Element Magic Trinity
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幽鬼の支配者編
幽鬼の支配者
「俺達のギルドを・・・」
「一体誰が・・・」
「何があったというのだ・・・」
ガルナ島から帰って来たナツ達を待っていたのは、巨大な鉄の棒やヘビのような模様が至る所についた、ボロボロのギルドだった。
そんなギルドを見て、ナツ、ルー、エルザは呟く。
「ファントム」
すると後ろから、声が聴こえた。
振り返ると、辛そうな表情のミラが立っていた。
「悔しいけど・・・やられちゃったの・・・」
ここは妖精の尻尾地下1階。
「お!エルザとティアが帰って来たぞ!」
「ナツとグレイも一緒だ」
「ルー!ルーシィ!」
アルカがガタッと音を立てて立ち上がる。
「見たかよ!ギルドのあの姿!ちくしょォ」
「ファントムめぇ!よくも俺達のギルドをぉ!」
「うちとは昔から中悪ィもんな」
「今度は奴等のギルド潰してやろうぜ!」
「落ち着けよ!相手はあのファントムだぞ」
ナツ達の元まで来たアルカは何も言わないが、その目は怒りに燃えている。
そしてマスターはというと・・・。
「よっ、おかえり」
酒を飲んでいて、完全にのほほんとした雰囲気でナツ達を迎えた。
「ただいま戻りました」
「じっちゃん!酒なんか飲んでる場合じゃねぇだろ!」
「おー、そうじゃった」
この場合は正論のナツの言葉に、マスターも納得する。
「お前達!勝手にS級クエストになんか行きおってからにー!」
「え!?」
「はァ!?」
「罰じゃ!今から罰を与える!覚悟せい!」
「それどころじゃねーだろ!」
・・・が、どうやら違う意味だと思っているらしい。
「めっ」
まずは魔法で伸ばした腕でナツの頭にチョップを決める。
「めっ」
「痛て」
「めっ」
「あう」
「めっ」
「あぎゅ」
続いてグレイ、ルー、ハッピーにも同じようにチョップを落とす。
「めっ」
「きゃっ」
「マスター!ダメでしょ」
ルーシィだけ尻を叩かれ、ミラがそれを注意した。
「マスター!今がどんな事態か解っているんですか!」
「ギルドが壊されたんだぞ!」
「マスターだって悔しいでしょ!?」
エルザ、ナツ、ルーが口々にそう言うが、マスターは落ち着いたように口を開く。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。騒ぐほどの事でもなかろうに」
「!」
「何!?」
「そうね。ぎゃあぎゃあ騒いじゃって・・・バカみたい」
「ティアまで!」
呆れたようにティアが呟く。
「ファントムだぁ?あんなバカタレ共にはこれが限界じゃ。誰もいねぇギルドを狙って何が嬉しいのやら」
「誰もいないギルド?」
「襲われたのは夜中らしいの」
「だから怪我人はいない。不幸中の幸いだな」
エルザの疑問にミラとアルカが答える。
「不意打ちしか出来んような奴等にめくじら立てる事はねぇ、放っておけ」
笑いながらそう言うマスターに、ナツはイライラをぶつける様にダン、とテーブルを叩いた。
その表情にも怒りが滲み出ている。
「納得いかねぇよ!俺はアイツ等潰さなきゃ気がすまねぇ!」
「この話は終わりじゃ。上が直るまで仕事の受注はここでやるぞい」
「仕事なんかしてる場合じゃねぇよ!」
「ナツぅ!いい加減にせんかぁ!」
「何であたしのお尻!?」
「マスター・・・怒りますよ」
ミラが頬を膨らませる。
ミラを怒らせているマスターをアルカが睨んでいるのは余談だ。
「つーかちょっと待て・・・もれそうじゃ」
「なんで平気なんだよ・・・じっちゃん・・・」
そう呟き、ティアに目を向ける。
「ティアも!どーして平気なんだよ!」
「じゃあ聞くけど、今ここで私達が騒いで何かが変わる訳?」
ナツが言葉に詰まる。
ティアは相変わらずの冷たい瞳を真っ直ぐナツに向け、言葉を続けた。
「ここで私達がどれだけ騒ごうがファントムを恨もうが、それでファントムのギルドが潰れる訳でも、奴等に解散命令が出される訳でも、ギルドが直る訳でもないでしょ」
ド正論を述べるティアに、ナツは完全に黙り込む。
それをフォローするかのように、ミラが口を開いた。
「ナツ・・・悔しいのはマスターも一緒なのよ。だけどギルド間の武力抗争は評議会で禁止されてるの」
「先に手ェ出したのあっちじゃねーか!」
「そういう問題じゃないのよ」
ギルド間抗争禁止条約。
これは正規ギルドだけではなく闇ギルドにも適用される為、評議院の検束魔導士でないと闇ギルドを潰せない、という問題も抱えている。
ティアが仕事で闇ギルドを相手にする際も、基本的には評議院直々の依頼の事が多い。
「マスターのお考えがそうであるなら・・・仕方・・・ないな・・・」
こうして全員が納得しないまま、解散となったのだった。
「な~んか大変な事になっちゃったな~」
「プーン」
ガラガラとキャリーバックを引きずりながら、ルーシィはプルーを連れて運河沿いを歩く。
運河の子船から「じょーちゃん、落ちても知らねーぞ」と声がかかった。
「お仕置き免れたのは助かったけどね。ファントムっていえば妖精の尻尾と仲が悪いって有名だもんね」
そうこう話している間に、ルーシィの家に辿り着く。
「あたし、本当はどっち入ろうか迷ってたんだー」
「プーン?」
「だってこっちと同じくらいぶっ飛んでるらしいし」
よいしょっとキャリーバックを持ち、ギシギシと音を立て階段を上る。
「でも・・・今はこっち入ってよかったと思ってる」
ルーシィは笑顔でドアノブに手をかける。
「だって妖精の尻尾は・・・」
ガチャっとドアノブを回す。
すると・・・。
「おかえり」
「おかー」
「いい部屋だな」
「意外に片付いてるわね」
「よォ」
「サイコーーーーーーーーーー!」
グレイ、ハッピー、エルザ、ティア、ナツの順で迎えられた。
「多いってのーーー!」
ルーシィはキャリーバックをナツに投げつける。
なぜナツが選ばれたのかは不明だ。
「ファントムの件だが、この街まで来たという事は我々の住所も調べられてるかもしれないんだ」
「え?」
エルザの言葉にルーシィがゾッとする。
「まさかとは思うが1人の時を狙ってくるかもしれねぇだろ?」
「だからしばらくは皆でいた方が安全だ・・・ってミラが」
「そ、そうなの!?」
「今日は皆でお泊り会やってるよ」
その会場は全員一致でルーシィの家に決まったらしい。
「お前も年頃の娘だしな・・・ナツとグレイだけここに泊まらせるのは私としても気が引ける。だから同席する事にしたという訳だ」
「ナツのグレイは泊まるの確定なんだ・・・あれ?ルーとアルカは?」
「あの2人はミラとエルフマンと一緒にいる」
「私はナツの監視役」
めんどくさいわ、と言いたげに頬杖をつくティア。
「気晴らしにな!」
「プーン」
「おお!プルー!何だその食いモン!?俺にもくれ」
「やめなさいな、人の家よ?」
「俺はもう寝っからよォ、騒ぐなよ」
「エルザ見て~、エロい下着見つけた」
「す、すごいな・・・こんなのをつけるのか・・・」
「清々しいほど人ん家エンジョイしてるわね」
好き勝手に過ごすメンバーを見て、ルーシィは諦めたように溜息をつく。
「それにしてもお前達・・・汗臭いな。同じ部屋で寝るんだ。風呂くらい入れ」
「やだよ、めんどくせ」
「俺は眠ーんだよ」
反論するナツとグレイに、エルザはそっと手を乗せる。
「仕方ないな・・・昔みたいに一緒に入ってやってもいいが・・・ティアもいいだろう?昔みたいに風呂に入らないか?」
「嫌よ。私は1人で入るから、アンタ等はエルザと入ってなさいな」
「アンタ等どんな関係よ!」
エルザとナツとグレイとティアの妙な関係にルーシィはツッコみを入れた。
それから少し。
「ねぇ・・・例のファントムって何で急に襲ってきたのかなぁ?」
風呂上がりのルーシィは濡れた紙をタオルで拭きながら疑問を口にする。
「さあな・・・今まで小競り合いはよくあったが、こんな直接的な攻撃は初めての事だ」
ハートクロイツのマークが散りばめられたパジャマに換装したエルザは腕と脚を組む。
「じっちゃんもビビってねぇでガツンとやっちまえばいいんだ」
「じーさんはビビってる訳じゃねぇだろう」
「あんな老人だけど、一応『聖十大魔道』の1人なのよ」
3つある椅子の1つにナツが座り、机に顎を乗せる。
グレイはルーシィが手紙や小説を書く机の椅子に座り、勝手にルーシィの小説を読み始めた。
家から持ってきたのだろう。水色のルームウェアに身を包んだティアは3つある椅子の1つに座り、頬杖をついている。
「読んじゃダメ!」
「続き気になるだろーがよ!この後イリスはどーなるんだよ!」
グレイの抗議の声は無視された。
「聖十大魔道?」
「魔法評議会議長が定めた、大陸で最も優れた魔導士10人に付けられた称号だ」
「へぇー、すごぉい!」
エルザの言葉にルーシィは感嘆の声を上げる。
「ファントムのマスター・ジョゼも聖十大魔道の1人なんだよ」
(そして、あの男もな・・・)
エルザの脳裏にジークレインが浮かぶ。
「ビビってんだよ!ファントムって数が多いしさ!」
「うわわ・・・」
「突然揺らさないでよ、危ないじゃないの」
ナツが勢いよく机を叩き、机に乗っていたプルーが跳ねる。
「だから違ーだろ。マスターもミラちゃんも2つのギルドが争えばどうなるか解ってるから戦いを避けてるんだ」
「魔法界全体の秩序の為にね」
グレイとティアの言葉に、ルーシィがごくっと喉を鳴らす。
「そんなにすごいの?ファントムって」
「大した事ねーよ、あんな奴等!」
「いや・・・実際争えば潰し合いは必至・・・戦力は均等している」
そう言ってエルザはファントムの主力を挙げていく。
「マスター・マカロフと互角の魔力を持つと言われている聖十大魔道のマスター・ジョゼ」
ティアは面識があるのか、表情が崩れる。
明らかに「あのバカが」とでも言いたそうな表情だ。
「そして向こうでのS級魔導士にあたる、エレメント4」
「エレメント!?それってティア達みたいに元素魔法を使うの?」
「それはないわね。元素魔法は各元素に1人。水、風、火、土・・・全て揃っているもの」
そのティアの言葉に違和感を覚えるルーシィ。
水はティア、風はルー、火はアルカ・・・では土は誰が?
そんな疑問を抱えている間にも、エルザの言葉は続く。
「1番厄介だとされるのが鉄竜のガジルにその側近のシュラン。今回のギルド強襲の犯人だと思われる2人。ガジルは鉄の滅竜魔導士、シュランは蛇魔法の使い手」
「滅竜魔導士!?」
相手にも滅竜魔導士がいると知り驚くルーシィ。
ナツはフンッと面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「ナ、ナツ以外にもいたんだ・・・じゃ、じゃあそいつ・・・鉄とか・・・食べちゃう訳!?」
一方その頃、ここは魔導士ギルド「幽鬼の支配者」。
テーブルの上に置かれた大量の鉄を凄い勢いで食べる男性と、その横で更に鉄を足す女性。
そこに1人の男が歩み寄る。
「ガジル~シュラン~、聞いたぜぇ~。妖精の尻尾に攻撃仕掛けたんだって!?うはァ、スゲェ!ひゃっはァ!アイツ等今頃スゲェブルーなんだろうなっ!ザマァみろってんだ!」
ベラベラベラベラ・・・としゃべり続ける男。
すると・・・。
「・・・お黙りなさい」
女性が何やら小声で唱え、男の腕に蛇の模様が走る。
「ごっ!」
その蛇の模様が光り、勢いよく男は吹き飛んだ。
「あらら」
「ぷっ」
周りの人たちは男を助ける事もせず、ただ見ている。
男は壁に直撃し、ピクピクと身体を震わせた。
「食事中のガジル様の邪魔など言語道断です」
「シュランの言う通りだ。メシ食ってる時ァ話しかけんなっていつも言ってんだろーがよォ、クズが」
そう言って立ち上がるのは、今回のギルド強襲の犯人の男『ガジル』。
「妖精の尻尾が何だってんだ。強ェのは俺達の方だろうがよ。なぁ、シュラン」
「当然にございます」
ガジルの言葉に恭しく頭を下げる女性『シュラン』。
「火種はまかれた。見事ですよ、ガジルさん、シュランさん」
そこにギルドマスターであるジョゼが歩み寄る。
「あめェよマスター。あれくらいじゃクズ共は動かねぇ。だからもう1つプレゼントを置いてきたゼ」
「それはそれは・・・ただし・・・間違っても『奴』は殺してはダメですよ」
「承知しております」
「ギヒッ」
ジョゼの言葉にシュランは胸に手を当て、ガジルは不敵な笑みを浮かべた。
ここはマグノリアの街の南口公園。
そこに生えている大木の前には、大勢の人が集まっていた。
「すまん、通してくれ。ギルドの者だ」
騒ぎを聞きつけたエルザ達が公園に集まる。
「!」
「う・・・」
「なんて事・・・」
そして、その光景を目にしたギルドメンバーは絶句した。
ルーシィが震える声で呟く。
「レビィちゃん・・・」
「ジェット!ドロイ!」
そう。
妖精の尻尾のチーム『シャドウ・ギア』のメンバー、レビィ・ジェット・ドロイがボロボロの状態で木に張り付けられていたのだ。
鉄で両腕を広げた状態にされ、その足やら腕やらには蛇模様が巻き付いている。
「ファントム・・・」
レビィの腹には、ファントムの紋章が刻まれていた。
そこにマスターマカロフが現れる。
「マスター・・・」
エルザが呟く。
ナツの顔は怒りがこれでもかというほど露わになっている。
マスターはレビィ達を見て震えながら顔を抑えた。
「ボロ酒場までならガマン出来たんじゃがな・・・ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ・・・」
そう言ってマスターは持っていた杖をバキィっとへし折った。
そして・・・。
「戦争じゃ」
怒りの表情を浮かべ、そう宣言したのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
遂にファントム編、個人的に早くグレイとジュビアの勝負を・・・。
惚れながら勝負しているジュビアが可愛くて可愛くて・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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