| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

久遠の神話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十三話 十一人目の影その七

「お父さんも言ってるわ」
「お坊さんねえ」
「お寺に入る時は必死にすがったけれど」
 またその話になる。
「入ったらもうね」
「お寺の悪口ばかり言う様になったんだ」
「それがあまりにも酷かったのよ」
 樹里はそのことを思い出しながら話す。
「傍から聞いててもね」
「僕お寺に行くことも多いけれど」
「そんなに悪いかしら」
「お寺によるけれど」
 それでもだというのだ。
「悪い場所じゃないよね」
「そいうでしょ。お坊さんだってなろうと思えばなれるから」
 このことをまた言う樹里だった。
「努力すればね」
「その人本当に努力しなかったんだ」
「何もね」
 人間としてそうだったというのだ。
「本は読んでいても」
「学識はあったの?」
「読んではいたけれど」
「知識だけ?」
「それも人に威張りたいだけの知識だったのよ」
「ううん、そんな知識って」
 どうかとだ。上城もワインを口jにしてから言った。
「何にもならないよね」
「そうでしょ。とにかく偉そうな人で」
「人として何もないのに?」
「母親の人に甘やかされてたから」
 これが原因だった、人として駄目になった理由は。
「それでだったのよ」
「駄目な人になってなんだね」
「実は本を読んでいても」
 樹里の曇った顔での言葉は続く。
「大学も出てないのよ」
「出てないんだ」
「だから。努力しないから」
 努力は自分の心に対してだけするものではない、その人のその時の本分に対してもだ。学生時代の本分についてもなのだ。
 だがその人はその努力をだというのだ。
「何もかもにね」
「勉強にもなんだ」
「これはお父さんから聞いた話だけれどね」
 こう前置きしてのことだった。
「勉強しなかったらしいから」
「大学にも行けなかったんだ」
「かといって部活にも入ってなくて友達もいなくて」
「何か本当に何もない人だったんだね」
「そういう人でどうして偉そうにしてたのかな」
「何もないから何もわかってなかったんじゃないかしら」
 これが樹里の見立てだ。
「それで、じゃないかしら」
「何もないからなんだ」
「何かをわかるには何かがあることが必要じゃない」
「そうだね。剣士のことだってね」
「剣士だからわかるわよね」
「村山さんも剣士について知ってるからわかるよね」
「ええ、知らないとね」
 もうそれで、だった。無知ではだ。
「わからないから」
「そういうものだよね、やっぱり」
「だからその人は何もわからないで」
「今どうしてるかわからない位なんだ」
「お坊さんになれたのよ、本当に」
 樹里はこのことを残念そうに語る。
「そうなればかなりよかったのにね」
「お坊さんになったらやっぱり」
「住職さんとかね」
「そういう人になれるよね」
「なりたければね」
 それでなれるというのだ。
「住職さんがいないお寺ってあるから」
「そういうお寺もあるんだ」
「あるのよ、結構ね」
「そうだったんだね。どのお寺も住職さんがいるんじゃないんだ」
「そうなの。ほら、八条町には天理教の教会もあるけれど」
 樹里は今度はこの宗教の話もした。
「あの宗教も結構」
「天理教もなんだ」
「そうなの、あの宗教は住職さんじゃなくて教会長さんだけれど」
 宗教も呼び名も違うが寺社の責任者であるということは同じである、その仕事も似ている部分が多いらしい。
「あの宗教もなの」
「教会があってもなんだ」
「会長さんがいない場合もあるそうよ」
「人がいないお寺があって」
「そこに入られたのよ。実際住職さんに誘われる一般の人もいるわよ」
「いるんだ」
「そうなの。だからあの人もね」
「住職さんになれたんだね」
「なろうと思って努力したら」
 なれたというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧