緋弾のアリアGS Genius Scientist
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イ・ウー編
武偵殺し
序弾 プロローグ
懐かしい光景。あの日失ったはずの温もり。俺もあいつも笑顔で駆け回ってる。
だが、もう二度とこんな光景は訪れない。一年前、あいつは死んだのだから。
これは夢。一夜限りの幸福、記憶の残滓。
そろそろ目が覚める頃合いだ。さあ、過去から現在へと目覚めよう。
……ピン、ポーン……
慎ましいチャイムの音で、目が覚める。
なんだか懐かしい夢を見てたような気がするが、まあ無理に思い出す必要もないだろうし、別にいいか。
枕元の携帯を見ると――――時刻は、朝の7時。
昨晩は遅くまで、溜め撮りしていたアニメを見ていたので、まだ少し眠い。
(こんな朝っぱらから、わざわざ訪ねてきた奴には悪いが、二度寝したいしな)
居留守を使ってやろうか。
だが、あのチャイムの慎ましさに嫌な予感がする。
パジャマ代わりに使ってる、黒いパーカーとズボンを脱ぎ、ワイシャツをはおって制服のズボンをはくと、俺は一人で住むには広すぎるこのマンションの部屋を渡り……ドアの覗き穴から、外を見た。
するとそこに――――やっぱり。
「……はあ~」
――――白雪が、立っていた。
純白のブラウス。臙脂色の襟とスカート。
シミ一つ無い武偵高のセーラー服を着て、漆塗りのコンパクトを片手に、何やらせっせと前髪を直している。
何やってんだ白雪。こんな所で。
そう思ってたら今度はすぅーっはぁーと深呼吸を始めた。
相変わらずワケのわからん奴だ。
――――ガチャ。
「白雪」
ドアを開けると、白雪は慌ててぱたんとコンパクトを閉じ、サッと隠す。
そして、
「ミズキくん!」
ぱぁっと顔を明るくし、俺の名前を呼んできた。
「苗字で呼んでくれって、何回言ったらわかってくれるんだ?」
「あっ……ごっ、ごめんね。でも私……ミズキくんのこと考えてたから、ミズキくんを見たらつい、あっ、私またミズキくんのこと名前で……ご、ごめんね、ごめんねミズキくん、あっ」
白雪は見る間に蒼白になり、あわあわと口を手で押さえる。
……文句を言う気も失せるな。
星伽白雪。
ミズキくんなんて下の名前で呼ばれてることからわかるように、俺とコイツは赤の他人じゃない。というか幼馴染だ。
外見は名前の通り雪肌で、さっき直していたつやつやの黒髪は子供の頃からずっと前髪ぱっつん。目つきはおっとりと優しげで、まつ毛はけぶるように長い。
さすがは代々続く星伽神社の巫女さんだ。相変わらず、絵に描いたような大和撫子を地で行ってるな。
「ていうか、ここは仮にも男子寮だぞ。よくないだろ、軽々しく来るのは」
「あ、あの。でも私、昨日まで伊勢神宮に合宿で行ってて……ミズキくんのお世話、なんにもできなかったから」
「しなくていいって」
「……で、でも……すん……ぐす」
「ちょ、泣くなって!あー分かった分かった!」
目を潤ませた白雪を、俺は仕方なく部屋に上げてやることにする。
「お……おじゃましますっ」
白雪は90度くらいの深ぁーいお辞儀をしてから玄関に上がり、脱いだ黒いストラップシューズを丁寧に揃えた。
「で、何しに来たんだ?」
きちんとテーブルにつくのも面倒だったので、俺は座卓の脇にどっかりと腰を下ろす。
「こ、これ」
白雪は自分もふわりと正座すると、持っていた和布の包みを解いた。
そして出てきた漆塗りの重箱を俺の前に差し出すと、蒔絵つきのフタを開ける。
そこにはふんわりと柔らかそうな玉子焼き、ちゃんと向きを揃えて並べたエビの甘辛煮、銀鮭、西条柿といった豪華食材と、白く光るごはんが並んでいた。
「これ……作るの大変だったんじゃないか?」
塗り箸を渡されながら言うと、白雪は、
「う、ううん、ちょっと早起きしただけ。それにミズキくん、春休みの間またコンビニのお弁当ばっかり食べてるんじゃないかな……って思ったら、心配になっちゃって……」
「確かにその通りだが、新発明の薬の実験できちんと栄養は取れてたぞ……たぶん」
と言いつつ、さすがにこのまま突っ返すのも悪いので、俺はそのうまそうなお重を有難くいただくことにした。いつも思うが、白雪の料理、特に和食は本当にうまい。
白雪は正座したまま頬を桜色に染めてうつむき、ミカンをむきはじめた。白い筋を丁寧に取って小皿に乗せているところを見るに、それも俺にくれるつもりらしい。
まぁ……お礼くらい言っておくか。
腹いっぱいになった俺はミカンを頬張りながら、白雪に向き直った。
「えっと、いつもありがとな」
「えっ。あ、ミズキくんもありがとう……ありがとうございますっ」
「なんでお前がありがとうなんだよ。ていうか三つ指つくな。土下座してるみたいだぞ」
「だ、だって、ミズキくんが食べてくれて、お礼を言ってくれたから……」
白雪は嬉しそうな顔を上げ、なんでか目を潤ませて蚊の鳴くような声を出す。
あ、あのなー。
なんでいつもそんなにオドオドするんだ。もっと胸を張って生きろよ。
そんな、やたらめったらに大きな胸をしてるんだから。
そう思った俺は……つい、本当につい。
白雪の胸を、見てしまった。
こっちに三つ指をつく白雪のセーラー服の胸元は、ちょっと弛んで開いている。
そこには深ぁーい胸の谷間がのぞいており、黒い、レースの下着が――――
(く……黒はないだろ!)
高校生らしからぬけしからん下着から、俺は慌てて目を逸らす。
「――――ごちそうさまっ」
白雪から逃げるように、俺は勢いよく立ち上がる。
少し顔が赤くなっているかもしれないが、それくらいならバレないだろう。
白雪はテキパキと重箱を片付けると、今度はソファーに放られていた武偵高の学ランを取ってきた。
「ミズキくん。今日から一緒に2年生だね。はい、防弾制服」
俺がそれを羽織ると、今度はテレビの脇に放り投げてあった拳銃も持ってくる。
「……始業式ぐらい、銃は持たなくてもいいんじゃないか」
「ダメだよミズキくん、校則なんだから」
と、白雪はその場に両膝をついてこっちのベルトにホルスターごと帯銃させる。
校則……『武偵高の生徒は、学内での拳銃と刀剣の携帯を義務づける』、か。
確かにこの学校は、拳銃と刀剣が無ければ死ぬ危険性のある物騒な学校だが、何も始業式の日ぐらい携帯しなくてもよいのではないだろうか。
「それに、また『武偵殺し』みたいなのが出るかもしれないし……」
白雪は膝立ちのまま、心配そうな上目遣いで俺を見上げてきた。
「――――『武偵殺し』?」
誰だっけ、それ。
「ほら、あの、年明けに周知メールが出てた連続殺人事件のこと」
ああ、そういえば、そんなのもいたな。
たしか……武偵の車やなんかに爆弾を仕掛けて自由を奪った挙句、短機関銃のついたラジコンヘリで追い回して――――海に突き落とす。そんな手口のヤツだったか。
「でもあれは逮捕されたんだろ」
「で、でも、模倣犯とかが出るかもしれないし。今朝の占いで、ミズキくん、女難の相が出てたし。ミズキくんの身に何かあったら、私……私……ぐす……」
女難の相か。ある意味当たってるな。朝からコイツだもん。
白雪はまだ涙目だし、校則違反で内申点が下がっても困るし、武装ぐらいしてくか。
「分かった分かった。ほら、これで安心だろ。だから泣くなって」
俺は溜息をつき、ナイフも――――親友の形見の、バタフライ・ナイフだ――――棚から出して、ポケットに収める。
白雪はなんでかそんな俺をうっとりと眺め、ほっぺに手をあてていた。
「……ミズキくん。かっこいい。さすが、強襲科のAランク武偵だね」
「やめてくれ――――昔のことだし、今は強襲科じゃなくて装備科なんだから」
吐き捨てるように言う俺の胸に、白雪はるんるんと、どこからか取り出した黒い名札をつけてきた。
『薬師丸ミズキ』
武偵校では、4月には生徒全員が名札を付けるルールがある。
俺はスルーするつもりだったんだが、白雪はそれを先読みして用意していたらしい。
さすがは生徒会長で園芸部長で手芸部長で女子バレー部長で偏差値75の超人的しっかり者だな。というか、肩書き多すぎないか。
「……俺はメールをチェックしてから出るから、お前は先に行っててくれ」
「あっ、じゃあ、その間にお洗濯とかお皿洗いとか――――」
「いいから。早く行けって」
「……は、はい。じゃあ……その。後でメールとか……くれると、嬉しいですっ」
白雪はもじもじとそんなことを言い、ぺこり。
深ぁーくお辞儀をしてから、従順に部屋を出て行った。
……ふう。
やっと一息つけるな。
どっかりとPCの前に座り、だらだら……と、メールやWebを見る。
だらだら、だらだら……としていたら、時刻はいつの間にか7時55分になっていた。
しまった。ちょっとだらだらしすぎたか。
――――58分のバスには乗り遅れたな。
この時の俺はそんな風にしか思っていなかった。
この7時58分のバスに乗り遅れることで、いったい自分がどうなるのかも知らずに。
空から女の子が降ってくる。
物語の導入としてはとてもいい、定番のイベント。
そして、俺にもそんなイベントが起きる。起きてしまう。
平穏な日常は終わりを告げ、殺伐とした非日常が帰ってくる。
空から女の子が降ってくる。
神崎・H・アリアが。
後書き
他の作品を読んでくださっている皆様はお久しぶり。それ以外の人は初めまして。白崎黒絵です。
今作は「緋弾のアリア」の二次創作です。私が書く作品は、何故か途中で更新が止まってしまうという謎の現象(すいません。原因は100%私にあります)が起きるので、今作こそはそうならないように気を付けます。
先程も言いましたが、今作は「緋弾のアリア」の二次創作です。
「二次創作なのに、(ほぼ)原作そのままじゃねーか!」
そう思っていらっしゃる方もいると思います。
そんな方たちへ、本作の主人公ミズキから一言。
ミズキ「細かいことぁ、気にすんな!」
それでは皆さん、読んでくださってありがとうございました。また次のお話で会いましょう!
疑問、質問、感想、受け付けてます!
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