ソードアート・オンライン ―亜流の剣士―
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Episode3 滝の前
店を出た後すぐ、俺はシスイにメッセージを送った。このクエストの詳細を知りたかったからだ。だがシスイからの返事は、
―――
そんなのネタバレだから面白くないよ?
―――
……。そりゃそうなのではあるが、こちらの気持ちも考えてほしい。もしこれが何か危険を伴うようなクエストならそれ相応の行動に出なければならない。つまり、アカリを街に置いていこう、と言うわけである。
アカリだって決して弱くない…はずだ。日頃から戦闘は俺が率先して片付けてしまっているので、実は今までにアカリがまともに闘うところを見たことはない。が、レベルでいえば《調理》を始めアカリが何故か各種取っている生産系スキルによって上がり続けているし、たまに俺が取り逃してしまったモンスターもこちらが気付かぬうちに倒してしまっていたりする。
だから、多分弱くない。でもそれはあまりに不確定な事実で、どうしても俺は過保護気味になってしまう。
結局クエストの内容については、ジンに聞くこととなった。まず真っ先にシスイと同じ台詞をぶつけられてしまったが、俺の顔を見て困ったように笑うと最終的に話してくれた。
「全貌、っていうかね。基本的にもう完結してるんだよ、このクエストのストーリーは」
依頼主の話に出て来た滝が先程から大きな音を立てているため、若干焦る。すぐにでも戦闘が始まってしまうのではないかと。
だがすぐに思い直した。ジンは分からないが、シスイは本当に危険なクエストにこちらの話を茶化して送り込むようなマネはしない。シスイが話を茶化して見せたということはこのクエストは恐らく安全なのだろう。
「終わってる?」
「うん。…実はね、僕達が今探してることになってる店の主人。……彼はもういないんだよ、クエストを始めた時点で…」
俺の質問に答えたジンは後半を声のトーンを落しながら話した。俺を挟んで反対側にいるアカリに対する配慮であろう。滝音のせいで《聞き耳》を持っている俺でもギリギリ聞き取れたくらいなので、実際アカリには聞こえていないと思われる。
「店の主人はモンスターにやられ、そのモンスターを討伐した僕達は主人の遺品を持って奥さんのところへ帰る。その遺品を受け取った奥さんが店を閉めることを決意。それ以降、あの店には入れなくなる。…これがこのクエストのあらすじだよ」
「それって…」
めちゃくちゃバッドエンドじゃないか!という言葉は続かなかった。叫ぶより早く頭が思考を開始していた。今すぐアカリにこのクエストを辞めさせるかどうかを。
このままクエストを進め店が閉まる展開になった場合、アカリがどう思うかは想像に難くない。大いに落ち込むこと間違いなしだ。
――そうなる前に止めるべきか…?
「もうそろそろ目的地だぞ!お前に出番なんてないと思うけど一応準備しとけよ!」
思考に割り込んで来たのはアキの声だ。その言葉が示す通り目的地の滝はすでに目と鼻の先であり、そのためアキも少しばかり声を張り上げている。
考えのまとまっていない俺は立ち止まりアキに声をかけた。
「頼む、ちょっとだけ待ってくれ」
「えっ?聞こえないんだけど?」
だが、滝音のせいで声が上手く伝わらない。
「だから、ちょっと待ってくれって――」
「うわぁぁ!!」
もう一度頼もうとした俺の声に別の音が重なった。これは人の声だ。
「なんだ今の?…っておい、お前!勝手に先に行くなよ!」
アキの制止の言葉も聞かずに俺は駆け出していた。ほとんど条件反射だ。
ジンの言うようにこのクエストでこの場面でNPCの出番がないのならば、今の声は間違いなくプレイヤーのものだ。…だとしたら、たまたまこの辺りで狩りをしていたプレイヤーか、もしくは俺達と同じようにクエストを受けた者か……。
そんなふうに考えていたから滝の正面に着いたときの驚きはかなりのものだった。そこには二人、というより一人と一匹がいた。
一匹は言うまでもなくクエストボスたる二足歩行の魔物だ。狼が立って歩いているようなそいつは右手に短剣を携えている。だが、それより驚くべきはモンスターの左手にホールドされてしまっている者だ。
全体に白いコックのような服装。その上を申し訳程度の金属鎧が包んでいるのだが、その彼のカーソルがどう見ても《NPC》を示すそれなのだ。
しばし呆然と立ち尽くしているとジンとアキが追い付いて来た。だが、二人も俺と同様状況をどう判断したものか迷ったのだろう。同じように動く気配を見せない。
その時、モンスターが動きを見せた。左手の男性を腕をいっぱいに伸ばして突き出し、右手の短剣を脇を絞めて構える。完全に攻撃体制だ。そして、右手に捕まっている店主らしき男性のHPはすでに赤の危険域だ。
「ダメだ!やられる!」
そういって俺が駆け出そうとした瞬間、すぐ脇を何かが猛烈なスピードで通り過ぎだ。
その小柄な影は一直線にクエストボスの元へと駆けていくと、その小さな体に不釣り合いな大剣を一息に抜き放った。
「えぃっ!」
気合いの乗った抜刀の一撃がクエストボスの左手を直撃し、店主が解放され地面に落ちた。
攻撃されたことで後ずさったクエストボスに真っすぐな視線を向けながら小さな剣士は言い放った。
「オオカミさんっ、イジワルしちゃダメですっ!!」
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