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戦国異伝

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第百三十九話 千草越その六

 真っ先に平手が飛んで来てだ、こう信長に言って来た。
「殿、よくぞご無事で」
「いや、爺もな」
「それがしが何か」
「また急に出て来たのう」
 信長が言うのはこのことだった。
「門から飛び出てきて迎えに来るとはな」
「心配でしたから」
「わしがか」
「そうです、金ヶ崎のことといい」
「千早越のことか」
「そうです、よくぞご無事で」
 こう言うのだ。
「二度も危ういところを逃れられましたな」
「何とかな、皆のお陰じゃ」
「猿が後詰として頑張ったそうですが」
「その通りじゃ、猿がやってくれたな」
「ふむ、猿は戦もやりますか」
「いや、馬や槍は相変わらずです」
 それはだとだ、当の羽柴が出て来て平手に話す。
「兵がよく動いてくれましたので」
「それでか」
「左様です、それがしは何もしておりませぬ」
 そうだというのだ。
「他の者が頑張ってくれました」
「個人の武芸は大したことはない」 
 平手はその羽柴に確かな顔で告げる、信長には抱きつかんばかりの勢いだったが彼には普段の顔で話すのだ。
「大事なのは兵を動かすことじゃ」
「それがですか」
「そうじゃ、大事なのじゃ」
 だからだというのだ。
「御主はよくやった、これからもじゃ」
「何かあればですね」
「殿を頼むぞ、わしも出来れば出陣するがな」
「いや、爺は待て」
 信長が意気込む平手に言う。
「爺が出てはそれこそ冷水が必要じゃ」
「年寄りの、と言われますか」
「そうじゃ、戦場に出る前に葬式なぞしては縁起が悪いわ」
「何を言われます、それがしは」
 平手は信長のいつものからかいに食ってかかる感じだ。
「まだまだこれからですぞ」
「幾つで言うのじゃ、その言葉は」
「多少の歳なぞ問題ではありませぬ」
「いや、多少どころではないからな」
 信長はやれやれといった顔でその平手に返す。
「全く、爺は変わらぬのう」
「変わるも何もそれがしはまだまだ馬も槍も出来ますし」
 それにだというのだ。
「兵法も常に書を読んでおりますぞ」
「まあ爺だから岐阜を任せておるのじゃがな」
 それだけ信頼しているということだ、都には勘十郎を置きそして岐阜には彼というのが近頃の信長の配
だ。
「とにかく帰ったぞ」
「ではすぐに兵を入れて休ませて」
「それでじゃな」
「風呂はもう用意しております」
「ほう、早いな」
「忍の者に話を聞きました」
 それで知っているというのだ。
「他の者達も風呂を用意していますので」
「まずは風呂に入ってか」
「その後で飯を」
 それも用意してあるというのだ。
「たんと召し上がって下さい」
「そではどちらも楽しませてもらうぞ」
「さすれば」
 平手の迎えを受けてそのうえでだった。
 信長は岐阜に戻りまずは風呂、湯のそれに入りそうしてだった。 
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