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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
  黒の剣士と紅き死神

 
前書き
ついにW主人公が対決! 

 
2年に渡るSAOの中で『紅き死神』ことレイは攻略組のソロプレイヤー、希少な中層支援者、あるいはPKK(誤解だが)として知られていた。
加えてソロプレイヤーの中では社交的な方で、ギルドに属さないながらも定期的にパーティーを組んで攻略に勤しむ、ソロと集団の中間派的なパーティーに誘われる事もあり、巷では勇名悪名含めてそれなりに知られていた。
特筆すべきはその戦闘センス―――と言うと大袈裟だと本人は言うと思うが―――で通常Mobなら一方的に斬り伏せ、ボスモンスターでも1人でもタンク(但し対物理攻撃のみ)とアタッカーを兼任できるという所謂万能タイプのプレイヤーだった。何かの拍子で戦線が危うくなったときの間を1人で持たせたり、イレギュラーなアルゴリズムを瞬時に見抜くなどといったセンスは当時、素直に感心したものだ。
一方、デュエルなどの公式記録は皆無と言って良いほど無く対人戦闘の技術がどれ程なのかは未だに未知数な部分がある。あれから1年と少し。その間にその強さの理由の一端を度々垣間見た俺だが、『レイ』がそれを仮想世界において披露した事はたった数回。しかも『遊び』だった時には一度もない。
それは俺が二刀流を含めた諸々のアドバンテージを使わない理由と同じなのだろうが、そのせいでレイが強敵と戦っている時はかなり戦いにくそうな印象を受ける。

アイツ、俺は、どう思っているのだろうか?
自分勝手な理由のために本気を尽くさないその行いは不誠実ではないのだろうか?


――準決勝を開始します。プレイヤーは入場して下さい。


ハッ、と顔を上げる。つまらない事を悩んでいる内に時間になってしまったようだ。装備を確認し、気付けのために頬を叩く。


「……よし」


自分のすべきことはゲームを楽しむ。ただそれだけだ。歓声の轟く中、黒の剣士キリトは不適な笑みを顔に貼り付けて舞台に上がっていった。








____________________________________







―――あるいは、俺はキリトと戦う事を恐れていたのかもしれない。

一万人のプレイヤー中最速の反応速度に的確な戦術を即座に下す判断力。正しく『勇者』の名を冠するに相応しいプレイヤーだ。
さらに2年間の(ある意味では)実戦経験を基にその才能の萌芽は未だに成長途上にも関わらず天稟(てんぴん)の輝きを放っている。
実力、経験、技術、それらが俺を上回っているとは思はない。しかし、キリトの戦闘を見ていると理性が認めてしまうのだ……『絶対に勝てるという事は無い』、と。

対等な者が居ることが決して嫌な訳ではない。

俺が恐れていることは恐らくここで決着がついてしまうこと、これを皮切りにキリトと剣を交えるようになり、俺が彼の成長に追いつかない事だ。


――準決勝を開始します。プレイヤーは入場して下さい。


胡座を組んでいた状態からゆっくりと立ち上がる。迷いはあるが、気にしている場合ではない。
気づかなくてもいい人の事には敏感なキリトに迷いが伝わったら面白くない事になる。

意志力で迷いを捩じ伏せ、決闘の舞台へ上がる。


不適な笑みを浮かべる黒衣の剣士がそこに居た。







_____________________________________







一方、観客席。約10メートルの距離を置いて対峙する黒と紅の剣士。静かに佇む決闘者達の闘気は熱狂の中の観衆を沈黙へと誘い、聞こえるのは闘技場外のアルンの喧騒と正面モニタの秒読みカウントの電子音のみだ。

「…………」

脇で観戦している元気が取り柄のインプの少女ですら今はその快活な笑みを潜め、真剣な面持ちで舞台を見詰めている。かく言うアスナも2人の闘気に当てられたせいか、仮想の鳥肌が立つ感覚を自覚していた。

「アスナ……」
「どうしたの?シノのん」

2人にしか聴こえないくらいごく小さな声もやたら鮮明に聴こえる程の沈黙の中、もう片方の脇で観戦していたシノンが遠慮がちに話しかけて来た。

「手が……」
「え?……あ」

無意識の内に握り締めていたアバターの手はその圧力のためにぷるぷると震えていた。当事者でも無いのにも関わらず緊張していたのかと苦笑し、手をほどこうとするが、固く握られたその拳はそのまま固まっているかのように解けない。

「……どうしたのよ?」
「……分かんない」

不安な感じはしない。……もっと心地よい『何か』。
胸の奥から湧き上がってくる……これは、高揚感だろうか。飢えにも似た、どうしようもない衝動が手を無意識の内に縛っていた。


今やアスナの心の一部になっている、自分が『剣士』であるという意識に直接響く、彼らの『闘う意志』の波動は彼女を大いに揺さぶっていた。

「よし、大丈夫!ちょっと緊張してただけ」
「何でアスナが緊張するかなぁ~」

ユウキの苦笑にアスナも笑って返す。

「そりゃあ、だってあの2人だよ?どっちが勝ってもおかしくないと思うし」
「レイが勝つよ!」

と、ユウキ。突然出たのろけ発言に茫然としながらもアスナは反射的に反論していた。

「キリト君だと思うな~」
「レイだもん」
「キリト君ですよーだ」
「まあまあ……」

と、カウントが減ってきた闘技場の中、シノンが珍しくオロオロしながら仲裁に入るという光景があったという…………。







____________________________________





緊迫した観客席でそんなコメディが展開されているとは露知らず、当事者たる2人は無言でいた。

いや、話す余裕が無かったと言った方が正しい。舞台に上がった瞬間、直前までの悩みは消え去り、相手の挙動をひたすら観察していた。

《黒の剣士》キリトは何時もの黒の戦闘衣にモンスタードロップの黒剣、それを右手で下段に構えている。SAO時代から変わらない、多くの片手剣用ソードスキル発動モーションに繋げる事が出来る自由度の高い構えだ。

対する《紅き死神》レイも何時もの黒地の革防具に紅いマント、そしてそれの腰辺りを例の黒帯で巻いている。抜いた大太刀を体に引き付けながら後ろに流し、キリトに向かって半身の姿勢で構える。


カウントが減っていき、残り10秒程になったとき、2人はどちらからという事もなく笑みを浮かべていた。


そして―――カウントゼロ。





―ギィン!!





フライングがセーフか際どいタイミングに舞台の中央で互いの剣が鋭い金属音を鳴らした。

筋力値は僅かにレイが上、体格差もあって押し返されたのはキリトだ。しかし、それは2人には想定内の出来事だ。
キリトは接触した瞬間、弾かれる慣性を翅で調節し、体勢を崩さない。
レイもすぐさま重心を直し、キリトの次の攻撃に対応出来るようにする。

キリトは腰からピックを3本抜くと一息に投擲、レイは手首の動きのみで大太刀を回転させると、それらを全て弾いた。
地面に着地したキリトは隙を見せる事無くすぐにレイに肉薄し、大太刀の苦手な間合いである懐に入る。

レイも自分の武器の弱点の間合いぐらいは心得ている。懐に入られても彼の体術ならばそれを打開する程度の事は造作もない。
だが、片手で大太刀を保持し、片足でバランスを取り、腕と足一本ずつでキリトレベルの技術を持つ剣士を相手にするには少々分が悪かった。

斬撃が二閃ほどヒットし、HPが1割減少する。
が、代わりにキリトのジャケットを掴むことに成功し、体当たりをするように踏み込んでキリトの軸足を崩すと地面に投げ倒し、突き出した状態になっている左掌に大太刀をあてがう。


モーション検知、ソードスキル発動。


出が最速の大太刀突き技基本ソードスキル《穿(うがち)》がシャッ、という控えめな空気の破裂音と共に撃ち出された。
キリトは転がってそれを回避しようとしたが、僅かに胴をかする。それでも両手武器の攻撃力は高く、HPはレイと同値まで減った。

一見互角に見える戦いは実のところ、レイが有利だ。キリトの片手剣が通常ヒットでHPを1割削ったのに対し、レイの大太刀はかすっただけで1割を削る。
プレイヤー自身の総合力で互角なら差を生むのは『火力』。現時点でキリトがこれでレイを上回る術は無い―――たった1つの方法を除いて…………。



「来い」



初めて発せられるレイの言葉。それにはたった1つの意思―――『全力でぶつかって来い』という、ある意味では挑発の成分が含まれていた。



「……分かった」



キリトはそれに応じて左手を背に回し、実体化した剣を抜き放つ。

輝く黄金の剣、伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)、《聖剣エクスキャリバー》。


《二刀流》―――10種のユニークスキルの中で《勇者》の資格を持つ者が所持する『最強の矛』。


レイはそれに応じるように小太刀を抜くと、大太刀と重ね合わせる。途端、瞋恚の紅蓮が吹き荒れ、その手に新たな得物を生み出した。


《両刀》―――カーディナルシステムがプレイヤーの感情を鋳型に生み出し、《力の求道者》に与える『最凶の矛』。



「行くぞ」
「ああ」



キリトが砂塵を巻き上げながら高速で接近、エクスキャリバーを斜め上から振り下ろす。レイはそれを紅蓮双牙の片刃で受け、その威力を殺さないよう手首で両刀を回転させ、横から迫ってきた右手の片手剣をパリィ、左手のエクスキャリバーを体の脇へと受け流す。
両手を大きく開く状態になってしまったキリトに向かって体を半回転させながら体当たり、さらに半回転させながら両刀をキリトの胴に叩き込む。クリーンヒットすれば重装タンクのプレイヤーすら瀕死に追い込む強撃をキリトは空中で体を縮める事で何とか回避し、大技を空振ったレイの側頭部に蹴りを放つ。
予想外の追い討ちにレイが思わず片膝を突くと、好機と見たキリトが空中で前転して遠心力をプラスした双刀による縦切りを敢行する。
レイは転びながらも両刀をかざし、それを正面から受け止めた。

「……ォ、ラァ!!」

体重をかけてくるキリトを起き上がり際に蹴り飛ばし、さっきの仕返しをすると共に今度は仕掛けに行く。大振りの上段斬りと入れ替わりに下から迫ってきた凶刃をそれぞれ二刀を交差させて防ぎ、後方に飛び退く。

迂闊に仕掛ければ先の二の舞になることは必至なため、すぐには仕掛けない。しかし、それはレイにとって格好の餌食でしかなかった。

着地の瞬間、レイの両刀から離した左手が閃き、いつの間にかほどかれていた黒帯がまるで槍のように放たれ、キリトの片足に巻き付く。体勢を崩して空中で暫しの遊泳をすることになったキリトに向かって接近、両刀で斬り付けようとしたその時、キリトの右の片手剣が淡いライトエフェクトをまとっているのに気がついた。

(何ッ!?……いや、流石、と言うべきか!!)

通常技でしかない両刀の攻撃はシステムアシスト+ブーストによって加速した《スラント》に弾かれ、今度こそまんまと距離を取られる。

「なるほど……それ、ただの帯じゃない訳か」
「世界樹の天辺でたまにMobがドロップする《水晶糸》を鍛錬して作った布に《竜の逆鱗》を添加して出来る《攻撃用アクセサリ》、《ドラゴンテイル》。カテゴリー的には両手中距離武器になる、が、片手で扱えない事もない」
「何でまた……いや、そうゆうことか」

この特異な武器の一番の特徴は殺傷力が皆無なこと。《ドラゴンテイル》などと厳つい名前を持っている割にはソフトな打撃力が売りのおかしな武器だ。
当然専用スキルなどは無く、ALO開闢以来使い手が居た事もない。


そもそも現実世界においてもこれは既に廃れた武術である。《二天一流》を基礎に古武術を現代武術に昇華した水城流にはそういった古の技術が垣間見える事があるが、この《布術》はカビ臭い倉庫からわざわざ掘り出してきた古い紙切れから学んだ、という位マイナーなものだった。

何故そんなものを修得したかという理由は2つあって、その内1つはキリトが察した通り―――

「まだ何か隠し技があるのか、お前」
「……分かるか、やっぱり。まあ、まだ未完成だから使わないがな」

話は終わりと言うように両刀を構え直す。キリトもすぐさま思考を切り替えてそれに応じる。


動き出したのは全くの同時。
キリトが《ソニック・リープ》仕掛ける。レイはそれを真っ向から受けた。

筋力値や体格、衝突のタイミングなどの複雑な演算が行われ、僅かにレイが押される。

さらにキリトはもう一方の剣でソードスキルを上書きする―――《剣技連携(スキルコネクト)

「おおおぉぉぉっ……!!」

エクスキャリバーが甲高いサウンドを発しながらレイに迫る。

《バーチカル・スクエア》―《スター・Q・プロミネンス》―《サルベージ・フクラム》―《ヴォーパル・ストライク》

「……くっ!!」

これらはSAOからあってALOに引き継がれた剣技はほぼ全て彼が作った。故に対人戦闘において彼が警戒しなければならないのはOSSや魔法攻撃で剣技を防御し損なう事は皆無と言っていい。

だが、キリトはそこらの一般的なプレイヤーとは違う。システムアシストに意図的にブーストを加えるシステム外スキルにゲーム初期から精通し、誰よりも効果的に運用した彼の剣技はもはや螢が作った技を自分のものとして昇華させていると言って過言ではない。

キリトのアバターを構成するポリゴンにノイズが走るほど勢いよく放たれたヴォーパル・ストライクはレイの肩口を貫き、残存HPを残り数ドットまで減らした。
しかし、ここでキリトを技後硬直が襲う。もちろんレイがそのスキを逃す訳は無く、両刀の強烈な一撃がキリトを吹き飛ばした。

だが、こちらもHPを削りきるには至らない。




闘技場は不気味なほど静まり返り、一心に2人の決着を見届けていた。




流れるような二刀流の連続斬りとそれを弾き、逸らし、同時に攻撃する両刀の乱舞に観衆は釘付けだった。



1分、2分……どれほど剣が交わったか分からない。数百合の打ち合いの末、勝敗は決した。










残り1ドットのHPを苦笑い気味に見上げ、地面に伏しているキリトに手を貸す。



観客席を見上げれば満面の笑みと確かな闘志を抱きながら手を振る少女の姿があった……。

 
 

 
後書き
この2人は書いてて非常に苦労します(汗)

何故かって?キリトもレイも次の瞬間何するか分からないからです!(キッパリ)


さてさてお次はVSユウキ。お楽しみに! 
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