ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
狂った者達
ズッ、とレンの小柄な体躯が大きくなったような気がした。
いや、それは違うか。俺の目がおかしくなっているだけなのか。
俺こと、スプリガンの黒衣の剣士キリトは、元いた世界樹近くの座標から数キロほども離れている露店に頭から突っ込んでいた。
店を全損させられた店主NPCが何かわめいているが、俺の耳や視覚は大勢の小鳥でぴーちくぱーちく埋め尽くされている。
咳き込みながら、平衡感覚が歪んでいる足でふらふらと立ち上がるが、ぐわんぐわんと視界は揺れている。
だがそれでも、俺は手の中を見る。そこに、先刻掴んだ銀色のカードがしっかりと握られているのを見、ほっと胸を撫で下ろした。
次いで、慌てて胸ポケットを見る。
「ユイ、無事か!?」
「う、うぅ~、眼が回りましたぁ」
小妖精は言葉通り目をぐるぐる回しながら、しゃらんという軽やかな音とともに宙に浮き上がった。その動作に、再度安心しながらキリトはカードを大事に、丁寧に懐に入れる。
そこまでやった時、やっと俺は然るべき反応を見せた。
遥か遠くの上空、その空に浮かぶ三つの人影。二つの人影が、戸惑ったように一つの影にすがり付いている。
その、一つの人影。
陽炎のように、その背後の空間が揺らいでいるのが分かる。
頬に吹き付けてくる灼熱の疾風は、怒気だろうか。いや、と俺は否定する。
それは、狂気。
全てを否定し
全てを拒絶し
全てを跳ね除け
全てを撥ね退ける。
あの少女をを助ける、それだけのためにあの少女はあそこまで堕ちた。
狂気に、身を任せた。
「レン……。お前はそこまで………」
どうしようもないくらいの悲しみが、胸中で渦巻く。あるのは、取り返しのつかない事をしたという悔恨の念。それをまとめて振り払うように、俺は背から音高く愛剣を抜剣した。
「ユイ、隠れてろ!」
そう言い、視界の端っこでユイが大きく頷いて胸ポケットに入り込むのを確認した上で、俺はヴン、ヴヴンと棒術のように大剣を回転させ、その切っ先をぴたりと数瞬前まで自らがいた場所に向ける。
そうして俺は
「六王第三席、《黒の剣士》キリト!奪ってみせろ!!」
高らかに宣言した。
狼狽するカグラとリーファの声を聞き流しながら、レンは索敵スキルによって限界まで広げられた望遠視界の中で、キリトがこちらに向けて宣戦布告をしたのをはっきりと見ていた。
口元に浮かぶのは、はっきりとした笑み。
自分が狂っているのは分かっている。
分かりすぎるくらいに、解っている。
「レン君!何であれを奪い合わなきゃいけないの!?みんなで使えばいいじゃない!」
「そうです、レン!争う必要など、どこにも────」
制止の声を掛けるカグラとリーファ。
だが、それをまるごと押し潰すほどの、鬼神のごとき声で、レンは叫び返す。
「あれが一人だけしか通過できない物だったら!?アスナねーちゃんとマイ、どっちかしか選べなかったら!?キリトにーちゃんはきっと、アスナねーちゃんを選ぶ!!そうだ!絶対そうだ!!」
無茶苦茶だ、とレンは思う。
自分が言っているのは、ただの仮定の話だけでしかない。
だが、そんな小さな可能性でも、レンは信じられない。いや、信じたくない。
カグラとリーファの眼が見開かれる。リーファに至っては、狂気に当てられたのか、身体が小刻みに震えている。
口角が引き千切れたように持ち上がる。
その表情に、ハッと気が付いたようにカグラが慌てて近寄ってくる。
「いけません、レン!それだけは!!」
ゴッ!!
音が炸裂した。
真っ黒な恒星のような、漆黒の光が溢れ出た。
それはみる間に空間を侵食し、因果律を喰い尽くし始める。
ボッ、ボッ、ボッ、と蝋燭の火が灯るような音が断続的に響く。レンの周囲にの空間に、黒い銛が何本も、何十本も出現した。
「魔女狩《空隙》」
ミサイルのように、銛が勢いよく突撃する。それに追うように、小柄な身体が飛び出す。レン!とその背中に声が掛かるが、無視する。
「六王第三席《冥界の覇王》レンホウ!奪ってみせる!!」
二人の勇者が、激突した。
激突の余波は、アルンの美しい街並みを少なくない規模で壊した。
竜巻でも起こったかのように、プレイヤーやNPCが宙に巻き上げられ、引き裂かれていく。
キリトの大剣が眩いばかりの白と黒の過剰光が包み込み、振るわれる。
レンの放った心意技は全て、霧となって雲散霧消した。
───予想以上に強い………!
ギュラッ、という重めの金属音とともにワイヤーが空中に広がり、それを漆黒の過剰光が包み込む。それが意思を持った蛇のように、狼のように空を走り抜け、攻撃対象に襲い掛かる。
「はっ、あああぁぁぁぁっっっ!!!《奪命撃》ッッ!!」
真紅の光が眼を焼き、巨大な鉄杭というべきものがレンのワイヤーを蹴散らしながら向かってくる。
それをレンは、身体全体に目一杯の力を込め、ひねるようにして回避した。頬に掠ったエネルギーが熱感として痛覚を苛む。
「魔女狩《断罪》!!」
ゾン、と弾かれたワイヤーに目を見張るほどの黒き光が集まる。その先端が蠢いて空間を引き裂き、地を割りながら一人の剣士へと走る。
だが、その脇をすり抜け、神速の勢いで肉薄したキリトは躊躇いなく巨剣を振るっていた。
ゴッッッ!!
鈍い音がし、吹き飛ばされる小柄な身体。
レンは空中で翅を広げ、急制動を掛けた。そのまま、両腕を振るう。ちょうどキリトを両側から、ハサミで挟むようにしてワイヤーが振るわれる。
ベキメキ、と空間が震える。
世界を真っ二つにするかと思えるほどの一撃をキリトは無謀にも、巨剣を真横にし、つっかえ棒でもするかのように止めた。
だがその防御方法は剣のキャパシティーを完全に振り切っていたようで、すぐさま艶やかなクロムシルバーのその表面が決して穏やかではない音を立てる。
「切り裂け!」
レンが高らかに叫ぶが、それを無視してキリトは剣を引っこ抜く。すぐさま閉じようとする細きワイヤーのハサミの攻撃範囲外に巧みに躍り出て、再びの接近を試みる。
それをレンは真っ向から受け止めた。
世界から音が消え、そして剥ぎ取られた。
地殻が宙に浮き上がり、眼下の街が崩壊し始める。道という道の舗装にヒビが入り始め、家屋が玩具のように損壊していく。
レンが開けた空間の割れ目が広がり始め、さながらブラックホールのような様相を醸し出す。
目と鼻が付きそうな近距離で、両者は見つめあう。
「さすが、僕の後釜に納まっただけはあるねぇ。いい心意強度だ」
「そりゃどー」
も、とキリトが言う前に、キリトは身体を反転させて己の背後を斬りつけていた。
そこには、システム外スキル《地走り》を使用し、瞬間移動のように現れ、今にも凶刃を振り下ろそうとしていたレンがいた。
キリトの振るった刃は、そのワイヤーに真っ向から激突した。
再度の衝撃。
央都であるアルンの街は、地震にでもあったかのような光景になってしまっている。あちこちで黒煙が上がり、火の手さえも上がっているという地獄絵図だった。
それを、二人の勇者は無視する。
一瞬でも相手から視線を逸らしたら、絶命すると解っているから。
無視する。
「おあああああああぁあっぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!」
「があああああああぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁっっっっ!!!!!」
渾身の力で、互いを押し合おうとする。
完全に拮抗するその力は、因果律さえも浸食し、自壊させていく。
そんな二人の間にふわりと雪のように舞い落ちる────
白き火の粉。
それが収縮し、爆発した。
アルンの空に、美しい炎の大火が現れる。
その業火の果実の真反対から、炎の尾を引きつつ飛び出す二つの人影。
「………どういうつもりだ、カグラ」
地獄の底から響いてくるようなその声に、巫女服を着たカグラは一瞬肩を震わせるが、すぐさま白く白熱した《冬桜》を振り、その切っ先を真っ直ぐにレンに向けた。
「落ち着いてください、お二方。これ以上街に被害を出すようなら、私が相手をすることになります」
リィン、と刀身が長く造られた大太刀が涼やかな音色を奏でる。
その音をまとめて呑み込むように、ぎょろりとレンは血走った眼をカグラに向けた。
ゾッ、と背筋に怖気が走った。
みる間に、空間が、場が、レンという一個人の存在感と圧力に耐えられなくなってくる。ゆら、と様々の物の輪郭が歪みだしてくる。
溢れ出してくるのは、明確な敵意。
圧倒的な拒絶の意が、カグラの、キリトの足を竦ませていた。
瞬間、耳をつんざくほどの轟音がアルン全体に響き渡った。
まだ無事だった建築物のガラスが、儚い音を立てて破砕した。その欠片が、さながら豪雨のように人々の頭上に降りかかる。
レンの一撃を真正面から受け止めたカグラの身体がぐらりと揺れる。その背後に、波紋状に衝撃波の波が飛ぶ。それは遥か彼方に浮かぶ積乱雲の塊に容易く穴を開けた。
ぎり、ぎりり、という鈍い金属音が響く硬直時間が訪れたのは数秒だった。
重低音が耳朶を震わせ、カグラの身体が弾丸のように吹き飛ばされた。
キリトは全力で肩甲骨を震わせ、空気を叩く。顔に一瞬の圧力が掛かり、彼女の細く長い身体が両腕の中にふわりと納まり、甘い香りが鼻孔をくすぐったのと同時に、凄まじい運動ベクトルが腕を肩口から引っこ抜くほどの衝撃を伝えてきた。
「ぐうぅっっ…………ぁあっ!!」
もはや街というよりただの瓦礫の山と化してしまっているアルン中央街付近に突っ込むのを、キリトはカグラを抱えたまま何とか堪えた。システム以上の運動信号を与えられた背中の翅の先が、空気との摩擦で戦闘航空機のように白煙をたなびかせる。
「大丈夫ですか!カグラさん!!」
半ば叫ぶように訊くと、気を失っているかのように眼を瞑っていたカグラは目蓋を震わせながら薄く開け、その口許から触れたら切れそうなほどに弱々しい言葉を紡ぎ出す。
「だい…じょ………です。…………きり、と」
「はい」
「彼を……レンを、助けてください。彼…は、迷っているのです。道に……、闇に……、全てに」
「…………………………」
キリトは静かに翅を震わせ、降下をし始めた。
ぺしゃんこになっている平屋の屋根の上に足を乗せる。
少し硬くて冷たいかもしれないが、そこには眼を瞑っていただきたい。屋根の上にカグラを横たわらせながら、キリトは手の大剣を軽く振り払い、背に吊り下げている鞘に納めた。
そのまま空になった右手を、横に真っ直ぐ伸ばした。
そこに、白き過剰光が集まる。空間が歪み、光が輪郭を保ち始めた。
柄が
鍔が
刀身が出来上がる。
キリトがそれを握った時には、そこにはエネルギーの塊としか表現できない一本の片手直剣ができあがっていた。
「《潔白》」
ヴィイイィン、と周囲の空気を焦がさんばかりのエネルギーが放たれる。瓦礫が少しだけ持ち上がり、端から粉と化してくる。
キリトは手の中に新たに発現した白き直剣を左手に持ち替えた。バシィッ、という軽い音が響き渡る。
「任せとけ!!」
キリトは高らかに宣言した。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「むぅ、完全にトチ狂った人になってるな、僕」
なべさん「うん、そりゃそうだ。そんな風に書いたんだから」
レン「………………………………」
なべさん「………………………」
レン「もっと主人公させろ!」バキッ☆
なべさん「理不尽!?」
レン「どこの世界にここまで狂う主人公がいる!?」
なべさん「いないから書きたくなってくるんじゃないか!その幻想をぶち殺す!」
レン「とあるを乱用するんじゃありません!」
なべさん「まぁこの場合、壊されてるのはアルンの街なんだけどね♪」
レン「上手いことを言おうとすんな!上手くないから」
なべさん「……………………4949」
レン「…………はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
──To be continued──
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