ゲルググSEED DESTINY
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第六十五話 瓦解する最中に
「はいよっと、全くミラージュコロイドで隠れてるって言ってもこんな敵に囲まれた状況で戦うなんざ怖くてやってられねえな」
そう言いながら一機のザクをアームで潰し、敵に捕捉されないようにアームで吹き飛ばす反動やアンカーを使い移動を続ける。周りのNダガーNも同様の行動を取っている筈だが、通信は傍受の危険性を考慮してまともに取れず、接触回線に関してもお互いにミラージュコロイドで隠れている以上まともに接触することなど出来ないだろう。
「さて、合流地点に辿り着くまであいつ等生き残ってるのかね?」
ダナはNダガーNのパイロットたちに対して一応最低限度気に掛けつつ、指定した合流地点までたどり着く。この場所で戦力の確認と現状の把握を予定するために合流する予定だったのだが、ダナ以外に辿り着いた味方はどうやらまだいないらしい。
「ヘマでもしたのか?あれだけ敵陣で攻撃を仕掛けるんだから気を付けろって言ったんだけどな」
他のパイロットの生死を気にした様子も見せず彼は指定時刻まで一応待機しておく。すると、何とか帰還できたのであろう一機がミラージュコロイドを展開させたまま合流地点のデブリに着地した。着地した振動で来たことを察知したダナはミラージュコロイドを部分的に解除し、直接相手に視界通信を行う。
「よう、どうやら無事だったみてえだな。時間通りに帰還できたのはあんただけだぜ」
『ダナ中尉ですか……ええ、何とか逃げ切れましたよ。敵に一度発見されかかったときは冷や汗をかきましたけどね』
視界通信とはいえ通信を続けると敵に目視で発見される可能性があると判断したNダガーNのパイロットとダナはネロブリッツの位置を確認し、直接機体に触れて接触回線に切り替える。
『ダナ中尉――――予定時刻になっても他の部隊が現れない所を見るに落とされたと思うべきでしょうか?戦闘も先程近くで幾つかあったようですし……このままでは予測していたほどこちらに気を引くことが出来ない可能性が――――』
「あー、いいのいいの。別にそんな事どうでもいいんだよ。出来ようが出来まいがどっちだって構わないさ」
『は?ですがそれではロアノーク大佐らが突破できないまま母艦が落とされる可能性が……』
突然のダナの発言にNダガーNのパイロットは訝しむ。一体何を言い出すのだと――――ここで足止め、というよりも敵の気を引いて戦力を分散させないといけないのだ。そうしなければ作戦の成功率はさらに下がり、ネオ達が全滅することになる。それをどうでもいいと言ったのだ。何か理由があるのかと考えていると、ダナはそれに対する答えを言った。
「お前さ、本気でこのコロニーレーザー制圧できるとでも思ってるわけ?」
意地の悪い笑みを浮かべながらダナはそんな事を言いだす。その言葉に驚愕してしまう。確かに成功率は低いのは事実だし、難しいことは事前に理解していたことだ。だが、だからといって味方を切り捨てると言うのかとそんな思いが出てくる。
「大体な、仮に制圧できても意味有ると思ってるの?」
『ダナ中尉、それは一体どういう事ですか……』
「ばっかだな、コロニーレーザーが元々連合の手にあったからって本当にあっさりと制圧できると思えてんのか?破壊するっていうならまだわかるぜ、破壊すればいいポイント自体はわかってるんだからな」
ダナは呆れたようにNダガーNのパイロットに対してそう言い放ち、パイロットはますます苛立ちを募らせる。何が言いたいと言うのだ彼は。
「だが、ザフトがセキュリティをそのままにしてるって言えるか?大体奪えてどこ狙うよ?今のこの位置からじゃあプラントは狙えねえぜ」
そこまで言われて初めて気付く。コロニーレーザーを制圧する。それはコロニーレーザーの管理をしている場所でデータを打ち込んでコントロールを奪うという事。その為のデータ自体は存在しているがザフトが果たして何の対策もせずに連合が使っていた時のままに放置していると言うのか?とはいえ、そちらに関しては時間さえかければ制圧出来るはず。成功率はさらに下がることになるが出来ないという事はだろう。
しかし、今のコロニーレーザーの存在する位置。L2にほど近い位置に存在しているが、プラントを狙うには角度的に月が邪魔をしてしまい狙うことなどできないのだ。それを彼は今初めて知らされた。
――――つまり、始めから彼らは成功しようが失敗しようが詰んでいるのだ。
『何故、そのことを言わなかったんですか……』
言うタイミングなどいくらでもあったはずだ。警告として言う事も、その上で何故そのことを何故一士官でしかないダナがそのようなことを知っているのか?そもそもそういった情報をネオ達が知らないとは思えない。なのに何故?
「ああ、何でって事?そりゃ簡単だよ。言わなかったのは言ったら面倒になるからだ。それで俺が知っててロアノークが知らない理由は――――」
――――全部、俺が仕込んだことだからだよ――――
一瞬、何を言われたのか分からない。思考が停止する。仕込んだ……何のために?しかし、その疑問が解消されることはなかった。何故なら、彼はこの場で消されることになるからだ。
「ま、俺一人で全部できるはずもないけどな――――協力者ってのは案外役に立つもんだぜ?」
彼がその発言をした次の瞬間、ネロブリッツのアームがNダガーNを掴みとる。いきなりの不意打ちに碌な抵抗が出来ないまま捉えられた。そして、そのままNダガーNが装備している対艦刀を態々抜き取り、それを使ってコックピットを貫いた。
「ま、証言者残すわけにもいかねえし、かと言って派手な殺し方したらザフトの奴等に気付かれるからな。これで死んでおけや」
歪な笑みを消さないまま、彼は先程殺した自分の部隊のパイロットのことなどもう忘れたかのように再び戦場を移動し始めた。
◇
「やはりこちらに来たか、予定通りだな」
プラント近くまでたどり着いた連合艦隊を前に機体に乗り込んで準備を整えていた議長はそう呟く。
『議長、言っておきますが俺に期待しないでくださいね。冗談でもなく誇張でもなくパイロットとしての純粋な実力なら議長の方が上なんですから』
クラウが言うその言葉に偽りはない。元々隠し事をしても致命的な嘘をつくようなタイプではないクラウの発言から事実だろうと議長自身も判断する。尤も、自分の実力に自信を持っていることは隠しようもない事なのでクラウに言われるまでもない話なのだが。
「フッ、それは言い過ぎではないかね?君の実力はそういった単純な戦闘技能で測れるものではないだろうに」
とはいえ確かにシミュレーションでは彼の実力よりも自身の方が上だという自負はあるが、議長はクラウを過小評価しているわけではない。クラウの本職が技術者であることからそれは当たり前と言えることだ。
『そうですか……俺としては過剰な評価だと思いますけどね』
「私はそうは思っていないよ。では先に出撃させてもらう。ギルバート・デュランダル、ノイエ・ジールⅡ――――出るぞ!」
そう言って出撃したのは赤、というよりも赤紫に近いカラーが施されたMAであった。連合に故意に流した情報によって造られ、ロゴスを相手にするために連合を離反した部隊が持ってきた機体だ。尤も、その離反は議長の手によって元々予定されていたもの、つまりスパイだったということなのだが。
ともかく、連合が持ってきたこの機体を最終的に仕上げたのは技術を持っていたクラウ自身だが、ノイエ・ジールⅡは大型のMAに見合わず、高性能な機体でありエースに相応しい機体のスペックを保持していると断言できる。そのピーキーな性能のせいでザフトでの開発はなかったものの、使いこなせるパイロットによって操縦された場合、その機体は圧倒的ともいえる性能を誇っていた。そして、議長はこの機体を使いこなせるエースクラスのパイロットである。
『あの機体は何だ!?』
『MAはこっちの領分だろ!ザムザザーでも何でもいい!アイツを止めてくれ!?』
「遅いな!その程度の動きで何とかできると思っているのか?」
赤紫に大型という目立つ機体であるノイエ・ジールⅡの接近を止めようと連合の部隊はザムザザーやゲルズゲーといったMA部隊を展開するが機動力や運動性能からしてまず話にならない。せめて機動力で対抗するのなら同じ高機動型のMAであるビグロや兄弟機のノイエ・ジールを持ってこなければ捉えることも出来ないだろう。
「落ちろ!」
デュアルビームガンが発射される。威力こそ兄弟機のノイエ・ジールには劣るがMSやMA、艦隊を相手にするには十分すぎる。陽電子リフレクターで一射目は防ぎきるものの、機動力を生かしそのまま抜き去って後ろから狙い撃つ。
正面にしか陽電子リフレクターを展開できないザムザザーやゲルズゲーはそれで後ろから貫かれ落とされる。振り向いたノイエ・ジールⅡの一見無防備なその背面を狙い、敵のMSが攻撃を仕掛けようとするが、議長はそれを予測し見切っていた。
「ゆけ、ドラグーン!」
不意を突こうとした連合のMSは逆にドラグーンによって不意を突かれあっさりと落とされる。切り抜けようとしたウィンダムの一機も何とか躱したと思った瞬間に八十ミリバルカン砲で撃ち抜かれ、そのままビームガンによって止めを刺された。
『やっぱり俺いらないですよね……』
そう言いつつ、クラウはリゲルグで接近戦を仕掛けてきたMS二機をナギナタで細切れにする。ノイエ・ジールⅡはIフィールドと全方位に攻撃できるドラグーンを装備しているのだ。実力さえ伴っていれば一騎当千など容易い。寧ろ一対多向けの機体という意味では普通のMSより上だと言える。
『ミネルバとラー・カイラムは後方で待機しているのに何で技術者の俺は最前線何だろうか?』
今回の戦闘はプラント防衛という面でいざというときの緊急時の為にザフトのエースであるミネルバとラー・カイラムは後方での待機を命じられていた。戦況はザフトの方が有利。戦力比で見れば連合はこれまでのどの大規模な作戦よりも少なく、切札もまともに持っていないのだ。当然の結果と言える。
「余興にもなりそうにないな――――」
議長は敵の手ごたえのなさに残念だとばかりに戦闘を続ける。未だにまともに攻撃を受けることなく、寧ろ敵のビームによる艦砲射撃などによって受ける味方の被害を減らす為にあえてIフィールドで盾となるように移動している。圧倒的なその機動力について行ける部隊はほとんどいない。必死になって移動ルートを予測して追いかけているクラウのリゲルグ以外に追随している機体はいなかった。
「さて、これ以上見苦しい姿を見せてもらっても仕方あるまい。演目の内容も実に陳腐だ――――君らには正しい魅せ方というものを教えてあげよう」
議長はあるデータを打ち込み送信する。Nジャマーの関係上、長距離間の通信をすることは当然出来ないが極短距離から伝言ゲームのように通信を送ることは可能だ。それを繰り返させることで目的の場所まで指令を送る。勿論、間違いが起こらないように幾つか保険を掛けたうえで送ってだ。
「さあ、君ら連合にとっての終曲と行こうか」
その言葉と共に戦局は大きく動き始める。
◇
「チッ!突破されたか!」
『イザーク、どうする?』
敵部隊が三機、それぞれ分散して単独で突破してきたことを確認するイザークとディアッカ。彼らはコロニーレーザーに近づけないようにする為、出撃していた。
「ディアッカ、貴様は一機仕留めろ!ジュール隊、突破だけはさせるなよ!足止めで構わん、無理に落とそうとするな!!」
『俺だけで一機仕留めろって言うのかよ。相変わらず手厳しいぜ』
愚痴を零しつつもディアッカはブレイズウィザードを装備したザクで敵を仕留めにかかる。
『そんじゃまあ、行きますかね!』
敵の三機内一機を確認するイザーク。純粋な速度では追い付けないが、そこは経験によってカバーする。イザークが相対したのはストライクと同系列の機体、ライゴウだった。
「その機体、懐かしいな!だが、今は私情を優先するべき時ではない!時間をかけずに落とさせてもらうぞ!!」
『来るかッ!』
イザークのグフとネオのライゴウが戦闘を開始する。先に攻撃を仕掛けたのはイザークのグフの方だ。射程ではライフルを持つライゴウの方が長いが、ネオの目的は突破であり、敵を倒す事でない上に囲まれているのだから当然と言える。
「フン、この程度は如何とでも出来るという事か!」
四連装ビームガン二つによって攻撃を仕掛けるが、威力の程度が知れているビームガンでは躱され、シールドによって真っ向から防がれるだけだった。
「まだまだァ!」
しかし、グフの真骨頂は接近戦である以上、彼のこの攻撃の目的はライゴウに近づくことだ。
「落ちろッ!」
距離を詰め、ビームソードを振りかぶるがライゴウは咄嗟にスペキュラムに装備されているビームサーベルを抜いて迎撃する。
『ヒュー、やるねぇ!だけどこっちも時間を食われるわけにはいかないんだよ!』
対ビームコーティングをしてあるイザークのグフの持つビームソードと、ライゴウのビームサーベルは鍔迫り合いを起こし、一瞬の膠着状態を生む。今ならばとライゴウに向けて一部のザフト兵はビームで狙いを付けたがネオは鍔迫り合いにあっさりと押し負けることで後ろに勢いを持って行き回避した。
「今のを避けるか!だが、貰った!」
後ろに下がったことで攻撃を回避したライゴウにイザークは驚くが、逃がすまいとスレイヤーウィップを放ち捕らえようとする。しかし、ネオはサーベルを投げつけることでスレイヤーウィップの攻撃を辛くも逃れる。とはいえ、それはネオにとっては痛手だと言えた。
スペキュラムパックの近接戦用武器はビームサーベル二本とアーマーシュナイダーしかない。既に敵隊長機であったゲルググJG型を落とす為にアーマーシュナイダーを一本犠牲にしているにも関わらず、ビームサーベルまで失ったのだ。
『このままでやれるか……いや、やるしかねえだろ』
ネオとイザークの戦闘はまだ続いていく。
後書き
議長の最初の専用機はノイエ・ジールⅡでした。感想欄で当ててた人が居たので実はちょっと焦ってました(笑)
もはやザフトは圧倒的ではないか我が軍は、の状態です。連合にはもうちょっと粘って欲しい所ですね。
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