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~白と碧の翡翠~

作者:黎霞
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第2話

 
前書き
少し長くなってしまいましたが・・・
1層ボス戦です。 

 
2022日、11月27日。
此処、ソードアート・オンラインがデスゲームとなってから、一ヶ月近く。

その間に、二千人が死んだ。

外部からの助けは無く、連絡等も一切なかった。
死んだ人達は、ログアウト状態となり、
二度とログインする事は無かった。

そして、死んだ二千人の内、約三百人程がβテスター。
βテスターの死亡率は40%近くになっている。

βテスターの死者三百人の中に、お兄ちゃんがいるのか、
まだ生きていてくれているのか、分からなかった。

お兄ちゃんのアバター名が分からない今、直接会って顔を見る時まで。

そして、考えて、お兄ちゃんなら、きっと生き残ってるって信じる事にした。
お兄ちゃんは、βテストの時、この世界のボスにすら挑んでいた筈。
そこらの雑魚に、普通に戦っていたら勝てるはず。

死亡原因の理由の1つは、モンスターの戦闘時にパニックになった場合。

実際、デスゲームと言われた後の初めての戦闘は、
一瞬気を抜いたら恐怖で戦えなくなってしまうかもしれないと思わせた。

お兄ちゃんが、どうしているか、分からないけど、
死んでいるとは思いたくなかった。

そして、私は、一人でフィールドや迷宮区を歩いて、確実にレベルを上げていった。
ソロプレイヤーと呼ばれる人だ。

なった理由、それは一重に、私が他の人との連携が取れないからだ。
普通の人達は、ソードスキルと言うこの世界の技を使って戦っている。
だけど、私は、ソードスキルが使えなかった。

今までの、薙刀の型が付いてしまっているのに、
ソードスキルのシステムアシストに引っ張られて刃を動かされる感覚は、慣れなかった。

ソードスキルの攻撃を相殺できるのはソードスキルを使った攻撃だけ・・・
つまり、通常攻撃では相殺出来ない。

其の為に、仕方なくソードスキルは覚えたけど・・・。

普段は、スキルメニューの深い所に見つけた、
“ソードスキル使用設定”と言う物をOFFにしている。

これを使えば、ソードスキルのモーションを使ってもソードスキルは発動しない。

敵のソードスキルは避ける一択。

この戦法で、此処一ヶ月、生き延びて来た。
途中で、モンスターがドロップした薙刀、
“白刃薙”と言う白い刃と白い柄、石突や鍔には、金色の金属が付いていた・・・
その薙刀を持って、毎日モンスター相手に振るった。

葉桜流の練習はモンスター相手で出来たが、公式のなぎなた術は使えないので、
毎朝スグと一緒にやっていた素振りの練習等だけは続けた。

そして、いつも通り狩りをして、
レベルを17まで上げて、少し機嫌良く街に帰った後、

情報屋・・・アルゴに連絡を取った。

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

「ニャハハハハ、オイラに用事とは何かナ? スーちゃん!」

スーちゃんと言うのは、私のプレイヤー名、スノーリーフから取った、
アルゴに付けられたあだ名・・・

少し思うところはあるけど、彼女はβテスターで、
アルゴの攻略本と言う物も無償で提供している。

その攻略本には、いろいろと世話になったので、純粋に感謝もある。

そして、彼女にお兄ちゃんの事を聞こうと思ったけど、辞めた。
私達の関係は多少複雑だし、
名前も知らない人の事を探してくれと言ったって見つかる訳も無い。
それに、百万が一・・・死んだなんて聞いたら。

たぶん戦う事も出来なくなる。

だから、自分でお兄ちゃんの姿を確認するまで。
お兄ちゃんを追いかけたりしない。偶然出会うその日まで。

だから、今日アルゴを呼んだのも別の理由。

「ボス部屋らしき扉が見つかったから、
 そこまでのマップデータを公開して貰おうと思ってね。」

らしき、と付けたのは、私がボス部屋の扉を見た事が無いから、
今日見たあの扉が本当にボス部屋か分からないから。

「らしきって・・・全く、君が一番最初だナ・・・
 βテスターじゃ無いのが不思議な位ダヨ・・・」

アルゴに教わったマップデータの送り方を使って、アルゴにデータを渡す。
βテスターだとかそうじゃないとかはあんまり関係無いと思うよ・・・。

「じゃ、公開、宜しくー!」

「了解ダ、そのうちボス攻略会議が開催されるんじゃ無いのカ?」

ボス攻略か・・・。
今までの雑魚と違って、ボスは凄く強いんだろうな・・・。

「もし開催されたら、参加する気なのカ?」

その疑問に対する答えは一つだけ。

「当たり前でしょ!」

私がこの世界に来た理由。
お兄ちゃんと一緒に楽しく遊んで、現実でも仲良く話せるようになる事。

茅場さんのせいで現実に帰れなくなって、
お兄ちゃんにも会えないけど・・・

せめて楽しく遊んでゲームクリアしてやる・・・。
これはゲームであっても遊びではない。そう言っていたっけ、茅場さんは。
ふざけるな。意地でも遊んでやる・・・このゲームを。

で、ゲームをプレイするんだったらボス攻略欠席なんて有り得なく無い!?
と言う訳でもちろん参加するに決まってる!

いや・・・でも・・・ソードスキル使えないのに協力してボス戦なんて・・・
私に出来るの?

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

と言う訳で、
翌日にはボス部屋が発見されたと言うニュースがアインクラッド中に広まった。

と言っても一層だけなのだが。

ともかく、ボス攻略会議が12月2日に行われる事になった。
それまでに少しでも協調性を持たないと・・・。

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

ソードスキル・・・それは規定のモーションを取る事によって、
システムの力を借りて、真面に武器を振るえない人も、
達人級の剣技を使えるようになる物。

剣は特融の色彩豊かな光のエフェクトに包まれ、
得物に身を任せれば剣と自らの手が自然とその通りに動く。
普通の攻撃より強い攻撃力を持ち、多段攻撃も使える。

その代償が、使用後に発生する硬直なのだが・・・
ソードスキルの威力なら、寧ろ安い位となるだろう。

しかし、ソードスキルの前提として、
プレイヤーは剣をあまり上手く使えないと言う事。

薙刀を初めてからずっと、薙刀を持たなかった日は無いと言うレベルで毎日振るっていた、
木製の薙刀。

あれは、年齢と共に重く大きくしていき、
普段は練習として、4.5kgの薙刀を、かなりの速度で振れるレベルまで上がった。

一方、今持ってるのは2.5kgも無いんじゃないかと言う軽い物。
こんな軽い薙刀、感覚通り振るうだけで、ソードスキルに負けない位の速度を持つ。

そして、私の得意技であった、鍔の傍を持って、
柄全体の重さで遠心力を起こして刃の速度を上げる、近接技。
この世界でも再現出来、ソードスキルをも追い越す速度を手に入れた。

そして、ソードスキルならではの連続技も、
“休まず攻撃”と言う葉桜流の教えにしたがった、個人の技を持っており、
体に親しんだ連続技は、硬直など無く連続攻撃が可能。
尚且つ、ソードスキルは一度発動したらキャンセル出来ないが、
ソードスキル無しの連続技なら、反応さえできればすぐにキャンセル出来る。

連続技も、1つでは無く、いくつもの技の組み合わせ。
臨機応変に、組み換えたりも出来る。

祖母から受け継いだ技+私個人の技。

ソードスキルなんかに、負けないよ!

・・・だけど、ソードスキルはどんなに頑張ったって無条件で通常攻撃に勝てるし、
攻撃力には絶対的な差が出る。
仕方無いから、ソードスキルの練習もちゃんと頑張ろう・・・

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

結論・・・今日は12月2日なのであるが・・・

“ソードスキル全く使えません・・・。”

ダメなのだ。あの感覚が。無理やり薙刀に引っ張られる様な。
薙刀に使われるような、あの感覚が。

仕方なく・・・とぼとぼと、会議の始まる場所に来た・・・
数人の人が前の方に座っていたから、私もその隣の席に座る。

会議開始まで、あと10分ほど。

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

「はーい、じゃあ、始めさせてもらいまーす!」

そう、会議の開始を宣言したのは、今回の主催者。
蒼い髪の青年だ。
現実の顔立ちになった世界なのに、かなり整った顔立ちをしている。

「今日は、俺の呼びかけに応じてくれて、ありがとう!
 俺はディアベル。
 職業は、気持ち的に―――

 ―――ナイト、やってます!」

そう言った時、周りから笑い声が聞こえて来た。

「ジョブシステムなんてないだろ!」

と言う声も聞こえたけど・・・
Job(ジョブ)?仕事って事・・・だよね?

仕事システム・・・つまりアルバイトとか?
何で今の会話からアルバイトに・・・?

しかもこの世界にアルバイトシステムってのは無いのね・・・ふむふむ。

そして、ディアベルさんは、皆の笑いを収めると、
真面目な顔となって言った。

「この間、とあるプレイヤーが、
 ボス部屋の扉らしき物を発見したと言う事は、皆も分かっていると思う。
 発見したプレイヤーは、そのままマップデータを無償で公開してくれた!

 そして、昨日、俺達のパーティが、その部屋が本当にボスの部屋である事、
 その部屋に、ボスがいる事を確認した!」

へぇ・・・・あの部屋に入ったんだ・・・
私は、入ったと同時に閉じ込められて出られなくなる心配をして入らなかったんだけど、
入っても大丈夫だったのか。

「俺達はボスを倒し、第2層に到達して、
 このデスゲームも、いつかきっとクリアできるって事を、
 はじまりの街に待っている皆に伝えなきゃならない。
 それが、今この場所にいる、俺達の義務なんだ! そうだろ! 皆!」

ディアベルの言葉には賛成する。
私は、はじまりの街にいるプレイヤーを貶す気は全くない。
私自身、葉桜流を持って無かったら、はじまりの街から出なかったかもしれなかったから。
 
そして、クリア出来るって事を伝える・・これはとっても大切。
一ヶ月・・・その間に死んだ二千人。
その中の死んだ理由の1つ、自殺。

外周から飛び降りるなどの方法で死んだ人達。
外部からの救援も無く、絶望しての自殺や、
死んだら現実に帰れるのではないかと言っての自殺。

一層がクリアされると言う事は、
そう言った事を考え始めたプレイヤーの大きな希望となる事だろう。

周りの人も、ディアベルの意見に賛同し、拍手などを送っている。

「OK、それじゃあ、早速だけど、これから攻略会議を始めたいと思う。
 まずは・・・6人のパーティを組んで見てくれ!
 
 フロアボスは、単なるパーティじゃ対抗できない。
 パーティを束ねた、レイドを作るんだ!」

・・・お兄ちゃんがこれを聞いているか分からないけど・・・
もしお兄ちゃんがいたらビクッとしてるだろうな。お兄ちゃん人付き合い苦手だし。

その時、後ろからクシャミが聞こえて来た。
振りむこうと思ったけど、

「そこの、ローブのお前・・・俺達と組まないか?」

と言う声で中断された。
声を掛けて来たのは、隣の席に座っていた、
背の高い、黒人のような黒い肌とスキンヘッドのプレイヤー。

「丁度あと一人足りないんだ、見た所一人の様だったから・・・」

成程、その申し出は大変ありがたい。

「はい、丁度一人で困っていたので、入れていただけるとありがたいです。」

そう返せば、それは良かったと言う声と共に、パーティ申請が送られて来た。
《Yes》のボタンを押し、パーティを組む。

「宜しく頼む、俺はエギルって言う。斧使いだ。」

それに続いて、他の4人も名前と得物を言う。

「宜しくお願いします。スノー・リーフです。長いので好きに呼んで下さい。
 武器は薙刀です。」

ソードスキルを使えない事を言うか迷ったが、
パーティメンバーの“女なのか!”と言う声で言いだせなくなってしまった。
そう言えば今の姿は薄萌葱のローブで顔も体も完全に隠している。
男性と思われてもおかしくは無いかもしれない。
寧ろ、男女比を考えると男性と思うのが正論か。

「さーて、そろそろ組み終わったかな?」

「ちょぉ、待ってんか!」

ディアベルの声を遮断し、飛び込んで来たのは・・・
毬栗だった。

・・・訂正。頭にとげみたいに髪を生やしたプレイヤー。

「ワイはキバオウってもんや、ボスと戦う前に、言わせて貰いたい事がある。
 
 こん中に、今まで死んでいった二千人に、詫びなきゃあかん奴がおるはずや!」

・・・お詫び・・・?
死んでいった人達にって・・・まさかね・・・

「キバオウさん、君の言うやつらとはつまり、
 元ベータテスターの人達の事・・・かな?」

「きまっとるやないか! 
 β上がりどもは、こんくそゲームが始まったその日に、
 ビギナーを見捨てて消えよった!

 奴らは上手い狩場やら、ぼろいクエストやらを独り占めして、
 自分らだけポンポン強なって、
 その後もずーっと知らんぷりや!

 こん中にもおるはずやで!β上がりの奴らが!

 そいつらに土下座させて、貯め込んだ金やアイテムを吐き出して貰わな、
 パーティメンバーとして、命は預けられんし、預かれん!」

・・・ふざけるな。
そうか、あの後、お兄ちゃんを見つけられなかったのは、すぐに街を出たからだったのか。

それの何が悪い。
情報を渡さなかったのが悪い?
情報はこの世界では莫大な富。
無償提供しなくても決して責められない。

誰だって、自分の命が大事なはずだから。

それを、教えなかったから悪い?
どうしても欲しいなら、あなた自身が土下座して頼み込むべき。

ふざけるなよ・・・
あなたの勝手な言い分で、お兄ちゃん達βテスターの人達を貶す事なんて・・・
認めない。

自分自身、かなり怒ってるのが分かった。
そう言えばずっと昔、お兄ちゃんが、私の怒りには2種類あるって言ってたっけ。

本気で怒っている時は真っ黒くて、
優しさなんか微塵も感じさせない怒り方と、

家族に対して怒る時は、幾ら本気で怒っても、白くて、
怒ってても、怖いけど優しい怒り方。

その2つなら、今は前者だろう。
お兄ちゃんの言い方なら、
私の背後には黒いオーラと言う物が立ち上ってるかもしれない。

まぁ、表に出さないように心がけてるから、今は傍から見たら
ただ黙ってキバオウの言葉を聞いているようにしか見えないだろう。

さてと。どうしようか・・・

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

結局、何にもできなかった。
エギルさんが、アルゴのガイドブックの話を持ち出し、
キバオウさんを黙らせたから。

そしてその後、私はソードスキルが使えない事を話すと、
敵の攻撃をエギルさん達が相殺し、私がその隙に攻撃すると言う作戦が決まった。
“スイッチ”と言うらしい。

そして明日、ボス攻略本番だそうだ。

エギルさん達と別れ、少し街を歩いていた時、
一瞬お兄ちゃんと似た人影を見た気がしたけど、すぐに見失ってしまった。

お兄ちゃんがこの町にいると決まった訳じゃ無い・・・
追いかけて時間を潰すのもどうかと思ったので、
宿屋に帰る事にした。

さてと、此処で問題が。

この世界の食事が問題だと言う事。
最初に冷たい麦茶だと思った物を買って飲んだら、
抹茶にオレンジジュースを混ぜたような物・・・

つまり・・・

“美味しくない”

これは・・・・由々しき事態だ・・・
絶対この世界を楽しむと言う目標を持ってる私にとって、
食事が楽しめないなんて認めない。

アルゴに美味しい食事に付いて、300コルで情報を買った所、
この世界は基本食事が美味しくは無く、
極稀にある美味しい料理店を見つけるか、
料理スキルを取るしかないのだとか。

今のスキルスロットは、薙刀、隠蔽、索敵で埋めている。

今のレベルが18だから・・・
後2レベル上げればもう一つ出るけど・・・。

料理・・・取ろうかな・・・。

ちなみに、薙刀をいれている理由は、
ソードスキル無しの薙刀での直接攻撃にもボーナスが付くから。

隠蔽、索敵は、便利そうだったから。
実際、結構便利だった。

はぁ、ともかく、スロットが解放されたら考えよう・・・

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

翌朝・・・

結局、昨日の朝は1個1コルのパンを食べて過ごした。
固くてモソモソであんまり美味しく無い。

朝起きたら、袴に着替える。

これは、この間モンスターがドロップした袴。
白から萌葱色のグラデーションが掛かった馬乗袴に、
白緑の上衣。帯には、桜の花びらの模様。
名前は“萌葱装束”

どちらかと言うと、卒業式などで着るような見た目重視の袴だったが。
帯をしっかりと締めれる袴一式は大変うれしかった。
振袖だったが。

目立つのが嫌で人前では着ていないけど。
どうやらこれをドロップしたモンスターである、
金色の鳥が、レアモンスターだったらしい。

つまりこの装備もレアなんだと。めんどくさい。

ともかく、この装備を着て、薙刀を素振り。毎日の日課である。

そして、適当な回数素振り等をして、1コルのパンを食べ、
武器屋に行って白刃薙の研磨をしてもらった。

ポーション類は・・・そう言えばこの世界に来て、攻撃は全て避けるなりしてたから、
使った事無いな・・・賞味期限とか無いよね?

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

そして、ボス攻略のメンバーが集まった時、
見つけた。

お兄ちゃんを。

私が憧れた、透き通った綺麗な黒い目と、真っ黒の髪。
良く女に間違われた、可愛らしいと言う表現が似合う顔立ち。

嬉しかった。生きていてくれて。

すぐに駆け寄って話しかけたかったけど、
お兄ちゃんはF隊、私はB隊。
距離は大分離れていて、出発の時はすぐだった。

仕方ない、ボス戦終わったらにするか。

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

ボス戦は、順調だった。

決められた通り、エギルさん達がボスの武器を弾いて、
その隙に一気に敵に近寄り、攻撃。その繰り返し。

攻撃は、敵がどれだけ隙を見せたかによって、回数を変えた。

少しの隙なら、素早く切って下がる。
大きな隙なら、少し離れた所からの切り上げ、そのまま振り上げた石突を突き立て、
そのまま薙刀を回転させて切り払いしながら下がる・・・など。

もっと大きな隙なら、切っ先での突きなどを続けるなど。パターンは無限。

他の人達も攻撃をしてくれたおかげで、ボスのHPを、確実に削って行った。

そして、ボスのHPバーの最期の一段が赤くなった時、
ボスの武器は、今の斧とバックラーから、曲刀のタルワールに変化する・・・

そう言う情報だった。

そして、ボスが斧と盾を投げ捨てた時。
後ろから声が聞こえた。

「下がれ! 俺が出る!」

ディアベルさんの声だ。
そして彼は、ソードスキルの光を得物に宿らせながら、
ボスに向かって突っ込んでいった。

その時、さらに後ろの方から

「だめだ! 全力で、後ろに飛べっ!!」

忘れもしないお兄ちゃんの声、
だけど、その声は焦りを帯びていて、ボスに向かっていくディアベルさんに放たれた。

だけど、一度発動したソードスキルは、止められない。
一連の動作が終わり、硬直が解けるその時まで、止める事は出来ない。

そのままボスに突っ込んでいったディアベルさんの剣は、
ボスを捕らえる事は出来ず、空を切る。

ボスは、飛び上がり、周囲の壁を使い、ディアベルさんの後ろに回り込み、
振り返った彼を切り裂いた。
そして、続けざまに剣を振り、彼の体を宙に浮かせ、浮いている所にトドメを打ち込む。

お兄ちゃんが、ディアベルさんに駆け寄っているけど、HPが消えたのが見えた。

不味い・・・リーダーであったディアベルさんがいなくなる。
このメンバーは、全てディアベルさんによって集められ、彼のみで纏められていた。

この場を立て直す代理なんて、いない。

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

・・・頭の中、作戦は浮かんだ。

決行できるか?

いや、出来る? じゃない。やる。やって見せる。

手には白刃薙が・・・薙刀がある。なら、負けない。

「全員、体制を整えて! 撤退準備に入れ! ボスは私が一人で引きつける!
 その間に! 早く!」

そう叫びながら、手に握った薙刀をボスに向かって振り下ろす。

瞬間、音が消えた。周りの景色も人も、何もかも。
白い壁に包まれた部屋にいるのは、
ボスと、その手に持つ剣と、私と、白刃薙。その4人。
二対二。得物と、その使い手の。

薙刀を構える。中段の構えから、刃を上に向け、少しだけ切っ先を下向きにし、
左に倒した、私の構え。

名前を、雪桜の構え。

私が勝手に作った、非公式な構え。
葉桜流に、決まった構え、動きは存在しない。
あるのは、基本の構えと動きだけ。
それから、自身が最も動きやすいよう、自分だけの技を作るのが葉桜流。

雪桜の構えは、私が一番最初に作った物。
相手の動きに合わせ、切り上げ、切っ先での突き、薙ぎ払い、回避に繋げやすい構え。
私自身の名前の“雪緑”と“葉桜”流の、最初と最後を合わせ、
雪桜(ゆきざくら)
尤も昔から慣れ親しんだ構え。

確実に、敵の動きを読む。

―――――――――――

相手が動いた、その手に持った剣に、光を宿らせながら。
こちらに向かって真っすぐ突っ込んでくるので、右側に避け、
薙刀を回転させ、ボスの背中に打ち込む、
そして刃とボスの接点を支点にして、切り払う様に後ろに下がり、直に構えをとる。

そしてまた雪桜の構え。

慣れ親しんだ構えだから、何も考えずともすぐ取れる。

次のボスの攻撃も、同じように真っ直ぐ突進。

急いで、左手を鍔の傍まで寄せ、右手を放し、左手だけで持つ、
そして、少し前に走りながら石突を地面に突きつけ、棒高跳びの様に上に飛ぶ。

もちろん、白刃薙は持ったまま飛ぶから、
ボスの頭の上を通り過ぎる瞬間、左手を後ろに振る。

刃がボスの頭に当たり、私の体は反動で前に出る。
一回前転して、衝撃を緩め、立ち上がってまた構えを取る。

今度は基本の構えの一つ、脇構え。

私に向かって真上から振り下ろされる剣をすれすれで左に避けて、
水平に薙ぎ、石突で殴り、反動を利用して間合いを取る。

雪桜の構えを取り、横薙ぎに払われる剣を下がって避け、
がら空きになった腕に刃を振り下ろす。

そしてその接点を土台にして、一気にボスの体に近づき、
大きく回転させた薙刀の刃をボスの頭部に叩き込む、

そして石突での突きを叩き込もうとした瞬間、対象が消え、床に石突が当たる。
体勢を整え、周囲を見ると、ボス部屋の外からこっちを見ている人達・・・
部屋に大きく浮かぶ《Congratulation!!》の文字。

あ、そうか、HPバーとか周囲の人とか見ていなかった・・・。

一拍後、部屋になだれ込んでくる人達。

呼んだのに帰って来ない時には心配したよ・・・とか言われて・・

・・・・戦闘中、自分の世界作り出しちゃったのは不味かったかな・・・。
でも、負ける訳無いんだよ。私は薙刀、相手は剣。
剣道と薙刀の異種試合は薙刀の勝率のが高いからってね!
いや、本来は攻撃距離の長さが有利な理由なんだけど・・・
気にしない気にしないー!

「なんでや!」

その時、部屋に響いた声。
キバオウさんの声・・・? 何が疑問なの・・・?

「なんで、なんでディアベルさんを見殺しにしたんや!」

「・・・見殺し・・・ですか・・・?」

「そうやろが! 自分はボスと一人で無傷で戦えるだけの力持っておったやないか!
 せめてディアベルさんが突っ込んでいった時、その力で援護してくれていれば、
 ディアベルさんは死なずにすんだんや!」

その声を聞いた、周囲の人が、ざわざわと騒ぎ始め、

「きっとあいつ、元βテスターだ! だからあれだけ強いんだ! 
 強いの隠してたんだ!
 他にもいるんだろ! βテスターども! 出て来いよ!」

そう、私に指をさしながら言い切った。
ちらりと、お兄ちゃんの方を向くと、手を握りしめ、少し震えていた。
名乗り出るか迷っているんだろう。

・・・仕方ない・・・か。

「違うね!」

そう、大声で言いきってやる。

「何が違うんや!」

そう、キバオウが返してくるのは、予想通り。

「私がβテスターって事だよ!」

嘘はついて無い。ゲームなんて碌にやった事も無い人間だ。

「そんな訳無いやろが! そんなに強い奴が、βテスターじゃない訳無いやろ!
 そうや、顔、見せてみい! 顔も見せれない奴如きが!」

・・・顔は関係ないだろうけど・・・
まあ良いか。
折角だ、思いっきりやってやる。

装備変更。ローブの中の軽鎧を“萌葱装束”に。こっちの方がインパクト強いだろう。
そしてローブを装備解除。

解放された髪が、空を舞う。

「これで良い?
 とにかく、私はβテスターじゃ無いの。 
 強い理由は、現実で6歳から実戦用薙刀術を習っていたから、その技術を使っただけ。
 現に、私、ソードスキル使って無かったでしょ? 使えないの。」

これも全て事実。

お兄ちゃんの方を横目で見ると、
驚愕、焦り、心配。そんなどれともつかない顔をしていた。

ごめん、お兄ちゃんを悲しませる結果になるだけかも。
だけどね・・・

・・・だから、続けるね。

「βテスターどころか、MMOゲームすらコレが始めてだね。
 戦闘面は薙刀で十分。他の私の知らない情報は―――

 ―――βテスターの人に聞いたのさ、薙刀を使ってね。」

「どういう・・・意味や・・・」

「そのまんまの意味だよ。
 薙刀で軽く脅して、情報を吐かせた。
 βテスターがその事を言い出せないのは、私のせいかもね。
 同じ目にはあいたくないでしょうから。」

「なん・・・やと!? 恐喝したって言うんか!? 
 何でそんな事を!」

「その通り。恐喝しただけです。
 理由ですか? 私が生き残る為です。
 βテスターには、その糧になって貰いました。

 さて、私は先に2層に行きます。 
 ついて来ないで下さいね? 邪魔ですし。」

そう言い放ち、少し早足で階段を上る、
きっと、この上が2層につながっているはずだから。

◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆ 
 

 
後書き
葉桜流最強説。誕生・・・。

お祖母様、どれだけ強かったんだろ・・・。

ともかく、読んでくださってありがとうございました!
誤字脱字等の指摘、文章自体に対する指摘等、又、感想等ございましたら、お気軽に感想欄まで! 
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