出て行くのも少し気が引けてしまう。
ここは先生を待つべきなのだろう。
そう考えていると
「うぃーっす」
そんな女性の声と共に、20歳くらいの女性が保険室に入ってきた。
保険の先生だろうか?
「おぉ、お前が入学初日からドンパチやった生徒かー。 そんな顔には見えないが、世の中わからんもんだなー」
「いや、ドンパチやったというか……成り行きでそうなったというか……ドンパチやられたというか……」
僕はわけのわからない言い訳をする。
「言い訳は寄せよー。 で、月波(つきなみ) (あゆむ)さんにでもじゃれつかれたのかー?」
誰だろうかそれは?
名前的には男性とも女性ともとれるが、今はそんなこと関係ない。
「僕が戦ったのは東……えと、武大だったかな?」
和葉が東の名前を行っていたのを思い出しながら言った。
「なに?」
そこで女性の顔と声が険しくなった。
予想と全然異なっていたのだろう。
「よく無事だったな。 奴の『既知』を防ぐには『未知』しかない。 能力否定などのような『既知』では、やつの『既知』はかき消せない」
そんなに危ない能力だったのか!
『既知』を操る能力者だとは思ったのだが、そんなにすごい能力だったとは思いもしなかった。
いや、そもそもレッドとはそういう存在なのかもしれない。
どんな理不尽さえただ「レッドだから」で納得させられてしまうような規格外。
「やつは多元宇宙……一次元的に宇宙が無限に連なった宇宙。 つまり、多重宇宙や並行宇宙といったものを掌握し、そこからの観測変化のMetaverseも操る。 レッドの中でも特に攻防の両方に特化した能力者だ」
そんなに凄い能力者と戦って生き残れたのだから、僕は少しは胸を張ってもいいのだろうか?
でも、負けたのは事実だし、勝っても胸を張るつもりも無い。

「そういえば自己紹介がまだだったなー。 私は能力進化を研究を専門をしている竜胆(りんどう) (こよみ)って言うんだー。 あ、櫻井君は自己紹介しなくていいよー。 私は生徒のこと記憶してるからー」
最初のように気の抜けた声で喋り始める。
先程までの真剣な声色はどこへといったのか。
二重人格ではあるまいし。
「櫻井君のクラスの担任でもあるんだよー」
一息ついて
「唐突に聞くけど、櫻井君は能力進化に興味ないかなー?」
本当に唐突だ。
話の筋がつかめない。
「櫻井君は東君の『既知』から死なずにここにいるからねー。 櫻井くんの能力は少なくともレッドクラスにはなると思うんだよねー」
竜胆先生は能力進化が専門だと言っていたし、もしかして興味を持ったのかもしれない。
「もちろん、能力進化のための特訓をやってもらう必要があるんだけどー、やってみるきはなぁい? もちろん、特訓やって能力性能が上がらない可能性だってあるけどねー」 
努力して能力性能が上がれば誰でも努力をするだろう。
才能というものもあるかもしれないが、それは違うと思っている。
例えば、子供の頃に憧れた役職に青年になった頃に就いたとしよう。
その仕事を60歳までやったとして、そのとき子供の頃のままの気持ちでその仕事をこなせているのだろか?
いないとは言えないだろうが、それは少数の人間だろう。
そして、それが出来ることこそ才能なのだと思っている。
今はそんな話は置いておき
「……やりたいです」
僕は間違いなく負けた。
悔しかった。
負けた事ではなく、親しい誰かを守れないことが悔しかった。
だから、強くなりたいと思った。
親しい誰かを守れるぐらいには。
「決まりだねー。 なら、放課後にここへ来てねー。 さっそくやるからー」
「わかりました」
僕はこの時、親しい誰かを守るために強くなろうと決意した。

時間が経つのが早く感じられた。
ボーッとしていたわけではない。
たまに時間が早く感じられるときがあるだろう。
今日はそのような日だっただけだ。
放課後、保健室へと向かう。
「失礼します。 竜胆先生来ましたよ?」
「きたか。 ついてこい」
軽い感じではなく、はっきりした口調で話す。
このギャップはちょっと慣れる必要があるかもしれない。
保健室からでて右を真っ直ぐ歩くと赤い扉があるところで歩みがとまった。
「ここだ。 この中には櫻井君だけが入るんだ。 扉を閉めれば特訓が始まる。 死ぬなよ」
「死ぬような特訓なわけですか……」
鉄球などがあるのだろうか?
もしかしたら矢が降ってくるのかもしれない。
「さて、何が出るのか」
僕は教室に入ると赤い扉を閉めた。

最初は暖かいと感じた。
それが段々熱くなり始める。
まさか……
「この部屋、段々熱くなるのか?」
「熱くなるだけじゃないんだよな。 これが」
男の声がした。
そして次の瞬間、部屋の中に業火が発生した。
「この部屋はさ、俺の炎によって温度は無限に上昇するだよ。 しかもこの炎はただの炎じゃない。 命を燃やし、精神を燃やし、魂を燃やす」
僕は脱力感を覚えた。
精神を燃やされ、やる気が削がれていっているのだ。
「さあ、一戦交えようぜ! 何もしないままでいるのは退屈だろ!」
業火が吹き出した。
それに合わせて僕は業火を無に還した。
それはいいのだが、部屋の温度がどんどん上がり汗が流れる。
このままでは炎で焼け死ぬ前に脱水症状で死ぬかもしれない。
いや、もしかしたら温度で蒸発する方が先かもしれない。
どちらにせよ、このままではこちらが死ぬことは明白。
やる気が残っているうちに、精神をどうにかしたい。
下手すれば発狂死だってありえる。
命をどうにかしたい。
このままでは寿命が燃え尽きてしまう。
魂をどうにかしたい。
このままでは焼き尽くされてしまう。
「無に還れ!」
僕は炎を、その効果を無に還した。
しかし
「無駄なんだよ。 俺の能力が使えなくなるわけじゃないからな」
再び業火が部屋を包む。
「なら!」
男を無に還えす。
だがそれでも
「無駄だってわかってるだろ! 炎そのものが俺で、俺が炎でもある。 この世に炎があるのなら、俺は何度だって復活できるんだよ!」
制服についた黄色いバッチが目に入る。
イエロー。
僕はそこまで行けるのだろうか?
いや、行くしかない。
僕は意識を拡散していく。

そこには何も無い。
0ではない。0は0の形がある。
だけどここには何も無い。
これは果たして無なのだろうか?
相対的な無ではなく、もっと別の無がそこにはある。
果たしてそれは無と呼べるのだろうか?
僕はそんなものは知らない。
だけど、その一端を掴めたような気がした。

「完全に無に還れ!」
それは完全消滅だった。
命を、精神を、魂を、時間を、歴史を、能力を、因果律からさえ完全に無に還す。
例えそれが、影だろうと、概念だろうと、形のないものでさえ完全消滅させる。
各して部屋の業火は収まった。
一人の生徒を犠牲にして……。

僕は教室から出ると意気消沈していた。
一人の人間を殺してしまった。
その事実が消えるわけではない。
僕は心の整理をつけたかった。
これから幾人かの人間を殺すことになるだろう。
それだけの覚悟と心の整理を。
「やはり堪えるか……。 櫻井君」
「……なんでしょう?」
「運動場へ行け。 そこで月波進さんに会え」
確か、竜胆先生が言っていた生徒だったか?
なぜ会う必要があるのだろうか?
僕のそんな疑問を見透かすように
「会えばわかる。 会えばな」
竜胆先生が会えと言っているのだから、何かしらの意味があるのだろう。
僕はゆっくりと運動場へと向かった。

そこには一人の女生徒が運動服でグランドを駆けていた。
しっかりとした足取りで、速く、ただひたすらに駆け抜けていた。
視線が釘付けとなる。
綺麗だと感じた。
華麗だと感じた。
そしてなにより、真っ直ぐだと感じだ。
やがて女生徒は走り終えたのか歩き初め呼吸を整える。
確か、運動後はちょっと歩いたほうが呼吸が整い体力回復に繋がるのだったか?
そして僕に気づいたようで目を輝かせて走ってくる。
「もしかして陸上見学の人!?」
どうやら彼女は陸上部なのか、僕をその見学だと間違ったらしい。
「いや、えーと……月波進さんに会いに来たんだけど……」
「それ私だよ? やっぱり陸上部入部!?」
どうやらこの女生徒が月波進さんだったらしい。
赤紫色のショートヘア。
黄色く済んだ瞳。
運動服の上からでもわかる、若干の膨らみ。
それが月波の容姿だ。
「いや、竜胆先生が会えって。 会えばわかるって言ってた」
「竜胆先生が?」
一瞬残念な顔を浮かべた月波だが、すぐに顔を戻しそう訊ねてきた。
「うん」
「う~ん……なんでだろう。 もしかして、私の能力(いきざま)をあてにしたのかな?」
能力(いきざま)
確か、この世界には先天性と後天性の能力者がいるが、9割以上の能力者は先天性だと習った事がある。
そして、残りの1割にも満たないレッドよりも希少な後天性能力者。
無能力と産まれたはずの人間が、この世の理の流れを超えるような意志を持ったとき後天性能力者は生まれる。
○○でいたい。
○○でありたい。
○○であってほしい。
そんな覇道が、求道が、能力となる。
ならば月並みは後天性能力者で、その生き様こそが能力になったモノ。
ゆえに能力(いきざま)
「それで何があったの?」
「それが……」
今までの経緯を話した。
「難しいことは私にはわからないけど、突き進むしかないんじゃない? 少なくとも私にはそれぐらいしかできないから」
「僕には難しいよ。 迷わず突き進むのはさ」
「迷いながらでもいいと思う。 ゆくりでもいいと思う。 突き進むことが一番大事だと、私は思うな」
言葉で言うのは簡単だが、実行に移すのは難しい。
僕に果たしてそれができるのだろうか?
「一人で進むのが難しいなら、私が背中を押してあげるから」
軽く背中を押される。
少しだけ、僕の気持ちが前に進めたような気がした。
「どう?」
「……あとは一人でどうにかなると思う。 ありがとう、背中を押してくれて」
「私にはこれぐらいしかできないから」
大丈夫。
ゆっくりだけど前に進める気がした。
「また、来てもいいかな?」
「うん。 こんな私で元気が出るならね」
こうして、長いようで短い一日が終わった。 
 

 
後書き
月並みの能力の伏線を残しつつ次回に
単純だけど、とても強い能力なっているので楽しみに
 
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