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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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時宮遭遇
  Trick51_聞いてほしい。君の知らない物語を




ここ数日は変わりなく過ぎて行った。

美雪はほぼ24時間、信乃に抱きつき続け、信乃はそれを受け止めた。

とはいっても抱きつき方は、ベッドの上半分を起こして信乃がそこに座る(横たわる)。
その真正面から足を跨いで抱きつく美雪。

普通に見ればかなりエロイ状態だ。
某動画サイトでこの体勢であれば≪入っているwww≫のコメント必須の状態だ。

しかし消沈して信乃の胸に顔を埋めている美雪とと、愛おしい存在を見る眼で
美雪の頭を撫で続ける信乃は、なぜかいやらしさを全く感じさせなかった。

ちなみにほぼ24時間の“ほぼ”の理由は、若干の部分はトイレと着替えなどの時間になる。

美雪が深い眠りに入った時、起こさないようにゆっくりと腕を解いて
看護師にお願いして美雪の着替えとお風呂代わりに塗れタオルで体を拭いてもらう。

その間に信乃も食事やトイレ、お風呂に入って清潔さを保っていた。
しかし目が覚めた時に信乃が近くに居らず、美雪が混乱するのを避けるために
着替えが終われば眠った状態でも再び同じベッドで過ごしていた。

美雪のトイレの時は、信乃の体から手を離しても手同士は握り続けて(美雪が絶対に離さない。もちろん信乃は自主的に目隠し耳栓の配慮しつつトイレの扉の向こうから腕だけを握った状態)付き添いにトイレの面倒を見ていた看護師が苦笑い、信乃が照れと苦笑いの間の表情を浮かべていた。


そんな不安定ながら平穏な日々から3日目に変化があった。

≪信乃、ありがとうね≫

美雪は信乃の胸に顔を埋めたまま、声の出ない状態で今の気持ちを漏らした。

11歳の時、信乃が亡くなった報告で錯乱した時には数カ月も掛かったが、
そこは愛のなせる技というべきかたった3日で美雪は話せるほどに落ち着きを取り戻した。

そんな暖かい気持ちから、思わず呟いた言葉だったが、

「・・・・少しは大丈夫になったみたいだな」

≪!?≫

音にはならなくても、その呟きは、吐息は服越しに信乃に届いていた。

「なにか言っているか分からないけど、今しゃべっただろ?」

≪・・・そっか、こんな状態でも、伝わるんだ≫

意識して言ったわけではない、まさに漏れただけの気持ち。
今の美雪は言葉を出す事が出来ない。

そのもどかしさと、同時に“正確に伝わらない”という難しい要素が
美雪の中からある気持ちが生まれた。

それはまるで、好きな人に意地悪をする時と同じ気持ち、悪戯心。

≪信乃≫

美雪は信乃から体を少しだけ離した。
目が見えないため正確な位置は分からないが、おそらく信乃の顔がある位置に顔を向けた。

「ん、どうした? なんだから抱きついてばかりだったから
 お前の顔を見るのも久しぶりな気がするな」

朗らかに笑い、美雪もその笑った声につられて微笑した。

その顔を見て信乃は不覚にもドキっとさせられた。

ここ数日で初めて見せた顔、それも最愛の人の笑顔。

満々の笑みではない。この数日の精神的疲労で陰りがある微笑。
だが、その微笑が逆に儚げな美しさ際立たせていた。

≪信乃、聞いてほしいことがあるの≫

「ど、どうした美雪?」

≪あのね、小さいころからずっと言い続けていた事だけど、また言うね。


 信乃、大好き、愛している≫


声には全く出ていない。こんな状況だから逆に回りくどさも、変に格好を付けた言い回しをしないでストレートに今の、今までの気持ちを美雪は言った。

≪私、小さい頃はお兄ちゃんみたいな感じで信乃が好きだった。

 でもね、いつの間にか異性として好きになっていた。
 本当にいつなのか分からないくらいに自然に、当然のように信乃が好きになっていたの。

 だから・・・・だから信乃がいなくなった時は、4年前に死んだって聞いた時はショックだった。
 本気で自殺も考えた。鈴姉ちゃんがいなかった間違いなく自殺していた。
 私にとって信乃は全てだったから。

 そして、数ヶ月前に戻ってきた時は嬉しかったよ。
 生きていて、本当に良かったって実感した。

 信乃が私を避けていた時も、それはそれで楽しかった。
 信乃がいるだけで私は幸せなの。

 これからも信乃と一緒にいたい。
 それこそ何十年も一緒に暮らして、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで。


 信乃、心の底から愛しています≫


言葉を紡ぐ度に顔が赤くなり、最後の一言を言う時には美雪の顔は真っ赤になっていた。

正確には伝わらないだろうが、一世一代の大告白をしたのだ。

言いきった後、さすがに恥ずかしくなり、誤魔化すようにゆっくりと口を動かした。

≪ し の あ り が と う≫

ここまでゆっくりと口を動かせば、馬鹿でない限り伝わるだろう。

今まで言ったことは告白ではなく、感謝の気持ちだと誤魔化して美雪は再び
信乃の胸に顔を埋めた。

ドクドクドク


抱きついた信乃の胸から大きな心臓の音が聞こえた。

(なんだ、信乃ってば、お礼を言われたくらいでこんなに照れなくてもいいのに)

告白をした達成感と、緊張、そして信乃の温かさに美雪は目を閉じた数秒後には意識を離して眠りについた。



(まさか、真正面から告白されるとは思わなかった・・・・やばい、顔が熱い/////)

美雪が眠りについて10分後、信乃はフリーズから解放されて
顔を真っ赤にさせていた。

声のない大告白。聞こえないからこその美雪の行動だったが、大きな誤算があった。

声に出ていなくても、信乃には一字一句間違いなく伝わっていたのだ。

ネタを返してみれば簡単、信乃は『読唇術』が出来た。
唇の動きで何を言っているかが分かる技術だ。

しかも唇に集中していたために、色っぽくて艶のある唇を見続けていた。
その唇から紡がれたのだから、普通の告白以上の衝撃を与えた。

美雪が抱きついたときに信乃の心臓が高鳴っていたのは
照れていたからで間違ってはいないが、お礼を言われたという可愛い理由ではなかった。

(しかも至近距離の微笑とか反則だろ/////)

目が見えない美雪は、信乃の顔がある方向を向いただけだった。
向いただけで距離は一切考えていない。

信乃は美雪にささやき声程度で話しかけていたから、信乃からの息は届いていなかった。
だが本当は普通に話せば吐息が掛かるほどの至近距離。

更に美雪は自分の声が出ないからそんな調整が分からない。
騒音の中で普通に話したつもりが、いつの間にか大声になっているのと同じく
一大決心の告白に力が入り、まさに熱の入った強い吐息が信乃の吹きかけられた。

(どうしよう・・・・・明日から普通でいられるかな)





美雪の一世一代の告白から翌日。

美雪は相変わらず信乃に抱きついた状態で過ごしていた。

しかし昨日までと抱き心地が違う。

信乃の心臓の音が大きくなっているからだ。
常時ヒートアップ状態。ふるえるぞ心臓(ハート)、燃えつきるほど体温(ヒート)
刻むぞ血液の(ビート)


(・・・・・お礼を言っただけでここまでなるかな?)

悪戯が成功したが、やりすぎちゃったかな? と美雪は考えていた。

(どうしようかな~、いつもの仕返しに追撃しちゃう?
 昨日みたいにゆっくりで簡単な言葉なら伝わると思うし・・・
 『だ い す き』 とか♪)

精神はマイナスから戻っており、事件に関する単語を聞かなければ
恐怖がフラッシュバックすることもない。

話す事と、見る事が出来ないままだが信乃に完全に抱きついている今は
視覚など必要無く、言葉も必要無い程に惚気になっていた。

現に惚気で、話せない状況でさえ楽しむ始末だ。

(どうしようかな~♪?   え?)

と、急に信乃の心音が変わった。

先程までの、照れた状態の心音ではない。


信乃が真剣な時の、心を決めた時の状態だ。


美雪もこの音を聞いた事は数度しかない。

だがその全部が、信乃にとって大きな決断をした場面であった。
しかもその大半が碧色(あおいろ)の眼を出すほど真剣に。

「美雪、聞いてほしいことがある」

(それなら・・・私も真剣に聞かなきゃなね)

信乃の問に、首を縦に振り返事した。


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(なんで、だろうな)

今、自分の胸の中には最愛の人がいる。

目が見えない、話す事が出来ない少女。

少女は、この状態になってしまったのは間違いなく自分に関わりがある。
襲撃したのは“時宮”(ときのみや)。

そして狙いの原因には少なからず自分が含まれているだろう。

敵対している信乃の知人。これ以上関わらせないための脅しとも考えられる。
症状がこんな状態になったのは自分が原因だと少年は考えていた。

(なんで、だろうな)

それでも、自分に危害が加えられてなお、少女の想いは変わらずにいる。
否、想いは強くなっているとさえ思う。

この数カ月間一緒に住んでいたが、それは互いに支え合っているだけだった。
特に恋人らしい触れ合いは無かった。

それが襲撃直後には24時間×3日間も触れ合い続けている。
昨日に至っては、愛の告白さえ言われた。


少年は、よくわからなくなっていた。


確かに自分は好かれていると思う。

少女の両親が亡くなり、少女を支えた。

数年間、唯一の家族として過ごした。

恋人と同じように触れ合いもあった。

だが、それは、4年前のことだ。


今の自分は、あの頃と絶対的に違う。

人を殺した。
少年の身を案じてくれる少女を無視して、怪我をする戦いを続けた。


そして、少年の関係者だという理由で、少女は襲われた。


でも、少女は変わらない。
少年を想い続けている。


(なんで、だろうな)


少年は答えを出す事が出来なかった。


少年は自分自身が嫌いだった。

元々自分を嫌いだったわけではない。

人を殺し、自分の身を考えない、そして関係者を巻き込むほどの敵を作った
4年の歳月を得て自分が嫌いになった。

(だったら・・・・知ってもらわないとな)

これを知ったら自分と同じように、少女は少年を嫌いになるかもしれない。

だけど、このままで良いはずが無い。
少女が好きなのは、綺麗な頃の少年のはずだ。

少年が自分を嫌いなのは汚い自分だ。

少女は少年の汚い部分を知らない。
なら知ってもらうしかない。

知っても、少女の気持ちが変わらなかったそのときは・・・・


「美雪、聞いてほしいことがある」

少年の問に、少女は首を縦に振り返事した。

少年は、信乃は覚悟を決めた。
少女に、美雪に自分を知ってもらうために。


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「俺は飛行機事故に遭った。
 そして4年間で色々あった。美雪、鈴姉、琴ちゃんには概要だけを話したよな。

 だけど今度はキチンと話す。
 嫌われるかもしれない。それでも・・・

 聞いてほしい。君の知らない物語を」



つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。

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