転生者拾いました。
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ノルン火山
御前
全身から汗が噴き出し、体中が震えている。
これほどまで緊張したことはない。どれほどの有名人と面談しても、まして天皇と面と向かってもその緊張とは比べものにならないだろう。
それほどの圧倒的存在。ドラゴンから発せられるプレッシャーは計り知れないものだ。
部下の中には白目をむいて気絶している者もいる。
「ようこそ、死神殿。」
巨石のところから語りかけるのは何時かの騎士が司教と呼んでいたものだ。
「一足遅かったようだな。
見ての通り、猛火龍は復活した。今まではさんざん邪魔されたがこれで恐れるモノはない。
ひれ伏すがいい!圧倒的存在の前に貴様たちは存在を許されない!」
猛火龍の首に金色の鎖が巡り、荒ぶる猛火龍を宥めようとする。
ドラゴンは抵抗して身を捩り拘束を解こうとするが、一本ではなく三本五本と幾重に鎖が重なっていき仕舞いには首腕腰脚尾にも巻き付いてドラゴンを完全に拘束した。
「さて、計画を完遂させる為にはまだ時間がかかる。その計画には君たちは邪魔なのだよ。」
司教はプレッシャーで動けないでいるオレたちに語り続ける。
「新しい世界に不確定要素は必要ない。いや、反乱分子か。
新しい世界に君たちの居場所はない。
ここで、消え去るがいい!」
司教は持っていた豪奢な杖を振り上げ、そこに魔力を集中させる。
「 Magicae lucis! Lumen de flamma incendii!」
動けないオレたちはただの的となり果て魔法が飛んでくるのをただ見ることしかできない。
杖から発せられた白い光線がゆっくり近く。わざとゆっくり飛ばしているのだろう。オレたちをいたぶり殺すために。
立っているのもやっとなプレッシャーを受けていながら気丈にもオレに縋る二人の少女はとても心強い。このまま消えてもいいかなとも思ってしまう。
だがいつまで経っても身を焼かれる感じがしない。
「あなたに死なれては困ります故。」
放心していたオレの耳にしっかりと聞こえたシルバの声。
「故に障害を排除します。」
金属がすれる高い音、シルバが剣を抜いたのだろう。
剣を持ったシルバがオレたちの前に立つ。
「動けないのならワタシがやります。」
どうしてシルバは大丈夫なのか。このプレッシャーの中で動けるなど並大抵のことでは。
刹那シルバの姿が消え次の瞬間には司教の前にいる。
振り上げる剣は司教の脇腹に命中するはずだったが、いつぞやの金色の騎士が剣で受け止める。
ここから巨石は幾分か離れており大声でなければ聞こえないほどだ。
何かを喋っているようだが何も聞こえない。
「意識がそれた。今のうちに行動だ。」
「イエス、ボス。」
シルバが巨石の近くで暴れているので猛火龍の意識がシルバに向き、こちらに向けられるプレッシャーが弱くなり、心拍数が下がり行動しやすくなった。
各々剣を抜いて巨石に歩いていく。
剣を魔法の杖に見立てて魔力を貯させる。どんな者手も多少なりとも魔力を持つから有る程度の魔法は使用可能だ。
「行け。」
オレの弱々しい声に反応して部下たちが魔法を放つ。火、水、風などの基本的な魔法が白光教会に殺到する。
ある者は焼かれ、ある者は水に顔を覆われ、ある者は吹き飛ばされる。
狂乱に飲まれた白光教会は見る見る統制を失い猛火龍を抑える鎖が緩み始める。
「魔戦隊応戦せよ!」
司教が声を張り上げて命令し、白衣の間から杖を持った人間が出てくる。
バニッシュデーモンの比ではない弾幕が張られ次々に部下が下がっていく。なんとかオレの周囲は無事だがほかは燦々たるもので剣すら持てそうにない者もいる。
『グオオオォォォォォォォッ!!』
猛火龍が一際強く体を擡げると鎖が引っ張られ白衣が何人か振り飛ばされ、鎖を振り切った。
戒めから解かれた猛火龍は我々を一瞥してどこかへ飛んでいった。
後書き
Magicae lucis……光の魔法(ラテン語)
Lumen de flamma incendii……灼熱の焔の光(ラテン語)
用無き島に長居せぬ
龍発つ山の緋の流れ
次回 悪夢
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