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京に舞う鬼

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第三章


第三章

「知っていたか」
「はい。若しかしたらここに来るかも知れないと思っていました」
「ほう」
「それが今日でしたか」
「それは予想していたかね?」
「いえ、そこまでは」
 彼は応えながら部屋の中に入って来た。そして本郷の横に座る。
「そしてその事件の解決を依頼しに来られたのですね」
「うん」
 警部はそれに頷いた。
「うちの本部からね」
「府警からですか」
「直々にだ。といってもここで起こる事件はいつもそうだがな」
「府警はいつもそうですね」
 本郷はそれを聞いて笑ってこう言った。
「こうしたやばい事件は。いつも俺達の仕事だ」
「だがそれだからこそ君達も生きていけてるんじゃないのかい?」
 警部も笑って言葉を返す。
「少なくとも。損はさせていないつもりだが」
「そりゃ命かけてますから」
 本郷は笑ったまままた言葉を返した。
「この仕事はマジで一歩間違えたらやばいですからね」
「そうだな」
 これには警部も頷いた。
「狼男とも戦ったことがあるそうだな」
「他には吸血鬼とか悪霊とかね」
「一歩間違えたらどころではないな」
「首持ってかれますからね」
「ううむ」
「で、今度は本当に首だけだったと」
「それでその被害者は誰だったんですか?」
「地元の女子高校生だ」
「地元・・・・・・ってことは」
「そう、この街の娘だ」
 警部は言った。
「さる旧家の。お嬢様だったらしい」
「そうですか」
 それを聞いた役の顔が暗くなった。
「まだ若いというのに」
「その若い女の子の首を切り取って血を抜いたんですよね」
「どうやらな」
「人間の場合にしろそうじゃない場合にしろ。とんでもない奴ですね、犯人は」
「だからこそ君達に頼みたい」
 警部はここで強い声を出してきた。
「捜査費用もこちらで持つ。報酬とは別に」
「気前がいいですね」
「それだけ危険な仕事だからな。これもいつものことだと思うが」
「ええ」
 それに役が頷いた。
「今回の事件も。また魔性を感じます」
 そして静かにこう述べた。
「それならば」
「頼むぞ」
「はい。そろそろ京都は祭がはじまります」
 京都で祭と言えば祇園祭である。その他の祭とは全く格が違う。特別な祭である。
「そしてそれと共に街は賑やかになり」
「人間でない連中も出て来ると。そう言いたいのだな」
「はい」
 警部のその言葉に静かに応えた。
「この時期は特にね」
「まあ人間の世界でもそうだしな」
「それと同じです。あちらの世界からもやって来るのです」
「こちらは祇園祭の関係で人は割けない。申し訳ないが」
「いえ、それは構いません」
「そうか」
「私と」
「俺だけで充分ですよ。まあ任せといて下さい」
「君に言われると何か不安になるな」
「ちぇっ、信用がないなあ」
「仕方ないさ。キャラクターの問題だ」
「それだけですか?」
「それ以上言うのは京都人としてのマナーに欠けるのでね」
「言わないってわけですか」
「悪く思わないでくれよ」
「って言ってるじゃないですか」
「わかっていないな。まともに口に出して言わない限り言ったことにはならないのだよ」
 警部はシニカルに笑って述べた。確かにそれが京都の流儀であった。
 よくぶぶづけというものが出て来る。これを食べて行け、と。この言葉は素直に受け取ってはいけない。この言葉は早く帰れという意味である。
 他にも結構ある。嫌な客が早く帰るようにというおまじないもある。とかく京都人というのはそうした言外に言葉を仕入れるものなのである。これが京都の流儀であった。
 この警部も中々人が悪い。中々どころではないかも知れない。しかしこれも京都の流儀であった。それが本郷には少し面白くはなかった。
「何かねえ」
 警部が帰った後彼は早速調査を開始した。役と二人で街に出たのである。向かう先はその首が見つかった寺である。
「俺やっぱりここに馴染めません」
「その言葉も何度目かな」
 役はたまりかねたような言葉を言う本郷に対してこう返した。その表情は全く変わってはいなかった。
「そんなにこの街が合わないか?」
「夏は暑いですし」
 このうだるような暑さを感じながら言った。
「冬は寒い。美味いものは高い金を出しても一見さんじゃお断り」
「それは私というから特に困ってはいないと思うが」
「まあ食べ物に関しては」
 それはとりあえずは引っ込めた。
「けれど何か」
「都人というのはそういうものさ」
 彼は言った。
「特に気にすることじゃない。あの警部さんには色々とよくしてもらってもいるだろう?」
「まあ確かに」
「実際は君のことも信頼しているさ。そうでなければわざわざ仕事を頼みには来ない」
「はあ」
「そこを見切るのも都人なんだ。それが京都というものさ」
「そんなもんですかね」
「それにこの街は厭きないだろう」
「まあそうですね」
 それには頷くものがあった。
「こうした仕事も来ますし」
「そうだな。今回の仕事だが」
「やっぱりあれですかね」
 本郷は言った。
「魔物でしょうか」
「可能性は高いな」
 役は相変わらず表情を変えながら述べた。
「首に血が一滴もないとなると」
「ですよね。問題はその血をどうしたか」
「とりあえずはそのお寺に向かおう」
「ええ」
「それから全てがはじまる。まずはそれからだ」
「わかりました」
 こうして二人はその首があった寺に向かった。そして早速聞き込みを開始した。
 
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