ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
八十六話:ラインハット城の中庭で
牢屋にいたおじさんと別れて、また通路を歩き出して。
「……太后様。いなかったね」
「……そうだな」
「……おじいさんも、いなかったね」
「そうだな」
「……あの、おじさん。……生きてた、ね」
「そうだな」
先に進むピエールには聞こえないくらいの、小声で話してます。
何か話してるのくらいは察してるだろうが、聞かれたくないのも察してか、気持ち離れてくれてるのがありがたい。
ゲームではいたはずの太后様とおじいさんが、牢屋にいなくて。
ゲームでは屍になっていたのは、恐らくあのおじさんで。
あの人は、生きてて良かったけど。
太后様は、どうなったんだろう。
「……ヘンリー」
「……まだ、わからない。やっぱり、会ってみないと」
「……そうだね」
「お前なら、わかるよな?魔物が、化けてるかどうか」
「うん。たぶん」
気配がそのままなら、ヘンリーとピエールにもわかるだろうけど。
気配を隠してても、私ならきっとわかる。
俯いて考え込むヘンリーの、手を握ります。
「……行こう。大丈夫、きっと」
希望的観測に、飛び付いたらいけないかもしれないけど。
ヘンリーもきっと気付いてて、それでも悪い可能性を捨て切れないんだろうけど。
だから、今は私が手を引いて歩く。
信じて違ったら、私のせいにすればいいんだから。
「……そうだな。行くか」
手を引いて、先に歩こうと思ったのに。
強く握り返してきたヘンリーが、急に力を取り戻したように、逆に私の手を引いて歩き出します。
……なんか。思ったより、元気?
……まあ。
元気なら、良かった。
地下通路を抜けて階段を登り、ラインハット城内の中庭に出ます。
ここには、犬が放し飼いにされている……と見せかけて話しかけると実はドラゴンキッズで、戦闘に突入!
という罠が、ゲームではあったわけですが。
ゲームなら戦っても別に騒ぎとか起きなかったけど、現実問題として城内で戦闘したら目立つよね。
ということで気配を消してこっそり移動、していたはずが。
「わん!わんわんわん!」
『わーい!キレイなおねーさんだー!』
「ドーラ!」
「ドーラ様!」
「ピキー!」
思いっ切り飛びかかられて、すかさず庇われました。
三重の防壁に。
「うー!わんわんわん!」
『おいこら!邪魔すんなよ!』
「なんだ、コイツ。戦る気か?」
「突然女人に飛びかかるとは、不埒な輩にござる。斬り捨てましょう」
「いやいやいや。なに物騒な方向に持ってってるの。明らかに、戦う感じじゃ無いじゃん」
「くーん、くーん」
『そーだ、そーだ!おいらはおねーさんと遊びたいだけだ!』
「君もいつまで犬のフリしてるの」
「きゃいん!?」
『すげー!おねーさん、わかるの!?』
「うん、わかるから。なんか用なら、とりあえず戻って」
「わうん!」
『りょーかい!』
私の要求に応じ、犬に化けてたドラゴンキッズが正体を現します。
「これでいい?」
「あ、喋れるんだね。戻れば」
「とーぜん!キッズでもドラゴンだからね!そんぐらい、よゆーよゆー」
「そんなもんなんだ。ところで、お姉さんたち忙しいから。遊んでる暇は無いんだけど」
「えー。いーじゃん、ちょっとくらい」
「ダメダメ。ホントに忙しいの。じゃあね」
「待ってよ!なら、おいらも手伝うよ!そんで終わったら、遊べるでしょ?」
「手伝うって。君、ここで仕事してるんじゃないの?知らない人に、ついてっちゃダメでしょ」
「いーよ、そんなの。変なおっさんたちの言うこと聞いてるより、キレイなおねーさんのほうがいいもん!」
軽い。
とことん、ノリが軽い!
「おねーさん、もう魔物とか連れてるし。なら、いいじゃん。おいらも連れてってよ!」
「うーん……」
別に連れてってもいいんだけど。
いなくても、別にいいしなあ。
このノリの軽さは、いいのか悪いのか。
「みんな、どう思う?」
迷うくらいなら、仲間の意見を聞いてみるべきよね!
「要らないだろ」
「不要にござります」
「ピキー?」
反対2、中立1。
「なんだよ、お前ら!男の意見とか、どーでもいーし!おいら、おねーさんと仲良くしたいだけだし!」
「要らないってか、有害だな」
「害虫にござりますな」
「ピキー……」
どうも、相容れないらしい。
「えーと、悪いけど。みんな、私の大切な仲間だから。仲良くできない子は、ちょっと」
「ええっ!じゃあ、する!仲良くするからさ!頼むよ、連れてってよ!なーなー、頼むよ!にーさんたちも!」
「うーん……」
どうしよう。
懇願に入られると、弱いわー。
この子もちょっと可愛いし。
「君ってさ。……男の子?」
「当たり前じゃん!なに、女に見えた?おいら」
「見えないけど、一応」
全然見えなかったけど、僅かな希望に縋りたかった。
お風呂とか添い寝的な意味で。
これで女の子だったら、迷わず連れて行くんだけどなあ。
「なーなー、頼むよ!いい子にするから!ちゃんと、言うこと聞くから!」
「どうかなあ。途中で仕事投げちゃうような子だからなあ」
「変なおっさんに偉そうに命令されたからだよ!おねーさんならキレイだし!可愛いし!優しそうだし!絶対、大丈夫!」
「……そんなに私、可愛く見える?」
あっさりおねーさんとか言われて忘れてたが、現在男装中で。
鎧も着て、ガッチリ装備固めてるんですが。
「もっちろん!あ、服のこと?そんなもんで、おいらの目と嗅覚は誤魔化されないよ!大丈夫、並のヤツらなら気付かないと思うよ!」
え、嗅覚?
においでも判断されてるの?
まあ、獣なら普通か。たぶん。
「うーん。なら、お試しで。試しに連れて行って、いい子に出来なかったらやっぱりお別れってことで。それでもいい?」
「やった!うん、絶対いい子にするから!それで、大丈夫!」
「みんなも、いい?」
強硬に反対されたら、押し通すのも気が引けるけど。
こんなに言われたら、できれば連れて行ってあげたい。
「ドーラ様が、それをお望みならば。拙者に否はござりませぬ」
「ピキー!」
「……お前が、連れて行きたいんだな?」
「うん。とりあえずだけど」
「なら、いいんじゃねえか。連れてっても」
「やった!話せるじゃん、にーさんたちも!んじゃ、よろしく!おいら、コドラン!おねーさんたちは?」
「私は、ドーラ。そっちはヘンリーにスラリン、ピエールとスラ風号」
「ドーラちゃんかー!いい名前だね!おいらと、ちょっと似てるし!気が合いそうだね、おいらたち!にーさんたちも、適当によろしくな!」
言い終わると同時にまた私に飛び付いてこようとするコドランを、すかさずヘンリーとピエールが阻みます。
スラリンはもう気を許したのか、すっかり無警戒です。
「なんでだよ!いーだろ!仲間になったんだから!」
「いいわけあるか」
「不埒な考えを持ってドーラ様に近付くなど、不届き千万。異種族とて何でも許されると思うな」
うーん。
飛び付いてきてくれるなら、むしろ大喜びで迎え入れたいんですけど。
そんなこと言ったら話がこじれそう。
ていうか飛び付かれたところで所詮、鎧越しなんですけど。
ダメなのか、それすら。
「おいらドラゴンだぞ!しかも、子供だぞ!男の嫉妬は、見苦しいぞ!」
「子供がそんな主張するか」
「幾つであろうとも、男は男。見苦しいのはそちらにござる」
「はい、そこまで。そんな話はあとにしよう。コドラン、細かいことは置いといて。今は、みんなの言う通りにして。用が済んだら、少しは遊んであげるから」
「ホント!?わかった!おいら、いい子にする!約束だよ、ドーラちゃん!」
「ちゃんといい子にしてたらね」
そんなわけで。
予定外の場所で、予定外の子が、仲間になってしまいました。
良い子のスラリンと大人のピエールに対して、随分と毛色の違う感じですが。
……まあ。
すぐ、慣れるだろう。
たぶん。
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