もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?
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とある剣士の神剣抜刀・ⅸ
前書き
FE世界ではハンマーはアーマーを倒すのに効果的だ。
だから鉄槌の騎士と漆黒の騎士が戦ったら・・・女神の祝福が無ければ即死だった。
~とあるチンピラの独白~
碌でもねぇ人生だったな、という一言しか頭に浮かばなかった。
都会に何か特別なものがあると信じて田舎からここまで移り住み、高卒の馬鹿な学力でも稼げる仕事探して、そうこうしてるうちにいつの間にかヤクザのお仲間だった。はした金で雇われて、町のゴロツキもやらないような碌でもねぇ仕事を提供する人生。憧れも夢もありゃしねえ。将来だって見えねえし、今となっちゃあ楽しいと言えることは何一つしちゃいない。仕舞いにはなんのために生きてたのかも良く分からなくなる始末だ。
当然のように人に唾を吐きかけるような真似ばかりしながら生きてきて、気が付けばもう30歳も過ぎた。今更別の職にも着けず、ゴロツキとどっこいの生活を続ける毎日・・・そんな日々に転機が訪れたのは、やはりあの誘拐事件だろうう。あれに手を出してしまったがゆえに、俺はこんな最低な生活の更に下へ行かざるを得なくなった。
ガキを一人攫うだけの仕事。その仕事を邪魔してくれた謎の鎧。そして攫ったガキが月村の人間だった事。
月村について俺の知ることは少ない。ただ一つ、手を出してはいけないという端的な警告を除いて。その意味を、俺は直ぐに知ることになった。
仕事から逃げた俺ともう一人以外の全員が――いなくなったのだ。逮捕されたわけでもなく、である。確かにろくでなしが数人いなくなったところでニュースにはならないだろう。だが同じろくでなし共は気付く。何かがあったのだと。そして僅かな消えていない人間の口によってそれが月村に手を出した結果であるという憶測を聞くのだ。
時を同じくして、俺とそのもう一人に「だれか」によって賞金がかけられる。後はもはや言うまでもないだろう。俺ともう一人はその賞金目当てにやってくる社会のクズ共から必死で逃げ回るしかない。幸か不幸かその男とは誘拐事件の後にちょっとした交友があったため二人で協力して逃げることとなった。それも、どうやら今日ここで終わるようだ。
袋小路。突きつけられたナイフ・警棒・そしてチャカ。息も絶え絶えなもう一人の相方にたばこで肺をやられてさらに絶え絶えな俺。チェックメイトという奴だ。このそこにも行き場のない路地裏こそが文字通り俺のどん詰まりらしいことを悟らざるを得なかった。賞金を懸けられた俺達が捕まったら、後はどうなるのか。それは恐らく先に言無くなった連中と同じところへ連れて行かれるのだろう。その場所がどこかは言ってからのお楽しみ。天国?地獄?それとも生きているのが嫌になる場所かもしれない。
そんな社会に見捨てられた俺達に手を差し伸べてくれる存在が居たら、俺は神と崇めてもいい。
その時はそう思っていた。
そんなとりとめもない事を考えたその瞬間、俺達を追い詰めていたろくでなしの一人が倒れた。
続いて隣の二人。自体が呑み込めず狼狽えた男が一人。誰かに襲撃されていることに気付いた男が一人。逃げようとした男が一人。流れるように地面に伏してゆく。後ろを固めていた残り3人ほどの男達は既に一人が倒れており、残り二人になった男たちが何やらわめいている。
二人の目線の先には、一人の子供が立っていた。
一瞬目を疑った。こんな物騒な場所に子供が突っ立っていたことに――ではない。
その余りにも異質で奇抜な姿に、だ。
その体格に不釣り合いで異質な黒い鉄仮面とも兜とも知れない物に顔を包んでいるため性別は分からない。ただ、そのミスマッチな兜の奥は何もないかのような漆黒に染まっており、それが得体の知れない恐怖をかきたたせる。手には本物の西洋剣にしか見えない大きな剣を持っており、それの腹を器用に使ってろくでなしを倒していたようだ。その証拠に刃にも男達にも血液は付着していない。
そこまで考えて俺は自分がいかにおかしい事を考えているかに気付いた。
俺は馬鹿か。小学生みてぇなガキが何で兜をかぶって剣を振り回してろくでなし共相手に無双するなんてあるはずがないだろう。しかし何度目をこすっても頬を抓っても、その子供はそこにいた。
それどころか子供を捕まえようと近づいた二人の内一人の顔を剣の腹でひっぱたき、もう一人が咄嗟に銃を構える寸前にその男の鳩尾を殴り抜いた。
間違いない。中身が本当にまともな人間かは分からないが、あの子供は確かにここに存在して馬鹿どもを叩きのめしている。ノされた連中は一様に意識を失い薄汚いアスファルトの上に倒れ伏していた。
そこで腰抜仲間の我が相棒が気付く。あの少年が被っている兜は、俺達の仕事を邪魔したあの漆黒の鎧と同じ奴だ。つまりあの少年は・・・
((しっこくジュニア・・・だと・・・!?))
体格的に見てもご本人ではないのは間違いないだろう。まさかのお子さん登場に、俺達はしばし呆然とするしかなかった。そしてその厳つい兜を取った少年は、そのくりっとした可愛らしい目をこちらに向け、子供特有の高い声で 何事もなかったかのようにこう話しかけてくるのである。
「おじさんたち、だいじょうぶ?」
その日、俺達は神ではなく天使に逢ったのだ。・・・ギャップ萌えだと言われたら否定は出来ないが。
《少年、顔を隠したのに自分から晒してどうする》
(あっ・・・うっかり)
まぁ、あれだ。とにかく・・・俺達はその日から誰にも襲われなくなった。
そしてその日から、この町には変な噂が流れるようになったんだ。
曰く、それは年端もいかない子どもである。
曰く、それは誰かが虐げられている時に現れる。
曰く、それは顔を隠すように漆黒の兜を付けている。
曰く、それは美しい装飾の大きな西洋剣を武器にしている。
曰く、それは決して相手の血を流さないことを信条としている。
曰く、それは巨大な漆黒の鎧の父親が存在し、父も子と同じ行動をとる。
曰く、それを人々は正義の味方―――「漆黒ナイト」と呼ぶ。
「っていう噂で持ちきりなんだ」
「不思議な噂だね」
「実は私、親しっこくには会ったことあるんだよ?」
(変なあだ名付いてる!?)
顔を知られると都合が悪いから兜をかぶってやっていたけど、まさか都市伝説紛いの存在になるとは神ならぬ僕には予想できなかったのです。
しっこくジュニアこと僕は現在月村邸で優雅なお茶会をしています。
参加メンバーはなのはとその友人、アリサちゃん・すずかお嬢様・苗さんの計5人。女の子ばかりでちょっと居心地が悪いのを顔に出さないようににゃんこを愛でていたら、いつの間にか話が都市伝説に変わっていました。正体が両方僕というかなり謎な状況ですが。
「会ったことって・・・ああ、いつぞやの誘拐事件?」
「えっ!?ちょっと何それ私聞いてないよ!?」
「言ってないからじゃないの?」
「あ、何だそうかぁ~・・・ってそれで納得しないからね!?」
「どうどう、ほらクッキーあげるから」
「むぐっ」
クッキーのしっとりとした触感に即敗北のなのは。それでいいのか妹よ。
苗さんはこの中でもちょっと大人びてるというか、そんな気がする。普通の人と雰囲気違うし。違うと言えば月村家の人間も全員普通じゃない気配がするけど。なのはの扱いにも慣れた感じあるし。アリサちゃんはちょっと胡乱気に紅茶にミルクを注いでいる。
「アンタが嘘ついてるとは思わないけどさ・・・現代日本で全身に鎧つけて歩き回ってるなら普通不審者として補導されちゃうもんじゃないの?」
「それがね、事件の被害者と加害者以外に目撃証言が全くないんだって」
「この町に何故かある甲冑屋でもそんな鎧は置いてないらしいし」
「・・・そんなお店あるの!?というかそんな事なんで苗ちゃんが知ってるの!」
「捜査の基本は足だよ」
「自分で調べたんかい・・・相変わらず自由人ねぇ、アンタは」
(調べに行ったのは分身だけどね!)
噂の本人が会話に参加して正体ばれたら怖いから、僕は此処で暫く猫を愛で続ける事にします。
「にゃーん」(約:にゃーんにゃんにゃんにゃんにゃんこ。ここか、この眉間よりちょっと上辺りがええんやろー)
「まーお」
「にゃにゃにゃ、にゃおーん」(約:何?喉下もやれって?そんな贅沢言う子はしっぽの付け根をコチョコチョしちゃうぞー)
「ぅなーお・・・」
「うにゃにゃ」(約:喉をごろごろ言わせおって何てかわいい奴なんだ)
「ごろごろごろごろ・・・」
「みゃーん?ぅみゃー」(約:こんなかわいい猫を撫でまわせるなら毎日ここに通ってもいいくらいだよ)
「ぅなお、まーお」(約:吾輩の主は苗ただ一人であるが故、ここに住まうことはまかり通らぬ。許されよ、獣の血を継ぐ人間よ)
「あ、君は苗さんの飼い猫だったんだ・・・道理で他の子よりも大きいと思った・・・」
ナノハ・アリサ((会話してたの!?))
ナエ(何とまぁ微笑ましい・・・)
スズカ(動物との会話能力・・・それが君の化物としてのチカラの一つ?)
それを機にようやく僕も参加できる動物談話へ話題が移り、その日のお茶会はそれですべての時間を消化した。次はアリサちゃんの家で犬と戯れるんだ・・・
そして想像以上に男前なメスだったぽんずちゃんよ、さらば!願わくばまたいつか相見えんことを・・・!
「ねぇ、おにぃ・・・クロエ君」
「・・・なに?」
「退屈だった?」
「・・・ううん、楽しかった。ぽんずちゃんとも友達になれたし、苗さんとアリサちゃんとも」
「そっか・・・うん、良かった」
「どうやら一歩前進ですな、アリサ嬢?」
「そのようですなぁ、苗殿?」
「二人とも悪代官みたいな顔になってるよ・・・」
・・・実はこのお茶会、クロエとなのはの距離を縮めるための催しだったり。途中何度か脱線したが、目的が果たせたようで残り3人はおおむね満足したのであった。
次はなのはが「お兄ちゃん」の一言を言えるのを目指そうと画策する3人だった。
ところで、すずかには少し気になっていることがあった。それは別に根拠のない唯の憶測なのだが―――
(クロエ君の猫の抱え方、親しっこくそっくり・・・偶然だよね?)
これが後に「クロエ、子しっこく説」として浮上することになることを誰も知らない。
後書き
あれ?オリ主同士の邂逅ってこれが初めてだっけ?
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