P3二次
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Ⅶ
「新しいペルソナ使いが見つかった」
飲んで食べてをしていると気づけば夜、寮に足を運ぶとそんな声が耳に届いた。
「お、裏瀬か……ってお前、酒臭いぞ」
真田が顔を顰めて苦言を呈するが、そんなことはどうでも良い。
「新しいペルソナ使いって?」
「そうっすよ。もしかして、女子っすか?」
伊織の興味はそこにあるらしい。
公子と岳羽が呆れたような視線を送っているが、まるで気付いていない。
「女子だ。ウチの高等部2年のな。"山岸風花"……お前達、知ってるか?」
…………風花だと?
一気に酔いが醒める、何故彼女がと言う疑問が俺の胸裏を駆け巡る。
「山岸? ああ、確かE組の……なんか、身体が弱いとかで学校ではあんま見ないような……」
岳羽は知っているらしく、そんなことを口にする。
「俺達の居た病院へ来てたらしい。それで"適性"が見つかった」
S.E.E.S.の手は病院にまで伸びている、か。
桐条の力ならばそれも当然と言えば当然だろう。
「しかし素養があっても身体がそれじゃ、戦いは無理かもな」
確かに身体は強いとは言えないが、心因的なものもある。
恐らくはこの寮に住まなくてはいけない、そう言えば喜んで喰いつくだろう。
「召喚器も用意したが、望み薄だろう」
「ええ!? もう、諦めちゃうんスか!? 折角、俺が手取り足取り個人レッスンとか!」
下卑た顔をする伊織に女性陣からため息が漏れる。
「ジュンペー最ッ低ー」
「私も同意だわ、アンタ本当にアレよね」
「ひ、ひでえ!? 俺は別に下心とかそう言うんはなくてだな!」
ふと、真田の視線が俺に向けられていることに気付く。
「何か?」
「いや、随分と険しい顔をしていると思ってな。何かあったのか?」
「タダの飲み過ぎだよ。別に気にするこっちゃないさ」
俺と風花が幼馴染だと言うことまでは調べていないのだろう。
簡単なプロフィールぐらいしか調べていないなら僥倖だ。
俺自身、わざわざ風花との関係を口にする気はないし。
「飲み過ぎって……私達が苦しいテスト期間を過ごしてる時に……ズルくない?」
公子はともかくとして、岳羽はよく物怖じしないものだと思う。
ある一定のライン以上には踏み込まず、踏み込ませずで人付き合いをしている彼女ならではか。
「そーそー! タルタロスにも行かずに頑張ってたのにさぁ」
「ツッコむのそこじゃなくね? 俺らと同じ未成年ってとこだろ問題は」
随分と真っ当なことを言うものだ。
それに、俺じゃなくてもこのくらいの年齢なら隠れて飲んでいるだろうに。
「確かにあまり関心は出来んな。飲酒、喫煙、退学ものだぞ」
「それならそれで大いに結構。今の休学だって、俺の意思じゃないもんでね」
問題児はさっさと処分するのが一番だろうにと思わなくもない。
素行などで職員会議なども開かれていると聞いたこともあるのに、何故未だ……
…………家の関係か?
そもそも月学に入ったのだって、養父母の勧めだったからだが。
まあ、どうでもいいか。
「言っても無駄だろうに、あまり硬いことは言うなよ美鶴」
「明彦……お前は先輩として、それはどうなんだ?」
「それより、だ。裏瀬、お前もそろそろ復帰出来るんだろう? 俺も今日からいける」
怪我のことか、確かに腕も動かせるし……問題はない。
既にギプスは取れているし、骨もくっついているので大丈夫だ。
治りが早すぎると思わなくもないが、これもペルソナ関係か?
「ああ、特に問題はない。行くと言うなら付き合えるさ」
「タルタロスもそうだが……こっちの手合せもしてみたくてな」
さっと、軽くファイティングポーズを取る真田。
生憎と殴り合いなんてしても、俺が怪我するだけだろうに。
「リングの中でボコボコにしたいってか? あれか、言って分からぬ馬鹿は身体って感じかい?」
「安心しろ。何もボクシングの形式に合わせとは言わない」
「バーリトゥードで組手?」
「ああ、少し興味があるんでな」
武器、金的、目潰し、そんなものまで加えてやるならばそれはもう殺し合いの域だ。
であれば出来て善戦、間違いなく勝ちは掴めないだろう。
「馬鹿を言うんじゃない。そんなことで怪我でもしたら、目も当てられない」
呆れた桐条が止めてくれる、ありがたいことだ。
流石に俺もボコボコにされて喜ぶ趣味はないのだから。
「私達が戦えなくなれば、それだけ無気力症の人間が増えると言うことだ」
軽率な行動は慎め、俺と真田を叱る桐条。
しかし俺は別に喧嘩したいなどと言ってないのだから説教される覚えはない。
「無気力症、か。アレは一体何なんだろうな」
シャドウに襲われた人間がそうなるとは知っている。
だが、外傷も何もないのだ。
では何故受け答えすら出来なくなるリビングデッドになってしまうのか。
医学的見地では原因不明、心因性のものでは?
それぐらいの推測しかないのが現状で、治療法も不明。
「そもそもだ。一応、このS.E.E.S.は無気力症の人間を増やさないために活動しているんだろう?」
だが、所詮は十人にも満たない数だ。
出来ることなど限られている。
「抜本的な治療法を見つけた方が早いんじゃないか? 桐条でそこらの研究はしていないのか?」
「……してはいるが、治療法などは見つかっていない」
「じゃあ、どうしてああなるかの原因は? ああ、シャドウと言う意味じゃないぞ」
シャドウに襲われて、どう言うメカニズムで無気力症になるのか。
襲われたことによる恐怖で心神喪失? 中にはタフな人間も居ただろうし、その線はなさそうだ。
「恐らくは魂、そう呼べるものに作用しているのではと言う程度だ」
「成る程。しかし、魂……か」
俺達がシャドウに攻撃を受けた場合は普通に外傷を受けるだけだ。
魂とやらに作用する攻撃は未だにお目にかかったことがない。
「私達がチェックをかけられたならば、ああなるのかもしれない。もっとも、試すことは出来ないが」
剣も矢も尽き、ペルソナも出せなくなった時に襲われたらああなるのかもしれない。
だがそれは桐条が言うように試すことは出来ない。
「現状維持が精一杯だわな」
俺と桐条の会話に聞き耳を立てていた岳羽の顔が険しいことに気付く。
薄々勘付いてはいたが、彼女はどうやらこの組織に疑念を持っているらしい。
いや、むしろ持っていない方がおかしいので岳羽一番真っ当なのだろう。
そして桐条、彼女は意図的にシャドウや影時間についてを話そうとしない。
躊躇っているのか何なのか、そう言う話題に移りそうになると絶妙な話題転換を図る。
だがまあ、桐条もそれがそろそろ限界だとは気付いているはず。
「……ああ」
曇った顔のまま返事をする彼女は俺の視線に気付いているのだろう。
流石は帝王学を叩き込まれているであろう御嬢様。
しかし……その表情は、負い目? 罪悪感?
知りたがりの俺としては今すぐ問い詰めてたくて仕方ない。
「じゃあ、アレだね。テストも終わったことだし、犠牲者が増えないよう今日タルタル行こうか」
大福を食べていた公子が唐突に発言する。
食べることに夢中で聞いてないと思っていたのだが……流石に失礼だったか。
「真田先輩や裏瀬くんも復帰したことだしね! 皆は予定大丈夫?」
「私は問題ないよ」
「俺っちも特に予定はないし。久しぶりにタルタルでストレス発散みたいな?」
場の空気が一気に変わった。
意図してか天然か、何にしろ公子もまた桐条とは違うタイプの上に立つ人間の資質を持っているのだろう。
「快気戦と言うわけか。いいな! おい、裏瀬お前飯はまだか?」
拳を打ち鳴らして不敵に笑う。
真田はこう言う表情がとてもよく似合う男だ。
「ん、ああ。つまみは食ったがそれぐらいだ」
「だったら一緒にどうだ? 俺もまだでな。快気祝いってことで奢ってやるぞ」
「そうだな……だったらお言葉に甘えようか」
「よし! じゃあうみうしにでも行くぞ。有里、飯を食ってから現地で合流しよう」
「了解でーす」
意気揚揚と寮を出る真田を背を追って俺も寮を出る。
まだアルコールが抜けていないので徒歩だ。
「そう言えば、聞いていい?」
「ん、何だ?」
「前にチラっと話してた荒垣って男のことだよ」
その一言で空気が変わるのを肌で感じたが、無視しても問題ないレベルだ。
気分を害したからと言っていきなり殴りかかる男でもないし。
「天田」
「ッ……調べたのか?」
目を剥く真田、それだけで総てのピースが繋がり一枚の絵になった。
詳しく調べるつもりはなかったが、まあ折角なので話題に出してみたが……
何とも正直な男だと思う。
「ああ、とは言っても今のリアクションで確信を得たって感じだがね」
「……カマをかけたのか?」
「まあね。やっぱ、そう言う事情で荒垣はS.E.E.S.を抜けたってわけかい」
それは本当に偶然、何らかの事故のような形だったのだろう。
影時間内で荒垣は天田と言うシングルマザーを殺めてしまった。
だが、影時間が終わればそれは事故として処理される。
その負い目のようなものがあるからこそS.E.E.S.を抜けた。
しかし何故タカヤらと接触をしているんだ?
「あれは、事故だった。ペルソナの暴走でアイツは……」
「暴走?」
「ああ。ペルソナを制御し切れないと言う例もあるんだ。有里も一度、暴走のような形でシャドウを葬ったことがある」
それは初耳だが……まあ、今はいいだろう。
「それ以来アイツは俺達から距離を取った。自責の念を感じているのだろうが、責任があるとした俺や美鶴もそうだ」
「止められなかった罪ってか?」
「そうだ。お前には分からないかもしれないがな」
毒のある言い方だと思う。
が、それはその通りで、俺が実際真田の立場にあったなら特に気にすることはないはずだ。
「ふぅん……だったら忠告。件の荒垣な、あんまよくない連中とつるんでるみたいだぜ」
「何?」
タカヤらについて話す気はないが、これぐらいは言ってもいいだろう。
「それは、お前のような人種と言うことか?」
「言ってくれるなオイ……まあ、俺とは違うタイプの性質悪い奴さ」
向いている方向が違うだけでロクデナシ具合で言えば五十歩百歩だ。
「分かった。気に留めておこう」
「ああ」
タカヤらのことを話せば間違いなく拗れる。
下手に関わるようになれば……さて、こっちは何人殺られることになるのか?
真田、桐条は大丈夫だろうが、他のメンバーや顧問の幾月辺りは危ない。
俺ならば狙い易い幾月を狙って敵方に精神的圧迫を掛けるだろうし。
怪しいあのオッサンが馬脚を現す前に殺されては困るのだ。
「そう言えば、有里から聞いたんだが……お前、武器は自前で用意するそうだな」
「ん、ああ。それが?」
ついこの間届いたところだ、出来は……アナコンダほどではないがそれなりの代物になっている。
「どんなものを使うんだ?」
「改造したガスガンさ。岳羽が使ってる弓よりも威力はあるから問題ないぜ」
実銃よりも手軽に入って、尚且つ殺傷力の高い武器だ。
ヤンチャしてる人間の中にもそう言う系統のものを使う連中は割と居る。
もっとも、大概は脅し目的だったり動物を撃つ程度だが。
「ふむ、お前も俺のように徒手空拳かと思っていたんだがな」
言うや俺の身体をペタペタと触り始める。
男に触られて喜ぶ趣味はないんだが……
「うむ、やはりいい筋肉をしている。服の上からでは分かり難いがよく絞っているじゃないか」
「……そいつはどーも」
そこらのチンピラ程度には負けない自負はある。
だが、本職の真田のような人間程の才能がない以上、メインには据えられない。
あらゆる手段を用いて戦うのが俺のスタイルだ。
「どうだ、学校に来る気があるならヤってみないか?」
ボクシングを、と言うことなのだろう。
だが些か言葉を省略しすぎだと思う。
聞きようによってはいかがわしい言葉にも聞こえる。
「生憎と学校に行く気はないよ。行ってもしゃあねえからな」
勉強、部活、恋、全国の学生が同じようなルートを辿っている。
王道と言うやつだ、そこに俺の求めるものはない。
だからドロップアウトして馬鹿なことをやっているのだ。
「そうか。まあ、気が向いたらで構わん。他の部員にもいい刺激になりそうだしな」
「ああ……っと着いたな。流石に今の時間帯は少ないな」
カウンターに座りメニューを広げる。
「俺は牛丼特盛にするがお前はどうする?」
「あー……並みで」
「育ち盛りが遠慮するな。すいません! 特盛二つと卵、豚汁も二つで!」
そんなに食えないんだがな……
「沢山食って、タルタロスで沢山動けば問題ない。はは、楽しみだな!」
「…………そうだね」
これからは誘われても遠慮しよう。
食が細いわけでもないが、そこまで大食いでもないのだ。
流石につまみやらを胃に入れた後で、時間が経っているとは言え牛丼特盛はキツイ。
「お、来たな。コイツが隠し味だ」
「うへぇ……プロテインとか馬鹿じゃねえの……」
ちょっと形容に困る食事を終えて寮に戻るといい時間になっていた。
すぐに武器を取って月学へと向かうと、既に全員集まっており、俺達が最後だったようだ。
「あれ? 何か裏瀬くん顔色悪くない?」
「……食ってすぐランニングさせられたんでな」
「明彦……」
「はは、すまんすまん。だが、よく着いて来てたじゃないか。喫煙している割に体力はあるようだな」
まるで悪びれていない、やはり真田との付き合いは考えた方がよさそうだ。
「うっへえ、災難だなアイツ」
「アンタも真田先輩と一緒に鍛えたら? 下手すれば私より体力ないんだし」
「ゆかりッチ酷くね!?」
そうこうやっていると桐条が場を締めるように手を叩いた。
「さあ、そろそろだ。準備はいいか?」
緑色の夜がやって来る、何度見ても目に優しくない時間だ。
これが森の緑ならまだマシなのだろうが……
「じゃあ今回は、復帰組二人とゆかりの四人で行こうか」
「え、あれ? 俺は?」
「じゅんぺーはまた今度! ほら、二、二で丁度いいし!」
男二、女二、確かに丁度いいが合コンじゃあるまいし。
「それじゃ、行くよ!」
階段を昇った先にある扉を開けると一気に景色が変わる。
「有里、一つ頼みがある」
「はい?」
「お前と岳羽には俺と裏瀬のバックアップを頼みたいんだ。どれだけ動けるかを確かめたいんでな」
「私は別に構いませんけど……裏瀬はそれでいいの?」
どれだけ動けるかを確かめる、ね。
それもまた必要か。
「ああ、構わない」
「んじゃゆかりも裏瀬くんも賛成みたいだし、そう言う作戦でGO!」
「腕が鳴るな。裏瀬、どちらが多くシャドウを倒せるか競争といこうじゃないか」
「へえ――だったらとりあえず俺が一歩リードなわけだ」
曲がり角に居るシャドウ目掛けて雷を放つと、シャドウの断末魔が聞こえる。
「やってくれる! 行くぞ!!」
シャドウを求めて走り回る俺達。
召喚の早さではワンアクション置く必要のない俺が有利だが……
「これで俺も一つ!」
見事なコンビネーションでカブトムシのようなシャドウを打ち滅ぼす真田。
「二つ、三つ!!」
仮面を被ったスライムのようなシャドウ目掛けてトリガーを引き、一匹仕留める。
同時にカルキには別のシャドウを狙わせて一刀両断。
「……」
「ん、どうしたの?」
「いや……ちょっと気になってな」
シャドウの形だ。
さっきのカブトムシのようなものも居れば、鳥のようなものもいる。
一定階まで達した時に出て来たと言うちょっと強めのシャドウ。
様々な種類が居るが……
「この塔にも前に出て来たような巨大シャドウが居るのか?」
「え、どうだろう……分かんない」
巨大シャドウはどこから来るのか、タルタロスではないのだろうか。
そうでないならばどこから、何のために?
「それも気になるし、この塔についても気になることがある。なあ公子ちゃん、ここで人工島計画文書を手に入れたんだよな?」
小声で公子に問う。
これは他の連中には言ってないらしいのでその配慮だ。
俺が知ったのは偶然だったが……まあ、今はそれは置いておこう。
「う、うん。それが?」
人工島の開発に桐条が関わっていたのは周知の事実。
そんなものの機密書類がどうしてタルタロスにあるんだ?
元から学校にあった? ならば学校の敷地内に桐条のラボでもあると言うことか?
だが、それを回収したのに何のアクションもない。
不可思議なことだらけだ。
「おかしいと思わないか? 何だってそんなもんがタルタロスにあるんだ?」
「それは……」
「おい! 何を話してるんだ? さっさと行くぞ!」
真田の声で会話が中断される。
「ああ、分かった」
総ての真実はいずれ白日の下に晒される。
であればこの滅びの塔を昇り切った時、日は差すのだろうか?
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