箱庭に流れる旋律
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歌い手、説教をする
騒ぎの中心まで行くと、建物の上に黒ウサギさんと逆廻君がいた。
どうやってここまできたんだろう?そんなお金はないはずなんだけど・・・
そんなことを考えていると、二人の手に契約書類が現れる。
「あの契約書類・・・なんだろう?」
「あれは・・・コミュニティ同士の対決用とは別の、個人の間で取引されるものですね」
僕のつぶやきに、隣にいるリリちゃんが答えてくれた。
「そんなものもあるんだ・・・」
「私も、見るのは初めてです!黒ウサギのお姉ちゃんと十六夜様、どんなゲームをするんでしょうか・・・?」
「確かに気になるけど、そこまで危険なことにはならないでしょ」
逆廻君は問題児だけど、さすがにそれくらいは考えてくれるはずだ。
はず・・・だよね?
「リリちゃん、何かあったとき、はぐれないように手を繋いでおこう。いざって時にも逃げやすいし」
「奏さんはどんな事態を想定しているのですか・・・?」
リリちゃんは少し呆れながらも、しっかりと手を繋いでくれた。
いい子だな・・・本当に。うちの問題児達にも見習って欲しいものだ。
そんな感じで見ていたら、まあ予想通りに・・・いや、予想外なことに、逆廻君が時計塔を蹴り飛ばした。
それまでのゲームが手に汗握るものだったから、見ていた人は全員が一瞬黙り、
「「「「「あ、あの人間滅茶苦茶だあああああ!?」」」」」
声をそろえてそう叫びながら逃げて行った。
それはもう、手を繋いでいなかったら間違いなくリリちゃんとはぐれてしまったであろう勢いだ。
「リリちゃん、捕まって!」
「は、はい!」
「あと、目を瞑っといて!」
「わかりました!」
僕は繋いでいるリリちゃんの手を引っ張り、少ししゃがんで抱え、リリちゃんの安全を確保。
そして、上から降って来る時計塔の残骸を見つめながらギフトカードを取り出し、新しいギフトを使うために、《剣の舞》を歌う。
すると、その歌に反応して“多鋭剣”が百本出てきて、時計塔の残骸を切り刻んでいく。
そのまますぐに砂ほどの大きさになったので、僕は歌うのをやめて多鋭剣をしまいつつ、リリちゃんを見ると、目をぎゅっと瞑り、とっても可愛い状態になっていた。
小さい子供って、いつ見ても和ませてくれるよね・・・
「砂嵐が収まったら教えるから、それまでは目を瞑っててね?」
「はい、分かりました・・・」
さて、逆廻君と黒ウサギさんは・・・あ、いた。
「二人とも・・・こんな街中であれは駄目だと思わない?」
言い争いをしている二人に近づきながら、僕はそういった。
声音が結構怖くなっているので、リリちゃんに聞こえないよう、音の響きを操りながら、だ。
ついでに、逆廻君と黒ウサギさんの声も聞こえないようにする。
「お、奏じゃねえか。オマエ、一人で勝手に行くなんて、薄情じゃ」
「うるさいよ、逆廻君。今僕はそんな話をしてないでしょ?」
軽く笑みを浮かべながらそう言うと、なぜか逆廻君は顔に汗を浮かべながら、後ろに一歩下がる。
おかしいなあ、僕はただ笑ってるだけなのに。
「あの、奏さん・・・?どうしたのですか?」
黒ウサギさんが、おっかなびっくり、という感じでそう話しかけてくる。
「いや?僕はただ二人に聞いてるだけだよ?こんなに人がいるところで、あれはやっちゃ駄目じゃないかな?って」
おや?黒ウサギさんも汗を浮かべ始めたぞ?
「いや、あれをやらないと黒ウサギには逃げられてたわけで・・・」
「うん、なるほどね。ゲームの内容は相手を捕まえる、とかそんな感じだったのかな?でも、それなら他にも方法はあったよね?逆廻君なら、どこに着地するかを計算することもできただろうし、それが駄目でも、人がいないほうに蹴り飛ばすとかさ」
「それは・・・まあ、そうだな・・・」
逆廻君は渋々といった感じでそう返してくる。
うん、素直に答えてくれるのはいいことだよ?
「黒ウサギさんも、さすがにあの行動を予想しろ、とは言わないよ。でも、ゲームをする必要はなかったんじゃないかな?」
「いえ、さすがにあの状況でそれは、見ていた人が納得しなかったでしょうし・・・」
「そういえば、騒ぎになってたよね・・・うん、ならそれは仕方ない。大目に見よう」
「ありがとうございま」
「でも」
僕は助かった、という顔をする黒ウサギさんの声にかぶせるようにして、話を続ける。
「それならもう少しルールを変えるか、場所を変えようか。あの逆廻君が普通にゲームをするわけがないことくらい、予想がつかない黒ウサギさんじゃないよね?」
「それは・・・はい、その通りです・・・」
うん、あの逆廻君が素直になったんだから、黒ウサギさんが素直にならないわけがないよね?
「それに、僕が残骸を切り刻んでる間も、何か言い争ってたよね?あんな危険物そっちのけで一体何を話してたのかな?」
「いや、あれは奏がどうにかしてたからやっていただけで・・・」
「奏さんがいなかったら黒ウサギたちが対処してましたし・・・」
「いや、そんな仮定の話はどうでもいいんだよ。それに、僕がただの歌い手なのは知ってるでしょ?そんな僕がどうにかできる可能性は少ないんじゃないかな?」
僕が一歩近づくと、二人は同時に一歩、後ろに下がる。
うん?なんで逃げるんだろう?
とりあえず、座ってもらおうかな?
「そのあたり、二人とも正座で教えてくれる?」
「あの・・・奏さん?まだ目を開けちゃだめですか?それと、一切声が聞こえないんですが・・・」
あ、リリちゃん。確かに、もう砂嵐は消えてるんだよね・・・
でも、こんな年長者二人が説教されてる姿は、見せちゃ駄目だろうから・・・
「ちょっと状況が変わっちゃったんだ。もう少しだけ、目を瞑ってて?あと、ちょっと諸事情で僕の声は聞こえないけど、聞こえないからって心配しなくて良いからね?」
「はい、分かりました!」
うん、元気なお返事、ありがとう。
あ、もちろん、声音は一度、元に戻しましたよ?
「こんな感じで、リリちゃんも心配してるからさ。早く話してくれないかな?」
「「はい、分かりました」」
二人は同時に正座をして、背筋をピンと伸ばし、逆廻君にいたっては学ランを第一ボタンまで全てしめている。
始めてみたよ、君がしっかりとした服装をしてるのは。
「あの時は、契約書類が引き分けといったので、それについて黒ウサギに聞いていました」
「そして、十六夜さんがそのことについて文句を言ったので、箱庭の判定は絶対であると、そう説得しておりました」
「奏に任せたのは、剣の舞を歌いながら剣を出しているのを見たので、アルゴールを倒せた技なら大丈夫だろうと思い、任せました」
「こちらに来る前に、白夜叉様が奏さんに新たな剣のギフトを与えたことは聞いていたので、そこからも大丈夫だろうと判断しました」
なるほど、そのことを聞いてたなら、僕に任せるだけの理由にはなるね。
見てただけの僕に丸投げしたことは、どうしても許せないけど・・・
「うん、二人とも反省したようなので、僕からのお説教は以上とします。あとは、あの人たちの話を素直に聞くように」
「「はい。この度はどうもスイマセンでした」」
二人は立ち上がると、大人しく“サラマンドラ”の人に捕まって、連れて行かれた。
「ふう・・・リリちゃん、もう大丈夫だよ?」
「はい、分かりました。ところで・・・一体何があったんですか?」
「できれば、彼らのプライドのためにも教えたくないんだけど・・・」
僕はリリちゃんを下ろし、しゃがんで顔の高さをそろえると、
「リリちゃんは、コミュニティの年上の人を、あんまり見習いすぎないでね?」
「よく分かりませんけど・・・はい、分かりました!」
うん、いい笑顔だ。
後書き
こんな感じになりました。
十六夜がキャラ崩壊しておりますが、その辺りについてはどうかご容赦のほどを、よろしくお願いします。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。
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