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お白粉婆

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第五章

「子供が笛の練習をですか」
「高校生かな、吹奏楽の」
「それもないですよ」
 高校生も普通は二時は寝ているというのだ。
「それにこれ吹奏楽の笛の音じゃないですよ」
「そういえばな」
「はい、かといってもフルートでもオーボエでもないです」
 無論小学生の縦笛でもない。
「何か違いますよ」
「じゃあ何だ?」
「ですから、その」
 若田部は暗い顔で王島に話す。
「あれじゃないんですか?」
「人買いの笛か」
「それじゃあ」
「まさかな」
「けれど」
 今も笛が聴こえている、それで言うのだ。
「これって」
「一体何だ?」
「わかりません、それでも」
 この笛の声には何かある、それを言おうとしたところでだ。
 不意に二人に何かが来た、何かが投げつけられてきたのだ。
 それは白い粉の集まりだった、粉雪の様な。
 しかしそれは粉雪ではなかった、王島は自分達の顔も服も白くしたそれを手で拭ってからこう言った。
「これは雪じゃない」
「ですね、これは」
「お白粉だ」
 それだというのだ。
「間違いない」
「そのお化粧に使う」
「ああ、それだ」
 間違いなくだ、それだというのだ。
「これは」
「何でここでお白粉が?」
「そんなのわかるか」
 わかる筈がないというのだ。
「いきなり何でこれなんだ」
「ううん、どういうことでしょうか」
「それがわからないな」
「そうですよね」
「わしが投げたのじゃよ」
 ここで声がした、第三者の。
 その声は老婆の声だった、二人がその声にはっとなって前を見ると。
 雪の上に白い日本の着物を着た老婆がいた、編笠を被り腰は曲がっている。顔は皺だらけで相当は生きている感じだ。
 その老婆がだ、こう二人に言って来たのだ。
「御前さん達にお白粉をな」
「あんたまさか」
「ひょっとして」
「そうじゃ」
 老婆は二人の言葉を察して答えてきた。
「わしがお白粉婆じゃよ」
「本当にいたのか」
「まさか」100
「そのまさかじゃ」
 老婆の方からの言葉だ。
「わしがな」
「そうか、あんたがそのお白粉婆か」
「そうなんですか」
「そうじゃ、それでじゃが」
「それで?」
「それでというと」
「御前さん達はわしのことを知っておるか」
 ここでだ、お白粉婆は二人にこうも言って来たのだった。
「このわしをな」
「妖怪だな」
「そうですよね」
「それはその通りじゃが」
 それでもだというのだ。
「わしの意味じゃ」
「妖怪に意味があるのか」
「あるぞ」
 王島に即座に返事を返してきた。 
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