パンデミック
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第十二話「ブランクの正体」
ーーー<<エクスカリバー本部・屋外第2訓練場>>
ソレンスは、広い屋外訓練場のベンチに腰掛けていた。
周りには誰もいない。訓練生だった頃はうるさいぐらい人がいたのに……
……訓練生だった頃が懐かしいな。
ふと、そう思った。
多くの同期を失ってしまった。とくに親しかった同期は生きていた。生きていてくれた。
だが、それでも満足だったなんて思っていない。
全員で生きて帰って、それを全員で喜んでこそ、意味があった。
「……………俺に、あの人のような力があれば……」
ソレンスは、ブランクのことを思い出した。
感染者の脅威をあっさりと退けた、あの化け物のような強さ。
ただ殴っただけで骨を粉砕し、突然変異種すら意に介さない、底なしの強さ。
その戦い方を目の前で見て、何度も自身の目を疑った。
"あれ"は本当に人間か?
「……………珍しいな。俺以外にここに来る奴がいたのか……」
ブランクが、屋外訓練場に入ってきた。
「……ブランクさん…」
「………ブランクでいい」
「でも、先輩でベテランの兵士でしょう?」
「…………………」
ブランクは黙りこんだ。長い沈黙が二人の間に訪れた。
そうだ、今ちょうど本人が目の前にいるじゃないか。聞きたかったことを今聞くべきだ。
「ブランクさん……質問してもいいですか?」
「………なんだ?」
「…………………あなたは、本当に人間ですか?」
「…………………………」
再び、長い沈黙。
両者共に口を開かない。
ソレンスは、相手の返事を待っている。ブランクは、ただ黙っている。
その沈黙を、ブランクが破る。
「………そうだな。お前になら話してもいいかもな」
「………他言はするな。新兵には特にな」
「……はい」
「………"コープス"が致死率100%の殺人ウイルスだってことは、知っているだろう?」
「はい。訓練生の頃に教わりました。それが、何か?」
「………正確に言えば、100%ではなく、99.4%なんだ」
「そうなんですか………? 残りの0.6%は?」
「………俺が正にそれだ」
「俺のような存在のことを…………"適合者"と呼ぶらしい」
「………適合者?」
「………"コープス"は本来、人間の体内に侵入した後、身体中の細胞を壊して、自身の都合のいいように
体構造を作り替える。不必要な臓器はただのエネルギーに変換される。……0.6%を除いては」
「その0.6%は、どのような変化を?」
「………"細胞がウイルスを支配する"と言えばいいのか…それが適合と言うらしい」
「そうなんですか……」
「………ウイルスに適合した細胞は、特殊な能力をもたらす。俺の場合……"筋力の異常発達"だな……」
なんとなく、理解できた気がする。
いや、この説明でなければ理解ができないだろう。
ウイルスの影響でなければ、常人にあんな腕力はないはずだ。
しかし同時に、ある疑問が出てきた。
ブランクは、いつから"適合者"とやらになったのか。
「あなたは……一体いつ"適合者"に?」
「………いずれ話す」
そう言うと、ブランクは何もせずに屋外訓練場から出ていった。
後書き
適合者の存在は、少なからず物語に影響してくるでしょうね……
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