戦国異伝
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第百四十話 妻としてその十
「死兵を下手に相手にしても何にもなりませぬ」
「ただ悪戯に兵を失うだけじゃな」
「左様です、それよりもです」
正面から戦うよりもだというのだ。
「幾らでも破らせ」
「そしてじゃな」
「疲れさせるのがいいです」
これが黒田の策だった。
「そうしましょう」
「ではな。だが戦はじゃ」
それはというと。
「今日はないわ」
「夜もですな」
「浅井も朝倉も来たがな」
それでもだというのだ、戦の場に来てもだ。
「それだけじゃ」
「力がありませぬな」
「ここは」
「休む必要がある、そしてじゃ」
それは浅井朝倉だけではなかった、彼等もだった。
織田軍にしても布陣は整えた、だがだった。
「我等もな」
「確かに。今日はですな」
「これ以上は」
「兵達にたらふく飯を食わせろ」
今はそれが大事だというのだ。
「そして明日じゃ」
「明日ですな」
「明日に」
「朝早くから仕掛けるぞ」
戦をだというのだ。
「よいな、今宵は見張りを置いたうえでゆっくりと休む」
「畏まりました、では」
「まずは飯を食い」
「そうしてですな」
「白い飯をたらゆふくとじゃ」
食わせろというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「兵達にも」
兵達は干し飯であることが多い、だがだったのだ。
信長は兵達に白米を食わせよと命じた、そして実際に。
織田家の足軽達は飯を炊きはじめた、それは浅井もだった。
彼等はそれぞれ飯を食う、織田家の足軽達は白い飯におかずを食いながら笑って話す。夕暮れの中で話すのだった。
「向こうも食っておるな」
「うむ、そうじゃな」
織田家の方から煙が見える、それは浅井朝倉の方からもだった。
無論徳川家からもだ、彼等は皆飯を炊いていてその煙が上がっているのだ。
その煙を見ながらだ、彼等は話すのだった。
「今日は戦はないか」
「休んでよいな」
「今はな」
「明日じゃな」
その明日にだというのだ。
「戦か」
「腕が鳴るわ」
「では派手に戦うか」
「そうしてやろうぞ」
「我等は弱いというがな」
織田の兵が弱兵と言われていることは彼等もよく自覚している、それで話すのだ。
「だがな」
「それでもじゃな」
「わし等も伊達にここまで生きておる訳ではないわ」
「だからじゃな」
「我等の力見せてやろうぞ」
「是非な」
こう話すのだった、そのうえで。
彼等は飯を食っていく、その白い飯を椀に入れて箸で食いながらこうも話した。
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