ゲルググSEED DESTINY
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第六十三話 最後の最初
「本当に撃つんですか?」
「ああ、向こうの先制攻撃は受けるがな、おそらく撃つことになるだろうさ」
月基地のダイダロスを中心に部隊を再編していたザフトの将官は本気でレクイエムを撃つ気なのかと話す。修理してザフトの兵器となったものの、プラントを破壊した連合の大量殺戮兵器など、嫌悪があるのは当然の事だろう。実際に撃つなどと言われてしまえば嫌になる。
「だが、どうやらこちらは囮らしい。本命は別にあると私は考えている」
「何故ですか?こと有用性という面に関してはこのレクイエムという兵器は自由に攻撃を仕掛けられる以上、他の大型兵器よりも優れていると思いますが?」
嫌悪感こそあるが兵器としての有用性を認めている将官はそんな事をする必要性があるのかと問いかける。確かに固定された大型砲というデメリットはあるがそれを補って余りある威力と攻撃範囲がある。
「さあな、理由など私にも分からんよ。だが、議長から命じられた任務内容を考慮すればそうであってもおかしくはない」
無論、彼はただの直感などでレクイエムを囮だと思っているわけではない。囮だと思う理由は防衛戦力の配分と与えられた部隊からだった。レクイエム本体を防衛する戦力はあまり多くなく、一方で別の場所を防衛する戦力は多い。つまり、レクイエムを防衛している戦力は現在のザフトの戦力の総数から見てみれば微々たるものでしかないのだ。
「推測に過ぎんが危機が迫れば基地をあっさりと捨て去る事になるだろうさ。与えられた部隊を見てみろ。ナスカ級が殆どだ。数の少ないローラシア級も後期の機動力の高いものだ。まあ、こいつはMSの収容数が減らされているが……つまりはそういう事だろうさ」
「すぐに撤退が可能な艦を基本としているという事ですか?」
「おそらくはな――――議長は此処で戦って勝つつもりはないんだろうさ。とんだ貧乏くじだな」
司令官は溜息をついて他の将官に対して愚痴る。将官たちも正直に言ってしまえばあまり乗り気とは言えないのだろう。デスティニープランに関しては戦争根絶の手段として良いと思えても、レクイエムのように強力な兵器を使って強制的に従わせるのはどうかと思ってしまう。
「まあ、せめて私達の出番がないことを祈ろう。本当に発射することになるかどうかはまだ上からの命令も無い以上憶測に過ぎない」
修理を命じられ、部隊を用意してダイダロス基地を接収している今の状況で撃つことが無いというのはありえないだろうとは思いつつ、彼らはこの兵器が撃たれないことを祈っていた。
◇
連合のアルザッヘル基地にて艦隊が集結し始める。集結した彼らの勝利条件はデスティニープランの崩壊、或いは指導者であり、デスティニープラン提唱者本人であるデュランダルの捕縛、又は殺害だ。
「艦隊を発進させるぞ。準備は良いな?」
連合の総指揮を執るのはジョゼフではなく連合の高官。アルザッヘル基地の司令だった。ジョゼフは自身が政治家であり軍人でない事を理解している。だからこそ、指揮は軍人に任せ、自分はあくまでも部隊を多く集めさせるためのお飾りに過ぎない。
とはいえ、お飾りや傀儡などと言うのに慣れているジョゼフにとって別段反発する気などなく、寧ろ専門家にこういったことを任せるべきだと判断していた。
「戦略部隊はどうなっている?」
「ハッ、既に準備を整えているものが殆どであり、第一陣の出撃には殆どの部隊が間に合うものかと思われます」
指揮官としてはジョゼフに権限はなくとも、彼は自身が勝つために政治的な面での考えをしなくてはならない。あくまでも軍人の仕事は目の前の戦場で勝つ事であり、一般兵士であろうとも将官であろうともその目の前の戦場の規模が違うだけに過ぎない。
だからこそ、こういった戦略面での作戦で時たま政治家が口出ししてくるのは少なくとも連合内ではありえることだと言えた。そして、レクイエムやコロニーレーザーなどといった戦略級の大型兵器が無い以上、彼らに許された戦略級の兵器はデストロイや核装備のMS位のものであり、それらの準備が進められていく。
「ですが、本当に核部隊を用意するつもりですか?初戦でも核によるプラントの直接攻撃は失敗したんですよ?」
連合側は敵のザフトにニュートロンスタンピーダーが存在している以上、それらが抑止力となって迂闊に核部隊や核動力搭載機を用意することは出来なかった。デストロイなどの大型MS・MAが大量の出力を必要としているにもかかわらず、核動力を使用していなかったのはこれを危惧していたからでもある。
例外と言えるのは戦略的な作戦に組み込まれにくく、単独行動の多いファントムペイン位のものなのだ。
だが、既に状況は追い込まれており、世間では連合の信用もガタ落ちの状態である。であれば最早そういった手段を選ぶという事など出来るはずもなく、非道とも言える行為をいくら行った所で問題はない。元々民衆というものはあっさりと掌を返すものである。対岸の火事の結果がどうなったところで勝った方に従うのが殆どだ。
「核部隊はいくらか散開させて使う。核を誘爆させる兵器がどの程度の回数使えるのかは分からないがそれ以外にこちらに残された手立てはない……」
デストロイなどの大型MS・MAではザフトのエースに切り崩されるのは目に見えている。結局、連合に残されている最後の切り札は張子の虎と言ってもいい核以外に手立てはないも同然だった。
「それで、目標地点はどうなさるので?」
そして結局はそこに辿り着く。アプリリウス等のプラントへの直接攻撃を行うには戦力、というよりも策が心許ない。よくて刺し違える程度の事しかできないと予想される。そしてレクイエムはザフトに破壊された。当然、レクイエムが他ならぬザフトの手によって修復されている彼には与り知らぬことであるが故にダイダロス基地も戦略的価値がないと判断している。となると残るのは自然と消去法でコロニーレーザー、或いは敵の戦略拠点、特攻覚悟でのプラントへの攻勢位しか残されていない。
「コロニーレーザーの再制圧か、プラントへの直接攻撃の二択か……」
連合側の士気は限りなく低い。そもそも連合の戦争継続自体に無理があるのだ。ロゴスを討たれた以上、これ以上の戦争継続はデスティニープランに対する反対によるものだ。しかし、逆に言ってしまえばそれしかザフトと敵対する理由が存在していない。ユニウスセブン落下の影響も未だに解決していない以上、本来なら連合は再建に力を入れるべきである。
更に言うならデスティニープランはユニウスセブンの落下によって出た被害に対する補償政策だと取ることも出来るため、この連合艦隊の出撃に民衆の多くは反対している。
「コロニーレーザーを制圧しに行って自爆させられたら堪らん……プラントを直接狙うしかあるまい」
戦争継続を掲げながら勝算の薄い戦いに挑む。何たる無謀――――そうは思っても動き出した以上どうすることもできない。後は座して結果を待つしかないのだ。
「第一艦隊、発艦せよ!繰り返す、第一艦隊、発艦せよ!」
遂に艦隊が出撃する。ジョゼフとアルザッヘル基地司令が乗り込んだアガメムノン級母艦を旗艦とし、複数の同型艦とドレイク級、ネルソン級の艦隊が多数発艦した。核を用意している艦を複数に分け、敵の核を誘爆させる兵器であるニュートロンスタンピーダーに備える。
出来る限り核を持つ艦隊はばらけさせているため、効果範囲に含まれないようにすれば被害を抑えられるという指揮官の判断からだった。
「我々はここで勝たなくてはならない。デスティニープランなどと言う荒唐無稽な事をこちらにまでおしつけようという――――そのような政策を我々は享受するわけにはいかない」
アルザッヘルの連合艦隊は動き出す。
◇
アスランはミーアと共にプラント市内で議長の放送を聞き、眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「アスラン、どうしたのよ――――そんな怖い顔して」
「ミーアは今の放送を聞いて何も思うことはなかったのか?」
デスティニープラン――――確かに成功すれば人類は永遠に望み続けた平和へと歩めるかもしれない。
「え、でも――――これで戦争がなくなるっていうなら……」
「確かに、これで本当に戦争が終わるのなら問題はないだろうさ」
だが、アスランの胸の内には不安がよぎっていた。役割を与えられ、縛られる世界――――果たしてそれが本当に平和な世界に繋がるのか?
遺伝子の支配、決められた配役、才能の決定――――そうやって生きていく人間は本当に幸せなのだろうか。この政策は人の意志や感情に対する考慮が全くされていない政策だ。だからこそ、アスランは疑惑を思い浮かべていた。
「実際、そうでもしなきゃ本当の平和を生み出すことは出来ないっていう事なのか?」
こうでもしないと平和を得られない人が愚かなのか、それともこんな束縛をしてでも平和を得ようとすること自体が愚かだと言えるのか。結局、アスランにはそんな答えは導き出せない。
「だが、唐突過ぎる。これでは混乱を生むだけだ……議長は何を考えているんだ?」
アスランが最も不可解に思えたのはこの突然とも言える改革の発言だった。確かに議長を支持する声は多く、賛同者も多数出る事だろう。だが、同時にこんな突然の発言を行えば当然反発する声も上がる。それにロゴスが討たれたとはいえ、まだ連合との戦争が終わったわけでないのだ。今の段階で提唱すれば当然連合政府は抵抗するだろう。
議長なら会談を通してデスティニープランを推進することだって出来ただろうにと、対話によって平和を得ることが出来たはずだと、そう思ってしまう。尤も、これはアスランが勝手にそう思っているだけあり、実際に会談で提唱すればかつての社会主義のように世界中に浸透するなどという事はなく、志半ばで潰える可能性が高いだろうが。
「議長と話せる機会があるといいんだが――――」
何が出来る、というわけではない。しかし、それでもあって直接聞きたいことはたくさんある。デスティニープランが未だ未知数の計画である以上アスランとしてはそのあたりの事も含めて色々と聞いておきたかった。デスティニープラン――――戦争を止めるための平和への道標が皮肉なことに戦争継続の兆しとなる。されど、今のアスランにそれを止める手立てなどなかった。
◇
「ミラージュコロイド、展開――――警戒態勢に入れ」
コロニーレーザー周辺の警戒区域にまでたどり着いたファントムペインはガーティ・ルーのミラージュコロイドを展開させて移動させる。作戦内容はアーモリーワンの時と似ている。というよりも基本的にガーティ・ルーの部隊はそういった作戦でこそ本領を発揮すると言うべきなのだろう。
警戒圏にいる孤立した部隊を仕留めつつミラージュコロイド搭載MSであるネロブリッツとNダガーNを先行部隊として敵艦隊の内側から奇襲を仕掛ける。
ミラージュコロイドはないが、隠密性に優れているステルス部隊のダークダガーやスローターダガーも出撃させることで敵警戒圏の内側と外側から同時に攻めるのだ。その隙を突き、機動力に優れているスペキュラムパック装備のライゴウとロッソイージス、G‐Vで強行突破。最終的に一機でもコロニーレーザーの中枢までたどり着けば連合所属である彼らは元は連合の兵器であるコロニーレーザーのコントロールを奪う事が出来る筈だ。
「ダナ、お前たちと俺達の攻撃のタイミングがこの作戦での最初の関門だ。くれぐれもタイミングを間違えるなよ」
『了解――――何ならそのまま俺達がコロニーレーザーを押さえてもいいんだぜ?』
「ああ、可能ならそうしてくれて構わん。俺達に許されている手段はただでさえ少ないんだからな」
ネオやダナはそう軽口を叩きあうものの、実際にそれは無理だろうと両者ともに判断している。ミラージュコロイドのエネルギー切れの心配は核動力を搭載しているネロブリッツやNダガーNにとって無いに等しい為、一見すれば気付かれないままに近づくことが可能だと思えるだろう。
しかし、問題はエネルギーではなく敵のセンサー類にある。ミラージュコロイドのステルス性能は宇宙空間では熱反応を起こすスラスターさえ使わなければ気付かれ無いと思われがちだが、ミラージュコロイドやウイルス対策を施しているようなセンサー類が存在しており、必ず発見されないと言うわけではない。
寧ろ発見されてしまえばミラージュコロイドを展開している間はリフレクター化やPS装甲なども展開できないので脆く、あっさりと撃ち落とされることになる。
「ステルス部隊は作戦の開始と共に二機単位での行動を取れ。出来る限り広い範囲をそれぞれがカバーすることになるが、作戦上――――敵の目を欺く為には必要なことになる。
高機動部隊のルートはそれぞれ途中までは同一だ。だが、ここのラインのあたりから敵の攻撃が激しくなることが予想される。そこからはそれぞれ単独での突破となる。複数機でいたんじゃ機動力が殺がれる危険性があるからな」
「突破が最優先、敵に対する攻撃は二の次という事だな、分かっている……艦の護衛は如何するきだ?」
先行部隊が出撃し、続いて発進することになるステルス部隊と高機動部隊の作戦の最終チェックを行う。エミリオは自身が作戦上でどう動くかの確認と共に母艦であるガーティ・ルーはどうするのかと尋ねる。
「ウィンダム部隊を中心に防衛に回ることになる。だが、艦自体は後衛での補給場所としての役割が主な仕事だ。艦一隻で戦闘するのはMSの突破よりも無理があるからな」
MSと違い小回りの利かない艦に前線での敵の大部隊との戦闘は無理がある。流石にネオもそのあたりは心得ている故に艦は遠方からのミラージュコロイドを展開した状態での補給艦として使う予定だ。低温ガスを使ったミサイルによる奇襲用の射撃も予定しているがそれは余程の状況でないと使われないのは明らかだろう。
「聞けば聞くほど、無理があるとしか思えない作戦ですな。不可能なのではないですか?艦一隻と数えれる程度のMSでコロニーレーザーの奪取など」
誰もがそうは思っているが、かと言って他に策があるわけではない彼らは気を重くする。アウルですら苦い顔をしていることから確かに不可能と言っても過言ではないのだろう。
「出来ないなんて思えば余計出来なくなっちまうさ。勝てると信じようぜ?なんたって俺は不可能を可能にする男なんだからな」
その言葉を信じると言うわけではないが、覚悟を決めるものの言葉としては役に立ったのだろう。彼らは真剣な表情で作戦の開始を待ち望んでいた。
後書き
さて、そろそろ政治パートも終わりだして戦闘パートに入ることになるのかな?
一番最初に動き出したのは連合艦隊とファントムペインです。ファントムペインは予定通りコロニーレーザーを、連合艦隊はプラントを直接狙うようです。
正直言って彼らの勝率が低すぎる……前座の役割とか噛ませ犬ってこういう事なんだろうか。
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