問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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リリの大冒険~働かざる者食うべからずと偉い人は言いました~ ①
収穫祭前夜祭。
これは収穫祭が始まる三日前のことだ。
俺たちは主賓室での晩餐に呼ばれていた。
なんでも、十六夜に飛鳥、耀の三人が腕を振るったというので、興味がある。
「で?三に・・・二人は何を作ったんだ?」
俺は三人ともに問おうとし、途中で十六夜と耀の二人に変えた。
どう見ても、飛鳥は失敗しました、というのが分かるからな。
「俺は、リリに言われた材料をもとにパンプキンキッシュを作った。」
「私はいい食材があったからポトフを作ってみた。」
「なるほど・・・欧風にしたんですね?」
二人の作ったものから、料理をするらしい鳴央が答える。
他の三人が料理をするのかは知らん。
「さて・・・冷めないうちにいただきます。」
さて・・・まずはパンプキンキッシュ、その次にポトフを食べて・・・
「耀に一票で。」
「普通、一口で決める?」
近くの席に座る音央がそんなことを言うが・・・これは間違いない。
「食ってみれば分かる。両方ともレベルが高いが、耀のは桁が違う。」
これは・・・腕が高いだけじゃなく、食材選びからこだわった品だ。
それに、夜は肌寒いこの地域なら、なおさら美味しくなる。
ちなみに、俺たち五人の席は
音央、鳴央、俺、ヤシロちゃん、スレイブ
となっている。基本、食事はこんな感じで取る。
さて、残りの四人も料理を食べ始め
「お兄さん、食べさせて?」
三人は食べ始め、一人よく分からんことを言っている。
なぜか、ヤシロちゃんはたまにこんなおねだりをしてくる。
なぜ、見た目相応の行動を取らない・・・その見た目なら、そういうことに恥じらいを持つころだろ・・・
「・・・あーん。」
「はむっ。うん、美味しい!」
まあ、断ったら次どんなのが来るか分からないからやるんだが。
くそう・・・なぜわざわざ人目があるときに・・・約二名視線が冷たいし、三名弄るネタを見つけたって感じだし・・・
「残りは自分で食えよ。俺だって食ってるんだから。」
「分かってるよ!自分で食べれるし!」
「ならやらせるなよ・・・」
さて、無理矢理に話を変えよう。
もうこの雰囲気いやだ。
「で?四人の感想は?」
「そうですね・・・十六夜さんには悪いですが、私も耀さんです。」
ありがとう鳴央!話に乗ってくれて!
なんだか、キャラ崩壊してる気がするが(俺が)、もうそれはいいや!
「私も同じね。両方とも美味しいんだけど、耀さんのほうは本当に別枠。」
「だねっ。でも、十六夜お兄さんのも美味しいよ!」
「私もだ。これは、もっと根本的なところからの問題だな。」
そして、残りのメイド三人も賛同する。
十六夜自身も自覚しているようなので、問題ないだろう。
そして、そのまま晩餐会は進んでいったのだが、リリが言った話の内容により、俺達はとある店に行くことになった。
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さて、リリがいう店があるという亀裂までは来たが・・・
「ここだけ露店も、賑やかさもないのはおかしくないか?」
「まあ、簡単には人が入らないようになってるんだろ。」
「そうだろうな・・・もしかしたら、人払いの恩恵、一種の結界のようなものが張られているのかもしれない。」
「あら。それならリリはどうやってこの亀裂を見つけたの?」
「そ、それは、その・・・暴れ牛に撥ね飛ばされて・・・」
はあ?暴れ牛って・・・しかもそれに撥ね飛ばされてここに入るのはどんだけ偶然が重なったんだって話に・・・
「うわああああ!暴れ馬だあああああああああああああああ!!!」
・・・馬がリリを突き飛ばしていった。
しかも、綺麗に亀裂の中に入って行ったぞ・・・
「って、何呑気に考えてんだ俺は!」
とりあえずリリに怪我は・・・ないな。
いや、あの勢いでそれは・・・やっぱりないな。
何かくらくらしてるけど、それもすぐに直りそうだし。
「リリは大丈夫なの?」
「ああ。特に怪我とかはなさそうだ。リリ?痛いところはあるか?」
「いえ・・・目の前が少しクルクルになったぐらいです・・・」
よし、問題ないな。
しかし・・・あの馬達はどうしようか・・・
「春日部。明日の夕飯は、暴れ馬の馬刺しなんてどうだ?」
「賛成。ついでに暴れ牛の焼肉もしないとね。」
お、それなら・・・
「焼肉は任せてくれ。肉を焼くのには自信がある。」
昔っから何度か、何も持たずに野宿ぐらいのことはあったからな。
一番取りやすい食材が肉で、これの腕だけは異様に高くなった。
「で?問題の店はあれか?」
俺は道を進んだ先にある黒塗りの扉を指差す。
「おそらくそうだろうな。行ってみよう。」
サラが指先に火をともして進んでいくので、俺達は後についていく。
にしても・・・やけに地盤の裂け目が湿気ってるな。
戦うにはいいが、気分的にはなんとも言えん。
さて・・・ようやく着いたが、何か場違い感がハンパないな。
どれも高そうだし・・・いや、何か意味分からんのもあるな。
ヤシロちゃんがいたら喜びそうだが、スレイブは頭を抱えそうなところだ。
まあ、この辺の指輪なんてあいつらは喜びそうだが・・・高いな。
俺は値札を見て、その指輪をそっと戻した。
どれか一個くらい安めで買えそうで喜びそうなのはないか・・・
「オイ一輝、商品見てないでこの契約書類読んどけ。」
「あ、忘れてた。」
すっかりここに来た目的を忘れてたな。
さて、ゲームの内容は・・・
『 ― わたしはせかいいちのはたらきもの ―
ひとりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!
だれのてをかりなくてもうごいてうごいてうごきつづけたよ!
あまりにうごきつづけたから、はじめのとうさんもおおよろこび!
だけどあるひ、それがうそだとばれちゃった。
ひとりめのわたしととうさんは、うそがばれてこわれちゃった。
ふたりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!
ともだちがてをかしてくれたから、うごいてうごいてうごきつづけたよ!
あまりにもうごきつづけたから、つぎのとうさんもおおよろこび!
だけどあるひ、それがにせものだとばれちゃった。
でもふたりめのわたしととうさんは、ともだちのおかげではたらきつづけたの。
さんにんめのわたしはほんとうにはたらきもの!
まだうまれてないけど、えいえんにはたらきつづけるの!
はやくうまれろ! はやくうまれろ! みんなにそういわれつづけたよ!
だけどあるひ、わたしがうまれないとばれちゃった。
だからさんにんめのとおさんは、さんにんめのわたしをあきらめたの。
だけどそんなのゆるさない! たくさんのとうさんがわたしをまっている!
とみも! めいせいも! じんるいのゆめも! わたしがうまれたらてにはいる!
だからお願い………わたしを諦めないで………!例え、真実が答えでも………! 』
・・・なんだこれ?
え、こんな契約書類あるの?ってか、これにはルールとか書いてあるの?
いや、もしかしたら要点だけで見れば・・・
一番多く出てくるのは働くって言葉か・・・一応写真に取っておこう。
久しぶりに使うな~この携帯。
「で、サラ。こんな契約書類もあるのか?」
「まあそれは間違いないだろうが・・・わたしにはさっぱり分からん。お前たちに任せるよ。」
「いや、任せるなよ階層支配者。」
「一輝の言うとおりだ。これから戦う魔王の中に知略に特化しているのがいたらどうするんだ?」
サラはぐぬ、とか言いながら黙った。痛いところを突かれたんだろうな。
で、少し頬を染めてそっぽを向き
「それぐらい分かっている。だが、誰でもお前たちや白夜叉様のように万能なわけではないんだぞっ。」
あ、拗ねた。
それと、俺は別に万能じゃないぞ。そこまで頭使うようなゲームに挑戦したことないし。
それに、この文面も・・・あれ?一人目、二人目は失敗し、三人目は誕生すらしない・・・そう証明された・・・働き続ける・・・動く・・・
まあ分かったが、これはまた、酷いゲームだな。クリア方法はあるが、それ以前に、だな。
まあ、今はそんなことよりも、
「この地鳴りは何だ?」
こっちのほうが重要だろう。
その問いにはサラと耀が答えてくれた。
「気をつけろ!何かいるぞ!」
「それも多分・・・一つや二つじゃない・・・!」
耀は『従業員以外立ち入り禁止』と書かれた向こうを見てるから、そっちから何か来るんだろうな。
念のために水樹の枝だけは準備しておくか。
「リリ。絶対に離れるな。」
「は、はい!」
「――――来る!」
さあ、扉の向こうからは何がく
「「「「――――うわお。」」」」
・・・俺たち四人の驚きの声が同時に発せられた。
うん、これは正しい反応のはずだ。誰だってこの状況ならこの手の反応をするはずだ。
だって、リリは既に涙目だし、サラですら綺麗な赤髪を真っ白にしてるし。
うん、まあ何が出てきたかというと・・・マッチョ人形だ。
もう既に何言ってるのか分からないが、これが現実なんだから仕方ない。
いや、人形としての完成度はかなり高い。
その道の玄人が見れば感動の涙すら流すのではないかというくらいの出来ではあるし、もとの世界では立場上、そういった芸術分野も少しくらいは学ばないとならなかった。
たまに依頼者の自宅で自慢げに見せられたりしたからな・・・
話が脱線したが、それでもこれはない。
胸筋と背筋が細かく痙攣してるのはもう気持ち悪いことこの上ない。
こいつらは、こんな感じのやつらが取りそうなポーズを幾つか取り白く輝く歯を見せて、
「・・・ムキッ!」
「ムキ!?」
「ムキ!!?」
「ムキって鳴いた!!?今ムキって鳴いた!??」
「ちょっと落ち着け女性陣。今のはきっと鳴き声じゃない。」
「そうだな。ムキッて鳴くはずがないしな。」
そうだ、そうに決まってる。
きっと混乱しすぎて物音とかがそう聞こえただけだ。そうに違いない。
よし。一回落ち着けばちゃんと音が聞こえるはずだ。
さあ、マッチョ人形郡が大仰に臨戦態勢に入ったぞ。こっちもいつでも迎え撃てるように
「・・・マッチョ!」
「マッチョ!?」
「マッチョ!!?」
「マッチョって鳴いた!!?今のは絶対にマッチョって鳴いた!!!」
「そうだな。今のは絶対にマッチョって鳴いたな。」
「うん。物音を聞き間違えるってのも無理があるしな。」
そもそも、動物並みの聴覚を持つ耀が聞き間違えるはずもないしな。
きっと作った人が筋肉にちなんでそう設計したんだ。他にもそれっぽい鳴き声を出すのかもしれない。
ただ、これ以上はリリが限界な気がするから止めて欲しい。
十六夜の肩の上でカタカタ震え続けてるぞ・・・
さて、大小さまざまなマッチョ人形の群れが出てきたが・・・もうこっちに統率力はないな。先に行動するのは無理そうだ。
だが・・・そうなるとまたこいつらが、
「雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!」
「――――きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」
やっぱりこうなった。
ってか俺も怖い。今すぐ一人で逃げ出したい。
何か黄金色に焼けてる筋肉は振動してるし、どの筋肉も見せかけのものじゃないみたいだし、売り物は簡単に壊れていくし、何より大量のマッチョに追われるのが怖い!妖怪よりも怖いぞ!
そして、女性陣の恐怖は、
「キ、キモイ!キモイわ!!」
「ない、アレはない。」
そういった方向に向かっていた。
ってかサラ!いつもの凛々しさはどこ行った!今にも倒れそうなほど顔が青白い・・・あ、振り向いたら倒れた。
どんだけダメなんだよ・・・まあ、生理的に不可能な琴線に触れるどころじゃなかったんだろう。
とりあえず、サラは俺が抱えて走るとして・・・このメンバーがここまで恐怖するのって初めてじゃないか?
もう全員が恐怖に包まれて、
「・・・一体欲しいな。」
「やめて!」
「ヤメテ。」
「や、止めてください十六夜様!」
「ふざけんな!こんなのがいたら、コミュニティがパニックになるだろ!」
十六夜は感動できるだけの芸術ならこんなのでもいいのか!?残念そうな声を上げてんじゃねえ!
「・・・。どちらにせよ、もう一度来なきゃだめだな。」
「「「「断固拒否!!」」」」
耀ですら声を張ってるぞ!その意味を考えろ!
結局、俺達は断崖壁の入り口まで逃げ、水樹の枝から出した水の温度を下げ、氷の壁にすることでどうにか逃げ延びた。
どうせあのゲームはクリアできないんだし、もう俺がここに来る必要はないだろう。
もうあの人形群は見たくない・・・
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