八条学園怪異譚
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第四十二話 百物語その八
「それでその人の臭いがね」
「そうしたチーズからもですね」
「するんですね」
「そう、味はいいけれど」
その臭いは、というのだ。
「臭いがね」
「そうしたチーズは今はないですよね」
「私達が食べている中には」
「ないわよ」
茉莉也は飲みながら答えた、三人で車座になりそれぞれ女の子の座り方で座って飲んでいる。
「普通のチーズばかりよ」
「ですね、カマンベールもモツァレラも」
「燻製もありますけれど」
チーズの燻製だ、これもあった。
「どれも普通ですね」
「普通のチーズばかりですね」
「種類は多いけれどね」
だがそれでもだというのだ。
「普通のばかりよ、臭いも味も値段もね」
「そのどれもですか」
「普通ですか」
「そう、ただあのアルプスの少女に出たみたいな」
世界名作劇場の中での白眉の一つと言われている作品だ、この作品が日本人の中のスイス像を決定付けたと言ってもいい。
「パンの上に乗せて溶けるチーズね」
「あれってパンが熱くないとですよね」
「ならないですよね」
「ちょっとね、まあ溶けたチーズもね」
茉莉也はそうなったチーズの話もした。
「美味しいけれどね」
「ピザとかですね」
「あとハンバーグの上に乗せたりとか」
ここで愛実が言った、食堂の娘として。
「最近うちのお店でもハンバーグ定食の上にチーズ乗せて溶かしたのを出すんですよ」
「あっ、いいもの出すわね」
「ステーキ定食でもそうしてます」
「へえ、ステーキ定食もあるの」
「輸入肉を使って」
つまり安い肉をだというのだ。
「出してます」
「ステーキっていうと豪勢に思えるわね」
「実際はもうそれ程じゃないです」
その輸入肉が入る様になってからだ、思えば肉も安くなったものである。。
「オーストラリアとかから無茶苦茶安いお肉が入りますから」
「成程ね」
「それでその輸入肉のステーキの上にもチーズを乗せて」
「その溶けたチーズがなのね」
「凄い人気なんですよ、これが」
茉莉也ににこにことして話す愛実だった、ただ今食べているチーズはモツァレラで特に溶けてはいない。
「如何にも美味しそうで実際に食べても美味しいって」
「お肉とチーズも合うからね」
「そうなんです、それでなんですけれど」
「それでって?」
「他の肉料理にも合うかってちょっとやってみたんです」
ここから話がおかしくなる、愛実の話を聞いている二人はそう予感しながらも顔には出さないで彼女の話を聞き続けた。
「ジンギスカンとか焼肉にも」
「そっちの定食にも?」
「チーズを乗せてみたの」
「あとレバニラとかにも」
そうした洋食以外の肉料理にもだというのだ。
「やってみたんです、家族だけの試食で」
「失敗したでしょ」
茉莉也はぐい、と一口飲んでから問うた。
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