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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter31「すれ違う想い」

 
前書き
ルドガーの過去編がとんでもない、話数になりそうで困っています。 

 
ホテル・アグスタでの任務から数日が経過した。

目立った事件や任務も無く、機動六課隊員達は単調で平和な日常が続いていた。
そんな中、フォワード隊と隊長格数名は訓練場に集まっていた。
これまでの訓練の成果を見定めるために、スターズとライトニング両分隊の模擬戦がこれから行われるのだ。

まずはスターズからの模擬戦となり、スバルとティアナがバリアジャケットを纏う。

2人の胸にはこれから望む模擬戦に対しての適度な緊張と、これまでの訓練で得た力で必ず勝てるという自信があった。

「ごめん遅れて。もう始まっちゃった?」

訓練場に構築された廃ビルの屋上でスターズ達を見ているエリオ、キャロ、ヴィータの元にフェイトが合流した。

「フェイトさん」

「どうしてこちらに?」

フェイトが来る事を知らなかったキャロとエリオが質問する。

「本当は今日の模擬戦、私が受け持つはずだったんだ」

「そうだったんですか?」

「この頃なのは、働きっぱなしだったから疲労が心配でよ。フェイトに今日の模擬戦を提案したんだけどよ」

「朝から晩までみんなと一緒に訓練して、1人だけの時はモニターとにらめっこして訓練映像を確認して訓練メニューを考えたりで」

「このままじゃなのはでもいつかまいっちまうから、休ませてやりたかったんだよ」

隊長2人から聞かされた自分達の知らない場所でのなのはの姿。
自分達がどれほどなのはに想われていたのか、キャロとエリオは改めて知り感銘を受ける。

「そういえばルドガーさんは?今日は来られないんでしょうか?」

ティアナの銃の師であるルドガーの姿がない事に気付き、エリオがフェイトに問いかける。
教官であるルドガーが今日のようなティアナの大事な日に姿を現さないのを疑問に思ったのだろう。
その問いにフェイトは笑顔で答える。

「ルドガーなら大丈夫、必ず来るよ。厨房の仕事を終わらせたら来るって言ってたから」

「考えてみりゃ、アイツもアイツでけっこう激務だよな」

普段は厨房のスタッフで六課の隊員達の栄養管理に勤め、フォワード隊の訓練とティアナの個別指導。更にデスクワークに任務が入れば同行するのだ。

仕事のベクトルが違う上、生半可な忙しさではない。

「あっ、始まりました」

屋上にいるメンバーの視線がスターズとなのはに向く。それと同時に銃声が鳴り響いた。


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ティアナの放った魔力弾が空を飛ぶなのはへ向かう。
その一発を避けると、また次の魔力弾がなのはを襲う。

だがそれも簡単に避ける。
これくらいの弾に当たるくらいならエースオブエースなど勤まるはずがない。
勿論ティアナも当たるとは思っていない。

「行け!」

なのはの躱した魔力弾がティアナの一声で、彼女目がけ追尾を始める。
実はティアナの撃った弾はただの魔力弾ではない。使用者の制御力次第で誘導性が上がる、誘導弾。
破壊するか、使用者が攻撃を解除しない限りはどこまでも追尾を続ける。
追尾を続ける魔力弾を躱し続けるなのは。

そこへ、前方からウイングロードが出現し、その上をリボルバーナックルを構えたスバルが、全力で駆けてくる。

「クロスシフトだな」

クロスシフト……スバルとティアナのコンビネーションの事を指すものである。

「クロスファイヤー……シュートっ!」

ティアナが仕掛け、幾つものウイングロードがなのはを目がけて不規則な軌道を描いていく。

「なんかキレがねーな」

「コントロールはいいみたいだけど……」

「それにしたって……」

この動きではなのはを追い立てるのがやっと。攪乱させる事はできない。
スバルはなのはが放った魔力弾を片手に展開したシールドで強引に弾き飛ばしながら、前に進む。

「でぇりゃあああああっ!!」

拳をなのはに向け振りかぶる。
しばらく打ち合いが続いたが、なのはがレイジングハートを振りぬき、スバルを大きく弾き飛ばす。

「こらスバル!ダメだよ、そんな危ない軌道!」

ウイングロードに着地したスバルに、ティアナの誘導弾を躱しながら話すなのはの叱咤が飛ぶ。

「すいません!でも、ちゃんと防ぎますから!」

自分の注意に対してスバルが応えた一言に、一瞬表情を少し厳しくするが、ティアナの姿が見当たらない事に気付く。フィールド内を見回し探す。

それから直ぐにティアナを見つけるが、その彼女の行動を見てなのはは訝しむ。
ティアナは廃ビルの屋上に立ちクロスミラージュをなのはに向け構え、魔力を収束させていた。
その行動はティアナのポジションからは考えられないもの。

「砲撃?ティアナが?」

戦闘を観戦していたフェイトがそんな声を漏らす。
ティアナをよく知る者がこのティアナの動きを見れば、驚くのも無理もないのかもれない。
スバルがなのはに接近戦を挑んでいる間にティアナは準備を進める。これまでスバルと共に死に物狂いで続けてきた成果を出す為に。

「(スバル!クロスシフトC、行くわよ!!)」

「おう!!」

念話でのティアナの指示にスバルは気合いの入った声で応える。
カートリッジをロードし、足に装着したマッハキャリバーが唸りを上げ、なのはへ急接近する。

「くっ……!」

接近するスバルを迎撃するが、それらを超スピードで掻い更に潜り重い一撃を繰り出す。

「うおおおおおおおおおっ!!」

「……っ!」

スバルの拳となのはの展開するシールドがぶつかり合い、せめぎ合う。
さっきのように弾き飛ばされないよう、足に力を入れ続ける。

「(ティアぁっ!)」

念話でスバルはティアナに次の段階に入る合図を送る。
それと同時に屋上で砲撃を放とうと構えていた、ティアナの姿が一瞬にして消える。

「あっちのティアさんは幻影!?」

「じゃあ、本物は!?」

屋上からなのはを狙っていたティアナは幻影魔法のフェイクシルエットだった。
ならば本物は何処に身を隠している?キャロとエリオが慌てて視線をフィールド内に巡らし、ティアナを探そうとする。

「あっ!」

不意にキャロがそんな声を上げ、ある方角を指差しており観戦している人間は視線がそちらに集中する。その視線の先にいたのはティアナだ。
勿論フェイクではなく本物。ティアナはあらかじめスバルが展開していたウイングロード上を重量に反して駆け上がる。

(チャンスは一度……絶対に決める!)

クロスミラージュを二丁持ちトリガーを引き、オレンジ色の短剣を生み出す。
銃士の近接戦。

ルドガーからは短剣による戦闘方法は伝授されてはいるが、とても今の段階では実戦で通用するレベルではないので、前衛の防衛を突破され、敵が近接戦を仕掛けて来た場合のみその使用を許されていた。

そう、ティアナはルドガーの教えを破ったのだ。
そして更にティアナは驚くべき動きを見せる。

「ティアさんの銃の持ち方が変わった!?」

「あの持ち方に、構え……あれってまさか……!?」

エリオがティアナのクロスミラージュの持ち方が変わった事に気付き、その変化を見たフェイトはティアナとある人物の姿を重ねる。
短剣が出ているとはいえ、銃では絶対にやらない、グリップを逆手に持つ持ち方。

得物のレンジが真逆だとはいえ、今のティアナの動きを見れば、双剣を同じように持って戦うルドガーの事を思い浮かべてしまう。それに実際ティアナは、ルドガーの構えを意識して使っている。
訓練で誰よりもルドガーの隣にいるティアナなら、彼の戦闘技術を自分の物にする時間など、教えられずにともいくらでもあったのだろう。

(バリアを斬り裂いて…フィールドを貫ら抜く!)

なのはの頭上辺りまで駆け上がると、足場を力強く蹴る。

「一撃必殺……一迅!!」

一迅……

ルドガーの使う双剣技の一つで、一直線に突進して敵を貫く技。

ルドガーは訓練の中で彼女に一迅を伝えてはおらず、ティアナは見よう見まねで一迅を再現したようだ。そして二丁のクロスミラージュを構え前に突き出し、なのは目がけ落下していく。

「でええええぇぇぇぇいっ!!」

勝った。
無防備ななのはの背を前にして、ティアナは確信の笑みを無意識に浮かべていた。

「レイジングハート……モードリリース……」

《Allright》

感情のこもっていない氷のような冷たい声が耳に届いた気がした。
しかし、構う必要などない。


もう勝利は手にしたも同然なのだから。


次の瞬間、なのはの居た場所は凄まじい爆音と爆煙に包まれる。

「なのは!!」

その光景に誰もが息を飲んだ。観戦しているビルまで届くほどの爆発の余波だ。
真ともに食らえばなのはは勿論、ティアナ達だって負傷しても可笑しくはない規模だ。
爆煙が晴れるのを待つ一同。
そして爆煙が晴れ、その中に存在する3つの影。

安堵するエリオとキャロ。
だがフェイトとヴィータの隊長格は2人は、空気を通して肌に伝わる冷たい怒りを感じ、表情を険しくしていた。

「おかしいな?……2人とも、どうしちゃったのかな?」

爆煙が晴れたそこには、なのは達がいた。
レイジングハートも防御魔法も消して、左手でスバルの拳を受け止め、右手でティアナの2つの短剣をまとめて掴んでいるなのはを目にして、当の2人の表情は凍り付いている。

そんな2人になのはは、拳と短剣を受け止めた状況のまま呟いた。

「頑張ってるのは分かるけど……模擬戦は喧嘩じゃないんだよ?練習の時だけ言うこと聞いてるふりで、本番でこんな無茶するんなら……練習の意味…ないじゃない」

二つの短剣を受け止めているなのはの手から血が滴り落ちる。
あの状況で正確に二つまとめて短剣を掴んだ点は流石というべきだろうが、今は誰もその事に気を止めることはない。

特に、坦々となのはに言葉を投げ掛けられているスバルとティアナは、もはや彼女に対して恐怖すら覚えてしまう。

「ちゃんとさ……練習どおりやろうよ?ねえ?」

「あ、あ、あの……」

スバルは今まで見た事のない憧れの人物の変わり様を目の当たりにし完全に戦意喪失してしまっている。

「私の言っていること……私の訓練……そんなに間違ってる?」

「っっ!!」

《Blade erase》

捉まれてい短剣部が消え、飛び上がり後方のウイングロードに着地し、クロスミラージュをなのはに向け構える。

「私は!もう、誰も傷つけたくないからっ!無くしたくないからぁっ!」

「ティア……!」

思いのたけ叫びながら瞳に涙を浮かべカートリッジをロードする。
味方のスバルがまだ射程内にいるのにもかかわらず。もはや誰が見ても今のティアナは錯乱しているようにしか見えない。

「だからっ!強くなりたいんですっ!!」

それは、慟哭と共に吐き出した彼女の内に秘めた想いそのもの。

涙を流しながらティアナは叫んだ。



そして、そんなティアナの強い想いを聞いたなのはは、悲しみの表情を浮かべ……

「少し……頭、冷やそうか?」

感情のこもっていない声でそう言い放ち、ゆっくりとした動作で右手をティアナへと向け、魔法陣を展開する。

「クロスファイア……」

「ああああぁぁああぁぁ!!ファントムブレ---」

「……シュート」

なのはの指先から幾筋の光のがティアナに向け放たれる。
ティアナがそれに気付いた時には、既に彼女の世界は桜色に支配され、直後、耳を塞ぎたくなる爆発音が鳴り響き、爆煙が辺りを舞う。

「ティア……!?バインド!?」

ティアナの身を案じ叫んだスバルの体に桜色のバインドが縛り上げ、身動きを封じる。

「……じっとして、よく見てなさい」

普段のなのはからは想像すらできない一切の感情を排した声。爆煙越しに見える、辛うじて立っているティアナになのはは、第二射を放とうとする。

「なのはさんっ!!」

戦意を失い、何もない目をしているティアナを撃とうとするなのはにスバルは叫ぶ事しかできない。
しかし、無慈悲にもスバルの必死の叫びは届く事なく、なのはのクロスファイアーが止まることはなかった。

誰もが、クロスファイアーがティアナに直撃する光景を想像した。

キャロやエリオは思わず目を反らす。

だが光が直撃する瞬間……

「……っ!?」

ティアナの前に金色の閃光が現れ、クロスファイアーを弾き飛ばす。
弾き飛ばされたそれは廃ビルに直撃し、廃ビルを半壊させる。

「……なんのつもりなのかな?」

金色の閃光……いや、それを行ったであろう張本人を呆然として見つめそう呟いた。

「……ルドガー君?」

腰を落とし背を向ける自分の制裁を妨害した相手---ルドガーにどういうつもりか問うが、ルドガーは応えない。

「……ルド…ガーさ…ん?」

「全く……無茶を……いや、バカをする奴だな」

もうろうとした意識の中、自分を両腕で抱えているルドガーの名を口する。
ルドガーはため息を吐き、そんな自分の生徒を見て苦笑する。

「わ、私……私は……!」

「言い訳は後でたっぷり聞いてやる。だから、とりあえず今は休め」

ルドガーの落ち着いた声色を聞いた、ティアナは緊張の糸が切れ、完全にその意識を手放す。
それでもティアナの閉じた瞳から涙が流れる。

「ティア!」

バインドに縛られながらも、ブッリッツキャリバーを巧く操って、スバルはティアナを抱えるルドガーの元まで走って来た。
ルドガーは左手でティアナを抱え、もう片方の手に骸殻を纏わせ、スバルの体に巻き付いたバインドを強引に引きちぎる。

「ルドガーさん……あの、ティアは!?」

「大丈夫だ、気を失っているだけで大事はないが、一応医務室に連れていってくれ」

右手の骸殻部を解きながら左手に抱えているティアナをスバルに預ける。

「………」

「何をしている。突っ立てないで早く行け」

「で、でも……」

「つべこべ言うな、早く行け」

「は、はい!」

その場をなかなか動こうとしないスバルを一睨みし、ようやくスバルは、ティアナをおぶって走り去っていた。
スバルが去り、足場として立っていたウイングロードが消失する。

だがルドガーはウイングロードが消える前に既に目の前の廃ビルに飛び移り、宙に浮くなのはを厳しい表情で見据えていた。

「ルドガー君。もう一度聞くよ……どうして訓練の邪魔をしたの?」

「訓練?……ヤバイな、どうやら俺はこの歳で耳が相当悪くなったみたいだ」

感情のこもっていない声で質問してきたなのはに、笑顔でそう応えるが、決して目は笑ってはいない。

「なら逆こっちの質問に答えてもらおうか?」

「何かな?」

「あの最初の一撃でティアナは完全に戦意を失い、気絶寸前だった……二撃目は必要なかったはずだ……どうして撃った?」

低い威圧するような声でルドガーは話す。
ルドガーは一連の事に繋がる模擬戦を実はフェイト達とは違う廃ビルから見ていた。
厨房での仕事が終わり、急いで訓練場のフェイト達が居る廃ビルに足を運んだつもりではいたが、実際は全く別の廃ビルをルドガーは登っていた。

が、ちゃんとティアナ達の模擬戦を観戦しており、全て承知の上でなのはの前にルドガーは立っている。

「言うことを聞かない子は、口で言ってもわからないから、体で教えようとしただけ……私は私の教導をしているだけだよ」

「お前の教導ってのは、暴力で生徒を言い聞かせるものだったのか?」

「何を…言っているの?」

ルドガーの口にした暴力というキーワードに、なのはは初めて一瞬ではあるが、嫌悪感を顕にした。

「確かにあの2人の行動には問題はあった。お前が訓練を通して伝えた、戦術も戦略、挙げ句にティアナは俺の言葉を無視して勝手に自分から接近戦を仕掛けた……お前の言いたい事もわかる。……けどな!あのまま続けていたら、お前はアイツを潰していたかもしれないんだぞ?」

「……もういいよ」

ルドガーの言葉に、うんざりしたのか、一言呟いた後、利き手にレイジングハートを呼び出し構える。

「ルドガー君も……頭、ひやそうか」

「!!」

無数の魔力弾---アクセルシューターがなのはの周囲に生成され、それら全てが一斉にルドガーに襲い掛かる。

「……くっ」

カストールを取出しそれら数発を斬り捌き対応するが、死角から迫る魔力弾に気付くのが遅れ、次の瞬間、廃ビルの屋上が爆煙に包まれる。

「……是非もなしか」

声がした場所に視線を移すなのは。
そこは煙立つ廃ビルの真下であり、カストールを持ったルドガーが空に浮くなのはを見上げている。
その顔と衣服には若干の煤が付いており、手で頬についた煤を拭い、カストールの柄を握りなおす。

(……まさか、こんな展開になるなんてな……)

ただ模擬戦を止めるために出た自分の行動が裏目に出た事を実感する。
物事が上手く進まないことには慣れっこではあるが、やはりやるせないのか正直な心情だ。

『てめぇ、ルドガー!何してんだ!』

観戦しているヴィータから通信が入る。

「俺はなのはの行いを止めに入っただけだ。どう見てもティアナに対しての攻撃はやりすぎだったからな」

『はぁ?アレはあの2人が---』

なのはの教導を無視した戦い方をやった事への制裁だ。
ヴィータが何を口にするのか目に見えていたため、ルドガーは通信を切る。

スバルとティアナが間違っていたのは百も承知。

ティアナの想いを真に理解てきなかった自分がなのはに何も言えないのも熟知している。
かといって冷水さを失ったなのはがティアナに対して行った制裁という名の暴力を見逃す気はない。
彼女が、ティアナ達の教官である限りは。

「ここまで来たからには俺も、話し合いで止めるつもりはもうない……全力でぶつかって、お前を止める!」

相変わらずの自分の甘さを感じつつも、今は小さなすれ違いから始まった戦いを終わらせる事に集中する。



「はあぁぁぁぁ!!」


こうして誰も予想だにしなかった形で、時空管理局のエースオブエースと審判を超えた最強の骸殻能力者の戦いの火蓋が切って落とされた。

 
 

 
後書き
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