Element Magic Trinity
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炎と風
ここはリシュカ渓谷。
その本来列車が走るべきレールの上を、魔導四輪が走っていた。
「これ・・・あたし達がレンタルした魔導四輪車じゃないじゃん!」
「鉄の森の周到さには頭が下がる。ご丁寧に破壊されてやがった」
「こりゃ、弁償は確実だね」
困ったように笑うルーの弁償という言葉にルーシィは落ち込む。
「ケッ・・・それでほかの車盗んでちゃせわないよね」
「借りただけよ!エルザが言うには」
そう言われカゲヤマは俯き、小さく口を開いた。
「な、何故僕を連れてく・・・?」
「しょうがないじゃない。街に誰も人がいないんだから。クローバーのお医者さんに連れてってあげるって言ってんのよ。感謝しなさいよ」
「僕の魔法じゃ完全に怪我を治す事が出来なかったしね」
「違う!何で助ける!?敵だぞ!」
理解できない行動に、カゲヤマが怒鳴る。
「そうか・・・解ったぞ・・・僕を人質にエリゴールさんと交渉しようと・・・無駄だよ・・・あの人は冷血そのものさ、僕なんかの・・・」
「うわー暗ーい」
ぶつぶつ・・・と呟くカゲヤマ。
「死にてぇなら殺してやろうか?」
「ちょっとグレイ!」
ルーシィが制止をかけるが、グレイは構わず続ける。
「生き死にだけが決着の全てじゃねぇだろ?もう少し前向いて生きろよ、お前ら全員さ・・・」
グレイの言葉にカゲヤマが押し黙る。
すると突然、魔導四輪がガタンと大きく揺れた。
「きゃあ!」
「・・・!」
その際にルーシィの尻がカゲヤマの顔に直撃する。
「エルザ!」
「すまない、大丈夫だ」
「大丈夫に見えないよ」
そう言うが、エルザはすでに限界に近い状態だ。
目がかすむし息が荒くなる・・・。
「でけぇケツしてんじゃねぇよ・・・」
「ひーっ!セクハラよ!グレイ、こいつ殺して!」
「おい・・・俺の名言チャラにするんじゃねぇ」
そんな会話をするルーシィ達を横目に、ティアは1人黙り込んでいた。
「ティア?さっきから喋らないけど、どうかしたの?」
「別に何でもないわ」
「あ、そういえば!」
ルーシィが何かを思い出したように手を叩いた。
「どうしてティアに攻撃が効かないの?」
「はぁ?」
「さっき言ってたじゃない」
「・・・私は身体を水に変換できるの。痛覚を刺激されない限り、私は無傷でいられる。人間だから痛覚を持っている・・・だから痛覚への攻撃だけは感じるけど」
「へぇー・・・凄いんだなぁ」
一方こちらはエリゴールとナツ、アルカ、気を失っているハッピー。
「来い!物騒な笛ごと燃やしてやる!」
鉄橋の上でナツとアルカはエリゴールと対峙していた。
エリゴールはバッババッと印を切り、揃えた人差し指と中指を2人に向ける。
そこから強い風が一気に吹き荒れた。
「い・・・て・・・」
「ぐおっ・・・」
「消えろ」
風が突然やみ、ナツの身体が鉄橋の下に落ちかける。
「やばっ、ハッピー!」
叫ぶが、ハッピーは反応しない。
「そっか!全魔力使っちまったんだ!」
「雑魚が」
「おっ、落ちるー!」
ひゅうううう・・・と落下していく。
そんなナツの身体を、アルカが掴んだ。
「アルカ!」
「一気に上昇する、落ちるなよ!」
ぶわっと火傷しそうな熱気を足に纏い、勢いをつけて飛び上がる。
そして綺麗に鉄橋の上に着地した。
「何!?熱気だけで飛んだ!?」
「ほらよ」
「サンキューな、アルカ!」
ナツは足に、アルカは手に炎を纏う。
「お前、裸じゃ寒ぃだろ」
「あっためてやろっか?」
そう言うが早いが。
「ダーッシュ!」
「からの挟み投げ!」
ナツが勢い良くエリゴールの腹に直撃し、アルカがエリゴールの顔を両方の手で挟んで投げ飛ばす。
そしてナツは1度鉄橋の上を軽く跳ね、右足に炎を纏った。
「火竜の鉤爪!」
「大火竜巻!」
前でクロスにした手を勢いよく広げ、アルカが熱風の竜巻を出現させる。
それとほぼ同時にナツが左の拳に炎を纏って殴りかかったが、勢いよく空に飛んだエリゴールにその拳は当たらなかった。
「調子に乗りおって!」
くいっとエリゴールが手を動かすと、ぶあっと風が吹き荒れる。
先ほどと同じように印を切った。
「暴風波!」
エリゴールの左手から放たれた竜巻は容赦なく2人を巻き込んで激しく回転する。
その竜巻からようやく解放された2人の身体は宙を舞った。
「終わりだ」
エリゴールが呟き、その手に持っている鎌をアルカの首を狙って振る。
ザッ・・・と音が響き、狙われたアルカの首は・・・。
無事、胴体と接続されていた。
レールの上で座り込むアルカの前に立つナツが左手で鎌を受け止めていたのだ。
「腕で止めたァ!?」
「悪いな、ナツ」
「気にすんな!さっきの礼だ!」
そう言うと、ナツはぷっくぅと頬を膨らませる。
「火竜の・・・」
「まさか、口から魔法を!?」
「咆哮だァ!」
ナツの口から灼熱のブレスが放たれる。
しゅばっとエリゴールは跳んで避けた。
「くそっ!フラフラ飛びやがって!ズリィぞ!降りて来い!」
「降りてこねーなら落としてやるまでだがな」
エリゴールは何を考えているのかしばし沈黙し、口を開く。
「貴様等の力・・・少々侮っていたようだ・・・ここからは本気で行こうか。お互いにな」
「燃えてきたぞ!」
「やーっと面白くなってきたな」
そう言うと、エリゴールは顔の前で手をクロスさせた。
「暴風衣」
ひょおおおおお・・・と風がエリゴールの身体を包み、風の鎧を纏ったような状態になる。
「おお」
「何だあれ」
「いくぞ」
「あの火の玉小僧共、死んだな・・・」
走る魔導四輪の中、カゲヤマが突如呟く。
「なーんでそういう事言うかなァ」
「ふふ・・・火の魔法じゃエリゴールさんの暴風衣は破れない。絶対に」
暴風衣を纏ったエリゴールが上からナツ達のもとへ降りてくる。
それをひらりと避け、ナツは右の拳に炎を纏った。
「火竜の・・・」
そしてその拳をエリゴールに叩き込む。
「鉄拳!」
これが通常のエリゴールなら、いとも簡単に吹き飛ばせたであろう。
だが今現在、エリゴールは暴風衣を纏っている。
ナツの拳は簡単に止められ、ぶはっと炎が消えた。
「あれ?」
先ほどまでは通常的だったはずの炎が突然消えた事に驚くナツ。
「くっそぉ!」
今度は左の拳に炎を纏い殴りかかるが、しゅうう・・・と炎は消えていく。
「やはり炎を纏ってなければあの破壊力は出せんか・・・まるで効かんな・・・」
「どうなってんだ!?炎が消えちまう!」
「暴風衣は常に外に向かって風が吹いている。解るか?炎は向かい風には逆らえねぇ。炎は風には勝てねぇんだ!」
そう叫び、一気に風を放出させる。
「スゲェ風だ・・・」
「台風みてーだな」
「これではさすがに炎は届くまい・・・死ねぇ!」
しゅばばばばっと風の刃がナツとアルカに向かって放たれる。
これがルーならくいっと手を動かして消滅させられるだろうが、ここにいるのは2人の炎使い。
風を弱点とする炎を操る魔導士だ。
「ちっ」
「危なっ」
「はーっ!」
飛んでくる風を何とか避け続け、アルカは地に手を付く。
そこから一気に熱風を発射し、ナツの足に纏わせた。
「行け!」
「おらあああっ!」
その熱風をバネにして、ナツは右の拳に炎を纏ってエリゴールに向かっていく。
だがエリゴールは余裕の笑みを浮かべている。
ナツの右の拳の炎が消えた。
その衝撃で気を失っているハッピーが飛ばされ、こてんとレールの上に落ち、目を開く。
「うおっ!」
「ナツ!がはっ!」
その風はナツの後ろにいたアルカまでも巻き込んで2人を吹き飛ばす。
「炎どころか・・・俺が近づけねぇ!」
「くそっ・・・!」
ハッピーが目を完全に開き、ナツとアルカを見つめる。
「くらえ!全てを切り刻む風翔魔法『翠緑迅!」
エリゴールの両手に強い風が纏われる。
「翠緑迅だって!?そんなのくらったらバラバラになっちゃうよ!」
「うがっ」
「ぐおっ」
2人の身体はぶあっと浮かぶ。
「死ね!燃えカス小僧共!」
両手の人差し指と中指を合わせその指をクロスさせ、叫ぶ。
強い風が鉄橋を破壊した。
鉄橋はボロボロ、ナツとアルカは倒れている。
「ナツー!アルカー!」
ハッピーは慌てて叫ぶ。
今すぐにでもナツとアルカのいる所まで行きたいのだが、魔力は空、しかも鉄橋が壊れていてその先へは行けない。
「起きてー!ナツー!アルカー!」
「その肉体が残っただけでもたいしたモノだ。若ェ魔導士にしてはなかなかだったぞ」
そう言ってクローバーの街の方を向くエリゴール。
「安心しろ。じじい共もすぐにそっちへ送ってやる。呪歌の音色でな」
そう言って立ち去ろうとするエリゴールを、2つの声が引き留めた。
「何が・・・呪歌だ・・・」
「んな魔法がねぇとマスター達と戦えねぇ・・・腰抜けの死神が・・・」
ビリビリ・・・と布が裂けるような音と共に聞こえる声。
エリゴールは声のする方を向き、目を見開いた。
「じっちゃんの首が欲しいなら正々堂々戦え!」
「正々堂々戦えねぇなら引っ込んでろ!」
既にボロボロとなっているベストを破り立ち上がるナツと、ボロボロになったジャケットを脱ぎ捨て立ち上がるアルカが、そこにいた。
傷だらけで血が流れている箇所もあるが、この2人はまだ諦めていない。
「バカな!まだ生きてるのか!?」
驚くエリゴール。
眼に涙を滲ませながら喜ぶハッピー。
「「戦う勇気がねぇなら手ぇ出すんじゃねぇ!」」
2人の声が重なる。
「何てしぶてぇガキだ!」
ぶあっと風が起こり、2人は吹き飛ばされる。
「ちくしょオォオォっ!」
「ふん」
「!」
「あれは・・・」
ナツの全身から炎が燃え上がる。
ユラ・・・と小さくエリゴールが纏った風が揺れ、アルカとハッピーがそれに気づいた。
「なんで近づけねェんだ!納得いかねー!」
メキメキ・・・とナツが掴んだレールが持ち上がっていく。
「それにしても不気味な魔法だな・・・感情がそのまま炎へと具現化されてるようだ」
「ハッピーも気づいたか?」
「うん・・・エリゴールの風が変な方向に流れてる」
「んがーーーーーーーっ!」
メキ、ボゴッ、ボゴゴッと音を立て、レールがブチっと切れた。
「感情の炎・・・!?た、確か古代の魔法にそんな魔法が・・・いや・・・こんな若造が古代の魔法など・・・」
「ああああああああああっ!」
ナツの炎の温度が急激に上がっていく。
すると、暴風衣がヒョオオオオ・・・と流されていった。
「何っ!?風が・・・奴の方に・・・」
「そうか!」
「解った!」
「くそぉおぉおっ!」
ハッピーとアルカは何かに気づき、ナツは更に炎の温度を上げる。
「「ナツー!」」
「!」
ハッピーとアルカはナツを呼び、そして・・・。
「無理、ナツじゃ勝てないよ。グレイに任せよ」
「だな。ここはティアが来るまで待ってティアに任せよ」
バカにしたように笑い吐き捨てるようにそう言った。
ハッピーに至っては「無理無理」というように手まで降っている。
「何だとおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
もちろん2人の言葉は本心で言った事ではないのだが、よく言えば素直、悪く言えば単純のナツはその言葉をストレートに受け取ってしまった。
その為言葉がナツの怒りを更に燃え上がらせ、凄い温度の炎がナツの全身から燃え上がる。
「バ、バカな!暴風衣が・・・流されて・・・」
「よし!」
「っしゃあ!」
「ぬおおおおおおっ!」
「風の鎧が・・・!」
「完全に剥がれた!」
そう、これがハッピーとアルカの狙いだった。
ナツの超高温で温められた周りの空気が急激な上昇気流になって低気圧が発生したのだ。
風は気圧の低い方に流れる。
2人はそれに気づいたからこそ、わざとナツを怒らせたのだった。
「これほどの超熱魔法・・・!まさか!?」
「俺が倒してやるよォオォ!」
そう言うが早いが、ナツは地面を軽く蹴って跳んだ。
「火竜の・・・」
「いたのか!?滅竜魔法の使い手が!?」
「劍角!」
ナツはエリゴールに体当たりを決め、エリゴールを火柱で打ち上げる。
エリゴールはレールの上に落ち、呪歌はコロンとその近くに落ちた。
「どうだ!ハッピー!アルカ!」
「あい、さすが火竜のナツです」
「おー、さすがさすが」
「お前らさっきなんて言った?」
「猫の記憶力はしょぼいモノなので・・・」
「猫じゃねぇけど記憶力はしょぼいモノなので・・・」
そう言いながらてくてくと歩いてくるハッピーとアルカ。
ナツは怒ったようにエリゴールの髪を掴み、しゃがみ込んだ。
「俺じゃコイツに勝てねぇからエルザとルーがどうとか言ってただろ!」
「うわー、猫よりしょぼい記憶力」
「エルザとルーじゃなくて、グレイとティアだろ」
心なしか髪を掴まれているエリゴールも「こいつ、覚えてねぇの?」と言いたげな顔をしている。
「でもナツは勝ったよ」
「そうそう」
そう言われナツはしばらく黙った。
「ま・・・いっか。つーか最後なんで攻撃当たったんだろ」
「ナツが凄いからです」
「そっか!?かかかかかかかっ!」
「・・・まぁ、そういう事にしとくか」
すると、ズガガガガ・・・と音が近づいてきた。
「ナツー!アルカー!」
エルザが運転する魔導四輪だ。
「お!遅かったじゃねぇか、もう終わったぞ」
「あい」
「エリゴールはしばらく起きあがれねぇな」
アルカの言う通り、エリゴールは完全に気を失っている。
「さすがだな」
「ケッ」
「そ、そんな!エリゴールさんが負けたのか!?」
称賛するエルザにつまらなさそうに呟くグレイ、目を見開いて驚くカゲヤマ・・・反応は様々だ。
「エルザ、大丈夫?」
「あ、あぁ・・・気にするな」
「もうフラフラだよ。ほら、掴まって」
「すまないな・・・」
ルーが肩を貸しエルザがそれを支えにする。
「こんなの相手に苦戦しやがって。妖精の尻尾の格が下がるぜ」
「苦戦?どこが!?圧勝だよ。な?ハッピー、アルカ」
「微妙なトコです」
「苦戦とは言えねぇし、圧勝とも言えねぇし」
呆れたように笑うアルカ。
「お前・・・裸にマフラーって変態みてーだぞ」
「お前に言われたらおしまいだ」
そう言って睨み合うナツとグレイ。
するとナツの上にバサッと服が落ちてきた。
「着ておきなさい」
「ティア」
「そんな傷だらけで何も着ないでいたら、傷口が開いて悪化するわ。それにいくらアンタとはいえ風邪を引く可能性もあるでしょ」
いつも通り冷たい口調だが、言っている内容は優しげだ。
「何はともあれ見事だ。ナツ、アルカ。これでマスター達は守られた」
「俺ァ何もしてねぇけどな」
エルザの言葉に全員が笑みをこぼす。
ティアは相変わらずの無表情だが・・・。
「ついでだ・・・定例会の会場へ行き、事件の報告と笛の処分についてマスター達に指示を仰ごう」
「クローバーはすぐそこだもんね」
ハッピーが言い終えた瞬間、魔導四輪が動き出した。
「カゲ!」
「危ねーなぁ、動かすならそう言えよ!」
「油断したな、妖精共」
そう言ってカゲヤマは影を伸ばし、落ちていた笛をしっかりと掴んだ。
「笛は・・・呪歌はここだー!ざまあみろー!」
カゲヤマはそう言い残し、去っていった。
それを見たメンバーは目を見開く。
ティアはやっぱり無表情だが・・・。
「あんのヤロォォォ!」
「何なのよ!助けてあげたのにー!」
「恩知らず!恩を仇で返すのかー!」
「平凡中の平凡男、待てー!」
「追うぞ!」
「走りたくないんだけど」
「文句言うなっ!」
一同は慌ててカゲヤマを追ったのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
漸くもうすぐララバイ編終了・・・。
「第一章 ララバイ編」と目次につけたいけどつけ方がイマイチわからなくて悩む日々・・・。
誰か教えてください・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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