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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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A's編 その想いを力に変えて
  39話:それぞれの夢(ねがい)

 
前書き
 
目次が3ページ目に入って少しばかり喜びを感じている作者です。
  

 
 
 
「エイミィさん!」
『状況確認!』

士とフェイトが消え、呆然としていたなのはだが、ハッと何かに気づくと管制室にいるエイミィに向けて通信を繋ぐ。エイミィもすぐに操作を始め、士とフェイトの状況を調べ始める。

『フェイトちゃん、士君。二人のバイタル、未だ共に健在!闇の書の内部空間に閉じ込められたみたい…。助ける方法、現在検討中!』

その言葉に感じた安心を心の奥へ仕舞い込み、デバイスを構え直すなのは。目の前には、闇の書の管制人格が未だ佇んでいた。

「主もあの二人も、覚める事のない眠りの内に、終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢、それは永遠だ…」

彼女はフェイトと士、はやての状況を言うかのように、淡々と言葉を発する。

「永遠なんて…ないよ…」

だが、その言葉になのはは少し俯きながらしゃべり始める。

「皆変わってく……変わっていかなきゃ、いけないんだ。私も…あなたも!」


















目の前に光る点が、星だと気づくのは、そう遅くはなかった。
まだボーッとしている意識の中、ゆっくりと上半身を上げる。周りの状況がわかるようになって、頭もしっかりし始める。

「…ここは……?」

どこか見た事ある部屋。ふと自分の脇に目をやれば、そこには赤毛の子犬状態の私の相棒であるアルフと、朝日に照らされた、私と瓜二つの顔を持つ女の子だった。
状況がうまく掴めない。そう思っていると、不意に女の子がいるのとは逆の方向から、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「フェイト、アリシア、アルフ。朝ですよ」

ドアを開け、そう言いながら朝日を遮っていたカーテンを開ける女の人。その姿、声…全てが見覚えがあった。灰色のショートヘアーに、白を中心とした服。彼女は私の母さんの使い魔である、リニスだった。
そのリニスは、確かに私の名前を呼んだ。そしてアルフと一緒に、もう一つの名前を呼んだ。という事は……

「おはよう、フェイト…」

目を少し擦りながら、私に向かって挨拶をしてきた。リニスが言ったのが本当なら、彼女は……アリシア。

「はい、皆ちゃんと起きてますか?」
「は~い」
「ふぁ~…眠い…」

リニスの言葉に元気に返すアリシア。そしてその脇で士のような欠伸をするアルフ。

「二人とも、また夜更かししてたんでしょ?」
「ちょっとだけだよ~」
「ね~」
「早寝早起きのフェイトを見習ってほしいですね。アリシアはお姉さんなんですから」
「むぅ~」

リニスの言葉に、アリシアは頬を少し膨らまして不満げな表情を浮べる。
私はようやく状況がわかってきて、それでも確かめなきゃいけないと、今の疑問を率直に言葉にする。

「あの……リニス?」
「はい。なんですか、フェイト?」

「アリ、シア…?」
「うん」

本来はいない二人、リニスとアリシア。それなのに今、二人は確かにここにいる。
何故か、そんな事を考えていると、リニスがクスッと笑みをこぼした。

「訂正します。今朝はフェイトもお寝坊さんのようです」
「あはは…!」

リニスはそういうと、パンッと一回手を叩き、言葉を続ける。

「さ、着替えて朝ご飯です。プレシアはもう、中庭のテーブルについてますよ」
「っ!?」
「は~い!」

リニスの言葉に、私は目を見開いた。

プレシア……母さんが、いる。
その事に、私は不安を隠せなかった。









アリシアと一緒に服を着替えて、中庭へ。そこには緑の中にポツンと建つ建物とその下にあるテーブル、そしてそこに座る……母さんがいた。

「ママ、おはよう!」
「おはよう」
「おはよう!」
「おはよう、アルフ」

アリシアとアルフは母さんに元気に挨拶を交わす。リニスも二人の後に続くように、プレシアの側まで行く。私も不自然じゃないように、少し早足で向かう。

「フェイト、おはよう」
「ぁ……うん、お、おはよう…ございます…」
「?どうしたの、フェイト?」

でもどこか不自然だったみたいで、母さんに声をかけられてしまう。
だけど、やっぱり直視できない。私は顔を俯かせたまま、母さんの横を通ろうとした。だけど、その途中でリニスが私を肩を掴んで止めた。

「どうやら、何か恐い夢を見たらしくて…今朝からこんな調子なんですよ」
「あら、そうなの…?」

そしてリニスは、私を半ば無理矢理母さんに向けさせる。顔を俯かせたまま、私の体は緊張を解かない。それどころか、それをより強くしていた。
そこへ急に伸びてきた手。思わず離れ、私は顔を上げる。

「あっ……恐い夢を見たのね。でも大丈夫よ。母さんも、アリシアもリニスも、皆あなたの側にいるわ」
「プレシア、アタシも~!」
「ふふ、そう、アルフもね」

母さんの言葉に、少し不満そうに声を上げるアルフ。

「まぁ、朝食を食べ終わる頃には、悪い夢も覚めるでしょう」
「さ、席について、いただきましょう」









―――違う…。これは、夢だ

アリシアや母さんが朝食を食べる中、私は一人、ただ今の状況を考えていた。

―――母さんは私にこんな風には、笑いかけてくれなかった

私に見せていた表情は、どうにも言い表せない、でも怒りの感情の含んでいるものだった筈。士のおかげで、最後に笑いかけてくれたけど……それが本当に最後だった。母さんはもう、いない。

―――アリシアやリニスだって、もう……

アリシアもリニスも、事故で亡くなっている。本来ここには、いる筈はない。


―――だけど、これは……この光景は……


「ねぇ、今日は皆で街に出ましょうか」
「わ~い!」
「いいですねぇ」
「フェイトには、新しいお洋服を買ってあげないとね?」
「っ…は、はい…」
「あ~!フェイトばっかり、ずる~い!」
「魔道試験満点のご褒美ですよ。アリシアも頑張らないと」
「そうだぞ~」

リニスにいわれ、テーブルの下でお肉を頬張るアルフにも同意され、さらにむくれるアリシア。

「フェイト~!」
「え?―――っ!?」

かと思ったら、アリシアは私の名前を呼んだ後、しゃがんでテーブルの下へ。そしてテーブルの下から私を見上げるような場所にやってくる。

「今度の試験までに、補修をお願い!」
「う、うん…」

少し頬を朱に染めて、手を合わせて懇願してくるアリシア。私は少し困惑しながら返事をして、周りに目をやると、リニスも母さんも優しく笑っていた。

―――思い描いていた、時間

今ここにはアルフがいて、母さんがいて、リニスがいて、アリシアがいて……そして、私がいる。

「…フェイト?」

私は思わず、下にいるアリシアの肩をつかむ。アリシアを見下ろす視界は、段々と潤んでいく。

―――私がずっと、欲しかった時間…

その様子を見て、リニスも母さんも困惑した表情で近寄ってくる。
涙が止まらない。出そうと思ってもいないのに、声が漏れる。両手で顔を覆っても……止まらない。

―――何度も、何度も…夢にまで見た時間だ……


















「眠い……」

そこは暗い空間。濃い青のような色で塗られた世界。そんな世界で、八神はやては車いすの上で眠っていた。
うっすらと見える視界には、銀髪の女性。

「そのままお休みを、我が主……」

優しく語りかける声は、はやてに更なる眠気を与える。
段々と重くなっていく瞼を、ゆっくりと閉じる。

「あなたの願いは、全て私が叶えます」

そしてはやては再び眠りの世界へと旅立った。


















「どうしたの、お兄ちゃん?こんな朝早くに起きたりして」

俺の目の前で俺の事を“兄”と呼ぶ少女。寝間着を来ているところを見るに、おそらくはこの家の住人なのだろう。
と、とにかくだ。ここは冷静に、不自然ではないように振る舞うべし!

「え、えっとだな…。きょ、今日はなんとなく早く起きちまったからさ、何か作って食おうかな~、なんて思って」

うん、違和感はない。何処にでも移送な中学生(体格と目線の高さから推理)の筈だ。
少なくとも、俺の家族なら俺が料理ができるのは知ってる筈だし、口調も別に何処も可笑しくはない筈……

「……………」
「って、あ、あれ…?」

だが、妹(仮)の反応は、何かあり得ない物を見たかのようなものだった。目を全開で見開いて、口も半開きになっている。

「……お、お兄ちゃんが…」
「え?」

「お兄ちゃんが私より早く起きてきた上に、自分で料理をしようだなんて…!」

「な、なん…だと…!?」

ようやく動いた妹(仮)の口から出たのは、驚きの一言だった。彼女にとって俺は自分で料理もしないし、朝も遅いらしい。可笑しくないと思っていたこと全てが可笑しかったのか……

「お、お兄ちゃん大丈夫?熱とかない?」
「な、なんでそうなる…!?」
「兄を心配しない妹なんていないよ」

そう断言しながら彼女は俺の元へ歩み寄り、額に手を伸ばしてきた。

「っな!?」
「ん~…、別に熱はないみたい……」

それに俺は反応できず、不用心にも妹に額を触られてしまう。
熱がない事がわかり、彼女はそれでも不思議そうに頭をかしげる。

「じゃあなんで……」
「あら、朝から仲がいいわね、二人とも」

だが、彼女の疑問の声を遮るように、また新たな人物が言葉を発する。俺は妹(仮)から視線を外し顔を上げ、妹(仮)の後ろにいる人物を見る。そして、その声の主を見て、俺は不覚にも体をビクリと跳ねさせた。
何故か、それは彼女の姿が写真で見たこの俺、門寺士の母親と同じだったからだ。

「あ、お母さん!」
「おはよう、真希(まき)。朝から元気ねぇ、あなたは」

俺の前にいた妹―――もとい真希は、振り返るや否や走り出し、さっきの声の主―――真希が言うには母親―――にだきついた。

「おはよう。今日は早いのね、土曜日なのに」
「え、あ、まぁ…ね」

急に声をかけられ、俺は曖昧に答えてしまう。しかし母(仮)はそれを別に気にする事なく、そのまま台所へ向かう。

「ねぇねぇお母さん、聞いてよ聞いて!お兄ちゃん、今日は私より早く起きたんだよ!日曜でもないのに!」
「人間、たまには体が気まぐれな事をするもんよ」

しかしこの母(仮)、意外にも酷い事を言う。何故かこの二人は、俺は遅く起きる人間だと認知されているようだ。
でもまぁ、そこまで気にしている様子では……

「それだけじゃないんだよ!お兄ちゃん、自分で料理を作るなんて言うんだよ!」

そう思っていた矢先、真希の言葉に母(仮)はピタリと動きを止めた。その表情は、先程の真希の驚きように類似していた。やはり親子だからか?

「真希、すぐにテレビつけて、天気予報やってるチャンネルに合わせてちょうだい」
「ら、ラジャー!」

母(仮)に言われ、真希はすぐさまテーブルの上にあるリモコンを手に取り、電源ボタンをおしてテレビをつける。その間に、母(仮)は手を顎に当てて、小さくうなり声を出していた。

「どうしよう…槍でも振ってくるのかしら…」
「槍!?」
「となると家の補強もしなきゃ。鋼鉄足りるかしら…?」
「対処する気かよ!?しかも意外と本格的!?」

母(仮)の呟きに、俺はそんなキャラでもないのに思わずツッコミを入れてしまう。槍って、俺どんな目で見られてる訳!?
はっ、でもこのボケ……以前俺がなのはに使ったやつじゃないのか!?まさか…血は争えないとでも言うのか!?

「たいちょー!ただいま確認したN○Kによると、今日は雲一つない快晴になるそうです!やはり世の中可笑しくなってるであります!お兄ちゃんがこんななのに快晴だなんて、あり得ないであります!」
「いいじゃん快晴で!なんかほんと俺の扱い酷くない!?てか口調可笑しくなってねぇ!?」
「何やってるのよN○K。今日の天気だっていうのに、ちゃんと予報しなさいよ」
「なんでそんな反応になるの!?俺そんなに可笑しい事してる!?ていうか、今すぐN○Kに謝れ!」

天気予報はどこもあんまり変わらないだろうが、俺はN○Kを一番信用している!

「朝っぱらからギャーギャーピーピー五月蝿いぞ。なんの騒ぎだこれは?」

普段はボケ担当の俺がツッコミへ回されるという屈辱的な仕打ちを受ける中、新たな人物がリビングへやってくる。
察しのいい人はもうお分かりだろう。その人物とは、母(仮)と同じく写真で見た顔。つまり、どうやら彼は俺と真希の父親らしい。

「あ、お父さん!」
「ん、おはよう真希。母さん、朝飯は?」
「今から作りますから、待っててください」
「おう」

父(仮)はそういうと、ドカッと椅子に座り新聞を広げる。その勇ましさと言ったら、まさに父親そのもの。……いや、父親なんだろうけど。

「……よし…」
「?どうしたのお兄ちゃん?」
「一旦部屋に戻る」

俺はそれだけを言い残し、俺は踵を返す。

「…部屋に戻って二度寝するんだね。うん、いつも通りのお兄ちゃんだ」
「おい…」









部屋に戻りパタンと扉を閉め、俺はすぐさま部屋を物色し始める。本棚には漫画本や教科書。数学がⅠAなどと分かれていなかった事から、予想通り俺は中学生らしい。
そしてようやく見つけたのは、目的の物―――アルバムだ。そこには小さな頃の俺……いや、元の頃の俺がいる。そして……その横には我が妹、真希。そして……フェイトを含めたなのは達四人の姿があった。

「なんでだ…?」

死んだ筈の母と父がここにいるのはおそらく…“夢”だから、だろう。なのはが存在するのは、ここが“もし二人が生きていたら”、という世界だからだろう。おそらく、俺は魔法には関わっていない。だからトリスが見当たらないのだろう。

だが、一番不可解なのは……妹、真希の存在だ。
自分、門寺士に妹は存在しない。兄も弟もいない、生粋の一人っ子の筈だ。それなのに、母も父も妹の存在を当たり前のように捉えている。

「ん~…わからん…」

頭を必死になって捻るが、結局結論には至らず、母に呼ばれ朝飯を食う事になった。








「それじゃ、行ってくるね」
「うん!いってらっしゃい!」

先に出て行った父の後を追うように、母が仕事場へ向かっていく。

「今日はお兄ちゃん、休みなんだっけ?」
「そう、みたいだな」

まぁ休みなら好都合だ。色々確認しながら過ごせる。

「ま、洗濯でもしとくか…」
「お兄ちゃんが…洗濯…!?」
「おい……」

とまぁ、色々やって過ごした訳だが……

「ふぅ……」
「お兄ちゃん、なんでそんな手際いいの…?」
「兄だって本気を出せばこんなもんだ」

いままで本気じゃなかったんだ…、などと呟きながら手伝ってくれた真希は先にベランダから家に戻る。俺も洗濯箱を片手に、家へ戻ろうと一歩を踏み出した。

―――その時だ。


『久しぶりだのう』


背後から声が聞こえたと思った瞬間、世界は灰色に塗り替えられる。風ではためいていたタオルが途中で止まる。どうやら、時間まで止まったようだ。
そんな事をできるのは、考えられる可能性としては一人。そして、先程の声も、どこか聞き覚えがある。

俺はゆっくりと振り返り、その声の人物を見る。
真っ白い服に身を包み、その威圧感のある巨漢に少し長めにたくわえたヒゲ。威厳たっぷりに立つその姿は、まさに圧巻。

「……そうだな、年数にすれば約九年ぶりか」
「うむ…もうそんなになるか。時間とは早いものだな」

そう言いながら、ヒゲをなぞるように触る。俺はその光景にため息をつく。

「今更何しに来たんだよ……」



―――神様よぉ…



俺がそう言うと、目の前の人物―――もとい神はヒゲを触りながらニヤリと嫌な笑顔を見せてきた。

   
 

 
後書き
 
いつもの無計画さがいつか仇にならないか不安でならない作者です。
  
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