在りし日に戻る~被検体YU~
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早く会わねぇと
前書き
夢を見た。
あの日、あの人と交わした約束の夢を…。
“この花が一面に咲き誇っているのをいつか二人で見たいわ”
彼女の周りにはちらほらと咲き始めている蓮の花があった。
“俺も貴女と二人で。この花びらが落ちるまでには必ず…”
“あらあら、せっかちさんね。今回ダメでもまた次があるわ”
“なら何年経っても必ず、貴女と共にこの花を見る約束を…”
“ホントに?…おじいさんとおばあさんになっちゃってもよ?”
“約束する”
“待ってるわ…ずっと待ってる”
それが神田に唯一残っていた本体の優しい一時の記憶。
(早くしねぇと。俺の体もいつまで持つか分からねぇ…)
任務先に着くとまずは現地の探索部隊に通信を試みたが誰からの応答もなかった。
こりゃめんどくせぇなと嘆息する神田の目の前に一人の探索部隊が現れた。
「お初にかかりますエクソシト様。今回貴方様と同行する探索部隊のイーラでございます。よろしくお願いします」
「何故俺の通信に応答しなかった?お前一人だけか?」
「はい、それが…」
イーラの話によれば町の外れにある森に言葉を操る樹がありそれがイノセンスを宿しているようだった。そして他の探索部隊はそのイノセンスの調査中、突然現れたAKUMAに殺られたらしい。その時に彼女の通信機器が破壊されたらしく、また彼女自身も額や腕にいくつかの傷を負っていた。
「そうか、…よろしく頼む」
「はい、宿はこちらとなります」
宿に着いた後、夜までの間町の住人に聞き込みをするかと思い神田は町の酒場に足を向けた。
(…アイツには声をかけないでおくか)
もともと単独で行動することが多かった彼は一人で聞き込みを行った。
夜になり宿を出発した2人は喋る樹があるという森に足を踏み入れた。
イーラを先頭に迷いもなく進んでいく。
ピョコピョコと揺れる頭を見ながら神田は町人の言葉を思い出していた。
“あそこはある時から迷いの森と呼ばれ足を踏み入れたら最後誰も帰ってきた例がないよ。だからみんな近寄ろうとしないよ。旅人さんも気をつけな”
ある時からという言葉に神田はイノセンスだなと見当をつけた。
(しかしどうしてコイツは躊躇いもなく進んでいけるんだ?まさかもうイノセンスがここにはねぇとか…どうもイヤな予感がするぜ…。まあ、外れてくれればいいがな)
神田が思案しているとふと先ほどまで揺れていた頭が止まった。
「?…オイ、どうしたんだ?」
「着きました」
彼女の指が指し示すそこには、なるほど確かに他とは異なる一本の樹があった。神田はイーラを後ろに待機させ目の前の樹と対峙する。
「オイ、お前が言葉を操る樹か?」
「……ああ、そうだ。待っていたぞ、エクソシトよ」
樹が言葉を発する度にガサガサと葉音を立てた。
「どういうことだ?」
「ここがある時から迷いの森と呼ばれているのは知っておるか」
「ああ」
「理由は簡単。我らAKUMAがこの地に腰を据えたからだ」
すると周りの三本の木が次々とAKUMAに転換した。
「ホントに来やがった。久々のエクソシトだ!」
「これは楽しめそうだな」
AKUMA達が喚き出す。
「チッ、そう言うことかよ。一つ質問だ。後ろにいるコイツもAKUMAってことか?」
後ろに控えさせていたイーラに目を向けるとそこには虚ろな表情の彼女がおり、彼女の耳から禍々しい蟲が這い出ていた。
「なっ!?寄生させていたのか」
「安心せぇ。そこの小娘にはキサマの案内役をしてもらっただけだ。まあ、キサマを殺した所でそやつも殺すがな」
「オイ、お前大丈夫か?」
虚ろだったイーラに近づき頬を叩いて意識を覚醒させる。
「……はい、あのここは?」
徐々に彼女の瞳に輝きが宿る。
「ここは町外れの森の中だ。詳しい話は後だ。とにかく俺がコイツらを引き付けるからお前はその間に宿まで行って本部と連絡をとってくれ!!」
「ハ、ハイッ!!」
彼女は急いで森の出口を目指して走っていった。
「良かったのか。生かして帰さないんじゃなかったのか?」
「クックック問題ない。…ここは森の最新部だ。小娘が森を出るまでにはお前は殺して追いつくだろう」
「そうかよ。ところでお前らは全員レベル3か?見たところお前は違うようだが」
レベル3が3体の他に目の前で対峙している個体だけが明らかに異なっていた。
「我の形態を見るのは初めてだろうな。その通り、我はレベル4だ」
「まだレベルがあったのかよ」
「そろそろいいだろうか?我も馬鹿ではない。時間稼ぎも終わりだ!」
(チッ、気づいてやがったか。しかし少し多すぎるじゃねえか…レベル3が3体、それに未知のレベル4、そして全員擬態の能力持ちといったところか)
「ギャハハハハ!死ぬのが怖くなったかエクソシト」
「クックック…どうした、エクソシトよ。我らに恐れおののいたか」
言葉を発さなくなった神田に向かって口を開いた。
「お前らの殺し方を考えていただけだ。どうやら相手が悪かったようだな。後悔させてやる。いくぞ六幻、イノセンス発動。災厄招来‘二幻刀’!!」
二振りになった六幻を手に近くにいたレベル3一体に斬りかかる。
「二幻 八花螳蜋」
しかしすぐさまレベル3は身を翻し、本来ならば八回斬りつけるその攻撃は半分も当たらなかった。
「なかなか素早いじゃねぇか」
「甘い甘い。そんなんじゃオレは倒せねえよ」
再び八花螳蜋を行おうとするが乱立する木々にAKUMA達が入り込むと、八花螳蜋の速さが生かせなくなってしまった。
そして四方から閃光を神田に放っていく。二幻刀で閃光を相殺していくが、一発の閃光が彼の目の前で炸裂したのを皮切りに立て続けに炸裂に巻き込まれていく。
「まだ立てるのか。だが、これで終わりだな。」
トドメだとAKUMA達は一発の弾丸に力を収束していく。
「…チッ。マズイな…」
舌打ちをした彼には焦りの色が見られた。
そんな中、ふと視界の端で蓮の花が咲いているのを捉えた。
当然、こんなところに咲いている筈がなくすぐに彼にしか見えぬ幻覚だと悟った。しかし、蓮の花を見たことで最近見た夢を思い出した。
“待ってるわ…ずっと待ってる”
その言葉が、体に染み渡り彼は自分が冷静になっていくのが手に取るように分かった。
(ああ、こんなところでくたばってたまるかよ。俺はあの人との約束を果たすまで死ぬわけにはいかねぇんだ!!)
「死ねぇぇ!!」
収束した弾丸を放つと辺りは弾丸の煙に包まれた。
「ふむ、なかなか面白かったぞ」
そう言ってAKUMA達はこの場を去ろうとする。
「…待てよ」
後方からの声に驚き振り返ると、煙が晴れたそこには闘志をみなぎらせた彼が立っていた。
「それで終わりか?なら今度はこちらの番だ。二幻、昇華。俺の命を吸い高まれ 禁忌‘三幻式’!!」
すると彼の瞳孔には三点の紋様が入り目の周りにはヒビが入った。
(…チッ。負傷したこの身にはやはりキツいな。早く決めなければ)
爆魄斬で彼とAKUMA達の間に存在している木々を爆破しながらその距離を詰めていく。
近接攻撃が届く範囲まで近づくと一気に片をつける為、彼は更に魂を昇華させる。
「四幻式!!」
「コイツ、急に速くな…ギャアアアア!」
「体が追いつかない……グアァァ!」
「クソ…エクソシトめェェエエエ!!」
「ふう、残るはアンタだ。ってかそのだらしない腹をどうにかしろ」
「クックック、まだ軽口を叩けるとは。面白いぞエクソシト。いいだろう、要望に答えてやる‘トレース’!!」
残すはレベル4のみとなったが、レベル4は再び転換し神田の姿に擬態した。ご丁寧に手には六幻も携えている。
これにより速さ、剣術が互角どころかレベル4の方が上に立ち、今度は一転して神田は防戦一方となる。
「…チッ、俺と同じ姿で俺より強いとはふざけてやがる。五幻式!!」
形勢不利と判断した神田は更に魂を昇華させみるみるうちに彼の頭髪、六幻が浅紫色に変化した。
「まだあったのか、ならば我も五幻式!!」
「…チッ。裂閃爪」
しかし、速さを凌駕するレベル4には当たらない。
「さっきまでの威勢はどこへいったのやら…裂閃爪!!」
レベル4の裂閃爪の動きは神田の目では捉えきれず、八方からの全ての攻撃を受け止めてしまっていた。
(昇華しすぎたせいで、呪符の効果があまりねぇな。)
「チッ、技までパクりやがるとは…著作権侵害で訴えるぞコラァ」
「キサマが死ねば我がオリジナルになる」
「………なら、偽物は潰しておかねぇとな」
レベル4の言葉にゆっくりと時間をかけて返答した。
(こやつ、何か思案しておるのか?)
「…まあよい、いくぞ!!」
それからも闘いは続き、神田の体はボロボロになり片腕は斬り落とされていた。
しかし、闘いは唐突に終わりを告げる。
「ム?体が急に重くなった…」
「どうやら俺の体にある呪符まではパクることが出来なかったようだな。」
(と言っても呪符まで写せなかったのは助かったな)
「これで最後だ」
一歩、また一歩とレベル4に近づいていく、その途中で少しずつ足が欠けてゆく。
「クソ、これならどうだ悪魔叫!!」
近づいてきた神田に対し咆哮を放つが、神田に何の変化も見られない。
「悪魔叫が効かない…だと?」
「?…何をやったか知らんが、俺の顔で気持ちワリィことするなよ。それとこちとら序盤の閃光で耳をやられて何も聴こえねぇんだよ!!」
(そうか!あの時我の返答が遅かったのは我の唇の動きを読んでいたからか)
「…やっぱり、慣れねぇことはするもんじゃねーな」
「我もここで終わりか。予想以上に楽しかった、礼を言うぞ。だが、キサマもここで死んでもらうことに変わりはないがな」
「………何をゴチャゴチャと言ってるか分からんが、構わん。とっとと消え失せろ!!」
神田が眼前のレベル4に刃を入れようとるがその前にレベル4はニヤリと笑うと再度転換しあの人に擬態し、尚且つ約束の言葉を紡いだ。
「待ってるわ…ずっと待ってる」
「なっ!?」
あの人と同じ姿、声で発せられたその言葉は神田を一瞬止めるのに十分過ぎるほどだった。
その隙にレベル4は彼に抱きついた。
「キサマも道連れだ。死ねぇエクソシトォォオオオ!!」
「しまっ…!!」
咄嗟に振りほどこうとするが、抱擁から逃れる事ができず、レベル4の自爆に巻き込まれた。
爆発により辺りは平野となった。その中心部に瀕死の神田の姿があった。
(今頃、アイツは本部に連絡をとっているところだろうな。なんか、とても眠いな…少し休むか)
彼は意識を手放した。
後書き
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