久遠の神話
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第五十三話 十一人目の影その十一
「食べ終わってからね」
「ポトフのお鍋はそのままでね」
気付いていない女も言う。
「それでね」
「うん、お皿とかフライパン洗おう」
「洗剤で洗うのは私がするから」
「お水でゆすぐのは僕だね」
「卵だし油もそんなに使ってないから」
それでだと言う樹里だった。
「洗うのj楽よ」
「お肉とかだと結構大変だよね」
「特に豚がね」
「そうそう、豚肉の油ってしつこいから」
洗い落とすことを考えると豚肉は一番厄介だ、味や栄養、価格的にはかなりいい肉だが洗うには苦労するものだ。
「けれど豚じゃないからね」
「洗うのは楽だよね」
「ええ、安心してね」
「この前家で豚バラ煮込みあるじゃない」
「あっ、中華料理の」
「それしたけれどお鍋の油がね」
それがだというのだ。
「しつこくてね。洗うのに苦労したよ」
「上城さんってお家でも鍋洗ってるんですね」
零は何時の間にか彼の隣に座っていた、それで彼は焼酎を出してそれをビーフジャーキーを肴にしながら言った。
「そうなんですね」
「それ普通だよね」
「普通男は食器洗いませんよ」
「あんたを洗わせるのもね」
どうかと言ったのは樹里だった。
「苦労するわね」
「だって面倒臭いから」
「家事はそういうものじゃないの」
面倒臭いと言ってはならないものだからというのだ。
「そういうのじゃなくてね」
「じゃあどういうものなんだよ」
「手を抜かずにしっかりと隅から墨までするものなの」
「だからなんだ」
「食器洗いだけじゃなくて」
その他にもだった。
「お掃除にお洗濯に」
「つまり家事全般?」
「そう、お仕事だから」
「家のっていうんだね」
「お料理は私が作るし私も食器洗うから」
「ちゃんとしろっていうんだね」
「そう、そういうことよ」
こう家庭の主婦そのままのことを弟に言う樹里だった。
「あんたは、本当にね」
「男も家事しないといけないっていうんだね」
「一人暮らしになったらどうするつもりよ」
むっとなってやはり母親そのものの口調で言う。
「その場合どうなのよ」
「どうなのって言われてもさ」
「男の人の一人暮らしは大抵酷いことになるけれど」
家事を一切しない、その為部屋の中がゴミ捨て場の様になってしまうというのだ。尚これは女であってもあることだ。
「身に着けておかないと駄目でしょ」
「お料理とかもだよね」
「勿論よ。お店のものばかりだと駄目なの」
やはり母親の口調で言う樹里だった。
「栄養が偏って駄目だから」
「お店のものは味付けも濃いっていうんだね」
「塩分や糖分にも注意しないと」
酔っているが言うことはしっかりしている。
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