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久遠の神話

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第五十四話 富の為にその八

「大体完全に高潔な人間なんていないだろ」
「清濁、美醜か」
「そのどっちかがあるのが人間だろ」
 それでだというのだ。
「あんたも同じだ、それに本当に卑しい奴はだ」
「どうだというんだ、そうした奴は」
「もう顔に出てるんだよ、目にもな」
 表にそれが出ているというのだ。
「ヤクザ屋さんとかそうだろ」
「ああした人達か」
「違うだろ、顔が」
「卑しい、ああした連中の顔や目はな」
 広瀬から見てもそうだった。
「悪いものだ」
「人は顔に出るからね」
 所謂人相というものだ。
「生き方とか考えがね」
「人は四十になれば己の顔に自信を持て」
「リンカーンだね」
「人は顔じゃないとも言うが」
 これは生まれついての顔立ちである。
「顔に出るものだからな」
「特に目にね」
「君の目の光はいい」
 そして顔立ちもだというのだ。
「悪人ではない」
「まあね、意地悪とかはしない主義だよ」
「俺とは違う」
「そういうあんたもね」
「悪人ではないか」
「あれだろ。目的の為に戦うにしても」
 そうであるがそれでもだというのだ。
「戦い自体は好きじゃないよな」
「俺は戦闘狂じゃない」 
 実際にそうだというのだ。
「そうしたことはしない」
「あの魔を使う奴と違ってだよな」
「あいつは戦うことだけを考えている」
 加藤のことだ、彼は二人共既に戦い何度も刃を交えてきている。
 その彼とは違う、広瀬ははっきりと言う。
「俺は違う」
「だよな」
「そういうことだ。それでだが」
「もうすぐお互い食べ終わるよな」
「また会おう」
 中田に対してにこりともせずに述べる。
「機会があればな」
「ああ、またな」
 中田は笑って返した、彼は無表情な広瀬に対してその笑顔を見せることができた、そうして今は別れた。
 中田と話をしてから数日後広瀬はまた中華街にいた、赤い色と観光客の多いその中を歩きながら目の前を見た、
 するとそこに彼がいた、王はその痩せた長身で広瀬の前にいた、二人の左右や間を行き交う人は今は目に入っていない。
 王は前に出た、そのうえでこう広瀬に言った。
「ようこそ」
「ああ、来た」
 広瀬は一言で王に返した。
「こうしてな」
「来てくれると思ったよ」
 王もその自身と向かい合う広瀬に返した。見れば背は彼の方がやや高い、長身と言っていい広瀬よりもまだだ。
 幾分か見下ろす形になってこう言うのだった。
「でははじめようか」
「今ここではじめるのかな」
「まさか。そんなことは絶対にしないよ」
 王は笑って広瀬の今の言葉を否定した。
「関係ない人を巻き込むからね」
「それでだな」
「場所は用意してあるよ。地下室だよ」
 そこで戦うというのだ。 
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