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京に舞う鬼

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第二十二章


第二十二章

『着きましたよ』
 本郷が食べたのはカップヌードルのビッグだった。それと炒飯弁当、それにサンドイッチとジュースを食べ終えて満足した声で貴子に話し掛けた。
『そうですか』
『今丁度渡月橋のところです』
『そこですか』
『はい、ここからどう行けばいいですか?』
『御髪神社の方です』
 貴子は答えた。
『御髪神社ですか』
『そうです、その近くにあります』
『どんな別邸ですか?』
『和風です』
 貴子は答えた。
『屋敷です』
『屋敷』
『そうです。そこにも花が咲き誇っています』
『四季の花が』
『これだけ言えばおわかりでしょうか』
『いえ、もう少しヒントを』
 だが本郷はもっとヒントを要求してきた。
『今のだけじゃちょっとわかりにくいです』
『そうですか』
『ええ。何か、他にありませんか。表札とか』
『それでしたら』
 貴子はそれに応えてきた。
『門が。赤門です』
『赤門』
『そうです。朱で塗っています。おそらくそれでおわかりかと』
『表札はないのですね』
『ええ』
 貴子はその質問にも答えた。
『隠れて落ち着く為の場所ですので』
『わかりました。それでは』
『朱の門の前まで来たらまた』
『お願いします』
 三人は話を止めた。本郷と役は話を終えると顔を見合わせた。
「まずはこれでおおよその場所と特徴はわかりましたね」
「そうだな」
 役もそれに頷く。
「まずはこれでよしだ」
「その赤門の奥に鬼がいる」
「用意はいいか、本郷君」
「勿論ですよ」
 役の問いに不敵に返す。
「やってやりますよ、今度こそ」
「今度は鬼の考えが読める」
「けれどそれを悟られることなく、ですね」
「そういうことだ。ではな」
「はい」
 本郷は頷いた。そして役と二人で御髪神社の方に向かった。そこに辿り着いた時にはもう日は暮れ、夜の帳が嵐山を支配しようとしていた。二人はその中で赤門を探していた。
「赤門は、と」
「こっちだな」
 役が式神達を受け取って言った。
「こっちの方にあるらしい」
「そっちですか」
 本郷は役が指差した方を見た。そこは暗闇の中に消えていく道が一条あるだけであった。
「そうだ」
「見たところ何もなさそうですけれどね」
 左右にある筈の邸宅や寺社も闇の中に消えて碌に見えはしない。昼に普通に見える世界とは全く違っていた。そこは夜の世界であった。人の世界ではないのだ。
「だが確かにそこにある」
「わかってますよ」
 実はそれは本郷もわかっていた。
「何かね、感じますから」
「感じているのか?」
「ええ、妖気をね」
 笑みが不敵なものになっていた。
「嫌になる程。ここまで凄いのは滅多にないですよ」
「そうか、感じるのか」
「役さんは感じませんか?」
「君程ではないがな」
 役もそれを感じていないわけではないではないのだ。
「やはり。感じる」
「やっぱりそうですか」
「昨日よりもな」
「ですね」
「考えが読めても。一瞬反応が遅れれば」
「やられるのは俺達です」
「そして竜華院さんもな」
「責任重大ですね」
「だが。それでもいいな」
「今更、ってやつですね」
 本郷の笑みは変わらなかった。
「この仕事をはじめてから。覚悟は決めていますよ」
「よし、では迷いはないな」
「行きますか」
「ああ」
 二人は同時に前に出た。一歩闇の中に踏み出す。
 そのまま前へ進んでいく。闇は先へ進むごとに深く、暗くなっていく。
 だがそれでも二人は先へ進んだ。魔を倒す為に。彼等は前に進むのであった。
 妖気は徐々に強くなっていく。やがてそれが二人を退けんばかりにまでなってきた。
「あれだ」
 役はすぐ前にある門を指差した。闇の中に赤い門が浮かび上がっている。
「あれですね」
「そうだ、間違いない」
 妖気もここで最も強くなっていた。それに貴子の言葉通り赤門である。この二つが何よりの証拠であった。
「あの赤い門だ」
「しかし」
「何だ?」
 役は本郷の言葉を目を向けさせた。
「何かあるのか?」
「あの赤ですけれど」
「うん」
「あれ、朱じゃないですよね」
「!?」
「朱にしては。やけに生々しい赤じゃないですか。まるで生きているものを使ったみたいに」
「血か」
「多分そうでしょうね」
 門を見る本郷の顔が険しくなっていた。
「今までの犠牲者の血だな」
「道理で血が殆ど残っていない筈ですよ」
「門を赤くするのに使うとはな」
「これも。芸術だって思ってるんでしょうね。とんでもない奴ですよ」
「だが我々は今からそのとんでもない奴の相手をする」
 役は門を見据えたまま言った。
「この門を染めている少女達の為にも」
 二人は門の前に来た。そしてそこをくぐった。今二人は魔界に入ったのであった。
 
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