在りし日に戻る~被検体YU~
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何があったの?
時は少し遡る
神田が四幻式を発動している頃、イーラは宿に着いた。本部に連絡を入れるとたまたま近い場所で任務に就いていたリナリーが増援として派遣された。
数十分後、彼女が現地入りした。
増援としてエクソシストが派遣されることはしばしばあるが、到着するのはどんなに早くても2時間後ぐらいである。しかし、こうして1時間以内に到着するということは現在AKUMAと交戦している神田と彼女が並々ならぬ間柄であることを物語っていた。
付着した汗を拭いながら彼女はイーラを伴い森へと向かった。
「…それでAKUMAはどれくらいいたの?」
先を歩くイーラに現状を報告させる。
「少ししか見ていないので確証は持てないのですが、おそらくレベル3が3体と、未確認のAKUMAが1体かと」
未確認、その言葉にリナリーは眉根を寄せた。
「未確認か…。ありがとう、ここまででいいわ。貴女は宿に戻っていて」
「いえ、私も探索部隊の一員として同行します」
―――ドーンッ――――
唐突に森の奥の方で何かが爆発する音が聞こえた。
おそらく、規模は大きいのだろう。森の入り口であるここでさえ、熱を孕んだ風が伝わってくる。
「いいえ、この先何が起こるか分からないわっ!だから貴方は私からの連絡があるまで待機しておいてっ!!」
(一体何があったの?神田、大丈夫だよね?)
イーラの返答も待たずにリナリーは森の奥へと駆けていった。
リナリーが去り、イーラ一人のみとなった森の入り口で、イーラはロード・キャメロットとしての顔を覗かせた。
「へぇ、レベル4が自爆するほどの相手とはねぇ。神田ユウ、面白い子だなぁ」
彼女は見上げた先には徐々に白んでいく空があった。
リナリーは「黒い靴」を発動させ、まるで忍者のように大木の枝を跳躍しながら渡っていった。
進むにつれ、熱気がどんどん強くなりAKUMAのガスも漂い出す。
――パキッ―――
たまたま着地した先の一本が彼女の体重に耐えきれず折れてしまった。
それによりバランスを崩した彼女は落下していく。
徐々に落下のスピードを速めていくなかで幹に一蹴り入れ、着地の衝撃を緩和した。
(いつもの私らしくない。普段なら体重を余りかけずに跳躍するというのに)
彼女は自身が思っているより幾分か焦っていたようだ。
彼女は速まる鼓動を落ち着かせるため、深呼吸をする。
動作の途中で1時間ほど前の兄からの緊急連絡の内容を思い出していた。
“リナリー今、ロレーヌにいるのかい?”
その時、彼女はイノセンスがあるという情報の下、ロレーヌに訪れていた。しかし、ハズレだったらしく彼女は少し疲労の色を見せていた。
“ええ。兄さんここはハズレだったわ。今回は割りと信憑性があったのに…”
落胆を含んだ声で彼女は言うと電話越で苦笑するコムイの声が聞こえてきた。
“まあ、そういう時もあるからね。ところで”
ところで、と続けられた言葉は声音が変わり、緊迫したものとなった。
“ところで、アルザスに向かっていた神田くんなんだが、現地の探索部隊によると現在レベル3と交戦中で至急増援を求む、とのこと。そこで、リナリー。アルザスから今、最も近いロレーヌにいるリナリーに増援として向かってもらいたい。レベル3以外にも未確認のAKUMAがいるそうだから十分気をつけてくれ”
“分かったわ。すぐに向かうわっ!!”
イーラの口から聞くまでは話半分で聞いていたが、実際に未確認と告げられると恐怖が体を支配した。
しかし、それ以上に神田の状態が気になり焦りと恐怖でギリギリの精神を保っている状態だった。
深呼吸を終えると身も心も軽くなったようになり、リナリーは再び駆け出した。
最新部につくと、そこは開けた場所になっており、爆心地と思われる場所に彼が倒れていた。
近づいていくと、レベル3の残骸やひび割れた六幻が転がっていて戦いの凄惨さが見てとれた。
ここで、ふとリナリーは違和感に気づいた。
身に付けている服から彼と判断出来たが、着用している本人が10歳程の少年が横たわっていた。
「…ウソでしょ?」
慌てて、彼女は駆け寄るが顔も現在の精悍な顔つきとは違うが、リナリーが神田と初めて会った頃の子ども特有の丸みを帯びた顔をしており、紛れもなく彼だった。
少し、動かしても全く反応のないことから彼女は彼の脈をはかった。
(よかった。生きてる…)
どうやら意識を失っているだけのようで目立った外傷もなく、リナリーは一先ず安堵した。
そして、本部へと報告するために彼女は神田を背負い、宿へと帰還した。
宿に着くと、イーラは既に朝食をとり終えており、彼女が背負っているものを見て驚いた。
「どうしたのですか?その少年はまさか?」
「ええ、神田よ。どうしてこんなに幼くなっちゃったのかは分からないけど…」
(セカンドは今は神田ユウしかいないからな。分からないことだらけだ…)
リナリーは神田をベッドに寝かせてから連絡を入れようとした。
しかし、そっと彼の体をベッドに横たえさせた時に彼の体がピクリと動いた。
階段を上る振動で起きてしまったのだろうか
ゆっくりと開くその眼はリナリーをとらえていた。
「神田っ!良かった気が付いたのね。本当に心配したのよ!!」
嬉しそうに微笑むリナリーとは違い、神田は怪訝そうに言い放った。
「お前、誰だ?」
彼女の顔は色を失った。
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