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どっかの分隊長

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安息とはいったい何か

俺達はウォールローゼ(2つめの壁)に着き、死者を火葬した後、一人で屋台の居酒屋に来ていた。
…別に寂しい奴では無い。断じて無い。

「ういー、きゅっぷい。店主、酒おかわり。もっとキツイやつを。」

いわゆるヤケ酒というものを飲んでいる。壁外調査の後は、いつもココだ。酒には強いので酔っているわけではないが、たまにはこうやってハッチャケたい時期なのである。

「おいおい、坊主よぉ。もう閉店なんだから、もう出て行ってくれ。
まだ子供だろ?もうお家に帰りな?」

酒をチビチビ飲みながら安息の地に心をゆだねていると、少し年老いた店主が、子供をあやすように注意してきた。その見え見えの子供扱いに若干イラッときたが、まぁ俺は実際十代ではあるし、そこそこの童顔だ。だから、ギリギリ子供と見えなくなくもないかもしれない…。

「だがしかし、それは言わない約束だ。」

キリッ眉を上げてと言ってやった。

「いやいや。いつそんな約束したよ、おい。」
「さぁな。それより、おかわり。」
「はぁ…はいはい。それ一杯飲んだら帰れよな?」
「あぁ、気が向いたら。」
「こらこら。そこは嘘でも分かったと言え。」

なんてブツブツ言いながら、コトッと杯を置く店主。

「はい、まいどありー。味わって飲みな、坊主。」
「あぁ。…………って、これ水……!?」
「フン、お子ちゃまにゃ、それがお似合いさ。」
「は!?ふざけるな。」

怒りで拳を握り締めながら水をあおる。アルコールゼロの水なので、勿論いっきだ。

「ん?……これレモン水か?」
「旨いだろ?自信作だ。」
「変なところにこだわってないで、酒出せ。」
「ふー。これだから、情緒がわからねぇ餓鬼は。」

「ヤレヤレ。」と、肩をすくめる店主。

………………。

「―――――よし、歯を食いしばれ。」
「うえいっ!?あ、ちょ、た、タンマタンマ!!
殴るの!?店主を殴るの!?
いや、ごめんごめん!ちょっとふざけすぎたよ。」
「………。」
「無言の恐怖っ!!…わーった、わーった。俺の降参だ。」
「…じゃあ、酒を出せ―――」

「そのレモン水おまけしてあげよう。」

「左手は添えるだけ…。」
「なにそれ、怖い。」

よし殴ろう。今すぐ殴ろう。


「なんじゃ、騒がしいの。」

ピタッ…

「……………ん?」

あ、誰かが店へ入ってきたようだ。ついでにガタッという音が聞こえたので、席に座ったらしい。
最悪のタイミングに舌打ちしたくなるが、感じ悪いのでやめる。俺は拳をおろして、何事もなかったように座りなおした。

「ん?なんじゃ、やめてしまうのか?このまま続けても良かったのじゃが。」
「…何で残念そうなんだ?まぁ、人に迷惑かけてまでする事でもないだろう。」

店主の安堵のため息が聞こえた。

「くっくっく。何やら、面白い事になっとったようじゃの。」

それに反応した隣のやつが、何かを察したようで笑い声が聞こえた。
その声に反応し、俺はふと首を横に向ける。

――――――目に付くは、草一本生えていない平野。

「ピクしス司令官っっ!?」

「ん?」と、鋭い目が片方開いてこちらを見抜いた。

な、な、な…何故……だ。なんで、何故…司令官がここにいるんだ…。ツルツルの頭を見ながら、本当に本人か確認する。…開いた口がふさがらないとは、まさしくこの事だろう。
いやいや、確かにここは公共道路のふちにある公共の屋台だから、司令官が居ておかしなところはない訳ではありますが、え、え、え。だ、だが、何故俺が居る所へ来られたしって感じでありまして。あ、あ、もうだめだ。何故だか思考が急速停止☆……うん、もう自分を傷つけるのはやめよう。

とにかく司令官を見てスルーと言う訳にもいかない。

俺は、ダンッッッ!!と、慌てて胸に手をあてて敬礼した。

「!?………!??」

店主の「え、何で!?何でここで敬礼!?」という心の声が聞こえたが、かまわず敬礼し続ける。ここで敬礼をやめれば最悪、不敬罪になるのだ。店主の困惑如きでやめられるわけも無い。まぁ、司令官はそんな馬鹿な真似はしないだろうが。

「ん?………君は…。…ここで敬礼しなくても良いんじゃぞ。」
「はっ!」
「これ、そんな所に突っ立ってないと、座らんか。」
「はっ!」

「……えーと…。んん?」

とりあえず、何故司令官がここにいるかという疑問はあるが、先に未だ可哀想なほど困惑している店主に軽く説明するか。

「店主。俺は兵士で、この方が―――むぐ。」

司令官だ、と言おうとしたら口を押さえられた。

「ここで自分の立場を言うと、面倒な事になるんじゃ。ここでワシの立場は黙っててくれんか。」

コソッと耳元で彼が凄む。なぜか背中に悪寒がはしって、俺はコクコクとうなずいた。その答えに満足したのか、口から手がはなれる。

「で、つまりあの敬礼の意味は何なんだ……?」
「ん…えーと………。」

さて、このような場合、どう言ったもんか……………。

「友人だ。」

…………………あ?

「いやはや、彼は昔からの友でのぅ。」
「え、でも兵士って聞こえたんだが?」
「あっはっは。彼の迫真の演技じゃ。昔、兵士と司令官で演技をしたことがあっての。久しぶりに会った友人を、笑わせようとしてくれた彼なりの不器用な冗談じゃろう。」
「な、なんだ。そうゆう事かい。ふー。つい爺さんがどこかのすごーく偉い人だと思ってしまったじゃないか。まったく、心臓に悪い冗談だよ。」
「ほっほっほ。おいおい。こんな飲んだ暮れがそんな訳無いじゃろうに。相変わらず面白い事言ってくれる若造だ。」
「褒め言葉としてもらっておく。はい、ウィスキー。」
「うむ。」

……友人て。隊長と司令官が友人て。え、分からん。わて、少々、状況が理解できん。

混乱に混乱して、杯に入ってる液体が波を打つ。

……どうしてこうなった。

「おいおい、坊主。良く分からねーが、久しぶりの再開だろうじゃないか。閉店は待ってやるから、友人と水入らずで話してこいよ。」
「あ、あぁ。」

え、司令官と二人だなんて気まずい事この上ないのだが。店主、頼むから一緒に話してくれ………。しかし、俺の切実な願いも虚しく、店主は屋台の奥に引っ込んで料理をし始めてしまった。

「ほっほっほ。よし、友よ。一緒に飲むじゃろう?」

「ほれ。合わせろ合わせろ。」と司令官が小声でで言う。ここは屋台だから、いくら奥に引っ込んだといえど、店主に聞かれる可能性もあるからだろうが…。

「そ、そうですね……そうだな!友!」

敬語を使って話したら、司令官につねられた。なにこれ、司令官にため口って……。凄くやりにくい。

「いやはや、こんな所にいるとはなぁ、友よ。」
「あ、あぁ、そうだな…。」
「うむ。これも良い機会じゃ。一緒に飲もうじゃないか。」

帰りたい。無性に帰りたい。そんな気持ちを察しながらも返してくれない司令官に泣きそうになりながらも、酒をちびる。…………水だった。悲しい。

「ん?どうした、そんな苦々しい顔して。なんじゃ、失恋でもしたのか?ん?ん?」

うぜぇ。

「………なんでもない。それより、どうして司令……ピクしスさんはここに?」
「なんじゃ、昔のようにピクシスとは呼んでくれんのか。」

……マジか。

「……そうだったな、ピクしス。久しぶりで、忘れていたよ…。」
「お前は相変わらずじゃのう。そんで、何でここにいるか、じゃったか。いや、なに。久しぶりに飲みたくなっての。たまには、おぬしもそうゆう気分の時もあるじゃろう?」

そういえば今日火葬した時に、ピクしス司令官もいたような……。

………………。

「…ま、そんな時もあるか。」
「うむ、まぁの。ところで、最近はどうだ?」
「最近って…………。何をだ?」
「アレじゃよ、アレ。」

そう言って、ニヤニヤしながら小指(恋人的意味)を見せてくる。

…え、なに……どうゆうこと…?…あ。あぁ、あれか?

まだ小指(物理)は残ってるかと?

いや、まぁあるっちゃあるけど。確かに戦場で指が無くなってる人もいるにはいるが、だからといって、今このタイミングで聞くべき話題か…?しかも、何故そんな微妙な部位を具体的に…。

「ま、まぁ。」
「………ほぅ。」

とりあえず肯定したら、ますます笑みが深くなった、司令官。本気で意味が分からない。

「どうじゃ、うまくいきそうか?」
「…あ、あぁ…?」

分からん。本当に何を言ってるんだ、この司令官。

「くっくっく。ま、せいぜい大事にしておくんじゃな。」

え゛、小指を?そりゃあ自分の身体の部位だし大事にするけど、何故小指だけをピックアップ。

「お前さんの立場からしても色々大変じゃろうが…。変な間違いをおこすでないぞ。」
「はぁ…。」

変な間違い?小指と?…どんな場面になったらそんな事がおこりえるのか少なからず疑問である。

「そして、小うるさいかもしれんが、最後に。」

ポンっと、彼は俺の胸にしっかり握られた拳をあてられる。そして、グッと押し付けられ、ピクシスは鋭い目を開いた。

「…死んでも、守れ。」


…………だから、小指を?




「ーーーーーー!!」
「ーーーーーー!?」
「------。」
「----------、--!」

「「はっはっはっはっは!!!」」

それから色々たくさんの会話をし、司令官は中々ユーモアな方だと分かった。今考えれば、小指を死んでも守れだなんて、気の利いたジョークだ。センスは少しずれているが、それはそれで面白く感じる。

「ふわぁーあ…。おーい、坊主。爺さん。もうそろそろ朝になるから、出て行ってくれ。」

店主が眠そうに半目をあけて言った。あれから数刻はたっている。どうやら俺たちが盛り上がってるのを良い事に、少し寝ていたらしい。

「む、もうそんな時間になるか。悪かったの、こんな時間まで。」
「感謝する…が、客に水を出すな。」
「ありゃ、坊主だけの特別せいだ。ほら、クレームつけずにさっさと早く出てけ。」

店主のシッシという合図にともない、のれんをくぐり外に出て行く。秋の涼しい風が、(気分だけ)酔って火照った頬を、徐々に冷やしてくれる。これが、酒を飲んだ後の最後の楽しみといった所か。この時ばかりは少しだけ、いつもと違う風景に見えるのだ。

俺達は家に向かって歩き始めた。俺はピクシスの少し後ろをついて歩く。しばらく無言と豪快に酒を飲む音が続いたが、やがてピクシスが前を向いたまま話し始める。

「ほっほっほ、久しぶりに面白い夜を過ごせた。また、時々付き合ってくれんか。」

ニッと笑い、ビンに入っている緑の酒をあおるピクシス。あえて何も言わないが、飲みすぎだ。

「それは、良かった。俺で良かったら何度でも付き合おう。」

もう店主の前ではないから敬語を使うべきか悩んだが、何となく元の口調には戻さないで返してみた。彼もそれを気にした様子もなく、ただ愉快そうに鼻歌を歌っていたので駄目ってわけではないのだろう。
それにしても、こうして彼をみると随分と子供みたいだ。…俺がマセガキなだけかもしれんが。

「そういやお前さん、何歳じゃ?」

ふいに後ろを向き、質問してくるピクシス。

「正確には分からないが、10代だったと思うが?」
「……若いのぉ。」
「そうか?まぁ、分隊長としては一応最年少だが、一般兵で俺より下の歳のやつも少なからずいるぞ。」

確か、孤児とかで一桁の奴がいたと聞いた。そのときは、「そうか。」で終わったが、今思い出せば、その若さに驚嘆する。

「…人の死は、重いじゃろう。」

おごそかに、ぽつり、と呟くピクシス。

「その若さで死を背負うのは、辛いじゃろ。逃げようとは思わんのか?」
「若さは関係ない…が、まぁ、重いな。だが、だからといって、それをほっぽいて軽くなるくらいなら、重いほうが数段マシだ。」

正直、逃げるに逃げられない立場なのだが。

「……くっくっく、強いな。」

良い笑顔で笑われる。ねーよ、なんて野暮な事は言わない。言えない。

ガシッッ!!!

「!?」

司令官に、頭をがっしり持たれた。……………why!?

「…何をやっているんだ?」

目元より大分下にある黒髪が、ピクしスの手によりガバッと上に持ち上げられる。

「…お前さん……こうして見ると、本当に幼いのぉ。」

あ、それ昔も誰かに言われた気がする。いわゆるギャップが凄いとか、何とか。あぁそうだ。『何か、別人に見えるなぁ~。』と、言われたっけか。

「それで、何で急に…。」
「いや、なに。ちょっとした確認だ。」
「??」

ちょっと、分からない。

「ま、気にするな。大した事じゃないからの。」
「ふーん…?」

いぶかしげに睨むが、彼は飄々と口笛を吹いていた。いったい、コイツは何歳だよ…。
さっきの言葉を少し訂正しよう。俺がマセガキってより、ピクシスが子供っぽいだけだ。

「~~~~~♪」
「………はぁ。」

腹の底の暗い部分を疑うのすら、馬鹿らしくなってくる。これで仕事中はカリスマがあるんだから、世の中不思議だ。

「~~~っっ♪」

上手くもなく下手でもない口笛を聞き流しながら、たらたらと歩く、男二人。我ながら、嫌な構図である。ぺトラがいたならば、まだ花があっただろうにと思ったが、あの状態でここにつれてくるのは忍びない。
あ、今音程間違えた。

「……。」

…ま、軽口たたいて酒飲んで、風に当たって黙って歩いて、、、
たまにはこんな日も、悪くは無いと思うのは認めよう。


「ピクしス司令官殿っっっ!!!!!!」

なんて感傷に浸っていたら、憲兵団の制服を着た綺麗な女性が大声を上げてこちらに走ってきた。
あー……何か嫌な物凄く予感。
彼女は、すぐさまここにたどり着き、手を胸に当てて敬礼をした。いくら成り行きで俺が司令官とタメで喋ったといえ、それを公私混合するほど俺は馬鹿ではないので、俺も彼女に合わせて敬礼する。

「―――それと、分隊長殿…?…報告します!!ただ今…

・・・・・・・・・・・・・・・・・
巨人の手によりウォールマリアの壁が、
   ・・・・・・・・・
………壊されましたっっっ!!!!!」









―――その日、人類は思い出した。

ヤツらに支配されていた恐怖を…。

鳥籠に囚われていた屈辱を…。
 
 

 
後書き
( ・_ゝ・) 
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