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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-47隠されるもの、守るもの

 洞窟の宝を入手して戦力を更に高めた一行は、また船旅を続ける。
 大陸の岸に沿って南下し、そこから西に進み、行き当たった川を上って北上し、とうとう村らしきものを発見する。

「地図でいったら、アネイルに近いのだけれど。船が無いと来られないし、こんなに山に囲まれているのではね。知られていないわけね。」
「あの夢の通りにデスピサロの奴めが娘を匿っているのだとすれば、これほど都合の良い場所も、なかなか無いであろうの」

 話しながら、村へと足を踏み入れる。


 少々風変わりながらも長閑(のどか)な村の風景の中、風変わりという言葉では済まされない村人たちの姿に、一行は一瞬言葉を失う。

「……なんだか。村の人たちが、小さい、みたい。……子供、じゃないよね?」
「小せえが、おっさんだな」
「これは……そういう種族なのかな?」
「うむ。あれは、ホビット族じゃの。人間の村に紛れて暮らす変わり者程度ならば、見かけたことがあるが。ホビットの集まる村とはの。驚いたの」
「珍しいが、あまり強そうでは無いな」
「ホビットは、穏やかに暮らすことを好む種族と聞いたことがあります。確かに、荒事には向かない方たちなのでしょうね」
「成る程。守備に付く者も居らぬとは、(いささ)か不用心ではありますが。住民全てが穏やかならば、犯罪や揉め事等の心配も要らぬのでしょう。村自体も目立たぬ立地にあるゆえに、外部との軋轢も少ないでしょうし。なかなか、良い村ですな」
「そうね!変わった村だけれど、あたしたちを見て警戒するということも無いようだし。少し、お話を聞いてみましょう!」


「ここはロザリーヒル。オレたちホビット族が住む村だよ」
「やはりそうであったか。人間は、おらぬのかの?」
「この間、人間のじいさんがやってきて、村で店を始めたよ。全く人間ってのは商売が上手いよな!あとはたまに、旅人が紛れ込んでくるくらいだな。今も宿に泊まってるはずだが。こんな村に来ても、何も無いのにな。今はロザリーもいないし」
「ロザリーさん、ですか?」
「ああ。昔、この村に住んでたエルフだよ。流す涙がルビーになってね。だから悪い人間に狙われて、いつも虐められてはルビーの涙を流してたんだ。オレたちじゃ助けようにもできないし、本当に可哀想だったよ。ピサロ様が助けてくれて、本当に良かった」
「そのロザリーもピサロも、今はこの村にはいないんだな?」
「そうだな。ロザリーはピサロ様がどこかに匿ったし、ピサロ様はピサロ様でいつの間にかいなくなっちまったし。たまに塔の教会に戻ってきては、なんかやってたみたいだが。それも最近じゃ、見ないなあ」
「この村に、塔があるのですね」
「ああ。あの塔も、ピサロ様が作ったものでね。なんでも、大切なものを隠すために作ったとか。見たところそれらしいものは無いんだが、まあ隠すってくらいだからね。見て簡単にわかるようじゃ、困らあね」


「ウソじゃないよ、ほんとだよ!夜になるとあの塔の窓から、きれいなお姉ちゃんが顔を出すんだ!」
「きれいな、お姉ちゃん?……ピンクの髪の、白い肌のひと?」
「うーん。暗いから、はっきりわからないけど。そうだったような気がする」
「そうなのね。ありがとう」
「信じてくれるの?ありがとう!……まだ子供だけど、お姉ちゃんも可愛いね!将来はきっと、きれいなお姉ちゃんになるよ!」
「そうなの?……ありがとう?」
「ねえねえ、お姉ちゃん!ボクと一緒に遊ばない?」
「ごめんね。みんなが、待ってるの。それじゃあね」
「あっ、お姉ちゃん!」


「オレは、ルビーの涙を流すというエルフを探してやってきたのだ。もしそのエルフを捕まえることができたなら、きっと大金持ちになれるぞ!」
「何……?いかに他種族とは言え、か弱き者を虐げて、大金を得ようと言うのか。鍛えて得た力をそのようなことに用いるとは……戦士の風上にも置けぬ」
「ああ?別にオレがなにしようが、あんたにゃ関係ねえだろ!」
「ああ、関係無い。人の道を外れた旅人の一人が、こんなところで命を落とそうとも。全く、関係が無いな」
「ひいっ……し、正気か!?ちょっとエルフを虐めるって、言ったくらいのことで!あんたは、人間を殺すのか!?」
「……そうだな。言うだけで済ませるならば、必要は無いな。もしも本当に、それだけで済ませるならば」
「……き、決まってるだろ!冗談だよ、そんなもの!か弱いエルフを虐めてまで、金を稼ごうだなんて!そんな非道なことを、戦士の端くれであるこのオレが、するものか!」
「そうか。ならば良い。その言葉、努々(ゆめゆめ)忘れるな。もしも(たが)えれば」
「わかってるよ!男に、二言はねえ!……と、ところで、あんた。……名前は」
「……再び(まみ)えた時に、その言葉を(たが)えて居らねば。その時には、名乗りもしよう」
「そ、そうか。わかったよ、オレはこれから真っ当に生きる。だから、また会った時には……いや、いい。またな」


「地獄の帝王が復活すると、わしらホビットも滅ぼされるのかのう。心配だのう……」
「この村にも、地獄の帝王の噂は届いているのですか」
「村で店をやってる、人間のじいさんがな。世間話で教えてくれたんだよ」
「ヒヒーン!心配しなくても、ピサロ様が上手くやってくれるよ!ヒヒーン!」
「うおっ、喋りやがった、この馬」
「わんわん!ぼくたち、ピサロ様に頭を良くしてもらったんだ。人間の言葉だって、しゃべれるよ!」
「そうなのですね。どうやって、そんなことを。魔法かなにかですか?」
「にゃあ、にゃあ!これもみんな、進化の秘法のおかげだにゃん。ピサロ様に、感謝しなくっちゃ!」
「進化の秘法、だと……?」
「……進化の秘法に、こんな使い方が……」
「……バルザックの野郎に使ったようなのよりゃ、マシだが。いま喜んでるからって、いいことばっかじゃねえだろ。犬猫が賢くなるとか、自然にそうなるなら必要なことかもしれねえが。面白半分に手ぇ出していいことじゃねえだろ、こんなもん」
「……そうだね。やっぱりあれは、人間にしろ魔族にしろ。神ならぬ身で、使っていいものじゃない」
「ああ。オレたちのやるこた、変わらねえ。親父の遺志を継いで、消すだけだ」


「ここは、ホビットと動物たちの教会。あなたたち人間の来るところではありません。立ち去りなさい」
「あら、やだ。そうなんですのね、ごめんなさい。すぐに帰りますけれど、少しだけ。昔、この村には魔族の方もいたと伺いましたけれど。今はもう、おられないのかしら。今はホビットさんと、動物さんたちしか。」
「……確かにかつて、この村にはピサロという魔族の若者が住んでいました。世界を支配するなどという野望を抱いて、村を出て行きましたが……」
「あら、まあ。世界をねえ。こんな穏やかな村にいて、なんでまたそんなことを。」
「……今は穏やかなこの村も、ずっとそうであったわけでは無いのです。悪い人間たちが訪れては、村に住むエルフのロザリーを虐めていて。あのピサロが、ロザリーにだけは優しい笑顔を見せていたことを思えば……私には、わからないでも無いのです」
「そんなことが、ありましたのね……」
「……ですから。あなたがそのような悪い人間では無いのは、見ればわかりますが。やはりこの教会に、人間を受け入れたくは無いのです。どうか、お引き取りください」


 手分けして話を聞き回った一行は塔の前の広場で落ち合い、情報を交換する。

「ロザリーさんも、ピサロという魔族も。確かにいたけれど今はいない、ということになっているみたいねえ。」
「ですが、この塔は。間違いなく、夢で見たものですよね」
「ピサロがこの塔に、大切なものを隠しているという話だったな」
「ロザリーさんを、どこかに匿ったというお話もありましたね」
「ロザリーさんみたいな、きれいなお姉さんが、この塔にいるって聞いた」
「ならば、夢の通り。笛でも吹き鳴らせば、道が現れるのでは無いのかの」
「笛っていや、あれだな。サントハイムで姐御が目を付けた、妙な笛」
「ああ、これね。あやかしの笛という名前だけれど、使い道はわからなかったのよね。」

 トルネコが差し出した笛を、マーニャが手に取る。

「よし、とにかく吹いてみようぜ。あんな感じで、鳴らしゃあいいんだろ」
「マーニャは、笛も出来るのか。ミネアが吹くのは聴いたが」
「兄さんのほうが上手いんですよ、本当は」
「あの程度、上手いも下手もねえだろ。じゃ、吹くぞ」

 夢で見た仕掛けのあった場所に全員が移動したのを確認し、マーニャが笛を吹き鳴らす。
 夢で聴いた通りの、美しくも不思議な旋律がマーニャの構えた笛から紡がれて、これも夢の通りに地面の仕掛けが作動する。

 立っていた場所が地面の下に沈んでいくのを見ながら、ライアンが呟く。

「本当に、夢の通りになりましたな。ならば、この先には」
「ええ。きっと、ロザリーさんがいるのでしょうね。」


 地面に沈み込んだ床は更に地中を移動し、一行を塔の地下に残して再び元の広場に戻っていった。

 ロザリーがいると思われる最上階を目指して階段を上り、たどり着いた部屋の前には甲冑に身を包んだ一人の戦士が立ち塞がっていた。

 一行を目にした戦士が途端に殺気を発し、大声で宣言する。

「貴様らが何者かは知らぬが、例え何者であろうとも!ここを通す訳にはいかぬ!この場所の秘密を知られた以上、生かして帰す訳にもいかぬ!要らぬ好奇心を持った己が身を呪いながら、死ね!」

 問答無用とばかりに一方的に言い放ち、瞬時に距離を詰めて斬りかかってくる戦士の前にライアンが立ちはだかり、ドラゴンシールドで攻撃を受け止める。

「この俺の一撃を止めるとは……!なかなか出来るが、ならば余計に逃がす訳にはいかぬな!」
「待て!我々は、争いに来た訳では無い!ここに居られるロザリー殿に」
「やはりロザリー様が狙いか!やはり、死ね!人間どもめ!」

 急所を狙い、攻撃を重ねる戦士に対し、反撃せずに受け流し続けるライアン。

「くっ……このままでは……!」
「ライアン!もういいだろう!手加減して勝てる相手では無い!俺も行くぞ!」
「後味が悪いが、仕方ねえ。先に手ぇ出してきたのはあっちだからな。やるが、いいな?」
「仕方ないね、僕らも死ぬわけにはいかない」

 アリーナの加勢を受けてライアンも反撃に転じ、マーニャが守備力低下魔法(ルカニ)、ブライが攻撃力上昇魔法(バイキルト)、クリフトが守備力上昇魔法(スクルト)、ミネアも念のためと氷炎防御魔法(フバーハ)を唱えて補助に入る。

 戦士が大きく剣を振り抜き、ライアンとアリーナが避けたのに合わせて戦士も大きく距離を取る。

「卑怯な人間どもめが!多勢で押せば、勝てるとでも思ったか!これでも食らえ!」

 言いながら取り出した宝玉を天に(かざ)す。
 宝玉が光を放ち、一行を照らし出す。

「あれは!静寂の玉!」
「なんと!」
「ちっ!魔法が封じられた!」
「そんな!」
「ライアンとアリーナ以外は、下がって!わたしも、出る!」

 少女の指示で魔法が主体の仲間たちが後ろに下がり、ライアン、アリーナに加えて少女の前衛組が、改めて距離を詰めようとしたところで、戦士が大声を上げる。

「我が(しもべ)!アイスコンドルよ、来い!」

 戦士の呼びかけに応じ、窓からアイスコンドルが二体舞い込んでくる。

 少女が瞬時に記憶を探る。

(アイスコンドル……凍える吹雪と、たまに痛恨の一撃!)

「みんな!息と強い攻撃に気を付けて!ライアン、戦士を抑えて!アリーナはわたしと、先にアイスコンドルを」
「承知」
「わかった!」

 ライアンはひとり戦士に向かい、アリーナと少女はアイスコンドルにそれぞれ攻撃を仕掛ける。
 ブライがマグマの杖を振りかざして弱いながらも敵全体に爆発魔法のダメージを与え、トルネコも破邪の剣の火炎魔法でアイスコンドルを攻撃する。

 距離を取って身を守りながら、クリフトがミネアに話しかける。

「私たちも、攻撃したいところですけど。半端に攻撃して反撃を受けては、回復も出来ない今、かえってご迷惑になりますね」
「静寂の玉の効果も、永続はしません。今は耐えて、効果が切れるのを待ちましょう」
「また使われちゃ、意味がねえがな」
「そこは、ライアンさんが抑えてくれると信じよう」

 一度凍える吹雪を吐かれるも、フバーハの効果で大事には至らず、アリーナが繰り出した会心の一撃もあってアイスコンドルが倒れる。

「魔法が、使えるようになりましたわ!」
「今のうちに、回復しましょう!」
「おし、今のうちだな!」
「うむ、目にもの見せてくれようぞ!」

 クリフトとミネアが手分けして仲間たちを回復し、マーニャは重ねてルカニを、ブライは更にバイキルトを唱える。

「くっ!小癪な!」

 苛立ち、また静寂の玉を使おうとした戦士にライアンが斬りかかり、使用を阻む。
 動作を中断させられて体勢の崩れた戦士にトルネコが忍び寄り、静寂の玉を奪い取る。

「あら、ごめんなさい!」
「な!なんという、卑怯な!」

 焦った戦士は再び仲間を呼ぼうとするも、前衛の三人に集中して攻撃され、声を上げる隙も見出だせない。
 前衛の攻撃の合間を縫うようにマーニャとブライも攻撃魔法をぶつけ、粘っていた戦士もダメージが蓄積し、とうとうその場に崩れ落ちた。

 倒れ伏した戦士が、死の淵で切れ切れに呟く。

「くっ……卑怯な……汚い、人間どもが……。ロザリー様に、近付くことは、この俺が……許さ……ぬ……。……ピサロ様。申し訳……ありません……」

 命尽きるまであくまで一行の前に立ち塞がり、戦い抜いた戦士は、届かぬ謝罪の言葉を遺して息を引き取った。

 全てを見届けた少女が、呟く。

「……この、ひと。悪いひとじゃ、なかった、よね……?」
「……そうですね」
「……戦わないと。いけなかったのかな」
「……そうしなければ、私たちが殺されていました。私たちは、死ぬわけにはいきません」
「……そうね。……来たら、いけなかったのかな」
「……」

 少女がぽつぽつと呟くのに、返す言葉を失ってミネアが黙り込み、代わってブライが口を開く。

「……あの夢が、ただの夢では無かったことは、もはや明らかなことじゃて。誰かを呼べば、このようなことも起こり得ると。それがわかった上で呼びかけたのは、あの娘じゃ。わかった上で、それでも呼ばずにはおれぬほど、事態は切迫しておるのじゃろう。あの娘はあの娘の、この戦士はこの戦士の、我らは我らの。それぞれの信念に、従ったまでのこと。相容れぬ者同士であれば、このようなことも、時にはあるものじゃ。誰が悪いということでは無いのじゃよ」
「……そう。……そう、ね。……でも……悲しい、ね」
「ユウちゃん……」
「ユウ殿……」

 トルネコが歩み寄って少女を抱き締め、ライアンも気遣うように近くに佇み、少女を見つめる。

「……ごめんね。大丈夫。わたしたちは、ロザリーさんに会いにきたんだから。行かないと、戦ったのも、無駄になっちゃうね。行こう」

 少女は前に向き直り、ロザリーが待つと思われる部屋に続く扉へと進む。 
 

 
後書き
 忠義に身を捧げて倒れた戦士の屍を越えて、一行は進む。
 進んだ先で待つものの、願うことは。

 次回、『5-48異なる想い、重なる願い』。
 11/6(水)午前5:00更新。 
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