お白粉婆
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第四章
「まさかと思うがな」
「これがですね」
「ああ、夜に笛を吹くとな」
「こんな時間に吹いてたんでしょうか」
「もっと早いだろ」
十二時前だっただろうというのだ。
「人買いが来たのはな」
「そうですか」
「とにかくな、こうした笛がな」
「人買いが来たっていう合図だったんですね」
他ならぬ人買い自身が吹く笛だ、子供が寝ている時間に来たのだ。
「そうなんですね」
「そうだったんだよ、けれどな」
「今時人買いなんていませんよね」
「もういないさ」
豊かになった今では、というのだ。
「女郎もないしな」
「そうですよね、それじゃあ」
「誰かの悪戯か?」
首を捻ってだ、王島は言った。
「これは」
「夜の二時にですか?」
「それか話のな」
「妖怪ですか」
「それか?これは」
「どっちでしょうか」
「本当に妖怪だったら面白いんだがな」
とはいってもだ、王島は自分の言葉が現実である可能性はほぼないと思っていた、妖怪なぞいないと思っているからだ。
それでだ、若田部にこうも言った。
「まあ、期待しないでいようか」
「それじゃあ何時まで待ちますか?」
「十分でいいだろ」
二時十分までだというのだ。
「それ位で」
「そうですか、それ位ですか」
「それ以上になるとな」
「身体が冷えますね」
「ああ、明日も仕事だしな」
身体が冷えて風邪をひくのはよくないというのだ。
「健康第一だからな」
「そうですね、結構以上に飲んでますし」
「御前一升瓶一本空けたな」
「酒強いんで」
若田部は笑って王島にこう返した。
「飲む時は結構」
「そうだな、普段からな」
「ええ、本当にそうした時は」
徹底的に飲むとだ、答える若田部だった。
「それでなんです」
「そうだな、とにかくな」
「ええ、二時十分になったら」
「部屋に戻るぞ」
「それで寝るんですね」
「ああ、朝までな」
こう話す、そうしてだった。
二人は夜の雪がしんしんと降る中で妖怪が本当に出るのか待っていた。そしてその二時になった。
だが前には誰もいない、あるのは雪だけだった。
雪は夜の中で降り続けさらに積もっていく。王島はその雪を見ながら若田部に笑ってこう言ったのだった。
「出ないな」
「そうですね」
「こんなものだろ」
王島は笑ったまま言う。
「妖怪とかはな」
「出ないですね」
「そうだよ、出ないからな」
「妖怪は出ないからですか」
「そうだよ、まあ十分まで待つからな」
「それで出ないと戻って寝ますか」
若田部も言う、そしてだった。
二人はとりあえず十分まで待つことにしたが期待していなかった。だがここで。
不意に笛の声が聴こえてきた、その笛の声はというと。
遠くから聴こえてきた、王島はその笛の声を聴いて眉を顰めさせた。
そしてだ、こう言うのだった。
「まさかな」
「人買いですか?」
「いや、だからな」
今時だ、そんなものがいる筈がないというのだ。
「それはない」
「じゃあこの笛は」
「誰かの悪戯か?」
そうではないかとだ、王島は言う。
「それだろ、それか練習か」
「笛のですか」
「子供か誰かがな」
「夜の二時にですか?」
しかしだ、若田部はこう王島に返した。
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